カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


第42話 団らん

宇宙暦736年 帝国暦427年 4月末

惑星テルヌーゼン ターナー邸

カーク・ターナー(中佐)

 

ジークマイスター分室がきっかけで発覚した汚職事件が表沙汰になって3年近い年月が経過した。事前のシナリオ通り、フェザーンへの敵意が市民の中で高まった事でバーラト系と亡命系の融和は着実に進みつつある。最低限に抑えられていた交渉の機会も、今までの反動のように激増し、経済も活性化している。

 

GDPの面から考えると、低いとは言えない今までの税率なら、13個艦隊を養う事も可能になった。ただ、建国以来、軍備拡張を続けて来た同盟政府は、初めて減税に踏み切った。いつ終わるとも知れない対帝国との防衛戦争の事を考えれば、市民の疲弊はなるべく抑えるに越したことはない。政府が新設したファンドの収益もあり、遺族年金や教育機関への予算も増えている。

 

『チラッ』

 

書斎の入り口からなにやら視線を感じ、そちらを向くとシュテファンがドアを少し開けてこちらを見ていた。その横には長女のエリーゼが、シュテファンの袖をつかんでいる。いつの間にか大きくなった。

 

手招きをすると嬉しそうに駆け寄ってくる。両手で子供たちの頭をなでると嬉しそうに声を上げた。よしよし、可愛い奴らだ。シュテファンを肩車、エリーゼを右手で抱き上げてリビングへ向かう。たまの休暇だ。こういう時間を過ごすのも良いだろう。

 

3人でリビングに向かうと、ベビーベッドに身をかがめるクリスティンの背中が目に入る。生まれたばかりの次男ヴェルナーをあやしていたのだろう。ヴェルナーの名は義父にお願いして名付けて頂いた。当初は同盟風の名前をとお考えになられていたが、ターナー家がウーラント家に近く、半分は帝国をルーツにしているのは事実だ。

 

亡命派との融和も進むし、変におもねる必要もないと考え、予断を交えずにつけたい名を......。とお願いした。兄も姉も帝国風の名前だし、変に同盟風の名前にするのもおかしな話だしな。もし4人目が出来た場合は、室長に名付け親をお願いするつもりでいる。

 

「貴方......。お疲れだったのでは?」

 

「そんなことはないさ。それにそろそろ火おこしの時間でもあるからな」

 

嬉し気な子供たちの声にクリスティンがヴェルナーを抱き上げ、あやしながらこちらを向いた。3人の子育てをしつつウーラント商会の経営にも関わる彼女の方が大変だろうに。普段は優雅にハイネセンでホテル住まいをしている俺は、最大限クリスティンの環境にも配慮したかった。

 

ウーラント邸の隣の物件が空いたのを機に購入し、お手伝いさんも2人雇っている。義弟のユルゲンがハイネセン記念大学を卒業し、修行を兼ねてウォーリック商会と縁のある商会に勤めている以上、義父を一人にする訳にも行かなかったので渡りに船だった。

 

「お父さん、僕も手伝う~」

 

「エリーゼも~」

 

「そうか。なら手伝ってもらおうかな?ちゃんと軍手をするんだぞ?」

 

シュテファンとエリーゼを連れて庭の一角に設えたウッドデッキに向かう。自宅にいる時位は家事を手伝う意味でなるべく俺がディナーを用意するつもりだった。

 

ただ、キッチンで普通に料理していると子供たちは結局クリスティンにじゃれつく事になる。それだと意味がないので、バーベキューというか焼肉と言うか、ウッドデッキの一角で炭火を熾してワイワイやる形にした。

 

シュテファンはちゃんと妹のエリーゼに手袋をさせている。まだ幼いエリーゼからすると、積み木遊びの延長なのかもしれないが、俺やシュテファンと炭を組むのがお気に入りのようだ。

 

そして火が落ち着くまでの間、2個だけと決めてマシュマロを炙ってご褒美代わりにしている。炭が落ち着いた頃合いで食材やら取り皿やらを並べ始める。俺が何も言わなくてもシュテファンとエリーゼも手伝うのだから習慣というのは大したものだ。

 

「よし、シュテファン、エリーゼを連れておじい様に声をかけてきてくれ」

 

「はい。お父さん。エリーゼ、行くよ~」

 

庭の一角はウーラント邸につながっている。義父はなるべく家族だけの時間を過ごして欲しい様だが、家が隣同士なのにディナーを別々に取る方がおかしいだろう。農場を経営している事もあり、バーベキューの素材には困らない。それにウーラント家が同盟で根を張れている事を実感する意味でも。同席してほしかった。

 

「準備完了だ。よし、少し預かろう」

 

「貴方にあやされると、ヴェルナーはすぐに寝入ってしまいますものね」

 

クリスティンからヴェルナーを預かり、抱き上げながら身体をゆっくり揺らす。既にミルクを飲んだヴェルナーは満腹だ。少しあやせば眠ってしまうだろう。クリスティンにもゆっくりご飯くらいは食べてもらいたい。まぁ、多少の嫁孝行もしておかないとな。

 

クリスティンはつかの間の休息をソファーに深く腰掛けてくつろぐ事にしたようだ。ターナー家に限って言えば合計特殊出生率は3.0。辺境星域を含めた同盟全体では4.0を超えそうな勢いだ。この勢いを維持するのは難しいかもしれないが、最新の国勢調査で同盟の人口は130億を超えた。あと2世代、経済発展を維持できれば、人口面でも帝国に並ぶだろう。地方星系にはまだまだ開発の余地が有り余っている。余程の失政でもなければ、十分実現可能だ。

 

「お父さん~おじいさまを呼んできました」

 

「これ、ジージから預かった」

 

「良い赤を頂いたのでな。どうせなら一緒に楽しみたかったのだ」

 

任務を果たしたと嬉しそうに駆け寄るシュテファンと、赤ワインのボトルを大事そうに抱えるエリーゼ。それを見守る様に義父が2人の後ろから声をかけてくる。

 

「義父上、お気遣いありがとうございます。ヴェルナーを寝かしつけてきますので、少しお待ちを」

 

一言そえてから、リビングにあるベビーベットにヴェルナーをやさしく寝かせ、タオルケットをかける。誰に似たのかうちの子供たちはあまり夜泣きをしない。ヴェルナーは一度寝付くとなかなか起きないからクリスティンもゆっくり出来るだろう。

 

視線をウッドデッキに向けると子供たちが強請ったのだろう。義父が肉を焼き始めていた。帝国騎士としての人生を歩まれていたら、手ずから孫の為に肉を焼く機会など無かっただろう。

 

40代半ばに未知の国へ亡命し、言語を学び、財務を学び、孫たちにも温かく接してくれる。スポンサーとしても誠実な方だったが、祖父としても誠実で温かい。そんな方を義父に持てた俺は、やはり良縁に恵まれたのだと思う。義父はまだ老人という年齢ではないが、どうせならゆっくり孫との時間を過ごしていただきたい。焼き奉行の役目は、今日の所は俺がすべきだろう。

 

「義父上、お手数をおかけしました。そろそろ代わりましょう」

 

「うむ。頼む」

 

義父に声をかけてトングを受け取るが、もう少し焼きたかったかのような表情をされている。それならそれで良いのだ。俺が留守の時にもバーベキューを主催してもらえば良いのだから。

 

 

宇宙暦736年 帝国暦427年 4月末

惑星テルヌーゼン ターナー邸

グスタフ・ウーラント

 

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものだ。孫たちと一緒に同盟流のバーベキューとやらを食す夕食の時間、温かくウーラント家が同盟に根を張りつつある事を実感する時間でもあった。あの時、亡命にあたってバーラト融和派を頼ると決めた時には、こんな未来を想像していただろうか?

 

嫡男であるユルゲンとも大学の卒業を機に酒を酌み交わした。クリスティンも3人の子宝に恵まれ、この手に抱けた。立ち上げた商会も順調だし、先だっての株式相場の乱高下に便乗して莫大な利益を上げる事も出来た。それも目の前でグラスを傾ける義息の働きのおかげだ。

 

「とうとうユルゲン殿も婚約ですか?時の流れは早いと申しますが、それを実感する事になるとは思いませんでした」

 

「エドワーズインダストリーのジェニー嬢とな。在学中からの付き合いだそうな。面識があると申していたが......」

 

「はい。一度会食の場に同席いたしました。想い人が出来たら紹介するという約束を結んでおりましたので。ユルゲン殿は素敵な方を射止められたと思います」

 

「ふむ。なにやら思いを告げる際にも力添えをしたと聞いたが?」

 

「ウーラント家の嫡男が居酒屋の帰りに想いを告げるというのも様にならないと思いまして。流行りのレストランとサプライズを少々用意いたしました。後は誕生年のワインでしたかな。思い出として語れる事が多い方が良いと思いまして」

 

「そうであったか。ジェニー嬢も喜んではいたそうだが、流行りを取り入れすぎていてユルゲンが女性慣れし過ぎていると逆に不安になったそうな。まあ、今では笑い話になっているそうだが」

 

「そう言う意味ではジェニー嬢は相手を見定める目と相手に配慮する優しさをお持ちの様ですな。そんな方を選ばれたユルゲン殿の慧眼に喜びますか」

 

そう言いながら肩をすくめる義息に笑みを向ける。無言で杯を交わし乾杯すると、ロックグラスを傾ける。小さいとは言え、熾火になりつつある炭の残り火を横目にしながらの会話は、帝国にいた頃にお供していた狩猟の際の焚火によく似ていた。

会話が無くとも気に病む事もなく、話しておこうと思ったことが不思議と口から洩れていく。とても贅沢な時間の過ごし方と言えなくもない。

 

「いつかユルゲン殿やシュテファン、ヴェルナー、それにユルゲン殿のお子様たちと一緒にこういう時間を過ごせる日も参りましょう」

 

「そうだな。そんな日が来ることを楽しみに生きるのも悪くはあるまいな......」

 

そんな事を話しながら、杯を傾ける。空になった頃合いで義息がグラスを引き寄せ、アイスペールから氷を入れて、ワンショット分のシングルモルトを注ぎ、私の手元に戻してくれる。流れる様な所作は店員顔負けだ。伊達に飲食店に営業をかけていた訳では無いという所か。

 

『カランッ』

 

グラスと氷がぶつかるキレイな音が静かな場に響いた。

 

「義父上、ウーラント商会も先行きは安泰。クリスティンも頑張ってくれました。もし、私に何かあった場合は、シュテファン達をお願いいたします」

 

グラスの音をきっかけに、義息が話題を変えた。というか、これが本題だったのだろう。

 

「同盟の膿もある程度処理できました。このまま行けば、地方星系を中心に経済成長が進み、少なくとも帝国に負けない国力を得られるでしょう。後の気がかりは国防体制です。それさえ何とか出来れば、同盟は時間を味方に付けられるでしょう」

 

「うむ。という事は、30歳で年金資格を取って退役するという話は無理そうなのか?クリスティンも楽しみにしていたはずだが......」

 

「申し訳ありません。クリスティンにも詫びるつもりです。ただ、良くも悪くも良縁に恵まれました。常識的に考えてあり得ない利益を得られたのもそのお陰です。今更、余生に困らない財産を得たからと言って、戦争から身を引くのは......」

 

「しがらみが出来過ぎたか......。もともと士官学校への進学を依頼したのもユルゲンの徴兵順位を下げる為でもあった。しがらみを作る切っ掛けとなった私に、それをとやかく言う権利などあるまいて......」

 

「そう深刻にお考えにならなくとも。私の僚友達はかなり優秀です。力を合わせれば、終戦とは行かないでしょうが、帝国軍に打撃を与え、平和な時間を多少は作れると思います。しがらみもありますが、子供や孫たちが少なくとも徴兵されない未来があるならば、賭ける価値はあるかと」

 

子供に孫か......。もしそんな可能性があるなら、私も志願を考えるだろう。カークは優秀な男だ。そんな彼がそう言うなら、十分可能性はあるのだろう。

 

「カークよ。バーベキューであったか?子供たちと肉を食し、食事を終えた後は男性陣で火を囲む。なかなか良い時間の過ごし方であった。ユルゲンとも、シュテファンとも、そしてヴェルナーともこういう時間を過ごしたいと思う。そして彼らも、お主とそう言う時間を過ごしたいと思うだろう。

 

死ぬなとは言わぬ。ただ、生きて帰る努力を尽くすとここで約束してもらいたい。誓ってくれるなら、クリスティンの説得にも協力しよう。あれは一途に其方を想っておる。援軍なくば説得はおぼつくまい」

 

「義父上にはかないませんな。確かに単独でクリスティンと向き合うとなれば敗戦は必至です。それに誤解されては困りますが、私は死ぬつもりはありませんよ。シュテファンもそうですし、タイロンとも酒を酌み交わしたいですしね。習慣が抜けないように、私の留守中は折を見てバーベキューを主催頂ければ幸いです」

 

そこまで考えているなら、これ以上わたしが言うべきことはない。ん?もしや単独でクリスティンと相対するのが不利とみてこの話を持ってきたのだろうか?我が娘ながらクリスティンは可憐な見た目に反して、意志が強い上に一途にカークを想っておる。説得できなくはないであろうが、困難な戦場となる事は必定だ。

 

「カークよ。お主、謀ったな」

 

「それは言葉が悪いでしょう。難敵にあたる前に援軍を手配するのは軍人として当然の事です。私にとっては帝国の大艦隊並みの難敵ですからね」

 

そこまで聞いては笑いながら覚悟を決めるしかなかった。親族相手にここまで策をめぐらせるのだ。余程の事が無ければカークが戦死するような事はあるまい。ただ、母となり一段と凄みを身に着けている娘と相対する事を思うと、ため息が漏れた。

 

敵前逃亡だけはするつもりはない!ただ、士気が決して高いとは言えない私を、どこまで援軍として当てにするかも、義息の軍人としての力量を計るのにちょうどよいのかもしれなかった。




と言うわけで家族との一幕でした。ノーマンは読者でしかないんだけど、通勤通学の間にガッツリ長期連載された作品を探してたりしませんか?そんな方に読んでもらいたい作品を紹介させてください。

 亡びの国の征服者~魔王は世界を征服するようです~
https://ncode.syosetu.com/n5677cl/

もともと投稿開始以来追いかけてて、5年ぐらいかかって出版されたんですよね。なんで関係ない作品を紹介しているのかって?そりゃお布施もかねて単行本買ったからですよ!続刊も決まったようですが、どうせなら一冊でも多く売れて欲しいんです!

えっ?人の心配より自分の心配をしろ?大丈夫、567がどう考えてもおさまっていないと判断していたから、連休は執筆に当てましたよ。しばらくは大丈夫なはず。では!明日!
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