宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦732年 帝国暦423年 2月末
フェザーン自治領主府 補佐官室
ヴァレンティ補佐官
「こんな重要な情報がどうして今まで上がってこなかった?補佐官、君は給料泥棒なのかね?」
「カルス長老、申し訳ありません。こちらも寝耳に水でした。失礼ながら、長老も個人的な友誼をお持ちでしょう?同盟の方々からお声掛りはなかったのですか?」
「そういう話をしているのではない。私は君の仕事の不備を追及しているんだ。入札で落ちる事があるのは仕方がない。ただ、入札その物に参加できなかった。こんなことは久しぶりだ。顛末を確認しない訳にはいかないだろう」
宇宙の交易の中心地フェザーン。その都心に存在する自治領主府は、フェザーンの官僚組織の中ではエリートコースだ。30手前で補佐官職の一枠に滑り込んだ俺は、官僚を一つ下に見る独立商人たちにも一目も二目も置かれる存在だった。そんな俺が、外線をかけて来た還暦近い爺さまに怒鳴られているのはそれなりの事情がある。
「今回ばかりは同盟が上手だったという事でしょう。それに彼らも馬鹿じゃない。彼らに帝国の情報を漏らしているように、帝国にも彼らの情報を流していると薄々は気が付いているはずです。軍としても、この案件にはフェザーンを絡めたくなかったのではないでしょうか?」
「憶測かね?出来る限り詳細な調査をしてもらいたい。今後も軍関連の事業から外されるとしたら、設備投資も考え直す必要がある。少なくない予算を割いているんだ。元は取らせてもらいたい。早急にな!」
そう言い放って、爺様は一方的に通話を切った。親しき仲にも礼儀あり、別に俺はあんたの使用人じゃないんだがね。まぁ、彼が怒鳴りたくなる気持ちも判らなくはない。新年度が近づくこの時期は、公共投資の事業案件もかなりの数動く。そのうち、数年がかりの惑星エルファシルの駐屯地の増設案に、フェザーン系の建設会社は入札すら許されなかった。
建設予定地だけじゃなく、需要が見込まれる住宅地、歓楽街の売り物件も軒並み押さえられていた。強いて言うならエルファシル地場の建設会社株を購入する事は出来た。ただ、半年前からじりじりと値上がりしていた為、残念ながら動いても儲けは見込めない状況だった。
「あちらさんは、帝国の動きを正確に掴んでいるんだろうか?フェザーンが漏らしてきたのは正規艦隊の出征に関する情報だけだ。帝国軍が正規艦隊を動かさず、独立艦隊を前線に送る事で贅肉を削ぎ落そうとしている意図を掴んでいれば、フェザーンからの情報はしばらく価値がない。となれば同盟内をフェザーン商船がうろうろして情報が洩れる方を防ぎたい。それもあってのあの倉庫街か......」
『穀物だけなら良い。ただ、あそこが同盟の輸出品の集積地になると、フェザーン商船が同盟領内の奥地をうろつくのは違和感が生まれるな』
前回の補佐官会議で、自治領主閣下が漏らした一言を思い出した。同盟は帝国軍の捕虜を使って地方星系から穀物をウルヴァシーに運び、ウルヴァシーから水資源を運び出す事業を開始した。
当初は穀物だけだったが、いつの間にかウルヴァシーの倉庫街に同盟の輸出品目が集まるようになった。独立商人達からしても、ウルヴァシーですべてが揃う以上、それ以外の星系に行く理由がなくなった。結果として同盟領内の情報収集に弊害が生まれている。エルファシルの件もその弊害の一例でもあった。
「地方星系の経済も上向いているが、開発事業は捕虜を活用する形で進んでいる。フェザーンが入り込む余地はない。さすがに人件費で勝負にならないだろう。何とか捕虜たちに問題を起こさせる事は出来ないか?」
考えこむ時の癖で、万年筆でメモ用紙をつつきながら思考を進める。使用されているのが、戦闘艦である以上、破壊工作をするとなると大掛かりになる。人員自体に問題を起こさせるとすると、買収か麻薬漬けにする位しか策がない。時間もかかるし、集団で動く捕虜たちに接触するとなると返って目立つ。厳重ではないだろうが、監視はしているはずだ。
「倉庫街を潰すか?ただ、現物がなければ取引は出来ない。一年交易が出来ないリスクを背負ってまで動くべきだろうか?」
本来フェザーンが採るべき策は、フェザーンの資本で地方星系の開発を進め、輸出品目を生産段階から押さえてしまうことだった。若しくは、地方星系の開発費をフェザーンからの借款で賄わせる。そうすれば同盟政府に圧力をかける事も出来た。
現状は少ない予算で効率よく開発を進め、増産された穀物は、同時に動き出した酪農・醸造業に吸い取られている。穀物の価格自体はむしろ上昇傾向だった。帝国も臣民を飢えさせる訳にはいかない以上、買わないという判断はないが、ウルヴァシーまでの輸送費が上乗せされた事もあり、交易による収益は減少しつつある。
「あのガマガエルに動いてもらうか?ただ、向こうから売り込んで来ないという事は奴の手に余るってことだろう。それに事業予算が抑えられているという事は、財務委員会の影響力も当然少ないはずだ」
ガマガエルのような風貌の財務委員長の好物は賄賂だけだ。如何に経済成長をさせるか?よりも、予算配分に介入して、自分の懐にかすめ取る事に全力を挙げているあれに比べれば、さっきの老人は収益を上げる事で税金を納めてくれる分、まだマシだった。
「金融機関を出店させて景気動向から掴みにかかるか......。気の長い話になるが......」
金融機関なら、地方星系の経済成長も出店の理由になるし、事業計画に触れる機会も出てくる。地味な手法だが、それだけに効果も見込めた。
「後は頭取連中がどう判断するかだな。ハイネセンやシロンならともかく、一次産業主体の惑星に支店を出してくれるだろうか?」
夜も更けて今から動くことは出来ない。明日、打診から始める事にして今日の残業はこの辺で切り上げよう。疲れていた俺は仕事を切り上げたが、独立商人の本場であるフェザーンでは、投資案件が星々の数存在した。農場の設備投資案件の為にド田舎に出店する必要を頭取たちは感じておらず、俺は頭を悩ませる事になる。
宇宙暦732年 帝国暦423年 4月末
地球教団本部
ザビエル助祭
「トーレス司祭、同盟での布教活動が計画通りに進まぬ事、誠に申し訳ございません」
「総大主教猊下も帝国で成果を上げた其方を見込んでの事であったのであろうが致し方あるまい」
帝国で嫡男が戦死した貴族を中心に布教活動を行った私は、複数の夫人を内密に入信させる事に成功し、その成果を持って修道士から助祭に抜擢して頂いた。
ただ、満を持して向かった同盟領内では、残念ながら芳しい成果を上げる事が出来なかった。与えられた予算が枯渇しつつあった事もあり、苦渋の判断で地球への帰還を決定したのが一か月前。旅の疲れもあったが、そのまま司祭にお詫びに上がった次第だ。
「総大主教猊下にお詫びに上がる際は、私も同席しよう。それで同盟はどんな状況であった?」
「はい。彼らは民主共和制を採っておりますが、投票に宗教の意向が含まれることを嫌っております。政教分離なる考えを取り、帝国では権力者を動かせば減税措置も受けられますが、それも難しい状況です」
「うむ」
地球で行われた13日戦争の際、滅亡寸前の状況まで追いこまれた地球。その後、人類社会は復興し宇宙に進出するまでになったが、世紀末の様相を呈しながらも神の降臨は起きなかった。その際に人類から宗教への希望は失われ、銀河に広がった人類に、信心というものはあまりない。だからこそ人類発祥の地、地球への信心も無いのだろう。
「それに、経済成長が地方星域でも進んでおり、将来に不安をあまり感じていないようです。戦死者の遺族へも布教を試みましたが、遺族同士の繋がりも深く、帝国のように救いを求める者も少ない状況でございます」
帝国なら貴族層は悲しみを表に出すことはむしろはしたない事とされるし、平民たちは遺族年金も少なく、生活に困窮すれば入信の可能性があった。同盟でも似たような状況だろうと見込んでいたが、少なくとも経済成長は進んでおり、悲しみがない訳ではないだろうが、それを乗り越えている者が多かった。
「であるならば、フェザーンに要請して、同盟でも宗教を保護する法案を作らせる。また、経済成長を止める為にも、戦争にもっと注力させる必要があるか......」
「はい。後は、選挙資金の提供を行い、我らの意思を形にしてくれる政治家を増やす事も必要かと。選挙に落ちれば、彼らは只人となります。現職の者より候補者の頃から支援できれば、恩に着るかと」
民主制の肝は投票だ。信者が増えれば政治家たちも地球教団の意向を無視する事は出来ない。そして当選するには選挙資金が必要だ。不信心者に資金をくれてやるのは惜しいが、同盟領内での布教が進めば、回収する事もたやすいだろう。
「助祭の意見は良く分かった。総大主教猊下もお忙しいであろうから、まずは報告書としてまとめておくようにな。お詫びに上がるには間もあろう。ゆっくり骨休めをするようにな」
「寛容なお言葉、感謝いたします」
深々と頭を下げて、司祭の部屋を後にする。不信心者たちに囲まれていた影響か、地下に作られたこの神殿の雰囲気に今まで以上に安心感を感じていた。不首尾には終わったが、この試練は私の信仰をより高みに運んでくれたようだ。
主に帝国で活動してきた私は、政治資金規正法も贈収賄や便宜供与に関する刑法の存在も知らなかった。私の出した打ち手が同盟では違法行為になる事を知るのは、もう少し先の事になる。
という訳で、フェザーンと地球教の状況です。アナゴさんから感想欄で地球教の話題を頂いたので、触れてみました。
経済成長が出来ていれば布教ってかなり困難でしょうし、フェザーンー同盟間は、人を貨物扱いは出来ない(それこそ奴隷扱いになりますし)でしょうしね。では!明日!