宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦739年 帝国暦430年 ８月上旬
惑星フェザーン 自治領主府
マリウス・ラープ（自治領主）
「補佐官にも伝えたが、同盟の案件、特に軍関係の事業に食い込むのは当分無理だな。奴らのフェザーンへの態度は一貫している。ウルヴァシーに集めた物資を買い付けるのは認める。だが疑念を抱かせるような行動はするな！だ。ウルヴァシーから先の星域では入国管理も厳しいし、臨検も多い。下手な事をすればまた懲罰的賠償金を課してくるだろう。断れば引き渡し価格の引き上げ、関税の新設もありえる。交易以外で収益を上げるには厳しいだろうな」
「お手数をおかけして申し訳ありませんな。カリス長老。同盟通の貴方にわざわざ連絡を入れたのは、ウルヴァシーの警備基地が増強される件について、意見を伺いたかったからです。一艦隊規模の駐留基地が建設されていると聞いていますが、フェザーンへの進駐を意識したものなのでしょうか？」
同盟方面のフェザーン資本を取り仕切っていたカリス長老は、同盟からフェザーン資本が排斥された今では正直落ち目だ。自治領主府の失策のせいで大損害を被った際は批判を強めていたが、ヴァレンティが文字通り命で失策の責任を取ってからは大人しくなった。ビジネス界では財産を失う事があっても、事故でもなければ命の危険はない。自治領主府なりの詫びは済ませた。これで納得しないなら......。というメッセージが伝わってくれたようだ。
「それはあるまい。そもそもフェザーンを同盟が得たとして、一体どんなメリットがある？余剰物資の引き取り手がなくなり、イゼルローン方面だけでなくフェザーン方面も戦線になる。あくまで押し込んでいるのは帝国側だ。むしろ帝国から非公式にフェザーン回廊の通行権でも要求されたのかと、儂は思っていた」
「ご安心ください。そのような事実はありません。ただ、同盟との関係は友好的とは言えないのも事実です。イゼルローン方面が主戦場であるにも関わらず、フェザーン方面の基地機能を強化し始めた。それを無視するほど、私は豪胆ではないので......」
「それで、同盟経済からの締め出しへの対応策はあるのか？儂の資本も置いておくわけにもいかんから帝国で動かしてはいるが、あちらはあちらで門閥貴族は恣意的。統治機構も細切れで予測不能なリスクが多すぎる。儲けも出るが、枕を高くして眠れなくなった。フェザーンが安定的に収益を得るためにも、同盟への浸透は必要だと思うのだが......」
「その点に関しては私も十分理解しております。借りがある事も忘れてはおりません。借りはしっかり返して頂きませんと」
「それなら良いのだが、同盟は着々と国力を伸ばしておるし、発展するほど参入障壁も高くなる。地方星系で年々増産されている穀物の使い道も更に増やす動きがある。ほれ、英雄だと祭り上げられていた第13艦隊の司令。ターナーとか言ったか？あやつが自身の会社を立ち上げて、同盟内の各地に蒸留所を作り始めておる。蒸留してウイスキーやらブランデーにしてしまえば数十年商品価値を担保できるからな。奴が経営していたウーラント商会も帝国風の食材で財を成した。亡命系の入れ知恵だろうが穀物を売り急がずに済むようにとの意図だろう。忌々しいことよ」
ホッとした様子をした後に、思い出したように忌々し気な表情をするカリス長老。人を褒める事がほぼ無い彼に商売敵として認定されるか。ターナーとやらは軍人としてだけじゃなくビジネスの才能もあるようだ。フェザーンに生まれていたら、自治領主府にスカウトしただろうか？ただ、同盟軍の若手と言うと一番先に名前が出るのはアッシュビーだったはずだ。トップを狙わない辺り、適性としては独立商人の方が向いているやもしれんな。
「長老、こんなことを言うのは釈迦に説法でしょうが、相手は軍上層部を担う人材です。軽率な行動は......」
「言われるまでもない。あの損害が埋まるなら検討はするが、軍幹部の暗殺などすれば同盟も本腰を入れて捜査してくる。バレた時の事を考えればそんな手段はとらんよ。そもそもビジネスの場では脅しはあっても実際に命を取ることはせん。そんなことをしても得にはならんからな」
暗殺も手段のひとつにする同類とみられたのが不本意だったのが、長老は不機嫌な様子で通信を終えた。経済的な要素だけで動くなら、暗殺は使うべき手段ではない。相手陣営に警戒感を抱かせるし、交渉すらできなくなる。ただ、多くのフェザーン人が勘違いしているが、自治領主府は経済的な要素だけで動いている訳ではない。
「ふぅ。贅沢は言わないが、ご老人のお相手が続くと疲れるな。もっとも美人で若い宗教指導者がいれば、地球教の布教ももっと進むのだろうが......」
老人はやいのやいのと文句ばかり言う。現役世代への労いを忘れたら傲慢なだけ。恩着せがましくされれば、恩も恩と感じたくなくなると言うものだ。さて、気持ちを入れ替えるか。私は執務机の背面に隠されたセンサーに右手を置き、静脈認証を起動した。認証が終わると同時に、左の本棚の一部が移動し、ちょうどひとりが通過できる位の通路が現れる。その通路を進み、灯りが抑えられた小部屋に入ると、ひざまずき、両目をつぶる。
「総大主教猊下、自治領主府をお任せ頂いたラープです」
『おお、ラープか。いい加減朗報であろうな？』
「総大主教猊下にはご機嫌麗しく。ご裁可頂きたいことがあり、通信をお送りいたしました。猊下に朗報を報告出来ぬ非才な私をどうぞお許しください」
『うむ、それで？』
「はっ。現状、同盟の国力の伸長が目覚ましく、このままでは帝国の敗戦が濃厚な状況となりましょう。フェザーンとしては、帝国への支援をさらに強めるべきかと愚考する次第で、猊下のご裁可を賜りたく」
『母なる地球への信仰心を失った異教徒どもを争わせる方針に変更がないなら一向に構わぬ。だが、同盟への浸透が芳しくない事、帝国も統治機構がばらばらで非効率だと言う話であった。何か手筈はあるのか？
「はっ！まず、フェザーンに在住している帝国系の信者を亡命者として同盟に送り込みます。そして彼らを支援し、子孫も含めて隠れ信者として潜伏させます。一方、帝国の皇太子であるオトフリートには３人の男子がおります。少し気が長い策ですが、帝位を巡ってこの３人を争わせ、貴族達の取り潰しをさせます。これによって直轄領を増やし、効率を高めます。そして、政争によって生まれる大量の亡命者の引き受けを隠れ信者に担当させ、彼らを政界に送り込みます。この際に、信者も送り込めれば尚良いでしょう』
『少し気が長い策のようにも思えるが......』
「猊下のお気持ちもごもっともでございます。卑小な私をお許しください。ただ、現在の同盟が手堅いのもまた事実。短期的な策では効果が見込めぬ以上、深く潜るのも大望の成就の為に一考に値するのではないかと愚考する次第でございます。帝位を争うにあたって貢献できれば、帝国内での影響力もさらに強まりましょう。今まで献金で懐柔してきた同盟政治家たちは、国外資本の献金規制の強化で、これまでの策は使えません。政界に勢力を作る意味でも最善の策かと」
『左様か。確かに先人たちから受け継がれてきた大望の成就に、焦りは禁物であろうな。よし、お主の献策を受け入れよう。ラープ、しっかり励め』
「はっ！ご英断を頂きましたこと、このラープ感謝に堪えません」
ひざまずいたまま、頭を下げると通信が終わり、部屋の灯りが少し強くなる。この小部屋自体が、遥か彼方の地球教本部と思念で通信を可能とするシステムになっている。思念で通信する以上、余計な事を考えればそれも伝わる為、反意はなくともこのシステムを使うときは心的なストレスを感じる。相手が総大主教猊下ともなれば尚更だ。
「裁可は得た。民主共和制の弱点を精々利用させてもらうとしよう」
私が現役の間には難しいかもしれないが、同盟に借りを返す準備は進められる。暗い喜びに浸りながら、この小部屋を後にした。フェザーンを共通の敵とすることで融和を進めた同盟。だが、戦争への想いには濃淡があるはずだ。亡命者が大量流入すれば、それも議題になるだろう。帝国側は自滅するかのように国内の対立が深まっている様だが、同盟にもそれに倣ってもらう。せいぜいフェザーンの掌の上で派手なダンスを踊ればよい。今夜はうまいワインが楽しめるだろう。
という訳で、原作の闇の部分を担当する地球教が動き出しました。この人たちにもそろそろ出番が無いとね。
※お願い
キャプテン佐三の表記ですが、一部『艦長』になっています。これを船長に統一したいのですが、誤字報告でご協力いただけないでしょうか？.....えっ？自分でやれ？お盆休みのうちに貯金を作りたかったノーマンは、執筆と暑さでボロボロです。ヘルプ～ミ～！！ では！明日！