カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています

連日の誤字報告、本当に感謝です。誤字のない日は来るのか......。


第7話 友人

宇宙暦723年 帝国暦414年 4月末

イーセンブルク校 図書館

カーク・ターナー

 

「この図書館には、我らが保存してきた貴重な書籍が多数あるというのに」

「まったくだ。その貴重さも理解できぬ平民が、身の程を弁えずに当然の様に触れるとは」

 

やっと来たか。まぁ、事前に担任のフラウベッカーからも話を聞いていたし、正直、いつ来るかと期待していた部分もある。ここはキッチリ躾させてもらうか。ただなぁ、貴族感覚の子弟を躾ける一貫とは言え、異文化圏からの留学生は、接し方次第でシンパにもできると言うのに。

 

バーラト系とのいざござが遠因なんだろうが、ここでマナーを修めた連中は、亡命受け入れに関わるんだ。アンチ亡命派にするのは百害あって一利なし......。なはずなんだが、まあ、亡命派が最終的に損をしようが得をしようが、俺の知ったことじゃない。しっかり与えられた役割を果たしますか。

 

「勉強になりますねえ。同盟の田舎ですら図書室では静かにすると、子供ですら理解しております。亡命系ではむしろ騒ぐようですね。これは大変勉強になります。感謝せねば。お名前をうかがえますか?」

 

「貴様!我らを愚弄するのか!」

「下賤の者に名乗る名などない。この礼儀知らずめ」

 

まあ、案の定だ。少し煽っただけで噛みついて来た。なんだかんだ言ってるが、こいつらには名乗れない事情がある。そもそもイーセンブルク校を始めとした亡命派の教育機関への受け入れは、亡命派の首脳部が決めた政策でもある。

 

貴族社会風の環境で育った彼らにとって、異分子である俺を気に入らない、排除したいとしても、それを公的な場で主張すれば、当主や寄り親の意向に反する事になる。それは彼らの育った環境ではタブーな事だし、それをやれば、彼らが維持している貴族風の社会自体の否定につながる。

 

だからこそ、やれる事は精々聞こえるように嫌味を言うくらいだ。まあ、かわいいもんだよな。

 

「左様ですか。亡命系では名を名乗らぬ場合があるのですね。ちなみに同盟では、治安組織に名を聞かれて名を名乗らないと後ろ暗い所があると判断されます。お互いの価値観の相違を学べましたな。それは何より」

 

フムフムと勉強になったかのような所作をしつつ、小馬鹿にしたような表情でさらに煽る。子供相手に大人げない気もするが、実はこれもフラウベッカーから事前に『ちゃんと対応する様に』と言われた結果だ。

 

俺が短期入学しているイーセンブルク校は、設立したのが伯爵家だし、その寄り親のオルテンブルク家はもともと侯爵家だ。当然、亡命系の貴族でも貴意が高い連中が集まっている。ただし、講師陣は貴族階級とは限らない。

 

なので、生徒同士の争いに講師陣は基本関与しない。それでも、決闘などは禁止されているし、これを破ればイーセンブルク家だけでなくオルテンブルク家の面目をつぶす事になる。

 

で、話を戻すが、生涯を通じて亡命派としか接点を持たない人材ももちろんいるが、中には士官学校を始め同盟圏内に進路を取る者もいる。なので、俺のような短期入学者は、あくまで同盟の価値観で行動して良い旨を伝えられている。

 

そして争いに関しても、実力行使ではなく口論レベルなら許可されていた。まあ、上層部からすれば、同盟内で使える人材育成のために同盟の価値観にも触れさせようってトコなんだろうが俺から言わせれば、こっちに丸投げしてくるな!とも思う。

 

「おのれ!我らを愚弄するか!」

「貴様!」

 

って、こいつら煽り耐性低すぎだろ。しかも帯剣してる短刀に手をかけやがった。フラウベッカー、実力行使は禁止されてるんじゃないの?話が違うじゃん。どうするかなあ。一応、収容所流の護身術はおっちゃん達に習ったけど、さすがに実力行使しても良いもんかね。

 

抜かれちゃうと、こっちも手加減できない。とは言う物の、こっちも学ばせてもらってる身だし、部外者だ。さすがに実力行使まで行くと、厄介な事になりそうだなぁ。フラウベッカーにお説教を食らうのは避けたい事態だ。

 

「その辺にしておいたらどうだ?非武装の相手に二人掛り。おまけに抜けもしない短刀をちらつかせるとは見るに堪えねえな。それともいっそ抜いてみるかい?俺の目の前でさ」

 

声の主の方へ振り返ると、浅黒い肌に黒髪の男が、俺に突っかかって来た二人組に鋭い視線を向けていた。

 

「ちっ」

「庶子のくせに生意気な」

 

俺の耳には聞こえたが、黒髪には聞こえるかどうかの声量で捨て台詞を吐くと、二人組はそそくさと図書室から出て行った。典型的な三下の行動だが、自分の目の前で繰り広げられる事になるとは思わなかった。

 

「おい、オレンジ。お前も甘いな。俺が奴らの仲間だったらどうする?実力行使は禁止されているが、奴らがやる気だったら、俺に視線を向けた時点でかなりの不利を背負うとこだぜ」

 

三下のお芝居に対してか?甘ちゃんな俺の行動に対してか?黒髪はニヤニヤしながら俺に声をかけてきた。

 

「オレンジでも良いが、俺はカーク・ターナーだ。お礼を言うべきだな。助かったよ」

 

「フレデリック・ジャスパーだ。まあ、庶子とは言え俺もオルテンブルク家の者だ。俺の在学中に問題があればこっちにも文句が来るかもしれんからな。わが身可愛さの行動だからそこまで気にしなくて良い」

 

やれやれと絵にかいたような所作をするジャスパーは、どこかコミカルで思わず笑ってしまった。笑っている俺をジャスパーは一瞬想定外な表情で見たが、自分でも感じる所があったのだろう。俺に誘われる様に笑い始めた。これ以降、短期留学中はなんだかんだとつるむ仲になる。お互い認めないだろうが、もしかしたら初めての同い年の友人だったのかもしれない。

 

 

宇宙暦723年 帝国暦414年 6月末

惑星シロン 宇宙港

フレデリック・ジャスパー

 

「ジャスパー。簡単にくたばるなよ」

「お前こそな」

 

同盟の若年層で流行っていると言うお互いの拳をくっつける挨拶を交わすと

 

「またな」

 

と言い残して、この2ヵ月、毎日のようにつるんでいたターナーは、搭乗口へ進んでいった。チェックインをすませ、ゲートをくぐると、こちらを振り返り、手を振ってからシャトルへ消えていく。

 

奴のオレンジの髪は人が多い搭乗口でもよく目立った。俺も応えるように手を振る。やけに寂しく感じるのは、あのオレンジの髪が目立つせいか?それとも、唯一の俺の理解者が旅立ってしまうからだろうか。

 

俺は、搭乗口から離れるように屋上へつながる階段へ歩みを進める。思い返せば面白い奴だった。オレンジの髪にエメラルドの瞳。それだけでも目立つのに妙に存在感がある奴だった。イーセンブルク校の同年代の子女が、騒ぐのも無理はなかった。

 

当然面白くない連中が絡むのも時間の問題だったが、学習意欲の高いやつだったから空き時間はほとんど図書室だ。あいつは性悪だから、もしかしたら人目があり、反撃の口上を作りやすい図書室で待ち構えていたとしても、俺は驚かない。

 

社交ダンスも初めからうまかった。社交ダンスは未経験者ならともかく、経験者ならリードする男性の力量がかなり重要だと知っている。力量がそこそこなら勿論、自分の力量に自信がある子女も、力量の低いパートナーを選べば、無様な有様になる可能性もある。

 

妙に存在感のあるターナーは、ダンスの授業では引く手あまただった。その段階では、俺とつるむ仲になっていたからイザコザは無かったが、俺の存在が無ければ一悶着起こっただろう。

 

階段を上り、ドアを開ける。強めの風に髪がなびく。安全対策で備え付けられたであろうフェンス近くのベンチに座ると、エンジン音を響かせながら滑走路に向かうシャトルが目に入る。

 

「五分と五分か......。そんな感覚は知らなかったな」

 

庶子とは言ってもオルテンブルク家は侯爵家だ。外食すれば支払いを持つのは当然だったし、その代わりに周囲の連中はおもねって来るわけだ。

 

「仕送りを減らせないから安い店にしてくれ。奢り返し出来ないと、俺たちは五分じゃなくなる。子分になるつもりはないからな」

 

それまで通っていた貴族向けのレストランから、労働者向けの居酒屋に場を変えたのも奴の影響だ。最も、お高く止まった貴族向けのレストランより、好みに合ったのも事実だ。大皿に盛られた料理を、気心の知れた仲間とつまむのは、予想以上に楽しかった。

 

「情勢を考えれば、士官学校に行くのはむしろ正解だ。俺も経済面が何とかなれば士官学校を志望してたよ」

 

やれやれと言った所作をしながら、あいつはボヤいていた。今のところ、防衛戦争は優位に進んでいる。ただ、帝国の侵攻を元から断てない以上、いずれ亡命系へも徴兵要項が拡大される。どうせ従軍するなら、アホな上官に使い潰されないように士官学校を出て、最低限の立場を確保した方がマシだと......。身も蓋もないやつだ。思い出しても笑える。

 

シャトルが定位置に着いたんだろう。轟音を上げながら視界の片隅にあったシャトルが加速を始める。

 

「取りあえず士官学校を卒業して、10年勤めれば良い。そうすりゃ年金支給の対象になる。どんなに資産持ちでも収入がないのは精神的に良くないしな。ジャスパーの容姿なら役者も務まるだろう。別に自分のバックボーンを全否定しなくても良いんだ。帝国風のレストランをハイネセンの一等地に出すのも面白いかもな」

 

あいつの発想は国名宜しく自由だった。俺が役者?そんなこと考えたこともなかった。思い出しても笑っちまう。

 

「それによ。士官学校の道を検討できるだけで、自由惑星同盟のお貴族様なんだぜ」

 

あれは、いたずらで奴が好きなオレンジジュースにウォッカを混ぜた時だったか。酔いつぶれたあいつも面白かったが、酔いでもしないとあんな話はしなかっただろう。あいつが8歳で働き始めた勤め先の兄貴分の話をもらした。ターナー自身も優秀だが、その兄貴分も十分優秀と言えるレベルだろう。

 

そんな彼が、経済的に厳しい辺境星域生まれと言うだけで、世に出るために二等兵として入隊する道しかなかった。そして自分に先駆けて星を飛びだして行った兄貴分に置いて行かれたと引け目に感じていることも吐露していた。

 

「余計なことを言ったな。忘れてくれればありがたい」

 

翌日の朝食の場で、照れくさそうにあいつは声をかけてきた。でも、あれが辺境出身者の本音なんだろう。轟音を上げながら成層圏を突き抜けていくシャトルに視線を向ける。ああ、あいつも兄貴分のシャトルを見送りながらこんな思いを感じたんだろうか。

 

「亡命派幹部の庶子、お前からしたら良い生まれかもしれない。でもな、俺もあの時のお前と一緒だ。おいて行かれた気持ちだぜ。いつか出世して、お前の商会にでかい案件を発注してやるよ。何が五分だ。俺を置いて行ったんだからな。これ位のお返しは当然だろ」

 

見えなくなるシャトルを横目に、俺はイーセンブルク校へ歩みを進める。一刻も早くお返しするためにも、士官学校に少しでも良い席次で入学しないとな。押し付けられた進路も、今では前向きに進めそうな気がした。

 




辛口の印象が強い爆笑問題の太田さん。彼があまりに褒めるもんで、神田伯山先生の中村仲蔵、観てみました。すごかったです。山場では涙がボロボロ出てしまいました。もう少し落ち着いたら、一度生で体験してみたいです。

えっ、完結するまで部屋からでるな?読者の期待を裏切ったらわかってるな!って、ノーマンには大した後ろ盾居ないよ。悲しいかな社畜傾向もあるげどさ、厳しい声だけじゃなくて評価とか感想とかくれても良いんだよ?大丈夫、悪い作者じゃないよ~。
評価はまだ早い?ならせめてお気に入り登録を......。
んじゃ また明日~

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