カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


第46話 複雑なバスケス

宇宙暦736年 帝国暦427年 10月末

アスターテ星域 外縁部

エレン・バスケス(中尉)

 

「高速機動訓練は一通り終わった訳だが、航海長、バスケス中尉、どう判断する?」

 

「正直、訓練で如何こうするには無理があるのではないでしょうか?従来の航行システムで対応するにも無理がある様に思います」

 

「小官も残念ながら同じ考えです。猛訓練を積み重ねれば何とかなるかもしれません。ただ、それこそスパルタニアンでの格闘戦でトップクラスになり得る人材を集める所から始める必要があるでしょう」

 

「そうか。専門家の君たちがそう判断するならそうなんだろうな......」

 

エルファシル星系を出発し、同盟の勢力圏であるアスターテ星域外縁部に進出した第111強行偵察大隊は実戦に基づいた高速機動訓練を開始している。2隻の僚艦と共に編隊を維持する訓練は残念ながら成果が出ていると言える状況ではなかった。新造された強行偵察型巡洋艦は、武装を減らし、新開発の核融合炉と新型エンジンを搭載する事で、高速かつ中和磁場のキャパシティーを高めた仕様が特徴。

 

加速に関しては従来の巡洋艦の50%増し、ミサイルを始めとした実弾兵器はその加速で振り切る。中性子ビームを始めとした光学兵器は中和磁場で防ぐ。攻撃能力は皆無に近いものの、強行偵察に必要な能力は十全に備えている。無難な設計に落ち着きがちな技術科学本部が、久しぶりに冒険した設計とも言えた。でもそこに従来通りの航行システムを採用した結果、直線航行には支障はないが、高速機動に関しては上昇した出力が災いし、性能を活かしきれずにいた。

 

「簡単に言うと、大型トラックでドリフトしながらカーブをきれいに曲がろうとしているような状況です。従来型の操艦システムはそのような使用法を想定していませんから対応不可。努力で何とかしようにも、それこそ手足のように乗りこなす修練が必要でしょう。艦の大きさを踏まえるとスパルタニアンの比ではない難易度になると思います」

 

うんうん。航海長の例えは分かりやすい。技術的なアプローチを航海長が、人的努力によるアプローチを私が担当した訳だけど、確かに厳しいわよね。とは言え、スパルタニアンの戦闘技術を買われて呼ばれたんだもの。何か妙案を出したい所だけど......。

 

「発想を変える必要がありそうだな。強行偵察という任務を考えれば、縦横無尽に機動する必要はない。基本的な戦闘機動が取れれば問題ないのではないか?」

 

「確認は必要ですが、戦闘機動のパターン化は可能です。ただ、それを現在の人員と装備で実戦中にミスなくできるかというのが厳しい......」

 

「おっ。バスケス中尉は気づいたようだな」

 

嬉しそうな表情をする隊長。タイロン君も可愛かったけど、中佐もこういう時は可愛いんだよね。既婚者なのは知っているけど、密かに女性兵の中で人気なのも分かる。真剣に思考していたかと思うと、いきなり嬉しそうな表情をする。まぁ、解決策が見つかったからなんだろうけど、こっちまで嬉しくなってしまう。

 

「はい。要は戦闘機動を高速で行うのに必要な機動はパターン化できる訳です。あとはそのパターンをプログラムで用意してしまえば、比較的簡単な操作で高速戦闘機動が可能になるのではないでしょうか?」

 

「それなら対処可能です。ただデータの収集と機関コントロールと連動させる必要がありますので、プログラミングと機関に詳しい人材が欲しいですな」

 

「ならハドソン軍曹だな。あいつは志願する前はエンジニアだったはずだ。機関長でもあるから最適な人材だろう。軍曹には私から相談してみよう。航海長はプログラムを組み込む準備、バスケス中尉は必要な戦闘機動の割り出しを進めてもらいたい。使えるレベルの機動データを3艦で収集し、プログラムを共有すれば、余程の事でもない限り、編隊機動の難易度も下がるんじゃないかな?」

 

確かに同じタイミングで同じプログラムを走らせれば対応は出来そうね。そういう意味では逆に必要な戦闘機動は出来るだけ絞った方が、操作ミスも減るし良いかもしれない。スパルタニアンの常識だけで考えるのは危険ね。航海長や僚艦の艦長たちにも意見を出してもらう必要があるかも......。

 

「それじゃあ機関部に行ってくるとしよう。こう見えて、もともとは商船の機関員だったんだ。新型のエンジンも見ておきたいしな。航海長、ここは頼むぞ」

 

そう言うと隊長は機関部へ続く通路に消えていった。悪い事じゃないんだけど、第111強行偵察大隊に配属された多くの隊員は、隊長の腰の軽さに戸惑うことが多い。26歳で中佐、士官学校を出て以来参謀本部勤務。よく言えばエリートだけど、悪く言うと現場軽視、頭でっかちなのが普通。そういう予想をしていた隊員たちにとって、隊長は真逆の存在だった。

 

その道のプロとして、敬意を持って接してくれる。気前も良かったし一般的には良い上官なんだろう。でも陽気なハドソン軍曹も当初は接し方に困っていた。兵士たちの訓練にも一緒に参加していたし、知り合いだと言うタイロン君の出入りも許していた。後から聞いたら『参謀本部のもやし君じゃ隊長として不安だろう?』とか『異性と子供の前では、男はかっこつけたがるものだ』とか、まぁ兵士たちの心情をよく理解されていた。参謀本部ではそういう事も習うのかしら?

 

「参謀本部としても、強行偵察を今後の重点項目と考えているのかもしれませんな......」

 

「航海長、やっぱりあの噂って事実なんでしょうか?」

 

「ええ。戦闘詳報を見る限り、帝国さんは『名ばかり少将』が多いのは事実だと思います。フェザーンとも残念ながら友好と言える状況では無くなりました。幸いなことに帝国が前線に進出するには必ずイゼルローン回廊を通りますから、正規艦隊が出てくる前に索敵体制を何とか確立したいのでしょう」

 

正規艦隊が出てくる前に索敵体制の確立を、か。確かに前線では帝国の地上基地を敢えて放置する事で補給の必要性を残し、補給艦隊を間引きする事で帝国軍に出血を強いている。優勢な戦況に喝采をあげる市民も多いと聞くけど、少なくとも軍上層部は油断していないって事ね。

 

「そうでなければ、中尉のようなエースパイロットをわざわざ引き抜いたりしないでしょうしね。そこまでするならカスタマイズされた航行システムも用意して欲しい所ですが、この艦がどこまで量産されるかわかりませんからね。前線で使用しながら改善点の洗い出し、仕様変更、基本的な運用手法の確立。隊長はそのあたりも期待されているのでしょう」

 

「それも踏まえて兵士たちにもああいう接し方をされたのかしら?現場が意見を言いやすいようにとか?」

 

「むしろ、人柄が大きいと思いますね。日常生活を共にしているのにずっと演技は出来ないでしょう。最前線に向かう可能性が高い以上、最後に信じられるのは大隊の隊員ですからね。あれが演技なら、隊員たちもあそこまでなつかないでしょうし......」

 

うちの馬鹿どもの懐き様は確かに異常よね。そりゃ敬意を持って接してくれて、気前も良いから分からなくはないけど......。って、懐いているのはあたしも同じか......。新型エンジンだから変な癖とかあるかもしれないし、あたしもハドソンから話を聞いておいた方が良いかも。

 

「ちょっと機関部に行ってきますね。思ったより重要な任務になりそうだし」

 

「了解しました。艦橋は任せてください」

 

航海長に会釈して機関部に向かう。乗り慣れていた宇宙空母は居住区画も広かったけど、この艦は通路とかも狭いのよね。頭上に気を付けながら機関部への通路を進む。戦艦クラスの核融合炉に、高出力のエンジンを4つも巡洋艦クラスのサイズに押し込んでいる分、スペースに余裕がない。居住性とかも隊長に意見すれば改善されるのかしら?

 

「隊長、プログラムを組むのは何とかなりますが、エンジン出力を短時間にオンオフするのは想定された使い方じゃありません。最悪どこか破損する可能性がありますね」

 

「なら戦闘時と別に緊急時のプログラムとして用意するか?ただ、偵察艦がそこまでして回避機動をしないといけないとなると、その時点で強行偵察任務としては失敗か?」

 

「そういう状況が無いとも言えませんし、あっしも新型エンジンの出力特性には興味があります。緊急バージョンでどこまで機動か変わるかにもよりますが、可能性を捨てちまうのはもったいない気もしますね」

 

機関室の隔壁扉を開けると、既にワイワイ盛り上がているようだった。商船でも軍艦でも機関員って変な団結心があるのよね。って、出力のオンオフでエンジン破損の可能性か。そんな大事な事、先に聞いておかないと駄目じゃない。

 

「お!姐さんも来なすったんで?」

 

機関員の一人が声をかけてくる。姐さんって、私だってまだ24歳よ!あんたらに姐さんなんて言われる筋合いないし、そもそも隊長の前で姐さんなんて呼ぶな!こいつには後で制裁が必要ね。

 

「隊長、機関部門の意見も先に聞いておくべきかと判断しました。同席しても宜しいですか?」

 

「おお、中尉も来たのか。もちろん構わないぞ。どうやら短時間でのエンジン出力のオンオフは、破損につながる可能性がありそうでな」

 

そこからあたしもエンジン談義の輪に入った。って悪くはないけど勝手に盛り上がっている機関員の中にいると、運動部のマネージャーになったような気になった。まぁ、キャプテン役がタイプだから問題はないんだけどね。

 




大隊員のお名前は、エイリアン2から引っ張ってきました。エイリアンシリーズでは一番好きな作品です。エイリアン2と言えば、何回観てもすごい大量のエイリアンがいる様に見えるのに、実際はカメラワークとかでうまく見せてて、3体しかエイリアンのスーツは作ってないんですよね。セントリー銃の弾数が減っていく絶望感とか、ほんとにすごかった。

念のためですが、救難信号を発している墜落した未知の文明の宇宙船に行ったら、変な卵型の物体があって......。みたいな展開はありませんよ!さて、読者のほとんどが知っていそうな豆知識を披露した所でお薦めのご紹介を。


悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。
https://ncode.syosetu.com/n4076fy/

勇者召喚ものってよくあると思うんですが、童貞でやけに女性にうぶだったり、気持ち悪い程利他だったり読んでいくと聖人?ってパターンが多いんですがこれは違います。チート能力もそこまでチートじゃないし、色んなものが良いバランス。あと毎日投稿をかなりの期間継続していて、日々の楽しみにしている作品です。では!明日!

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