宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
多数の反響をいただき、ありがとうございます。燃料は満タン、よいプレッシャーも頂きました。ノーマン、動きます!
第45話 タイロンの志
宇宙暦736年 帝国暦427年 8月末
エルファシル 第3駐留基地
ヤン・タイロン(12歳)
初等学校を卒業してエルファシルでは優秀とされるイースト校に進学して初めての夏休み。僕は相変わらず増設工事の音が響く駐留基地の敷地を表すフェンスを横目に、テクテクと基地東ゲートを目指していた。兄のような、もう一人の父親のようなカーク兄ちゃんとの関係は、不思議なものだった。
僕の本当の父さんはトーマス・ミラーという人だ。写真も見た事があるけど、優し気な人だった。でも、僕が生まれてすぐに戦死してしまったから、実際に会ったことはない。そんな父さんの弟分だったのがカーク兄ちゃんだ。
誕生日ごとにシルバーカトラリーをメッセージカードを添えて贈ってくれるし、7歳の時にはビジネス界で重要視されている『初契約』をさせてくれた人でもある。母さんの再婚相手である佐三父さんに言わせると、『初契約』の金額が高い方が将来の成功につながると言われているとの事だ。僕の初契約は500万ディナール。当時のエルファシルで望みうる契約では最高額と言えるものだったらしい。
最も、当時の僕はそんな事は知らなかった。ただ、イリジウムで作られた大き目の印鑑の重さに、少し緊張した覚えはある。その時売買契約した土地に、駐留基地が増設されている関係もあって、僕は基地を見るのが大好きだった。
不思議な関係のカーク兄ちゃんは仕事も謎だった。母さんが働いているウーラント商会の社長のはずなのに、軍人でもあるらしい。でも軍人さんなら軍服を着ているはずだけど、いつもスーツ姿だ。
初級学校の卒業記念でバーラト星系に行った時も、スーツ姿だった。観光の定番である統合作戦本部ビルではなく、証券取引所やハイネセン記念大学を案内してくれた。同僚だと言う人にも会ったけどスーツ姿だったし、ランチを一緒に食べた時は、再放送されているマフィアドラマみたいな雰囲気があった。
カーク兄ちゃんの義弟だというユルゲンさんや、子供のシュテファン君達に会うまでは、変に緊張する事が多かったと思う。奥さんであるクリスティンさんは母さんとは違ったタイプだったけど、優しい人だった。
「お!坊主、今日も来たのか?少し待ってろよ」
「うん。いつもお勤めご苦労様です!」
そんな事を考えているうちに、東ゲートに到着していたみたい。警備課のおっちゃんが声をかけてくる。僕がそう言って敬礼すると、いつも苦笑する。カーク兄ちゃんの部下の人たちは嬉し気に頭をなででくれるのに、この人だけ反応が違うんだ。なんでだろう......。
「おっ!タイロン君、今日も来たのか。お疲れ様」
「軍曹殿、お勤めご苦労様です!」
しばらくゲート傍で待っているとカーク兄ちゃんの部下のハドソン軍曹が迎えに来てくれた。嬉しそうに頭を撫でた後に、ビジターと書かれた大き目のプレートを首にかけ、僕には少し大きいヘルメットを被せてくれる。
「ではタイロン特務兵、参るとしよう」
準備が終わった頃合いで、軍曹が敬礼をしてくる。僕も敬礼するといざ基地の中へ。カーク兄ちゃんの部隊がいる格納庫までの道のりも、僕にとっては楽しい光景だった。効率を考えた施設配置。その中を走る輸送車。掛け声を上げながらランニングする軍人さん達。小さい頃から出入りしていたウーラント商会とはまた違った組織美みたいなものを感じて、変に気持ちが高ぶるのだ。
「特務兵、今日も来たのか?熱心だなあ」
「こっちに熱心になっちゃダメだぜ!偉くなった時に乗る戦艦を買ってもらうんだからな」
格納庫に入ると、顔なじみになったカーク兄ちゃんの部下たちが声をかけてくる。軍の広報活動では志願を募っているけど、彼らはそんなことは言わなかった。『偉くなってしっかり稼いで戦艦を買ってくれ』とか、『艦隊司令になるから艦隊整備費を頼むぜ』と言いながら肩に触れてくる。
そして軍の支給品であるやけに甘いチョコレートや、オレンジジュースを『投資だ!』といって勧めてくるのだ。母さんに見つかったらジャンク食品だから止められそうだけど、大人たちに囲まれながら食べるジャンク食品には変なおいしさがあった。
「タイロン、今日も来たのか。夏休みの宿題はちゃんと済ませたのか?」
「ターナー中佐殿、任務はしっかり果たしております!」
敬礼しながら応じると、苦笑しながら答礼してくれた。『ヘルメットは脱ぐなよ』と添えると、格納庫内に設置された訓練機材に戻って行く。この格納庫には実寸大の新型偵察艦の主要部分が再現されている。先月からエルファシルに移動したこの部隊は、転換訓練を開始し、それが終わり次第、前線で偵察任務に当たると聞いていた。
先週末に基地食堂で夕食を一緒に食べた時、転換訓練がもうすぐ終わる事もなんとなく察していた。僕の夏休みが終わる頃には、この部隊は最前線に向かうことになる。
「従来艦に比べて出力に特化した分、戦闘機動に独特の癖があります。スパルタニアン程ではありませんが、メリハリを付けないとせっかくの特性を活かしきれないでしょう」
「バスケス中尉の意見はもっともだ。慣性を感じながら操艦するとなると、実機で身体に覚えさせるしかないな。スパルタニアンのパイロット指導要綱をベースに、訓練計画を組んでもらえるか?」
「了解しました。予定航路上で良い訓練場所も探してみます」
カーク兄ちゃんと相談しているバスケス中尉は、この部隊では数少ない女性士官だ。もともとはスパルタニアンのパイロットで、部隊新設に伴って異動してきたそうだ。はたから見ていると精悍な感じで、体操のお姉さんみたいな雰囲気をしている。
実戦経験もあって、帝国のワレキューレを5機落としているからエースでもある人だ。転換訓練が始まった時から、従来の戦闘艦とは特性が違うらしく、運用手法を航海長と3人で良く話し合っていた。そしてバスケス中尉とは内緒の約束がある。
『ねぇ?タイロン君は隊長の隠し子なの?』
バスケス中尉がプリンをご馳走してあげる!と言って、二人で食堂に行った時にそう聞かれたのだ。僕もその可能性を考えた事もある。でも僕がカーク兄ちゃんの子供だとしたら14歳の時の子供になる。当時は士官学校対策でエルファシルに来る暇なんて無かっただろう。母さんに聞いてみようかと思ったけど、悲しい表情をされそうでなんとなく言い出せなかった。
『変な事を聞いてごめんなさいね』
そう言いながらバスケス中尉は頭を撫でてくれた。そしてこの一件は二人だけの秘密にしようという話になった。別に気にしてはいないんだけど、なんかそう言う雰囲気だったから僕もしんみり頷いておいた。そう言う話が流行っていたのか?ハドソン軍曹も、デラックスランチを奢ってくれると言う名目で食堂に連れ出されて同じことを聞かれた。そして同じように内緒にしようという話になった。
後で聞いた話だと、部隊の中で僕がカーク兄ちゃんの隠し子かどうか?をネタにして賭けが動いていたらしい。情報を制する者はビジネスを制する。それは賭け事の場でも適用されるらしい。
いち早く動いたバスケス中尉が結構稼いだ。なんて話も漏れ聞いていた。バスケス中尉はプリンで儲け話をつかみ取り、ハドソン軍曹は4倍近いデラックスランチを投資しながら儲けを出せなかった。ビジネス界の厳しさを表す昔話に出てきそうな実例が目の前で起こったのだ。
「タイロン、明日から訓練も大詰めになる。集中しないと危険だから遊びに来るのは今日までだ。すまんな」
「タイロン君、そろそろ夕食の時間でしょ?送っていくわ」
カーク兄ちゃんは比較的甘やかせてくれるけど、ダメと言ったらダメなタイプだ。折角親しくなれたのに残念な気持ちもあるけど、僕が邪魔をして万が一の事があってはならない。今までの感謝を込めて一礼し敬礼すると、みんな答礼してくれた。
バスケス中尉に先導されて東ゲートに向かう。今までなんとなく組織美みたいなものを感じていた基地内の光景も、戦争で死なない為という想いの表れだったのかもしれない。深く考えずに見慣れていた自分が、急に思慮足らずなように思えた。
「まだ子供なんだから、難しい事を考えなくてよいのよ。隊長は私たちがちゃんと守るんだから」
表情に出ていたのか?バスケス中尉は右手で僕のヘルメットをガシガシしながら左腕で力こぶを作った。中尉の大きな瞳で見つめられると、妙にドキドキする。もっと大人なら、何かうまく返せたのかもしれないけど、僕には頷く事しか出来なかった。東ゲートに到着し、ビジターカードとヘルメットを返却する。
「タイロン君が口の堅い男だったから臨時収入があったの。だからおすそ分け」
バスケス中尉はカバンから同盟軍のベレー帽を取り出し、ヘルメットのせいで少し汗をかいていた僕の頭をハンカチで拭いてから被せてくれた。
「隊長の許可もとってあるわ。ちゃんと第111強行偵察大隊のワッペンも付けてあるの。レアものなんだから大事にしてよね」
そう言いながらバスケス中尉は僕の事を抱きしめてくれた。見つめられる時と比べ物にならないくらいドキドキした。
「それじゃあタイロン特務兵。私達の帰る場所をしっかり守ってね」
「はい。中尉もどうかご無事で」
そう言いながら敬礼する中尉に答礼する。『じゃあ、またね』と言い残して、中尉は格納庫に戻って行った。小さくなる中尉の背中が消えるまで佇んだ後、僕は家路につく。来た時にはかぶっていなかったベレー帽が不思議と誇らしかった。
普通に考えたら士官学校を目指すべきなのかもしれないけど、夏休みを共に過ごした大人たちは『稼いで戦艦を買ってくれ!』と言っていた。ハイネセンで同席したアッシュビーさんやファンさんも『軍人になるより事業で稼げ!』って言ってくれた。正規の一個艦隊の整備費がどのくらいの金額になるのかは分からない。でも幼いなりにビジネスの場を経験しているんだ。
「いつか、正規艦隊分くらい納税できる商人になろう!」
ベレー帽を手に取り、第111強行偵察大隊のワッペンに向かって僕は誓いを立てた。この日から経済界では名門とされるハイネセン記念大学に進路希望を定め、商人としての進路を、僕は歩み始める事になる。
誓いを忘れないためにベットサイドにこのベレー帽を飾るのだが、つらい事や怠けそうになった時、このベレー帽が僕の力になってくれるのは。また別の話だ。
前線で情報参謀という予想が多かった(私自身当初はそっちでした)んですが、自分が書いたことのない部署にしてみようという事で、偵察大隊隊長を選びました。正直、書きにくくて後で後悔しましたし、一部絞り出した感がある話があるんですが、これも何かの縁です。楽しんでい頂ければ嬉しいです。
また反響の中で、後書きにて紹介した作品を読んだとの旨も頂きました。完全に私の独断ですが、お勧めの物をタイミングを見て紹介できればなと思います。では!明日!