宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦731年 帝国暦422年 3月末
惑星ハイネセン 公用車内
ナタリー・アッシュビー
「代議員、先ほど財務委員長の秘書官から連絡がございました。例の法案は無事に通過。予算案にも盛り込まれたとのことです」
「ありがとう。戻ったら財務委員長にお礼の連絡をしなければならないわね」
そう返しながら、第一秘書が開けているドアをくぐり、公用車の後部座席に乗り込む。午前中に公務を終え、午後から支援団体の会合に出席。最後に支持者の一人である軍需産業のお偉方との会食を終えたばかり。肉体的にも疲労を感じていたし、脂ぎったガマガエルのような風貌の財務委員長の顔を見るには、一休みが必要だった。
こんな時はタバコを一服したい所だが、喫煙者と言うだけで政策如何に関わらず投票しない有権者の存在もあり、代議員に立候補してから禁煙を始めていた。そして一服が欲しくなる度に、『タバコを止める事すらできない喫煙者はリーダーに相応しくない』と主張する、健康をお題目にしたNPOの連中を腹立たしく思うのが、通例行事だ。
「手数をかけるけど、ブルースにさっきの件、連絡しておいてもらえるかしら?」
「承知しました」
ヘッドライトがともり、自宅へ進み始めた公用車の運転座席に座る第一秘書が了承の旨を伝えてくる。事故の発生確率はほぼゼロだが、万が一の事もある。自動運転システムが自宅まで運転してくれるが、SPなり秘書なりを運転席に座らせるのが、公用車を使う上での慣習だった。
繁華街を抜け、第二環状線に入った車は、速度を上げていく。良い時間だが、まだハイネセンのビジネス界には眠らない人々もいるらしい。車窓から見えるオフィス街の窓は、半数以上が灯ったままだった。
軍需産業の一社で役員を勤めている夫は、まだオフィスだろうか?それとも取り巻き連中と歓楽街に繰り出しているか?はたまた愛人の所か?3人の子供が独り立ちし、家事の張り合いも無くなった。バーラト系原理派から立候補の誘いが掛かったのは、そんな頃合いだった。
父は帝国との戦争で戦死し、夫は軍需産業で役員だ。若い頃からそれなりに容姿も評価されてきた。選挙区に割り当てられた2枠の議席枠のひとつに滑り込み、それ以来、国防委員会に所属してきた。末っ子が士官学校に首席合格した事もあり、銃後の母の鑑のように言われる事もある。夫は財界で、私は政界でそれぞれの人生を歩んで行けば良い。そんな風に考えていた。
出来は良かったが、かまわれるのを嫌がり、幼い頃から自立心が強かった末っ子。自慢の息子でもあったが、こちらから彼の将来の為に代議員との会食をセッティングしても、不本意な表情をするばかり。あちらから連絡してくる事は、士官学校に入学して以来なかった。
そんな末っ子、ブルースから会いたい旨の連絡が来た時、正直嬉しかった。でもバーラト原理派としても、国防委員としても、知りたくない話を聴くことになった。自慢の息子との会食の話題が、言い寄られているという女性との話でもなく、功績を立てた戦場の話でもなかったのは、普通の夫婦関係とは言えない生活をおくる私への罰だったのだろうか......。
『母さん、この事業計画の予算を何とか通してほしい。既に他の派閥は出資者を募り始めている。このままだと、バーラト原理派は居場所がなくなるぞ』
そんな一言から始まった話は、ひいき目に見ても優秀な息子からでなければ、信じられない話だった。戦功を立てて、昇進したばかりなのに浮かない表情も、信憑性を高めていた。
『このままだとバーラト原理派は、名ばかり少将になる』
そんな一言から始まった息子の話は、軍需産業を支持基盤に押さえ帝国との戦争に勝利するまでは一定の支持率が得られる。だからこそ安寧を囲っていた私にとって、知りたくない事実だった。
『国防委員の母さんにはアクセス権がある。でも、知らないだろうな』
そう言いながら、第三種機密指定された文書を手渡してきた。内容は惑星カプチェランカの地上戦に関する分析報告。戦いが起きたのは7年前だが、結論からすれば上層部の怠慢で、ある大隊が全滅したというものだ。ならば国防委員会を通じて怠慢を咎め、再発防止策を講じれば済む話では......。と、その時は考えた。
『士官学校、記念大、自治大の入学者はほとんどバーラト星系の出身者。そして主張と相まって、士官学校の多くはバーラト系原理派が占めて来た。俺の馴染みの連中は見事に出身がばらけたが。つまり戦争を主導してきたのは、バーラト系原理派なんだ。
だけど同盟軍の構成比だとバーラト系原理派は15%に満たない。実際に現場で血を流す多くの兵士たちはそれ以外なんだ。戦争の必要を訴え、戦争を主導する派閥が手抜きをして無駄な血が流れた。この件は、たまたま調査されたから明らかになったが、精査されれば似たような案件がかなり出るだろう』
そう聞いた時、思ったのは封印指定する事だ。そんな物が出回れば、軍備拡張政策にも悪影響が出る。下手をしたら反戦運動すら起こりかねないし、徴兵拒否も多くなるだろう。私の考えたことが分かったのだろうか?
『別に青臭く、これを公表しろなんて言うつもりはない。俺も同盟軍中尉なんだ。だからこの事業計画を政府案として通してほしいんだ。中身を見れば分かるが、捕虜を活用して少しでもコストを抑えて地方星系の開発を進めようという計画案だ。
先に言えば、既に60%の出資分は埋まっている。これは融和への誘いなんだ。これを蹴れば、バーラト系原理派抜きで話が進むだろう。そして、自派の軍需産業を潤すために同盟市民に血を流させる吸血鬼とでも批判してくるだろうな』
その後、帝国の『名ばかり少将』の話をしてくれた。爵位だけで将官となり、自分だけでなく多くの部下を巻き込んで敗戦する帝国の貴族達。そう、そんな事を許す独裁制、帝国なんて打倒すべきじゃない!
『無能が原因での敗戦と怠慢が原因での敗戦。俺なら怠慢が原因の敗戦の方が許せない。私の力が及ばずに負けてしまった。私が怠けたせいで敗戦した。遺族たちはどっちの方がまだ納得するだろうか?』
そこまで言われれば私にも理解できた。もし父の戦死が上層部の怠慢によるものなら、私はバーラト系原理派などに一生投票しないだろう。この報告書は文字通りパンドラの箱だ。ただし、本物のパンドラの箱には希望が入っていた。でも私達には希望もないだろう。
『この融和への誘いに、むしろ全力で応えるべきだ。バーラト系原理派だけじゃ戦争は出来ない。実際問題、無能で負ける事はあっても、怠惰で負ける事は同盟軍では少ないと俺は信じている。でも、優秀な奴が分析すれば、すべきことをしていなかった事例はおそらく出てくる。それがゴシップ紙にでも流れたら......』
そうなれば同盟軍は文字通り自壊するだろう。同盟軍の上層部からバーラト系原理派だけを罷免する事なんて出来ない。敗戦したら軍法会議ではなくワイドショーのコメンテーターに重箱の隅をつつくように批評されるに違いない。相手のある事なのだから常勝なんてありえない。人間である以上、ミスもするだろう。
『だからこそ少しずつでも良いから地方星系を開発するんだ。戦死の報に触れるのは彼らも同じだ。経済力がつけば、士官学校を目指す人材も増えるだろう。彼らにも士官への道を用意する。バーラト系原理派が軍上層部に多いからこその悪夢なんだから』
「代議員、まもなくご自宅です。財務委員長の秘書官には帰宅後に連絡する旨、お伝えしました。また、ブルース様からお礼のご返信が来ております」
「わかったわ。対応してくれてありがとう」
息子との会話を思いだしている内に、車窓から流れる光景は、見慣れたものになっていた。帰宅したらすぐにガマガエルに連絡して、熱いシャワーを浴びてワインを飲みたい......。ブルースは敢えて言わなかったんだろう。軍上層部に席を用意するという事は、議席の枠も当然用意しないといけない。
税負担額を理由にバーラト星系で過半数を押さえているが、地方星系が経済成長すればその言い訳も通用しなくなる。バーラト星系に割り当てられる議席枠が減る、もしくは地方星系に新しい議席枠が割り当てられればば、必然的にバーラト系原理派の影響力が薄まる。
「ブルース。私だってそれなりに優秀なのよ。貴方が黙っててもこれぐらい気づくわ。まだ多くはこの未来に気づいていないでしょうけどね。代議士辞めようかしら......」
そんなボヤキを秘書官には聞こえないようにつぶやきながら、私は車を降りて玄関に向かう。邪険にしながらもブルースは私が思っていた以上に母親思いだった。
日常業務に追われて、アクセス権があるにも関わらず、ほとんどの関係者が見る事のなかったある卒論の存在を黙っていたのだから。もし知っていたら、私は代議士をやめていたに違いない。短くても数世代は、この戦争に勝てないなんて、口が裂けても言える立場ではないのだから。
という訳で、代議員で国防委員のアッシュビーママの登場です。パパでも良かったんですが、同盟と言えば悪例でウインザー夫人、良例でヤン夫人がいますしね。ここは女性にしよう!と書いていて思いついたので変更してみました。
幼女戦記にはまったので、ハーメに投稿されている皇女戦記を読み始めました。内容も面白いけど、添付の補足資料がすげー!では!また明日!!