カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


立志 宇宙暦720年~729年
第1話 田舎も田舎


宇宙暦720年 帝国暦411年 4月上旬

惑星エコニア 捕虜収容所

カーク・ターナー

 

「坊主、相変わらず頑張ってるな。感心感心」

 

「そういうなら、帰りに何か買っていってよ。今日はうまそうなリンゴが入荷してたし。おっちゃん、リンゴが好物だっただろ?」

 

「坊主にはかなわねえな。この荷下ろしが終われば、今日の予定は終わりだ。帰りの楽しみにしとこうか。それにしても坊主は大したもんだ。将来が楽しみだな」

 

「毎度あり!って、同盟の中でも田舎も田舎だよ。惑星エコニアはさ。正直、俺の家より収容所の方が小ぎれいな位だし。この星から出ないことには、明るい将来なんてねぇ」

 

「違いないな。そういう意味では俺たち捕虜とあんまり変わらないのかもしれねえな」

 

少し悲しげな表情をしながら俺の頭をなでるおっちゃんと、同じような表情で頷く周囲の大人たちは、捕虜を表す同じ色の作業着を着ている。彼らは、惑星エコニアが属している自由惑星同盟と戦争中である銀河帝国の軍人たちだ。もっとも、彼らは彼らで色々大変らしい。

 

望郷の念はあるようだが捕虜となった以上、帰国したら帰国したで最悪処罰される可能性があるらしい。貴族様ならともかく、ここに収容されているのは佐官以下の軍人だ。大した後ろ盾も持たない彼らからすると、帝国では叛徒とされている自由惑星同盟に降伏したこと自体、下手すると処罰の対象らしい。

 

俺からすると、部下をそんな状況に追いやった上司の責任だと思うけど、自分の責任を部下に被せる上司というのは、どんな組織にもいるらしい。そんな彼らにとって、まだ10歳ながら商店で働く俺は帝国に置いてきた息子だったり、弟だったりを想起する存在のようだ。

 

学ぶだけなら帝国語は通信教育のカリキュラムで用意されている。ただ実践の場として帝国語を交わし、時に冗談なども教えてくれたのは彼らだ。同盟軍内部では、捕虜の扱いは自軍の二等兵よりはマシなんて言われたりするらしい。

 

本来予定されていた大規模な緑化事業が中止された惑星エコニアには、目立った産業がない。捕虜とはいえ、作業の対価として多少の金銭を支給されている彼らは、大事なお客様でもある。軍という巨大組織のスタート地点である二等兵より、確かに扱いは良いのかもしれなかった。

 

「カーク。お疲れ様。受け取り伝票だ。ちゃんと確認するように。それにしても、お前、帝国語が上達したなあ」

 

そんなことを考えながら、捕虜のおっちゃん達と話していると、収容所内の売店を任されているトーマスが中身の入った瓶と一緒に伝票を差し出してきた。

 

「働き出してから、同盟語より帝国語の方が話す時間が長いからね。頂きます!」

 

照れ隠し半分で伝票を受け取りつつ、差し入れのミルクでのどを潤す。俺より4歳年上のトーマスは、商店勤めを始めて以来の仲だ。仕事を一から教えてくれた彼は、俺にとって母以外では数少ない頭の上がらない人物だ。もっともまだ14歳とは言え、誠実で偉ぶるところがなく、年下の俺を一人前として扱ってくれる。

 

あやふやな前世の記憶も合わせると、初等教育の教師をすれば、さぞかし好かれるだろうと思わせる人物だった。あいまいながらも前世の記憶がある俺にとって、何かと心から称賛してくれる彼との時間は、気恥ずかしいものになることが多かった。

 

「将来かあ。カークはまだ10歳なんだから……。とも言ってられないか。学費が用意できないとなると、身を立てるには見習いとして商船に乗るか、軍に志願するしかない。人文系の奨学金はほぼ下りないし、理工系の枠は、ハイネセン系でほぼ独占状態だしね」

 

経済的には首都星系であるバーラトと比較するまでもない地方星系の多くは、戦争を理由に大した開発援助も受けられず、弱者のまま据え置かれている。地方星系の若者が世に出ようと思ったら商船にのるか軍に志願するくらいしか道がないのが実情だ。

 

「捕虜がアドバイスするのも何だが、軍はあんまりお勧めしないぜ。坊主はともかく、店長はなあ。誠実すぎるから、あほな上司にでも当たったら使いつぶされちまうんじゃないか?もっとも、帝国みたいにお貴族様がいない分、そういうことも少ないのかもしれないが」

 

「誉め言葉として受け取っておきますよ。良さそうなリンゴが入ったんです。帰りに見ていってください」

 

積み下ろしが終わった頃合いで、飲み終わったミルクの瓶をトーマスに渡し、運転してきた配達車に乗り込む。トーマスとおっちゃん達が手を振るのに応えながら、ハンドルをこの惑星唯一の都市、エコニアポリスへ向けた。

 

荒涼とした荒れ地を、土埃を上げながら進む。緑化計画が実行されていれば、幹線道路としてしっかり舗装されていた未来もあっただろうが、実際は土壌硬化剤で簡易舗装されただけだ。これがそれなりの星系なら自動運転システム用のセンサーを埋め込み、最低でも2車線の幹線道路になっているだろう。

 

「もっとも、ろくに投資もされないからこそ、俺みたいな子供にも仕事があるんだろうけど」

 

思考が漏れるように独り言をつぶやいてしまった。幸い今は車内に一人きり。自動車特有のエンジン音だけが返事をするかのように響く。

 

「インフラ整備が追い付かないせいで、星間国家の時代にも関わらず、内燃機関だもんなあ」

 

個人的には、前世で聞きなれたエンジン音を気に入っていたし、前世では夢の施設だった核融合発電所も実用化されているとはいえ、入植が開始されたばかりの惑星では、そんな莫大な電力ニーズがあるわけもない。適正規模の投資だと言われればそれまでだが、電力需給に大きな余剰がない以上、大規模資本の投資先に選ばれることもない。

 

「身を立てる為には、商船に乗るか、志願するかしかないのが現実なんだよなあ」

 

そんな結論をつぶやいた頃合いで、車はエコニアポリスのメインストリートを進み始めた。捕虜収容所がもう少し埋まるようになれば変わるのかもしれないが、ポリスというよりタウンという印象の街並みが目に入る。

 

しばらくすると勤め先である井上商会の看板が目に入る。ウインカーのスイッチを入れつつ減速し、店舗の脇道を通過して、店舗裏の倉庫近くに停車する。エンジンにロックをかけて伝票を片手に倉庫へ向かうと

 

「おう!オレンジ。お疲れさん」

 

「オレンジことターナー。ただいま戻りました」

 

明日の出荷作業をしている井上オーナーが笑顔で声をかけてきた。オーナーに伝票を渡せば、今日の仕事は終了だ。オーナーはいつも俺をオレンジと呼ぶが、それも彼の一家言によるものらしい。というのも、社会で成功する第一歩は、覚えてもらうこと!という信条があるらしく、星間国家でも珍しいオレンジの髪にエメラルド色の瞳という、自分では最近やっと見慣れ出した俺の容姿を、褒める意味で、こう呼んでくれているとの事だ。

 

「収容所がもう少し埋まってくれれば、良い商売になるんだがなあ。まあ、おいしい商売はそうは転がってないからなあ。オレンジ、訳あり品を詰めといたから、おっかさんにもって帰ってやんな」

 

前世で見慣れた黒髪・黒瞳のオーナーが指をさす先には、自転車の荷台にくくれる位のかごがある。

 

「いつもありがとうございます。母さんも喜びます」

 

「遠慮することはないぜ。こっちも貰う物もらってんだからよ」

 

そう言いながら、オーナーは倉庫の奥へ戻って行った。かごを手に取ると倉庫わきの自転車にかごを括り付け、家路につく。うちはもともと緑化事業を見越して農場をやるつもりだったので、エコニアポリスの郊外にあるが、それでも自転車で15分もかからない。

 

自転車を漕ぎながら、俺は井上商会を選んで正解だったと改めて思っていた。井上オーナーは、前世の記憶でよく接していた人々と、よく似た資質を持っていた。うそや駆け引きが苦手で善良なのだ。

 

緑化事業の停止を受けて、それを見越て入植した家族にはいろいろな補助金が付けられている。俺を雇うと人件費の補助や法人税の減免措置があるので、勤めに出ようと思った時、エコニアポリスにある6個の商会からオファーがあった。

 

ただ、人件費の補助や法人税の減免の話を8歳の子供でも分かるように説明してくれたのは、井上オーナーだけだったし、給与はもっと良い商会もあったが、家計を助けたいという俺の動機に対して、月給だけじゃなく、商品の中で正規ルートでは販売が難しい、いわゆる訳あり品を無料で融通する提案をくれたのは彼だけだ。

 

商売人としては甘いところもあるのかもしれないが、勤め先のオーナーとしては十分満足だった。それに、そういう話は、ある意味、小さなコミュニティーであるエコニアポリスではすぐに広まる話だ。うまくごまかして格安で雇おうとしたある商会は、暗黙の不買運動を起こされ、廃業に追い込まれていたりもする。そういう意味では、小さなコミュニティーの商会主としてはむしろ資質があるのかもしれなかった。

 

そんなことを考えているうちに、今世の実家が近づいてくる。

玄関わきに自転車を止め、かごを片手に

 

「ただいま~」

 

と帰宅の挨拶をした。




もうすぐ5Gが当たり前になると言う話を聞くんだけど、そうなるとラジオって廃れちゃうのかなあ。無音で執筆するのはしんどいので、ラジコを聞きながらしてたります。

リトルトゥースからゲスナーにもなり、クリッピーさんや山ちゃん、そして船長のも聞きます。何かしながら聞くのって、映像がない前提のラジオって最高だと思うんだけど、そういうニーズもなくなって行くのかなあ。

アルピーの平子さんって、リスナーからいじられてる時が一番面白いような。マジ嫌いの反省の回と、寄せ書きを贈る回は何回も聞いてしまいます。プロでも良さを出すの難しいのがTVなのかしら。

最近の報道しない自由発動中な状況をみると、アルピーはもしかしたら良い所切られてんの?とか思うけど、尊敬するロンハー・雨トークの担当P、ガージマン軍曹のエピソードを聞く限り、そうでもないのかな。

では また明日!!

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