原作での出来事で未確定の物は『?』を付けています
【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 ミヒャールゼン提督暗殺事件?
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成?
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
宇宙暦786 カーク・ターナー没
宇宙暦787 帝国フェザーンへ進駐
宇宙暦788 ウルヴァシーの奇跡
老大佐との邂逅 ←ここ
宇宙暦788年 帝国暦479年 12月初頭
統合作戦本部ビル 後方勤務本部
ヤン・ウェンリー(少佐)
「少佐、お茶をどうぞ。ユリアンも少佐にご賞味いただけるおかげでまた腕を上げました。ご迷惑でなければ、またお邪魔させてください」
「ミンツ大尉。貴官のお茶は芸術品だから気の進まない話も前向きに聞けそうだよ。うん。香りも素晴らしいね。」
「折角の紅茶を冷ましてしまうのも勿体ない。大尉、ありがたく頂くよ。それにしてもヤンの家に息子を出入りさせるなんて教育上宜しくないんじゃないか?お前さん、家事全般が苦手だろうに?」
「問題ありませんよ。食事はほとんど外食ですし、洗濯はクリーニングで済ませてます。キッチンやダイニングはほとんど使ってませんからね。ユリアンが使ってくれないと、私の官舎は書斎と寝室以外は無駄になりますから」
ヤン家の収入が多めなこともあって、小さい頃から美食と言われるものにも多少は触れて来た。でも自分だけの為にそこにこだわるほど私は食通という訳でもない。軍関係の企業が売り出しているワンプレートの冷凍食品で十分だ。
そうでなくても食事事情を心配した両親が食品や各種優待券を送り付けてくる。最近のお気に入りはウーラント商会の生ハムでチューリンのカマンベールチーズを包んで食べる逸品だ。切るだけで済むし、必要な分に調整もできる。
「それと、あまり気を使わないで頂ければ......。紅茶のお礼と言うにはだいぶ高価なものを頂いているようですし......」
「すべて頂き物ですからあまり気にしないでください。冷蔵庫にいれたまま痛めてしまうよりは、大尉のお宅で美味しく食べてもらった方が食材も幸せでしょうから」
「そうですか......。ではありがたく頂戴します」
そう言って、大尉は先輩のオフィスを辞していった。マイペースで運動神経も良くなかった私が軍人になった事を今でも心配している両親は、食材も大量に送ってくる。単身者で官舎にいる事も少ない私の代わりに受け取ってくれるのが隣のミンツ家だ。
そして私の帰宅に合わせてユリアンが運んでくれる。そのお礼に私は届いた食材をユリアンに渡し、ユリアンはお礼にと紅茶を淹れてくれる。取引としては上々だろう。
「まぁ、お前さんの家に年少者が出入りするのは良い事なんだろうな。身なりに無頓着で家事に疎いお前さんの家が、なんとか見れるレベルになっているのはそういう事なんだろ?」
「それは否定しません。苦手な事に時間を割くのは無駄ですし、軍ではそれを補ってくれる人材に任せてしまうという考えなのは変りませんが、初等学校に通い始めた少年に掃除を押し付けるほど私は矜持がない訳ではありませんから.....」
そんな話をしながら大尉の紅茶を楽しむ。シロン産の紅茶の良さを最大限に引き出したような一杯。歴史学者志望だった私にとって、ローザス提督との会談を始め、アッシュビー元帥の謀殺説の調査は楽しい任務だった。その楽園から追放される事が分かっているから、いつも以上に紅茶に癒される気がする。
「まず、ローザス提督の草稿というか。手帳の件だ。内容を確認したお前さんは分かっていると思うが、旧ジークマイスター分室はローザス提督が監督を受け継ぎ、非公式に情報収集を担当していた。ターナー元帥が亡くなった一昨年に解室したが、その時に実務面を取り仕切っていたバクダッシュ大尉にあの手帳は預ける事になった。現在は防諜課に在籍しているが、当時の工作員を引き継いでいるのもあってな。当然だが、あの内容は機密扱いになる」
「分かりました。私も他言するつもりはありません。それに今の同盟市民にあの内容を冷静に受け止める余裕はないでしょう。ローザス提督も公開されるにしてもそれに相応しい時期を選んでほしいと思います」
「うん。言うまでもないとは思ったが、念を押されていてな。ベテランの工作員の中にはまだ730年マフィアの面々から直接指示を受けた事を誇りにしている人員も多いそうだ。公開のタイミングを間違えば彼らが暴走しかねないともボヤいていたな」
「そこまでですか?死後も接した人間に強い影響を残す。それだけでも彼らは確かに英雄だったんですね」
「だいぶ気前が良かったようだな。それに自分たちが集めた情報をちゃんと活かして結果を出してもくれた。工作員としてこんなに嬉しい事はないとバクダッシュ大尉も苦笑していたな。ターナー元帥も関係していたと思うが、解室にあたって保有されていた資産が一度統合作戦本部付きになったんだが、分室で抱えるにはあまりにも巨額だった。額が多すぎてどう処理するか担当者は顔を青くしていたよ」
「おそらくジークマイスター室長の手配でしょう。彼は帝国では爵位を持ち、正規艦隊司令で大将でした。自由に使える予算に困った事は無いと思います。ですが統合作戦本部の特命分室の室長ではそうはならない。『蝙蝠相場』で上げた収益をその後も運用し続け、それを活動費にしていたんでしょう。
そして任官直後にそれを見て育った730年マフィアは、同じことを表立って大々的に行なった。辺境出身のターナー・ファン両元帥がいた事もあるでしょうが、金を使うだけじゃなく収益が生まれる様に心掛けた。軍人と言う物は予算を欲しがるだけの傾向が強いんですが、謎がひとつ解けた気がします」
「そして優秀な軍人の基準にもなったわけだ。後を継いだ後進達への採点が辛くなるわけだな。もっとも本人たちはそれを理解していたからうまく配慮してくれていたらしい。正規艦隊司令を拝命したシトレ閣下なんて予算折衝でだいぶ細かい指摘をされて苦笑していたらしいからな」
大柄ながら笑みを絶やさないシトレ校長は、その外見に反して正統派の策略も好まれる。私の場合は配慮と言う形で恩恵を受けたが、校長が苦笑するほど苦労したとなると、妙な嬉しさがこみあげてくるから不思議だ。
「話が飛んでしまったな。ここからが本題だ。お前さんの次の任務だが、タナトス星系の星系警備隊の参事官だ。前任者が地上戦畑でな。フェザーン侵攻作戦に召集された。その後任と言うことになる。警備隊の司令部はエコニアだ」
「エコニアですか......。また意味深な任地だと勘繰るのは私が素直じゃないからでしょうか?」
「この場合はお前さんが正しいな。少なくとも第2、第5、そしてシトレ閣下の第7艦隊から司令部付き参謀としての打診があったのは事実だ。だがなヤン。お前さんにとってこの任務はある意味厄介事かもしれないな」
「正規艦隊司令部の参謀は忙しいですからね。私には星系警備隊の参事官の方がありがたいですが.....」
「まぁ、安全だと思われていたウルヴァシーであんな事になったからな。お前さんの父上と副司令長官は親しい仲だ。ほっておくと危ない目にあいそうだからそれなら自分の手元にとあのお三方は考えたのかもしれん。だが、フェザーン侵攻作戦は既に動き出している。今から門外漢が異動しても貢献は難しいだろうな」
「星系警備隊の参事官の方がやっかいと言うのはどういう事です?」
「うん。再確認の意味も含めるが、エコニアを始め、過去に辺境星域と言われていた地域には捕虜から帰化した市民が多数住んでいる。亡命派の惑星が帝国の貴族風な地域なのに対して、旧辺境星域は帝国平民風の地域なんだ。そこにお前さんを行かせるという言う事は.....」
「参ったなぁ。私は出来れば穏便に読書が出来ればそれで充分なんですが」
「帝国の平民の価値観を知ったうえで宇宙艦隊に戻り、対帝国臣民対策の参謀辺りにしようというのが上の判断かもしれんな。それと先方のご指名があったのも事実だ」
「エコニアに知り合いはいないはずですが.....」
「タナトス星系の自治体の補佐役がお前さんを指名したらしい。第二次ティアマト会戦で捕虜になったらしいが、もともと内務省の地方自治局のエリートでな。それを知った星系自治体が何かと相談を持ち込むようになり、捕虜収容所の名誉所長と兼任で今では名士の一人だ。
彼の事業計画を俺も確認したが、人物は帝国にもいると思う出来だった。それに財務委員長時代のターナー元帥と頻繁にやり取りをしていてな。軍内部の方々にもなにかと彼に借りがある人物が多いんだ。実際方々から確認が入ったからな」
「はぁ。私は将官たちの借りの代償と言う訳ですか.....」
「まぁ、人事なんてこんなものだ。それに帝国亭も出店しているからな。ウルヴァシー以外の店舗の味を確認できると思えば悪くは無いだろう」
「分かりました。それで手を打ちましょう。エコニアへはいつまでに赴任すれば?」
「年明け、2月頭からだな。年末年始はちゃんと実家にもどって、家族孝行をするようにな」
ローザス提督の軍部葬で気落ちしていた父さんと、『ジークマイスター』を飲むのも良いかもしれない。妹のチェンシーは紅茶を淹れる練習をしていると手紙に書いていたし、弟のウーフェイも進路を決める時期だ。
頼りないとは言え兄の私が帰省するタイミングとしては良い時期なのかもしれない。空になったティーカップを横目に、私はそんな事を考えていた。
原作ではケーフェンヒラーも重要人物ですからね。会わない進行は選択肢にありませんでした。ん?陸戦畑の先任だと?誰なんだ~!では!明日!