カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


第18話 中の上の志

宇宙暦724年 帝国暦415年 2月末

惑星テルヌーゼン メープルヒル校

アルフレッド・ローザス

 

「アルフレッド君、また揉め事みたいよ?今度はウォーリック君達とだって」

 

「またか、分かった。ありがとうカトリナ」

 

幼馴染のカトリナが、心配げな視線をこちらに向けている。視線に気づきながらもタブレットで、彼に一報を入れる。視線を戻してもカトリナは心配そうだ。カトリナが心配するのも無理はない。僕は本当なら学内の騒ぎを仲裁するような存在じゃないからだ。

 

生まれたローザス家は元々のルーツは帝国貴族だ。ただ、亡命する以上は心から同化すべきと判断し、首都星ハイネセンに近いテルヌーゼンに居を構えた。それから数世代は経っているけど、正直、亡命系というルーツはぬぐえずにいると、僕は感じていた。それは本当に細かいことで、僕の考えすぎなのかもしれなかったし、幼い頃からバーラト原理派に接する機会が多かった事も影響しているのかもしれない。

 

「俺の家は長征一万年をハイネセンと供に成し遂げた」

 

「盲目になったグエン・キム・ホアを支えたのが家の祖先だ」

 

そんな事を周囲に聞こえる様に言い募る光景をよく見て来た。僕から見たら、敵国である帝国の門閥貴族たちが言いそうなセリフでしかなかった。

 

『俺の家は銀河帝国の建国をルドルフ大帝ともに成し遂げた』

 

『大帝亡き後、ジギスムント1世陛下を支えたのが家の祖先だ』

 

ほらね。固有名詞を変えただけで、ドラマに出てくる敵役の門閥貴族のセリフに早変わりだ。そんな冷めた目線で見ていればなんとなく相手にも伝わるんだろう。クラスの多数派を占めるそういう連中とは馴染めなかった。もともと成績も平均より少し上と言ったレベル。運動もそこまで得意じゃない。クラスの少数派で、そこまで目立たない存在。友人も、幼馴染のカトリナを除けば多くはない。良く言えば平和に、悪く言えば平凡な学生生活を過ごすことになると思っていた。

 

そして、この変な感覚から逃れる為にも、士官学校に進路を希望していた。いずれは任官してちゃんと勤めを果たしたと胸を張れるようになれば、少しは生きやすくなるだろう。と考えての事だ。

 

士官学校は同盟でも難関校の一つだ。日々コツコツと目立たないながらも努力を続ける。子供らしく英雄にも憧れていたから、ダゴン星域会戦の英雄、リン・パオ、ユースフ・トパロウル両提督の書籍も何度も読んでいた。このまま行けば、首席になることはないだろうが、平均より少し上の席次で士官学校に入学する。そんな未来に向けて歩んでいた僕の静かな人生は、去年の年末から大きく変化した。

 

「誉めてやろう。口だけの連中が多かったからな」

 

「さすがウォリスだ。ただお前の爺様に世話になってはいても、手は抜かんぞ!」

 

黒髪長身の青年が、腕組みをしながら楽し気に声を上げた。遠目で見ると熊にも見えなくない青年がそれに続くようにシャドーボクシングをしながら声を上げる。

 

「それはこちらのセリフだ。祖父様に泣きついても無駄だぞ!」

 

とうとうバーラト融和派も出張ってきたか。さすがにまずい事態だ。それにウォリスは、僕の雇い主のビジネスパートナーの孫だ。ああ、早く来てくれないだろうか。首都星ハイネセンならともかく、テルヌーゼンではバーラト系の融和派も多い。メープルヒル校でも同様で、声ばかりが大きい原理派が名目上の表番ではあったが、彼らは文字通り、ローザス家が身元引受人となり、編入した2人の亡命派に、数を頼んで突っかかって、文字通り粉砕された。

 

黒髪長身のジャスパーは、好みがはっきりしており、竹を割ったような性格だ。細かいことは気にしないし、整った顔立ちで、帝国風の所作も優雅。転入当初から女子たちの話題だった。その上、フライングボール部に入り、瞬く間にエース選手になった。女子たちの熱い視線はさらに増え、ごく一部の男性陣からも似たような視線を浴びている。

 

シャドーボクシングをしているのはベルティーニ。ジャスパーと同じく、ローザス家が身元引受人だ。ジャスパーと身長はあまり変わらないのに、熊のように見えるのは、彼の体躯が筋肉に覆われているからだ。ボクシング部に入ったベルティーニは人気のヘビー級の代表となり、年始の大会で優勝した。

 

それに、見た目に反して女子や後輩にはすごく優しい。見た目も相まって『森のくまさん』などと呼ばれ、一部の女子の熱い視線と、後輩の尊敬を集めている。僕から見ても二人は目立ちすぎたし、バーラト系の男子学生が動き出すのも仕方がなかった。

 

雇い主からは流血沙汰にはさせない。バーラト融和派が出張ってきたら一報を入れる。その代わりに、彼が運営するウーラント商会のレストランの支払いを彼が持つ。そういう契約だった。バーラト系に囲まれて育ってきた僕にとって、自分のルーツを確認しているようで帝国風の料理を食べるのは楽しかった。それに、時折、雇い主と共に同席するクリスティン嬢とユルゲン君から帝国の事を聞くのも新鮮だった。

そして内心だが、雇い主を始め、僕から見ても目立つジャスパーやベルティーニを英雄を見るかのような視線で見つめ、続けとばかりに励むユルゲン君に、変な親近感を感じていた。ユルゲン君も本当は彼らと話したいんだろうが、気が引けるのか、一番話しかけてくるのは僕だ。急に弟が出来たようで、うれしく思ってもいる。

 

ああ、雇い主から避けろと言われた事態に陥るまでのカウントダウンが僕の頭で始まっていた。現実逃避している間は、このカウントダウンが止まってくれないだろうか......。原理派のやつらは、まあ口だけだから、ジャスパーとベルティーニがいれば、負けることはない。あくまで学生同士の揉め事で治まった。

 

でもウォリスはかなりの実力者だ。刃物は使わないだろうが、それでも事故が起こるかもしれない。もう割って入って身体を張って時間を稼ぐしかないか......。そんなことを考え始めた所で、見慣れたウーラント商会の社用車が、裏門前に停車し、オレンジ色の髪をした青年が、こちらに向かってくる。

 

「へぇ、ジャスパー、ベルティーニ。楽しそうだな。任官後、簡単に戦死しないようにとにかく励むって約束したよな?ありゃ嘘か?」

 

その一言で、さっきまでの覇気はどこに行ったのか?二人は急におとなしくなった。営業をしていたのであろうターナーは、スーツ姿だ。同い年なのにどこか有無を言わせぬ雰囲気があった。

 

「おい、ウォリス、どこ行くんだ?お前、俺が車を止めたあたりから逃げようとしたよな?」

 

ターナーの発言を機にウォリスに視線を向けると、先ほどまでいた場所からかなり校舎に近い位置に移動していた。ジャスパーとベルティーニは裏門に背を向けていたから、気づくのが遅れたけど、ウォリスは先に気づいていたんだろう。

 

「会長が亡命派との関係改善のために、わざわざお前がいるメープルヒル校に、この悪ガキどもを編入させたのはわかってるよな?どういうつもりか会長も聞きたいそうだ。一緒に来い」

 

そういうとウォリスの襟首をつかんで文字通り連行しだした。

 

「アルフレッド、ウォリスは早退だ。伝えておいてくれ。それと所詮こいつらなんて悪ガキだ。腕っぷしで勝てないなら口で勝て。ユルゲン様や会長に報告するとでも言えば、おとなしくなるんだから」

 

右手は誰かさんの襟首をつかんでいたので、左手で僕の肩をポンポンと叩くと、車に向かい、後部座席にウォリスを押し込んだ。

 

「ジャスパー、ベルティーニ、お前らからも後で話を聞くからな!」

 

そう言うと、車は走り去って行った。なんだろう、嵐が来るかと思っていたら、隕石が落ちてきて嵐なんてどうでもよくなった感じだろうか?

 

「ねぇ、さっきのってターナー君でしょ?ウォーリック君、大丈夫なの?」

 

「うん、大丈夫だと思うけど、あんなに怒っているのは初めて見たよ」

 

心配そうにカトリナが声をかけてくるが、あんなに感情をあらわにするターナーを見たのは初めてで、僕も戸惑っていた。翌日からはいつも通り、昼間は忙しくウーラント商会の仕事をしているのに、疲れた素振りもみせず、夜にはローザス邸で僕たちと士官学校対策に励む。『新しいメニューが出来た。女性の意見も聞きたいからカトリナ嬢と都合が良い時にレストランに行ってくれ』と笑顔で勧める彼に戻っていた。

 

数日後、この出来事を聞いたクリスティン嬢から謝罪と共に事情を伝えられた。兄貴分と慕っていたトーマスさんの戦死の報に、この事件の前日に接していたらしい。彼の部屋から時折泣き声がしていたとの事だ。思い返せば、あの日も目が赤かったと思う。

 

それを知った悪ガキ3人衆も、これ以降は揉め事を起こさなくなった。もしかしたらウォーリック商会のボディーガード陣との訓練の成果かもしれない。でも僕たちはターナーを通じてトーマスさんの話を聞いていた。志願し前線で戦う彼を尊敬もしていた。そんな彼の戦死を知って案外簡単に戦死するんだと肌で感じたことも大きかったと思う。

 

この頃に、僕は初めて自分なりに志みたいなものを立てた。同盟中の英才があつまる士官学校なら、メープルヒル校よりもっと優秀な学生が集まり、当然ぶつかるだろう。僕は主役にはなれない。でも主役になれる人材がぶつかり合って良さをお互い潰さないように、緩衝材のような人材になろうと思ったのだ。お人好しで後輩の面倒見も良かったトーマスさんが、もし士官学校に行っていれば、きっとそんな存在になっただろうから。




という訳で、原作で730年マフィアの苦労人、アルフレッド・ローザスの登場です。成績はそこそこでしたが、癖が強い面々を取り持つ潤滑油的な存在でした。ターナー君はウーラント家の生活もかかってますから、ガチなので、周りも逆らわない感じですね。

一応書いていて違和感と言うか、130億人の国家で5000人の枠ってことは、1.3億人の国家で50人の枠なんですね。専科学校もあったっぽいですが、5万人位の枠がないと少なすぎる気もしますし、士官学校に合格する時点で、本当のスーパーエリートですよね。
では!明日!

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