カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


第29話 誘因

宇宙暦730年 帝国暦421年 6月末

統合作戦本部ビル ジークマイスター分室

ファン・チューリン

 

「うむ。ダゴン星域に狙いを定めた意図は?」

 

「はい。室長が持ち込まれた光ディスクの情報とすり合わせましたが、補給のタイミングには変化がありませんでした。また、ダゴン唯一の惑星、カプチェランカは極寒の惑星です。補給切れとなれば陸戦隊は餓死するか、降伏するかでしょう。玉砕覚悟で我が軍の基地に乗り込んでも、撤収済みですから、以前のような手も使えません」

 

13時過ぎにジークマイスター室長が分室に到着されると、ターナーは紅茶の用意をし、一息ついたのを見計らってこの数ヵ月、私達が取りまとめた上申書の概要の相談を始めた。

 

「なるほど。では、陸戦隊を一時的にとは言え撤収させる理由は?」

 

「室長、ターナー少尉に倣うわけではありませんが、惑星カプチェランカには確かに希少金属の鉱山があります。ただ、特有の気候と最前線である事から採算ベースには乗りません。地方星域にそれなりの開発予算を投じれば、同等以上の産出量を、確保できます。

 

陸戦隊が血で血を洗う地上戦を行ってまで確保する価値は残念ながら無いでしょう。星系を維持すると言う観点では、ダゴン星域に多数存在するアステロイドベルトの中から、比較的安定したものを選び、艦隊駐留拠点を作る方が制宙権の観点ではむしろ有効でもあります」

 

ターナーがこちらに視線を向け、それに応じる様に室長の質問に答える。報告する際は、必ず2人揃って行う。発言も交互にするのだが、これも上官とのコミュニケーションの練習を私にさせる意味もあった。

 

亡命者である室長とターナーは気が合う所があり、効率を考えると彼が全てを担当したほうが良い。ある意味、非効率な手法を取っているのは、私がこの分室に配属されて以来、2人の仕事の成果は2人で報告するという約束をターナーと交わしたためだ。

 

「ふむ。前線指揮官たちの心情を無視すれば、まぁそれで通るだろうな」

 

「室長、惑星カプチェランカに派遣された陸戦隊は、摩耗を続けております。部隊の立て直しをエルファシルで行うという事で、話を通せないでしょうか?前回の二の舞になるのは、こちらも避けたいのです。人員によっては3年近く現地に派遣されたままの将兵もおります。陸戦隊の撤収が完了すれば、降伏勧告に応じない場合、軌道上からの攻撃も視野に入ります」

 

「うーむ。戦死した部下への想いと、部下を生きて返すという義務。命令があれば義務を選ぶ理由もできるか......」

 

「はい。それに同盟側が撤収したとなれば、帝国側は撤収しようにもできないでしょう。新帝が即位したばかりです。軍としても早々に失点をしたくはないと判断しました」

 

「分かった。では、私の方から統合作戦本部に上申しよう。両名は参謀本部に話を通すとともに、想定される交戦パターンの作成に入れ。修正の余地は多少は残すようにな」

 

「承知しました。フェザーンの件もあります。戦力秘匿の件は、どこまで触れるべきでしょう?」

 

「宇宙艦隊も第9艦隊の戦力化を終えた所だ。そろそろ戦いたがるかもしれん。あくまで提案に留めて、あちらの判断に委ねた方が良いだろう。大規模な艦隊派遣があれば情報は入るだろうからな」

 

「ありがとうございます。それと、この案が成功した暁には、高等弁務官府の人員をバーラト系融和派にすることをご提案頂けないでしょうか?どうも今の職員はバーラト原理派の色合いが強く、亡命希望者に不信感を持たれているようです。亡命時に同化政策に失敗すればどうなるかは既に実例があります」

 

「分かった。分かった。どうせその資料も連名で作成してあるのだろう?原案で良いから一度確認させてくれ」

 

揃って敬礼をし、お互いのデスクに戻る。これで任官以来2ヵ月近く費やした案件が上申される事になる。ホッとすると共に、予測が外れたらという恐怖も感じた。

 

「やったなファン。俺はお茶を入れ直したら食堂へ行ってくる。手短に済ませてくるからしばらく頼む」

 

そう言うと、お茶の用意をして室長のカップに紅茶を注ぐと分室を出て行った。気にしなくても良いと言ったのだが、ファネッサが作ってくれたお弁当をデスクで食す私に気を使って、12時から13時は私が昼食を、ターナーは13時過ぎから食堂で昼食をとる形になっている。

 

上官にも同期にも世話好きで気を配る所は、見習いたい点ではあるが、私が苦手とする部分でもある。ただ、一度身内認定した存在への思いの強さは正直気にかかった。

 

私はPCを操作し、二人で纏め上げた資料のファイルを立ち上げる。私たちの提案は、纏めるとダゴン星域の地上部隊を撤収しつつ、帝国軍の定期補給艦隊を撃滅し、さらに追加で現れるであろう救援部隊も撃破。惑星カプチェランカの帝国軍地上部隊に降伏勧告を行い。応じない場合は軌道上からの攻撃を行うというものだ。

 

正規艦隊を派遣するとフェザーンが帝国に通達する恐れがあるため、正規艦隊は定期補給艦隊の撃滅を確認してから出撃する事を推奨する形にした。定期補給艦隊の撃滅を担当する3個分艦隊程度の戦力には、参謀本部から私の同期連中の何人かが、臨時で派遣されることになるだろう。

 

この作戦案が生まれた切っ掛けは、思いつめた様子でターナーが惑星カプチェランカの戦線動向の分析結果の再確認を依頼してきたことに始まる。戦線動向や帝国軍の補給実績を考えると、6年前に実施された帝国軍の大規模攻勢は、物資が乏しくなった帝国軍が、物資があるであろう同盟軍の基地を文字通り玉砕覚悟で攻め、猛吹雪に油断していた基地は文字通り蹂躙されたという分析になる。物資の乏しい帝国軍は、捕虜を取らなかった。

 

もし、情報部が惑星カプチェランカへの補給に着目し統計を取っていれば、警告も出せただろうし、基地が陥落することもなかった可能性が高い。上層部の怠慢で出た被害とも言えた。既にその結論に至っていたターナーは、敢えて予備知識のない私に再確認を頼んだのだろう。別の事情を知らなかった私は、その分析結果に賛同してしまった。

 

「兄貴分のミラー氏か。ジャスパーめ、友人の過去を語るのは不謹慎だろう」

 

モニターに視線を向けたまま、私はため息をついた。激務の合間を縫って食事を共にする様にも心掛けていたが、ターナーの兄貴分が戦死した話を、ジャスパーが漏らしたのは、その一件の数日後だ。ミラー氏が戦死したのが6年前。

 

まさかとは思ったが、基地に所属していた部隊員を調べると、トーマス・ミラー伍長(二階級特進)の名があった。この作戦案は、ターナーのミラー氏への想いが発端になっている。良い作戦案なのは事実だが、ターナーは根本的に破壊を担う軍人ではなく、創造を担う経済界にいるべき人材だったのではないかと気にかかっている。彼自身も、経済界への想いを口にしていた。

 

「ため息か......。ファン少尉、悩みごとかね?」

 

「失礼しました。少し考え事をしておりまして......」

 

「ターナー少尉の事だろう?彼は今まで大きな挫折を経験していない。苦労はしただろうがね。そして兄貴分の死にどこか責任を感じている。人としては美点かもしれんが、軍人としては甘いかもしれんな。多数を生かす為に少数を犠牲にせざるを得ない状況で、厳しい判断はするかもしれないが、自分自身も犠牲にしようとするだろう......」

 

どこか悲し気な室長の表情が印象的だった。

 

「少尉の同期連中の事は私も自分で確認させてもらった。その上で、ファン少尉、君をターナー少尉と組ませたのは私だ。冷静沈着で手堅い仕事するのはもちろんだが、感情面を抜いて、シビアな決断が出来る人材だと思ったからだ。アッシュビー少尉の鋭さをローザス少尉が和らげているように、ターナー少尉の至らない部分を君が補ってあげてほしい。君はターナー少尉をまぶしく見ている様だが、私からすれば君も十分にまぶしい人材だ。では、事前の根回しにでも行くしよう」

 

そう言って、室長は分室を出て行かれた。私は敬礼して見送ったのだが、視界がなぜが霞んでいた。涙を流している事に気づき、ターナーが戻るまでに何とか平静な自分を取り戻すために四苦八苦することになる。なんとかターナーが戻る前に心を落ち着けたのだが、室長とのやり取りもあり、入室してきたターナーを思わず見つめてしまった。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「いや、フェザーンの事が気になってな......」

 

「そうだな。まぁ、エルファシルに2個艦隊規模の駐留基地と補給基地の大幅な拡張が出来れば、奴らの事を気にしなくて済むんだが、予算がなあ......」

 

そう言いながら、上申書の作成を始める彼の背中を見ながら、この作戦が成功し、ミラー氏への想いが整理できるように。そして、苦しい決断をするような状況にならずに済むようにと、祈らずにはいられなかった。

 




という訳でジークマイスター分室の第一弾は、カプチェランカ攻防戦になります。何にするか迷いましたが、まずは小手調べという事で。では!明日!
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