宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
---- 以下オリジナル設定 ----
宇宙暦751 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞計画破棄
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
宇宙暦786 カーク・ターナー暗殺事件
宇宙暦787 帝国フェザーンへ進駐
宇宙暦788 ウルヴァシーの奇跡
宇宙暦790 同盟軍フェザーン進駐←★ここ
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦790年 帝国暦481年 10月末
惑星フェザーン 自治領主公邸付近
カスパー・リンツ(少尉)
「リンツ、帝国の弁務官府の方は大荒れだったそうだ。こっちも何が起こるか分からん。油断するなよ」
「副隊長、了解です。部下たちにも再度注意するように伝えます」
5個艦隊が動員されたフェザーン侵攻作戦は申し訳程度に配置された警備艦隊を蹴散らし、一気に地上戦へもつれ込んだ。軌道エレベーターや航路局は楽に押さえられたものの、殿として死守命令でも受けたのか?装甲擲弾兵一個師団が都市部でのゲリラ戦を展開した。指揮官は同盟軍からミンチメーカーと呼ばれたオフレッサー中将だ。
彼は長年続けられてきたメテオライト作戦によって隕石群が渦を巻く難所となったイゼルローン回廊内で、索敵が困難な事を逆手に取って強襲揚陸艦で突貫し、切り込みを行うという無謀の一言で片づけるには度を超えた戦術で名を上げた人物だった。
当初から激しい抵抗が予想されていた。切り込み役を志願した我々『薔薇の騎士大隊』も重要目標とされた帝国高等弁務官府・フェザーン自治領主府・自治領主公邸に分散して派遣された。自治領主府の方はシェーンコップ先輩同様、副隊長を拝命したリューネブルク少佐が向かい、帝国高等弁務官府には大隊長のヴァーンシャッフェ中佐自ら担当された。
フル装備の装甲擲弾兵が待ち構えていた帝国軍高等弁務官府周辺。その一角だけが星間国家同士の戦争であるにも関わらず原始の時代にタイムスリップしたようだったと聞く。
ミラーコーティングが施された装甲擲弾兵の重装甲スーツにはブラスターを始めとした小火器は効果が無い。炭素クリスタル製の戦斧で文字通り血で血を洗う肉弾戦が繰り広げられた。
総司令部からはリスクがあるなら空爆も選択肢として提示されていたが、大隊長は敢えて帝国からの挑戦を正面から打ち破る判断をされた。新亡命派の奮戦を印象付けたい思惑もあったのだろうが、結果としてミンチメーカーの覚悟を甘く見ていたのだと思う。数的優位な状況で逆撃を受け、大隊長は戦死。急遽、自治領主府から転進してリューネブルク副隊長が指揮を執った。
空爆の後に再度突入が実行されたが、覚悟を決めていたミンチメーカーは最後の最後に用意していた自爆装置を自身で起動させたらしい。敵将と同じく最前線で奮戦したリューネブルク副隊長も重傷を負い、高等弁務官府はがれきの山となった。
『シェーンコップ少佐、本部から入電。指揮系統の再編が終わったので突入を許可するとの事です』
「やっとか。では我々も仕事にかかるとしよう」
最悪の場合は帝国高等弁務官府へ増援の必要もあった。自治領主公邸組は万が一の事態に備えて待機していたのだが、これでやっと動ける。
「シェーンコップ少佐、突撃には私も同行させてもらいたい。自治領主府の方ではこれと言った証拠は見つからなかったようだ。帝国高等弁務官府のように自爆するような事は無いと思うが、少しでもネタを集めたい。許可頂けるだろうか?」
「リンツの顔を潰すわけにもいきませんからな。但し自分の身は自分で守って頂きたい。情報部士官の命の責任は、個人的ならともかく、大隊としては負えませんからな」
「感謝します」
緊張した面持ちで突入への参加を打診してきたバグダッシュ大尉に苦笑しながら先輩はそう応じた。顔を繋いだのは親交のあった私だ。防諜課に属していたはずの彼は、本来なら前線まで出張るはずはない。勝手な憶測だが、彼も私同様、何かしらのケジメを付けるために志願したのだろうと推察していた。
「まずは強行偵察としゃれこむか。リンツ、ブルームハルト、デア・デッケンついてこい」
待ちくたびれたとでも言いたげに戦斧を右手に持った先輩が指名をしてきた。ブルームハルトは射撃の腕で大隊のトップ。デア・デッケンは最近伸び悩んでいるが格闘術の実力者だ。4人で死角を補い合いながら重厚な両開きのドアを開き、屋内へ侵入する。
静まりかえった公邸内だが、観測班からの報告では熱サーモセンサーにかすかな反応があった。装甲服の暗視装置のサポートを受けながら暗闇を進む。大きなリビングを通り抜けて自治領主の私室エリアへ進む。妙な感覚だが、暗闇の中を進んでいるのに人がいる事がなぜかわかる。書斎と思しきドアの前まで来ると、先輩が視線を向けて来た。黙ってうなずき、援護の為の射界を確保する。
『バキン』
という音と共にドアを蹴破り室内へ突入した。
「やれやれ、随分なお出迎えだな。この屋敷は2週間前から無人だぜ」
執務机で資料を作成していた人物に携帯していたレーザーライフルを向けると両手を上げながらそう応じて来た。
「親父さん?」
「ん?誰かと思えばあの時の護衛官か?顔見知りがいて良かったぜ。という事はバグダッシュも近くにいるのかい?」
「はい。外で待機していますが.....」
確認するかのように視線を向けてくる先輩に頷きながら親父さんに応じる。細かい所にまで気が利くブルームハルトが無線で状況を報告し始めた。おそらくバグダッシュ大尉を呼び出しているのだろう。
「お前さん達には隠居した好々爺に見えるだろうが、これでも情報部に雇われた工作員でな。情報取集の任に当たっていたわけだ。その報告書をまとめるのに丁度よい空き家があったんでな。転がり込んで報告書の作成に勤しんでいたわけだ」
悪びれる様子もなくPCに視線を戻す親父さんにさすがのシェーンコップ先輩も毒気を抜かれた様子だ。ただ、実力者であることを肌で感じたのだろう。デア・デッケンは警戒を解いていない。
「さてと。これで完成だ。さすがに帝国高等弁務官府の方には手が出せなかったが、自治領主府の方もきっちり調査済みだ。お前さん達が知りたいことも大体は網羅できているだろうぜ。これは出迎え料だ。持って行け。情報部だけで抱えるには事が大きすぎるしな。新亡命派の薔薇の騎士大隊も把握している方が、政府上層部も腹をくくるだろうよ」
「親父さん、音信不通になったと思ったらこんな所で.....。重要機密を勝手に流出させるのは控えて欲しいのですが.....」
「重役出勤の上に俺に文句を垂れるとは偉くなったなバグダッシュ。まぁ、先に中身を見たらどうだ?事情を把握している陸戦組織の協力があった方が、お前さんの仕事もやり易くなると思うがね」
「少佐、申し訳ないが先に確認させてもらいたい。親父さんはこう見えて工作員の中でも古株で腕も確かだ。掴んだネタが公開されれば同盟が混乱するような情報も過去に暴いている。これだけは譲れない」
「分かった。なら俺達はお茶でも飲むか」
先輩がそう応じると大尉はホッとした様子で親父さんが取りまとめた資料に目を通し始める。キッチンから引っ張り出したティーセットで紅茶を淹れ始めた俺達を横目に、『なんてことだ』『まさか』といった呟きが漏れ聞こえてくる。
先輩はそれを楽し気に観ているが、読んでいる物がモノだ。これが人気小説の最新刊なら私も楽しみに出来たが、豪胆とは言わないまでも神経が図太い大尉がこの有様となると、余程の事が書かれているのだろう。そんな機密を新参者の薔薇の騎士大隊が知ったとなるとむしろデメリットの方が大きいのではないだろうか。
こんな状況でも悠然と紅茶を楽しむ先輩、いたずらが成功して嬉し気な親父さん、そして額の汗を拭いながら資料を確認する大尉。それをどうしたものかと眺める我々。別な意味で異様な雰囲気に包まれ、やけに時間が経つのが長く感じる。もっと経ったように感じていたが、大尉は小一時間で資料の確認を終えた。
宇宙暦790年 帝国暦481年 10月末
惑星フェザーン 自治領主公邸付近
バグダッシュ大尉
「親父さん、この最後の一文。薔薇の騎士大隊に渡す物にも記載されているのかい?」
「いんや。工作員の独自言語をわざわざ部外者へ渡すものに記載する程、俺はインテリじゃないぜ」
いたずらが成功したかのようにニヤニヤしながら視線を向けてくる親父さん。腕利きなのは認めるが若手の分析官たちから嫌がられるのはそういう秀才たちを馬鹿にするような態度が原因だ。
ただ、親父さん達フィールドワーカー達からすれば安全な所からなんやかんやと細かい注文を出してくる分析官たちに思う所があるのも理解はできるが.....。
「ここまで暗躍していたとなると、処理できるうちに処理したほうが良いという親父さんの意見には賛成だ。今すぐ司令部に許可を.....」
「お前さんも甘ちゃんだねえ。フェザーン派を含めてどこまで同盟内に根が伸びているかは俺にも正直分からねえ。司令部の許可なんざいるのかね?俺としては明日の昼頃に匿名の通報が薔薇の騎士大隊に入って、現場を発見するって流れが良いんだが」
「しかし.....」
「別にいいぜ。お前さんのけじめを付けたいって想いを汲んでここまで手配したんだ。共犯じゃなく部外者でいたいってんならそれでも構わねえよ。ここは同盟領内じゃないから当然同盟刑法は適用外だ。非公式な工作員の俺は軍法も適用外だしな」
やけに張り切っていると思えば、急に音信不通になった辺り、親父さん達もけじめを付けるつもりか。そして止めてもやめるつもりはない。薔薇の騎士大隊に協力してもらえば制止は出来るだろうが、その場合は当然彼らにもこの内容を確認した上での話になるだろう。
これが事実なら、新亡命派としても黙っていられない。彼らの多くが亡命する切っ掛けとなった帝国内での政争が、フェザーンと地球教の共謀によって引き起こされた物である事も、この資料には記載されている。
「分かったよ。親父さんのプランで行こう。シェーンコップ少佐、明日匿名の通報が薔薇の騎士大隊本部に届くと思うので対応をお願いしたい。できればリンツ少尉も同行させてもらえればと個人的には思う」
大尉が少佐に資料を渡しながら打診を行う。
「内容を見た上での判断になるが、リンツの胸のつかえがそれで解消されるなら、薔薇の騎士大隊の副隊長としては制止する理由もないな」
そう言いながら資料をめくり始めた。接した時間は短いが、不敵な雰囲気のあるシェーンコップ少佐は、前線では勇猛な男なのだろう。若いながらよくできたリンツ程の男が素直に部下になっているのだから。
ただ、今手にした物は『悪魔の書』だ。交易国家を隠れ蓑にこの銀河の悪意の塊のような闇が行った悪事の数々が記載されている。表情を変えずにそれが読めるかな?
「やられました。資料に一瞬意識を向けた時に消えました。同席するだけでプレッシャーを感じたのは初めてです。あの人、何者なんですか?」
ずっと親父さんに意識を向けていたブルームハルト曹長が発した言葉で、親父さんが姿をくらました事に気づいた。この資料には重要参考人の潜伏先を始め、地下鉄線路に併設された隠し金庫など見逃せない情報が記載されている。
悪用される前に押収してしまった方が良いだろう。帝国が持ち去ったフェザーン準備銀行の金塊に比べたら見劣りするが、それでもフェザーン侵攻作戦の予算を賄えるほどの資産にはなりそうだ。
翌日の昼過ぎ、政府施設の地下に作られたシェルターの更に地下に作られた要人向けと思われるシェルターにて、フェザーン侵攻作戦が開始された頃から姿をくらましていたアドリアン・ルビンスキーと護衛役と思われる数名が、背後から頸椎をナイフで一撃され死亡した状況で発見されたとリンツ少尉から報告が入った。
取り急ぎの悩みはフェザーン派の取り扱いだろう。彼らの亡命が計画的なもので、民主共和制の精神を逆手に取って世論を好戦的に煽り、帝国と同盟の共倒れを画策していた事が広まれば、国内でまた論争が起こるだろう。
『悪魔の書』を同じように読んだ薔薇の騎士大隊の連中が同様に悩んでいるであろうことだけが、唯一の救いだった。情報部に比べれば善良な陸戦部隊の彼らが、俺以上に悩むことになるのは確かだろうから。
『既に小官だけでなく、証拠の確保に協力した薔薇の騎士大隊も事態を把握しています』
報告書を上げた時から詰問に近い質問を各所から浴びせられる事になるのだが、この言葉を免罪符のように使う事で、詰問の勢いが弱まったのは確かだ。それにしても730年マフィアしかり、エコニアの名士として知られるケーフェンヒラー大佐しかり、旧世代の人材の凄みを再確認した。
フェザーンと地球教の悪辣さがほの暗い闇のような印象なら、好々爺然とした印象の彼らがこんな事を考えていたと思うと、人間の二面性を見たようで目をそらしたくなる。受け入れ拒否をしたフェザーン市民20億人を使った悪辣な策が実行に移されたのは、リンツ少尉から報告を受けた数日後の事だった。
「防諜課でよかった。こんなことを思いついても、実行に移すには戸惑いがあるだろう。化け物たちを先人にもった諜報課の連中は本当に不幸だ」
内心を吐露しながら紅茶を楽しむ余裕があるだけ、マシだったと思う。方々から詰問されてグロッキーになりかけたが、自分たちがすることの影響を考えると良心の呵責を感じるに違いない連中に献杯しながら、俺は正式な最終報告を取りまとめ始めた。
同盟軍がフェザーンに進駐しました。親父さんが良い所を持って行った感じになりましたが、一番の古株ですしね。多少の贔屓には目をつむって頂ければ。
感想の方もありがとうございます。励みになっているんですが、最終話の執筆中で変にネタバレになってもあれなので、感想返しは完結後に再開します。では!明日!