カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

53 / 116
     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


第51話 不良品の処理

宇宙暦737年 帝国暦428年 3月初旬

首都星オーディン ミヒャールゼン男爵邸

クリストフ・フォン・ミヒャールゼン

 

新無憂宮から地上車で少しの距離にある我が邸宅。同志を除けばそこまで来客が多いとは言えないのだが、最近は来客が増えた。まもなくやってくる青年士官もその一人。話の内容も分かってはいるが、立場上断るのは難しいのも分かっている。だが、動けば動いたで、男爵家としては不都合が多い。組織にとっても現状維持の方が都合が良いのも事実だ。どうすべきか......。

 

「旦那様、お着きになられました。応接間にお通ししました」

 

視線を向けると執事が一礼して部屋を辞していった。どちらにしても話を聞いてみるしかないか?デスクの上のティーカップに手を伸ばし、残っていた紅茶を飲み干す。優秀な男だ。出来れば同志に引き込みたい所だが、この状況で動いていること自体が、彼が義侠心に溢れ、軍人としての義務にも誠実であることを示している。残念ながら同志にはならないだろう。

 

「さて、気の乗らない面会だ......」

 

そう呟きながら書斎を後にする。少なくとも優秀な青年士官と面識を得られることを良しとするか。

 

『コンコン、コンコン』

 

ノックをして応接間に入る。ハウザー・フォン・シュタイエルマルク大佐は今年30歳。貴族出身にめずらしい実力主義者で、同じ貴族出身者に受けは悪いが、軍の大部分を占める平民からの受けは良い。

 

「閣下、急な話にも関わらずお時間を頂きありがとうございます」

 

「気にする必要はない。シュタイエルマルク伯にはだいぶお世話になった。その恩義に比べればどうという事もない。それに卿とも一度話してみたかった」

 

恐縮した様子の大佐に着席を促しながら私も腰を下ろす。私の入室にメイドも付き添わせ、お茶の用意をさせた後に人払いを頼む。艦隊司令官に名を連ねている事もあり、来客時の人払いを我が家の者は当たり前のものとして受け入れている。別荘に限っていた同志との面会は、本宅でも行うようになった。

 

「早速で恐縮ですが、小官は貴族的なやり取りがあまり得意ではありません。本題に入っても宜しいでしょうか?」

 

「もちろんだ。私も軍人としての人生の方が長い。それに相続の際に色々とあってな。貴族としての付き合いは最低限にしている。むしろそちらの方がありがたい位だ」

 

そう応じると嬉し気な表情を浮かべた。私は貴族の厚かましさをよく知っている。もうそれを割り切ってはいるが、彼は義侠心に溢れ、義理堅い軍人だ。先帝の庶子とは言え、『名ばかり少将』たちが跋扈する現状を本心から憂いているのだろう。

 

「今回お時間を頂戴したのは、専門的な教育を受けないまま立場を得て、前線に独立艦隊で乗り込む方々の件で、お力添えをお願いできないかと。フォルセティ星域の会戦以来、彼らの戦理を逸脱した独断専行により、軍は少なくない戦力を失い続けております。閣下は現状に関して、どうお考えでしょうか?」

 

「憂慮はしている。彼らのせいで摩耗した戦力は数個艦隊分にも上るだろう。どれだけの兵士たちが無駄に前線で命を散らしたかと思うと胸が痛む。だが、ケルトリング軍務尚書が処断できずにいる理由も察している。それは卿も同様だとおもうが......」

 

悔し気な表情を意識しながらティーカップを手に取り、紅茶を口に含む。帝国中にばらまかれた624人の先帝の庶子たちは、言わばウイルスに似ている。もちろんすべてを軍で受け入れた訳ではない。それに全員が無能なわけでもない。ただ、悪影響を想定していても伯爵家当主でもあるケルトリング軍務尚書には皇族を拒否するという判断は出来ない。

 

それをすれば貴族を保証する血を否定するようなものだ。皇族ともなれば尚更。政府系からすれば、前線に送り込んで戦死という形で処分できる以上、なるべく軍で受け入れろと思っているはずだ。最も、一人当たり数十万という平民が犠牲になる処分費用に関して、どう考えているのかは知りたくもない話だが......。

 

「それに関しては、小官も認識はしております。ただ、直近のティアマト星域での遭遇戦など愚策に愚策を重ねた結果、撃破されるという最悪の形になりました。もう見て見ぬふりをするのも限界です。

 

コーゼル少将とも相談をいたしました。幸い宮中の流儀には詳しい方々です。儀仗兵なり、近衛師団なり前線に行く必要のない部署を増設して、そこで活躍頂く訳にはいかないでしょうか?残念ながら小官は貴族に受けが良くありません。コーゼル少将もまた残念ながら平民出身です。閣下のお力添えをお願いしたいのです」

 

「確かに良い案だ。そういう観点では、皇室の荘園を警備させても良いかもしれん。暇を持て余して産物を横流ししたり、荘園の平民に手を出す様な事があれば処分の口実にできるかもしれん。ただ、負けていない連中がそれで納得するのかね?発起人として上申するのは構わないが、不満をもった彼らから背中を刺されるのは困る。戦場での戦いはともかく、そういう事には悪知恵が働く方々なのは確かだ」

 

たった数隻の偵察艦を追い回し、潜伏していた同盟軍に側背を突かれて撃破されたのは醜態としか言いようがない。通常の軍法会議なら自裁が妥当だろう。良くても軍からの追放、罰金として全財産の没収と言った所か?ただ、残念ながら彼らは皇族だ。軍人である前に皇族である以上、軍法ではなく皇室典範が適用される。

 

つまり処分は陛下のご判断に委ねられる訳だ。今回の処分も軍からの追放と罰金がせいぜいだろうな。宮中は門閥貴族たちの主戦場だ。平民がいくら死んだところで彼らは気にもしない。そんな事で皇族を厳罰に処すれば、明日は我が身と不満を抱えるだろう。政情を不安定にする判断を政府が許すはずもない。つまり厳罰は期待できないのだ。

 

「むしろ手を挙げさせるのが良いかもしれんな。政府系もあの方々には困っていよう?軍としてではなく、新無憂宮と皇室の荘園を守る儀仗兵を取りまとめる組織の新設を上申するのだ。そうすれば役職もかなりの数用意できよう?皇室の財産を皇族が守る。名分は十分立つと思うが......」

 

「それに応じなかった方々は......。そういう事ですが......。配属された兵士たちが哀れです」

 

「さて。後はどれだけ応じるかにも拠るのではないかな?提督の地位にこだわる者が多いようならヴァルハラ星系専門の警備艦隊を複数新設しても良かろう?少なくないお仲間が前線で命を散らしたのだ。少なくとも叛徒たちが自家の下僕や農奴とは違うのだと、認識はしているだろう」

 

前線で『名ばかり少将』達が何人死のうが私には関係ない事だ。ただ、同志が巻き込まれる事態を防ぐために何かと裏で動くのもいい加減疲れた。どこかにまとめて放り込めるならそれに越したことはない。

 

何しろ彼らは計画通りに動く事すらできない。こちらが流す情報の精度が、むしろ低下しているのだ。大丈夫、同盟軍は優秀だ。ジークマイスター提督もおられる事だし、作戦計画を流せば負ける事はないだろう。

 

「となりますと、政府系への働き掛けが必要になりますが、失礼ながら閣下にお心当たりはございますか?」

 

「いや、この件はむしろ3長官から国務尚書と宮内尚書に伝えてもらう方が良いと思うぞ?途中経過が噂になり、変な工作をされる方がやっかいだ」

 

「では、父からケルトリング伯に......。ただ、父は規律を重んじる人間です。私の説得に応じるかどうか......」

 

「では、私も一筆書こう。これでも一応は艦隊司令官の末席にいるのだから、前線の有り様を懸念するのは自然だ。もし足りないようなら足を運ぼう。卿の気持ちもよくわかるし、私も何かできればと考えていた。これも何かの縁だ。力にならせてほしい」

 

私の言葉に光明が見えたと言いたげなシュタイエルマルク大佐。手紙を認めると応接間を中座し、書斎に向かう。残念だよ大佐。君がもう少し違った人材なら、私の後任候補として同志に引き入れたかった。先ほど話した内容をさらさらと手紙に認め、便箋2枚ほどにまとめる。

 

こういう場合は一角の人物として認めているという態度を最大限示す方が効果的だ。おそらく、彼は将来の帝国の作戦立案に深くかかわるであろうから。認めた便箋と仰々しい封筒。それに家紋入りのシーリングスタンプとワックスと携えて、応接間に戻る。

 

「待たせたね。卿は智謀も評価されていると聞いている。念のため内容を確認してもらいたい。もし改めるべきところがあれば遠慮なく指摘してほしい」

 

そう言い添えて、手元にアルコールランプを用意し、ワックスを温める。手紙の内容を確認しながら感激した様子の元後任候補。少なくとも彼は、私の事を現状を憂う同志と認識しただろう。何度も礼を言いながら、彼は我が家を後にした。見送る際にも何とか良き方向に軍の現状を変えようと言い添えておく。

 

あくまで個人的な所感だが、先帝の庶子たちはやりすぎた。軍での有様を観れば、政府での有様も大体読める。腐ったリンゴを別の箱にまとめる案には、政府系も諸手を上げて賛成するはずだ。さすがの陛下も、功績を上げているならともなく、言葉を選ばずに言えば邪魔者でしかない彼らを、体よく現場から外せるなら細かい事は言うまい。

 

それで皇室の財産を横領するような輩が出てくるようなら、むしろ皇族としての心構えが出来ていなかったのだ。陛下の財産に手を出した以上、処分も重くなるだろう。

 

「さて、利用するだけ利用してきたが、次のネタを探す必要が出て来たな」

 

大佐の乗った地上車を見送りながら、私は内心を吐露した。帝国を混乱させるのに役立ってくれた先帝の庶子たちの賞味期限は残念ながら切れてしまったようだ。

 

幸いなことにコーゼル少将を始めとした平民出身の将官もちらほら出てきている。次は軍部系貴族を煽る事でも考えるか?幸いなことに帝国の闇は尽きる事が無い。私は新たな火種が燃え上がる事に想いを馳せながら、暗い喜びをかみしめていた。

 




という訳でミヒャールゼン、帝国で頑張ってる回でした。ちなみに若手大佐として出て来たシュタイエルマルク大佐は、この時代の帝国で屈指の名将候補です。ただ、実力主義者で、貴族同士のなれ合いを好まなかった為、原作では軍内部でも能力は認められながら、主流にはなれませんでした。

話は変わりますが、ノーマンはハーレム物が嫌いなわけじゃないですよ。作品紹介で表現に棘があったかなあと。ただ、それまではテンポもよくて面白かったのに、キャラが増えてテンポが悪くなる。名前みても誰?って見返さないといけなくなる。そんな作品が結構多いんですよね。そうなるならわざわざハーレム要素入れなくても良いのでは.....。とも思う次第です。

ではここで緊急企画、『カーク・ターナー誰の恋人クイズ』

・クリスティン
・カトリナ
・アデレード
・シーハン
・ファネッサ
・カタリーナ

一応ノーマンなりに属性やらエピソードを付けたつもりですが、全問正解は難しいかも.....。では!明日!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。