※唐突に思いついてプロット無しで書いた一発ネタです。
俺は日本人で、ここは異世界。つまりウェブ小説でよく見かける目にあっている。
ジャンルは勇者召喚物か? 幸いにも自分を呼び出した王様から国の人たちみんな優しくて、飯も美味く居心地は悪くない。
生活水準も世界に満ちあふれている魔素を使って動く魔化製品という異世界版電化製品のお陰で苦はなく、むしろ城に暮らしていることもあって、こっちの方がいい暮らしをさせてもらっている。
幼馴染みもいなければ友達もおらず。家族は妹含めて健在であるが色々あって、自分が居なくなって清々しているかもしれないから、帰りたい理由はいまのところな――ごめんうそ、ちょっとだけ帰りたい理
由はある。地球の方じゃ無くて、こっちの方で!
なにが悪いかと言われれば、この世界に関わるものなのだが、ともかくいまは、それについて説明している場合じゃない。
「報告申し上げます! 王国西部から大規模な魔王の軍勢を確認! その総数二万 四天王幹部も確認されたし! 進路、こちらに真っ直ぐとむかってきております!」
「ついに来たか!? 今すぐ兵をかき集めて西側に防御陣形を展開しろ! 兵士達には標準装備だけではなく各自、相性の良い装備を持参するように伝えろ!」
「はっ!」
兵士の報告に、将軍が迅速に命令を出してくる。
大雑把な内容であるが、事前に命令が出されたらこう動くと訓練されているようで、現場の兵士達は、これだけで自分がどうするべきか理解し、陣を展開できるらしい。
「勇者様。聞いての通り、我が国の存亡の危機です……出陣の準備を」
「――わかりました」
将軍は俺に頭を下げる。その声色は冷静でありながらどこか痛々しく、何かを耐えているようだ。
俺は人の命がかかっているだけあって、行きたくない、ここに居たいといった負の感情を抑え込みながら頷いた。
「……勇者様」
「――正直言ってしまえば、俺は今でも戦場に立ちたくないと思っています。でも、人の命がかかっているんだ。勇者として……いや、一人の人間として僕は戦います」
「……ありがとうございます。どうかご武運を」
俺は親指を突き立てて、ぎこちなくも笑って見せた。
+
「勇者様!」
「姫様」
「戦いに行かれるのですね……」
城へと出ようとする俺を呼び止めたのは、この王国の王女様であるレイテル姫だった。
金髪碧眼の日本人が考える美しいヨーロッパ系をそのまま具現化したよう美貌を持ち、正直、この人なら騙されてもいいかなって思える。
でも、レイテル姫は本当に優しくて、国の王女として時には政治的判断をしなければいけない事もあるけど、こうやって戦いに行く自分を心配して会いに来てくれた。
こんな可愛くて優しい子を単純に死なせたくないなと思う。ちょろい勇者です。
「……ごめんなさい。私たちが貴方を召喚しなければ、勇者様は――」
「おっと、それはいいっこ無しって言いましたよね?」
「勇者様……」
「俺は大丈夫ですよ姫様。俺はいつものように勝ってきて、いつものように帰ってきます」
「ですが……貴方は戦えば戦うだけ、自分を傷つけてしまう……!」
「それで、この王国が救われるなら」
涙を堪える王女に、俺も涙が出そうになる。多分貰い泣きとかじゃない。
「姫様……いつものお願いです。出来れば俺が戦っている姿を見ないでください」
「勇者……」
いつものお願いに、いつものようにはいと答えてくれなかった姫を背中に、俺は今度こそ城を後にした。
+
「敵目視! 種族多数!! A級魔族および四天王の結晶魔姫の存在も確認!」
戦地……といっても戦闘はまだ始まっておらず、魔王軍が進軍してくるのを王国兵たちが防御の陣を迎え撃とうとしている。
魔王軍2万、王国軍8万と数は王国軍の方が圧倒的に勝っているのだが種族の違いによって、その差は無いに等しいといっていいだろう。
さらに言えば、この異世界特有のシステムによって、魔王軍は遙かに巨大な力を有している。
「くそー。魔族軍め! 下っ端ですら王国軍の上等兵並みの装備を!」
「おい! あのゴブリンを見ろよ! あいつの来ている鎧。S装備のドラゴンアーマーじゃないのか!?」
「なんてことだ……俺たちは勝てるのか?」
そのシステムとは言わば、“装備品によるステイタスの向上”だ。この世界では装備を付ければ付けるだけ、ステイタスが向上するのだ。例えば『鉄の剣』を手に持てば、
また装備相性というものもあり、装備によっては人を選び能力値を上下させる。
王国軍を見ると、言わば軽装歩兵というものが何処にもいない。最低でも全身を鉄の鎧で纏い、その上に出来る限り装飾品を取り付けている。
この世界での戦いはどれだけ上質な装備を着込めるかで勝率があがる。
それこそガチガチの重武装でも重量に見合うように力や俊敏性を上げておけば、布の服を着ているときと同じように軽快に動けたりするのだ。着込むだけ得なのである。
「待たせたな」
「あなたは……勇者様! 来てくれたんですね!!」
「どうか。俺達に勝利を!」
「ああ、任せろ」
兵士たちに言葉をかけられながら、俺は王国軍の先頭に立つ。
「おい、みろよ! なんかチンケそうなやつが前に出てきたぜ!」
内容は聞こえなかったが、魔王軍の先頭に立つ犬人間――コボルトが俺を指さしてバカにしている気がする。
まぁ、気持ちは分かる。
コボルトは、チャラ男と呼ばれる奴でもそこまでチャラチャラしないってぐらい、鎖系のアクセサリーを装備している。正直言って、近づくとめっちゃ五月蠅そう。一方で俺は地味な色で装飾品も殆ど無いロープマント。この異世界で言えば、もの凄く薄着の格好だ。
「なにしに来たかわかんねぇが! 開戦前の景気づけだ! てめぇをバラバラに引き裂いて王国軍にまき散らしてやるぜ!! おい。てめぇら行くぜぇ!!」
数十体のコボルトが我先にと四つん這いとなり全速力で駆けてくる。
どうやら薄着の俺を見て、すぐに殺せると判断したらしい。
「ふっ。甘いな。それじゃあ三時のおやつにしかならねぇぜ!」
やけぐそ気味に叫びながら、俺はロープマントを勢いよく脱ぐ。
すると、日本から一緒に来た、『無地のTシャツ』と『ジーパン』が露わになる。
「なんだあの
コボルトたちが未知の地球さんの服装を見て驚いている。
「刮目せよ! これが勇者の力だ!」
俺は力を解放するため、服を――!
――『無地のTシャツ』
全ステイタス5%カット
変哲も無い量産品。元は698円で古着屋にて150円で購入したもの。かなり丈夫。
――『ジーパン』
全ステイタス5%カット
市販品のジーパン。マニアにも興味を持たれない量産品。ダメージが入ると一定確率でレア度が増す。
――脱ぎ! パンツ一丁! そう大事な息子と尻の割れ目以外を曝け出した姿へとなる!
現場系のアルバイトで鍛え上げられた自慢の腹筋が、外の光を浴びて活性化しているのかピクピク動いている!
全身に力が込み上げてくる! 羽のように軽い! 思考がクリアになって五感が鋭く増す!
「なにぃ!?」
「脱いだ!?」
「まさかお前――!?」
コボルトたちの驚いた声が聞こえる。ふっ……もう遅いんじゃあああああ!!
「チャラチャラうるせぇ!!」
「は……裸の勇者ぶぇええええええええええええええ――――!?」
コボルトたちにむかって正拳突きを放つ。全然届いていないがこれでいい。コボルトたちは発生した真空波と呼べる拳圧によって、魔王軍の一番後ろまで吹き飛んでいった。
……この世界は装備すればするほど強くなる。だが俺は“着込めば着込むほど弱くなり”逆に“脱げば脱ぐほど強くなる”肉体を手に入れた!
それこそ、世界で最も強い人類と呼ばれているS級冒険者のステイタスが平均で三桁以内のなかで、『無地のTシャツ』と『ジーパン』を脱いだ俺のステイタス数値は平均四桁!
もう完全にチート。ただし、チートを使うには脱がなければいけない!
「世界って残酷だぜ! ちくしょうめーーーーーー!!」
パンツ一丁の俺が、魔王軍に突貫する。
「「「「「「「「ぐあああああああああああああああ!!!!!??」」」」」」」
腕や足を振るうと発生する真空波によって魔王軍が次々と吹き飛ばされる。装備を着込んだ魔族はかなり頑丈なので、例え山よりも高く吹き飛ばしたとしても死なないのが幸いである。
しかしまぁ。パンツ一丁に重装備の連中がやられる光景は、
その絵面は、ほぼ間違いなくギャグにしか見えないだろう。他人事だったら笑いを抑えられない自信があるぐらいだしな!
「「「「「「「ぎゃあああああああああああああああああああ!!??」」」」」」」
……ああ……地球に帰りたいなー。
「「「「「「「ぐえええええええええええ!!?」」」」」」」
俺だって日本男子。もしも異世界に来たらかっちょいい鎧や武器とか装備して戦いたいとか思ったことあるさ。
だけど、現実は厳しく。俺にとって装備は全てが相性最悪。ステイタス補正は全てマイナス値となる。
知っているか? この世界では風呂入るには装備しないと行けないんだぜ? 俺だけな!
じゃあ、異世界では強ければパンツ一丁でも英雄として称えてくれる?
んなことはない。むしろ彼らは着込むために肌の露出とか地球以上に気にする。
それこそ『無地のTシャツ』と『ジーパン』だけでも、人や地域によっては変態扱いだ。
――異世界に召喚されてすぐ、レイテル姫に顔を真っ赤にして悲鳴を上げられて、牢屋へ入れられかけたの、まじトラウマ。
そのあとすぐに城のみならず王国に勇者は変態というレッテルが貼られ、一時は風当たりが強いのなんの。
もっとも、王様たちが自分の評価がポジティブになるように印象操作をしてくれたり、俺自身の活躍もあって、今は異世界の人々のために裸になることを顧みず戦ってくれる勇者と、概ね自傷ヒーローみたいな扱いを受けている。
おかげで戦いが終わった後の喝采は労い半分同情半分だぞ! つらい。
「そこまでだ!?」
瞳を塗らし、魔王軍を殺さず蹴散らしていると聞き覚えの無い声に呼び止められる。
「ワガハイは竜の申し子にて魔王軍四天王! 結晶魔姫のフラン! 裸の勇者よ。今日がお前の命日だ!」
まるで淡いピンク色に輝く結晶の鎧。それを身に纏う爬虫類の尻尾と角が生えている少女が、自分の身長よりも二倍はある波剣を小枝のように振り回しながら、高々に名乗りを上げる。
「はっ!?」
「なにをっ……行くぞーーー!」
「ぐっ!? つよい!?」
俺はいつものように吹き飛ばそうと拳を空振りして真空波を発生させるが、流石は四天王の一角。フランは耐えきって、反撃までしてきた。振るわれる波剣大降りに避けて、距離をとった。
な、波状の刀身普通にこえぇ……。恐怖心を煽るというか、あの武器なにか特別な『スキル』でも付与しているのかもしれない。
「よくぞいまの攻撃を避けたな!?」
「お前こそよく風圧で飛ばなかったな!」
「当たり前だ! ワガハイは生まれ持っての竜人のステイタスに加えて結晶装備とすこぶる相性が良い。完全武装のワガハイの平均ステイタス数値は四桁だ!」
「……さすが、魔王の配下ということか」
人間の英雄クラスが三桁なのに、四天王クラスで頭一つ飛び抜けている。これが魔族の強さ。
「見たところお前のステイタス数値は、ワガハイと同等であろう! だがしかし! お前はどうにも直接相手を殴ることを嫌っているな!?」
うっ。流石にばれるか。俺が直接殴ると大半の生物は落としたトマトのようにはじけ飛ぶから嫌なのだ。加減も難しく、だから、出来る限り触れずに相手を無力化するようになった。
「あまい! あまいなぁ! そこらへんの魔族兵ならともかく! この四天王をそんなんで倒せると思うか!?」
「……やってみせるさ!」
「ほざけ! 『絶対切断』のスキル宿りし『魔剣・ベルジュ』の斬撃を受けろぉ!!」
どうやら、あの武器は見た目通り普通ではなく、『スキル』を所持しているようだ。名前からして触れた物体を硬度関係無く切断出来ると言ったものだろう。
ステイタス貫通効果と言えば良いのか、それには確かに素手では不利だ。
「……やるしかないか」
俺は覚悟を決めて、後ろにむかって跳び距離を取った。
「四天王フラン! 俺がなんて異名で呼ばれているか知っているか!?」
「裸の勇者だろ。この変態めが!」
……なんか女の子に言われると普通につらい。
「ゲフ……もの凄く不本意だが、そ、そうだ。だが今の俺はどうだ!? 裸か!?」
「知るかバカ!? なんでワガハイに聞くんだよ!?」
「そう違う! なぜなら俺はまだこれを着ているからだ!」
「下着を指さすなああああああああ!? ――おいまて。貴様まさか!? 止めろおオオオオオオ!?」
そう! 俺はまだパンツを履いている! そのパンツを俺は掴んだ!
「今こそ。勇者の真の力を見せよう!」
「ばっ!? おまえなにをするつもりだ!?」
「はああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
特に意味の無いが声を出さないとやってられないと慟哭!
無駄に腕に力を入れて、真下へと下げる!
するとどうなる!? そりゃ勿論! パンツが下がり。俺の息子が世界に姿を現す!
『パンツ』
なんの変哲も無いトランクスタイプのパンツ。最後の砦。
ステイタス――90%カット。
ステイタス的な意味で俺を縛る物が無くなった!
ステイタス的な意味で大気に存在する森羅万象を全身で感じられるようになった!
ステイタス的な意味でなんとも言い難い開放感に満ちあふれる!
「力を完全に解放した俺の平均ステイタスはな! ――七桁台だ! さあ、覚悟しろ四天王! こうなった俺はチートオブチートだぞ!!」
「くるなへんたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!??」
魔族との戦いは、四天王フランの逃亡によって終息した。涙を流して全力疾走する彼女を俺は生涯忘れないだろう。トラウマにならないでほしいな……。
戦いが終わった俺を、兵士たちは労い半分同情半分の言葉で迎えてくれた。つらい。
凱旋? ……辞退させてください。この様子がお城まで続くのはほんとつらい。
はぁ……ほんのちょっとだけ、地球に帰りたいな。
~~おまけ~~
「はぁはぁ……勇者様。相変わらず素敵な腹筋……はぁはぁ……」
「姫様。よだれ出すのは止めてください」
「あ、あら失礼。じゅるり……それにしても、今日はあの引き締まったヒップもお見せになってくれるでしょうか? ああ、もうしわけありません勇者様。貴方を異世界に召喚させるだけのみならず! 浅ましくも勇者様が嫌がることを率先とやっている姫をお許しください! ああっ! 勇者様がおパンツに手を…………はぁああああああ!!」
「勇者様可哀想」
戦場を見渡せる場所で、姫とメイドがそんな会話をしていたそうな。