カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています



第23話 ダンスパーティー

宇宙暦727年 帝国暦418年 12月末

惑星テルヌーゼン ダンスパーティー会場

ジョン・ドリンカー・コープ

 

「コープ。もう食わんのか?それにしてもノンアルコールとはなあ。パーティーに酒はつきものだろうに」

 

「俺はお前ほど大食漢じゃない。それに未成年の男女が集まる場だからな。間違いがないようにって配慮だろ?もっとも俺は酒は受け付けないから、どちらでもよいが」

 

壁に背を預けている俺に、傍のテーブルに腰をおろしてターキーを頬張りながらベルティーニが声をかけてくる。ボクシング部に所属している奴は、今日もトレーニングをしていたはずだ。ダンスパーティーの日ぐらい頭を切り替えても良いとは思うんだが、それが強さの理由でもあるんだろう。

 

ただ、今日の分のたんぱく質が足りていないとか抜かして、ダンスパーティーに来ているのにターキーにパクつくのは如何なものか......。まあ、こいつらしいからとやかく言うつもりはない。

 

俺自身も踊れなくはないが、ダンスはそこまで好きじゃない。半分ブルースに付き合って参加したようなものだから、テーブルに陣取ってターキーを食べるベルティーニの相手をするのは都合が良かった。

 

「それにしても、見事な流れが出来ているな。傍目で見ていると面白い」

 

「ん?流れ?」

 

こいつは冬眠明けの熊よろしく、ターキーに夢中だったようだ。俺の視線に気づいたのか?ダンスホールに視線を向ける。

 

「ああ、ターナーの事か。まぁ、もともとフレデリックが去年のパーティーで口を滑らせたのがきっかけだからな。うんうん、ファンも楽しめている様だし良い事だ」

 

そう返したと思ったら、また視線を皿に向ける。そろそろ食べ切りそうな状況だが、まさかまたお代わりはしないよな。そんなことを思いながら、ダンスホールに視線を向ける。ファンが音大生の一人と嬉しそうに踊ってるのが目に入る。少しでもファンの事を知っていれば、驚愕の光景だろう。事の始まりは、同じくダンスホールで踊っているジャスパーが口を滑らしたことに始まる。

 

前期試験の成績で、ブルースを初めて主席の座から引き摺り下ろしたターナーだったが、それまでも次席だったし容姿も含めて目立つ存在だ。もちろん音大でも話題にはなっていただろう。

 

もっとも当人は婚約者の存在を理由に、去年のダンスパーティーに参加しなかった。このダンスパーティーで出会って結婚するカップルもいるから、婚約者持ちが欠席するのは道理だ。ただ、お調子者でターナー好きのジャスパーが

 

『あいつの社交ダンスはパートナーを引き立てる。イーセンブルク校の授業では、亡命派の淑女があいつをパートナーにする為に並んでいた』

 

と漏らしたことから事態が動き始める。思い出の1ページに一度パートナーになってみたい。そう考えた音大生たちが動き始めた。女性陣の情報網を持ってすれば、ターナーと同期で親しいローザスと言う候補生の恋人であるカトリナ嬢が、音大に在籍している事はすぐに判明しただろう。

 

お願いと言う名の圧力が、カトリナ嬢にかけられる。恋人からの依頼を、もともとお人好しのローザスが無視出来るはずもない。ターナーからしても、なにかと同期間の問題を処理しているローザスを無下には出来なかった。

 

ただ、ターナーとしても、ダンス講師役をする為だけにわざわざ時間を割くつもりはなかった。コミュニケーションに難ありのファンの改善の場にしようと考えたのだ。ダンスがそこそこ位のレベルで、男性側が話題を提供しなくても大丈夫な、気の優しいパートナーを紹介することを交換条件とした。

 

これだけならファンにとっては余計なお世話だったかもしれない。ただ、放課後にターナーが女性役を務めてダンスの特訓をしたのだから、大したものだ。その成果もあって、ファンはこのパーティーを楽しめている。

 

そしてその特訓の光景を笑ったジャスパーに怒ったターナーは、謝罪の条件に『女性役でベルティーニと踊る事』を条件にした。士官学校の一室は笑い声に包まれたし、なんでも器用にこなすウォーリックが、面白がって隠し撮りをした。その一枚は、二人の容貌もあいまって少数の男性と多数の音大生にとって垂涎の品になっているらしい。それを知った時のジャスパーの顔は、思い出しただけで今でも笑える。

 

って話がそれたな。ダンスホールの流れの件だ。女性陣の多くはまずターナーと踊り、そのあと3つの流れに分かれる。ターナーで調子を上げた女性陣の多くは、ブルース、ジャスパー、ウォーリックの3人と踊る流れが出来ていた。

 

あの3人はタイプは違うがダンスはうまい。ただなぁ、この流れだとターナーは来年はまた欠席するんじゃなかろうか。担当が誰になるのかは分からんが、ご機嫌を取る必要はあるだろうな。

 

「そのターキーは私も焼き上げるのを手伝ったんです。そこまで気に入って頂けると頑張った甲斐があります」

 

「そうなのか。このターキーは絶品だ。いくらでも食べられそうだ」

 

俺がダンスホールに目線を向けているうちに、最寄りのテーブルでも戦況に変化があったらしい。テーブルの上にはターキーを載せた皿が追加され、小柄な女性が嬉しそうにターキーを頬張る熊を見つめていた。

 

俺の位置から引いてみると、ペットの熊に少女が餌付けしているようにも見える。ただ、ここで声をかけるのも無粋だろう。俺は候補生がたむろしている一角へ足を向けた。少なくともベルティーニにお節介は必要なさそうだからな。

 

 

宇宙暦727年 帝国暦418年 12月末

惑星テルヌーゼン ダンスパーティー会場

カトリナ・アルザス

 

「カトリナ、お疲れ様。良い演奏だったよ」

 

「ありがとう、アルフレッド。それにしても予想通りと言うべきかしら......」

 

私たちが目線を向ける先はダンスホールだ。音大主催のダンスパーティーらしく、ダンスの演奏も音大生が担当する。私の担当は開始から1時間。そのあとアルフレッドとパーティーを楽しむつもりだったけど、私が演奏している時から、ずっと入れ替わり立ちかわりでパートナーを求められるターナー君が目に入り、正直罪悪感を感じていた。

 

彼のダンスは確かにパートナーを引き立てる。ガサツな所があるジャスパー君の発言だから、正直疑っていたけど、ダンスに関しては彼の言は正鵠を得ていた。だからこそ申し訳ない。

 

ターナー君と踊って、ある意味予行練習を終えてから、本命の所へ行く流れが出来ていた。ターナー君が怒ると怖いのは私も良く知っている。圧力に負けてアルフレッドにお願いしたけど、彼の怒りの矛先が自分の恋人に向いたら......。

 

「大丈夫だと思うよ?今回のお詫びに来年からクリスティン嬢と同伴するみたいだし、招待状はカトリナが何とかするんでしょ?」

 

「うん。そっちは何とかなるけど、ここまであからさまだとなあ。来年、婚約者が同伴するってなったら、簡単にはパートナーをお願いできないだろうし、それはそれでいろいろ言われるかも......」

 

「音大も色々大変だね」

 

そう言いながら近くのテーブルの椅子を引いてくれるアルフレッド。席に座ってシンデレラでのどを潤す。アルフレッドはサラトガクーラー。会場に用意されたバーコーナーで予め頼んていてくれたんだろう。キレイに取り分けられたオードブルに手を伸ばして、空腹を和らげる。こういう細かい仕事は、本当に得意なのよね。アルフレッドは。

 

「ターナーに関してはそこまで気にしなくても大丈夫だよ。ほら、男性は女性の3倍練習しないと上達しないっていうしね。本命と公式の場で踊る前に練習できてよかったって流してくれると思うよ?さすがに来年の事は、音大で対処してほしいけど」

 

「そうよね。さすがに婚約者同伴ならみんな我慢してくれるわよね。クリスティンには私からも状況を連絡したの。結構複雑な心境だったし、何か埋め合わせしないと......」

 

ボヤく私を慰める様に、アルフレッドが肩に優しく触れる。内緒にしているが、風貌も優し気なアルフレッドも実は音大で人気だ。演奏している間、アルフレッドはずっと演奏に意識を向けていたけど、私の存在が無ければ、パートナの依頼は彼にも来ていただろう。ターナー君の婚約者のクリスティンとは私も友達だ。そしてクリスティンにとって、なんでも話せる同級生の女友達は私くらい。

 

ターナー君にダンスパーティーに参加してほしいとお願いする前に、クリスティンにも事情を説明した。帝国風に言うと、自分の夫や婚約者がダンスの名手と見込まれるのはむしろ名誉な事だし、よく言ってベタぼれの相手が、他の女性の目に映るのもまあ無理はないって考えるらしい。

 

ただ、当然嫉妬もするんだけど、そう言うのは淑女として『はしたない事』ともされているから、複雑だと吐露していた。ターナー君、音大生の私が言うのもあれだけど、見た目だけの性悪も結構いるの。お願いだからクリスティンが悲しむような事態にはしないでね......。今の状況なら大丈夫そうだけど......。

 

そんな事を思いながら一息ついて、アルフレッドとダンスホールに向かおうかと言う頃合いで、事件が起きた。アッシュビー君と談笑していた女性が、ターナー君の傍に行き、パートナーに誘ったのだ。

 

「よりによって、アデレードじゃない......」

 

「ん?アデレード?」

 

「話したじゃない、アッシュビー君を狙ってて、見栄えもいいし性格もまずまずだけど、目的の為には手段を選ばない。自分の恋人は紹介したくないタイプって」

 

アルフレッドとの肩を強めに叩きながら、視線はダンスホールから外さない。曲が流れ始めたが、やけに密着してる。あっ、アデレードが耳元でターナー君になにかささやいてる。駄目よ!ターナー君。クリスティンを泣かせちゃダメ!

 

「アデレードって娘が、カトリナの言ってた通りの子なら、きっと心配はないよ。カークのあの表情は本気で困ってるし、たぶんよそ見をしてるブルースへの当てつけじゃないかな?カークから貰った男女の機微って本に、そのまま書いてあった気がする」

 

横から何か聞き逃せないセリフが聞こえたけど、何年も私の気持ちに気づかなかった鈍ちんの意見は参考になるんだろうか?それとも人の事なら良く分かるの?それはそれでなんか納得できない。曲が終わるとまたアデレードはターナー君の耳元でささやいて、アッシュビー君の方にゆっくり戻って行った。

 

アッシュビー君もおそらく嫉妬しているんだろう。不機嫌な表情だし、ターナー君も困った表情で、候補生たちの一団に混ざって行った。こんなことするから、『自分の恋人を紹介したくない女』って言われるのよ。来年、クリスティンとアデレードが同じ場になると思うと、正直頭が痛い。

 

「まぁ、なるようになるよ。そろそろ僕たちもいこうか?」

 

そう言いながら笑顔で手を差し出してくるアルフレッドに応えて、ホールに向かったけど、気が晴れるまで3曲も必要だった。自室に戻り、部屋着に着替えた頃合いで、男女の機微って本についてアルフレッドを問い詰める必要がある事に気づくのだが、それは別の話だ。




青春、学園ラブコメっぽく書きたかったんだけど、難しいですね。それっぽくなってれば良いんですが。では!明日!

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