宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦739年 帝国暦430年 3月上旬
惑星エルファシル 第3駐留基地
ブルース・アッシュビー(中将)
『ガガガガガガ......。ガガガガガガ......』
ダゴン星域での合同訓練を終え駐留拠点であるエルファシルに戻ってきたが、相変わらずこの基地は工事音が鳴り響いている。シャトルのステップを下り、滑走路の端を歩く。滑走路傍のエントランスから基地内部に入り、自分のオフィスへ向かう。訓練報告がまとまって上がってくるまでは一息つける。
最も、人口400万に届かないエルファシルに、独立艦隊も含めれば500万を超える軍人が出入りを始めた影響はすべてが見えた訳でもない。どこに対応を求めるかで俺達は役割分担をしているから、俺が担当している国防委員会に対策を依頼する案件があれば、気持ちを切り替えてすぐに仕事に取り掛からないといけないだろう。
「閣下、おかえりなさい」
「アビー軍曹、早速だが伝言はたまっているか?」
自分のオフィスの一角に進むと、受付のアビー軍曹が声をかけて来た。訓練とは言えアスターテやダゴンは最前線だ。長距離通信は封鎖しているから秘書官役の軍曹の所に一旦集約される訳だ。自慢する訳じゃないが俺の秘書官役は、女性下士官たちの争奪戦になりかけたらしい。ただ、アデレードと離婚したばかりの俺にとって、女性からのアプローチは正直煩わしかった。
アビー軍曹は現地採用で基地の事務部門一筋13年。既婚者で子供も4人いるから『ベテランである事』を理由にこちらから指名させてもらった。カークとウォレスも現地採用の下士官を秘書官にしたことで、秘書同士のすり合わせもスムーズだし、基地司令部との連携もスムーズだ。カークはクリスティンが怖いから浮気はしないし、ウォリスは恋愛志向であって、永久就職希望者は求めていない。
3つの正規艦隊が駐留しているから、『3司令会議』、基地司令を含めれば『4司令会議』なんて呼ばれてる定例会議があるのだが、それと並ぶ権威を得つつあるのが、俺達の秘書官達による『3軍曹会議』らしい。まぁ、実力派の事務専門下士官は、10年近く拡大を続けて来たこの駐留基地を最も把握している存在でもある。結果として良い形に落ち付いたと言えるだろう。
「はっ!国防委員会と統合作戦本部から回答が返ってきております。ロックが掛かっておりますので、閣下のPCでご確認ください。コーヒーを準備してお持ちします」
そう言いながら敬礼してくる軍曹に答礼して、オフィスに入る。スペースに余裕がある事もあって、広めの個室をオフィスにさせてもらった。家具は全部私物で用立てた。不満があるといけないから、軍曹の椅子も、俺が用意した。本当はそんなつもりはなかったのだが、カークとウォリスが『権力者には媚を売っておけ!』と忠告してきたからな。二人が秘書官を優遇したのに、俺だけ優遇しないとなるとアビー軍曹が可哀相だ。もっとも職務に精励してくれているから、投資としては安いものだった。
PCを立ち上げ将官限定の機密通信プログラムを起動して、虹彩認識を行い、回答を確認していく。メンテナンス艦に関しては予算は獲得したものの、試作と装備改善、運用体系の確立は前線で行われたしか......。次は、来期装備更新が実施予定の5個分艦隊の早期戦力化のための前線での訓練参加希望......。基地の補給機能には余裕があるが、官舎が足りるか?相談が必要なのはこれ位か。後は満額回答だ。ん?カークから依頼されていた宇宙要塞の建設費見積もりか。想定通り天文学的な金額だな。桁を数える気にもならん。
『コンコン、コンコン』
入室を許可するとアビー軍曹がデスクに近づき、コーヒーを置いてくれた。
「軍曹、ターナー中将に相談したいことがあるから時間をとってくれと連絡してくれ」
「承知しました。ターナー中将の本日の予定は午後はオフィスのはずです。お急ぎになられますか?」
「そうだな。急ぎの方が助かると伝えて欲しい」
「承知しました。では、調整して参ります」
そう言うと会釈をして部屋を出ていった。毎回答礼するのも落ち着かないからオフィスに来た時と戻ってきたとき以外は敬礼をやめてもらっている。答礼しないのも変な話だしな。デスクの端に置かれたコーヒーを手を伸ばして引き寄せる。機密を確認する事もあるので、秘書官は基本的にデスクのこちら側までは来ないように教育されている。
第9期基地拡張事業の計画書を開いて確認しているうちに、モニターの端に『ターナー中将との会議1500』とポップアップがでた。確認のボタンを押し、時間を確認する。時計の針は14時過ぎ、文字通り急ぎで対応してくれたようだ。ザックリとだが拡張事業計画を見る限り、基地機能に余裕はありそうだが、官舎は不足しそうだ。人口が増えつつあるエルファシルでは民間の住宅も不足気味だ。大量の住宅を軍で借りるのは、地域経済のバランスを崩す事になるかもしれない。
「ふう。本来は艦隊司令の仕事じゃないんだがなあ。ただ、エルファシルになにか不都合なことが起これば結局困るのは俺達艦隊司令だ。自分たちの住処は自分たちで快適にするしかないか......」
『コンコン、コンコン』
「閣下、そろそろターナー中将とのお約束のお時間です」
ノックに応じると、軍曹がアラートの意味で声をかけてくれた。時計の針は1450をさしている。そろそろカークのオフィスに向かうか......。
「軍曹ありがとう」
そう言い添えてPCの電源を落とし、オフィスを後にする。廊下を歩きながら強化ガラスがはめ込まれた窓の向こうに視線を向ける。立ち並ぶ格納庫。変わらず響く工事音。8年前までは1500隻レベルの星系警備隊の駐屯地だったとはだれも思わないだろう。T字路を一つ越えれば第13艦隊の司令部だ。何個かドアを通り過ぎるとカークのオフィスが見えてくる。
そのまま進んでいくと、カークの秘書官であるコナー軍曹が一礼してからオフィスへ通じるドアを促すように左手を向けた。防諜体制の構築を担当しているカークのオフィスでは、俺やウォリス以上に機密に触れる機会が多い。コナー軍曹は基本的にオフィスには入らないように指示されていたはずだ。俺も左手を上げて会釈を返してから一応ノックをする。親しき仲にも礼儀ありじゃないが、諜報関連は漏れない事も勿論だが、漏れた時の追跡調査が大事なんだ。だからなるべく接する人間を減らす。秘書官としては寂しいかもしれないが必要なことだ。
「閣下。アッシュビー提督がお着きになりました」
「ブルースだ。入るぞ」
ドアを開けてカークのオフィスに入る。俺はバーラト系のあるデザイナーの作品で揃えたが、こいつのオフィスは亡命系の職人の作品でまとめられている。職人技が光る本革のソファーの座り心地は何度味わっても良いものだ。遠慮なくソファーに深く腰掛けると、カークは備え付けられたティーポットの傍でお茶の用意を始めた。防諜の観点から、こいつのオフィスではお茶も自分で入れる。もっとも、このオフィスに入れるのは俺かウォリス位だろうが。
「無事のおかえりお疲れさん。オルテンブルク侯爵御用達だ。まぁ、楽しんでくれ」
そう言いながら紅茶のカップにお茶を注ぐターナー。紅茶の良い香りが部屋に広がる。俺のオフィスではコーヒーを出す。ある意味ここでわざわざ話すと言う事は重要事項だという事。頭を切り替える意味でも、紅茶の香りは俺にとっても大事なものになりつつあった。
「とりあえず、報告で済む話からだ。ハイネセンに頼んだ宇宙要塞の建設見積もりだが、予想通り天文学的な金額だった。イゼルローン回廊を封鎖できるメリットは大きいが、10個艦隊分の整備費に近い。正式に上申するつもりかと確認まで添えられていた」
「あまり個人で出した見積もりと変わらないな。これ以上の経済効果があるならまだ上層部を説得できるんだが、こんなものに予算を割くなら、ハイネセンやシロンに軌道エレベーターを作った方が国力を高められる。分かってはいたが、桁を数える気が失せる見積もりだな」
やれやれと言った様子でカークが見積もりを確認する。こいつと話していて思うのは、軍事的なメリットだけでは政府を動かせないという事だ。帝国の正規艦隊をおびき出して殲滅し、その余勢を駆ってイゼルローン回廊のこちら側から帝国軍を駆逐する。
そしてその勢いを活かして防衛体制を整える。イゼルローン回廊の出口付近に人工天体クラスの宇宙要塞を建設する。帝国が進行ルートにしている回廊を川とするなら、それをせき止めるダムをつくるようなものだ。全てを度外視すれば、国防体制の確立にこれ以上の選択肢はない。
「一応考えてみたんだ。同盟にとってわざわざイゼルローン回廊付近に要塞を作る価値がどれくらいあるかをね」
そう言いながら一枚の資料を差し出してくる。
「既に同盟の人口は150億人を超えた。国防委員会の連中は10億人:1艦隊の割合に基づいて艦隊新設を考えたが、それはやめて装備更新費にした。当然人件費は浮くし、経済成長は続くだろう。それでだ。何とか帝国の上層部も含めた戦力をおびき寄せて撃破した時、どれ位の時間が稼げるかな?」
「帝国の人材の厚さにも因るが、俺達が想定している規模で損害を与えられれば最低でも10年。長ければ世代が一巡する20年は稼げると思うが......」
「同盟の特殊出生率は地方星系も含めれば4.0を超える。このままいけば20年後には同盟の人口は少なく見積っても300億、おそらく帝国の人口を超えているだろう。守る事じゃなく攻める事を考え始める時期だ。それを踏まえると拡張工事を続けているエルファシルがあるのに、たった2星系分前線を進める為に天文学的な予算を割く価値があるかな?それなら30年後の技術をつかって、帝国側出口付近のアムリッツァ星域に基地を作る方が話が早い」
確かにそうだ。そもそも論で帝国の宇宙艦隊に大打撃を与えなければ回廊出口付近に要塞を作るような大事業は行えない。ハイネセンからエルファシルに拠点を進めた事で補給効率は劇的に改善された。それに引っ張られて要塞をつくれば大きな効果が得られると思うのは正直浅い考えだろう。
「イゼルローン回廊に関しては、むしろ進撃路として使いにくくして侵攻にかかる手間を増やす方向で考えはじめた。例えばダゴンのアステロイドベルトから小惑星を引っ張って回廊内に流し込むとかな」
「そうだな。既に回廊内部は航海の難所だ。大型輸送船が航行できなくなれば、侵攻路として使えなくなる。それでも切り込んでくるなら、むしろ御の字だ。補給線が伸び切った艦隊なんて殲滅の対象でしかないからな」
俺の見解に賛成する様にカークも頷いた。
「そうなればイゼルローン回廊は死んだようなものだ。帝国の連中も馬鹿じゃない。そうなれば何を考えるか?それが問題なんだよな」
そう言いながら、ターナーはタブレットを差し出してきた。その画面には、フェザーン方面の星系図が映しだされていた。
という訳で、戦略面の国防体制の話題を少し挟みます。要塞作っても良かったんですが、それは投資家の方でやりましたしね。別パターンで書いてみました。
後書きで触れた、ノーマンが好きな作品への感想も頂いていて嬉しいです。私もPYさんから良作紹介されて楽しい時間が過ごせましたしね。量が多すぎて、埋もれている作品も多そうです。ただ、執筆があるので時間を区切らないと大変なことになりますが......。では!明日!