カーク・ターナーの憂鬱   作:ノーマン(移住)

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     【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校 
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件 
宇宙暦728 フォルセティ会戦    
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業  
宇宙暦738 ファイアザード会戦   
宇宙暦742 ドラゴニア会戦     
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦  
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生

※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています


第74話 戦場へ(ドラゴニア会戦)

宇宙暦742年 帝国暦433年 2月中旬

アスターテ星系 惑星ウガリット静止軌道上

カーク・ターナー(中将)

 

『この時間だけはどうも慣れんな。そろそろイゼルローン回廊の出口付近に来るはずだが』

 

『ブルースはせっかちだからな。どうせ出産には間に合わないんだ。開き直って、勝利を手土産に新生児室に行くしかあるまい。俺も共犯がいた方が気が楽だ』

 

『ウォリス。俺は何も出産に立ち合いたいからイライラしている訳じゃないぞ』

 

「我らが方面軍司令殿も、8万隻近い帝国艦隊が向かってくるとなるといつものように不敵に笑う余裕はない様だ。ウォリス、ここは俺達がしっかりお支えせねばな」

 

『カーク。そもそも俺とウォリスに子供をつくる様に勧めたのはお前だろう?もっと気遣ってもいいのではないか?』

 

「お前たちが父親になった方が良いと思ったのは本心だ。ただ、動機は世話になったビジネス界の師匠と、何かと力添えしてくれた代議員への恩返しだからな。残念ながらお前たちは用済みだぞ?もっとも、軍人なんて因果な商売をしている夫を持つことになった伴侶には責任を感じているからな。ちゃんとご挨拶に行かせてもらうつもりではいるがな」

 

『そんな事を言っているが、家族ぐるみの付き合いにお前たちを一番加えたがっていたのはカークだからな。俺は悪い男性が愛娘に近づくのは気が進まないが......』

 

ジョンがニヤニヤしながら会話に入って来た。ちなみに息子持ち視点でも評価は高くはないぞ。僚友としては良いかもしれないが、シュテファンやヴェルナーがパートナーを曜日ごとに代えだしたら正直心配だ。

そんな俺達の会話を、艦橋の連中も苦笑しながら聞いている。うちの参謀長のアッテンボロー少将は孫娘が何人もいる。若くして成功を掴んだ男性はそうなりがちなのも事実だが、感心は出来ないって感じだろうか?

 

「回廊出口付近からこっち側には強行偵察艦が2000隻近く待ち構えているんだ。すり抜けられる可能性はない。急報が入ったらすぐに動けるようにして待機するしかないな」

 

『その時間がなんともな。準備はしたつもりだが、どうも落ち着かん』

 

大軍が迫っているのもあるのかもしれないが、初めての出産で父親は自分が役立たずだと身に染みる経験をする。まぁ、どんなに頑張っても男性に子供は産めないからな。だからこそ。せめて傍にいたいと思うのは当然の感情だ。だがなあ、いくら優秀なお前らでも右往左往するしかないんだ。醜態を晒さずにすむ口実が出来て良かったと俺なんかは思うが......。

 

『話を戻すが、奴ら、アルレスハイムに向かうかな?さすがに敵地で戦力分散はしないと思うが.....』

 

『5個正規艦隊+αの大戦力だ。ヴァンフリートは星域自体が狭い。うまくやれば2個艦隊で遅滞戦が出来なくもない環境だからな。アルレスハイムからパランティアに向かうのは道理でもあるが......』

 

帝国軍進発の報を受けて、エルファシル方面軍所属の第13艦隊を含む4個艦隊と4000隻のメンテナンス艦は、補給を万全にしたうえでアスターテ星域まで進軍している。今頃はウルヴァシーから進発したファン達の3個艦隊がエルファシルで補給を終え、進軍を再開しているだろう。帝国軍がアルレスハイムに進路を取って時点で、俺達も移動を開始し、パランティア星域の外縁部に向かう予定だ。

 

久しぶりの正規艦隊同士の戦いだが、今まで帝国軍を率いている事が多かった『名ばかり少将』達は戦理に合わない判断を下す事も多かった。もしヴァンフリートに進んでくるようなら、遅滞戦を仕掛けながらアスターテ星域まで引き込む第二案も検討済みだ。

 

『相手も正規艦隊司令達だ。アルレスハイムに向かうだろうが、念には念を入れておこうという判断は間違っていないだろう。進発日から逆算すれば、こういう会話を楽しめるのも長くても数日といった所だな』

 

アルフレッドが俺達を宥める様に発言した。方面軍の良識担当の奴が発言すると、いつも通り妙な納得感があり、ブルースはいつもの不敵な雰囲気を取り戻した。ほんと良い補佐役だよな。本当はもう10年も軍歴を積んだベテランどころの役目だ。士官学校の対策をしていた頃から、なにかと苦労性だった事を知っている俺からすると、妙な嬉しさを覚える光景だ。

 

『そう言えば、アレクは結局旗艦には乗せなかったんだな。よくあいつが納得したな』

 

「当然だろ?ガキの頃に重機の扱い方を仕込んでくれた恩人から預かったんだ。本人は覚悟は出来てるとは言うけどな。長年収容所で顔役みたいな事をして同化政策にも貢献してくれた恩人が、やっと身を落ち着ける先を見つけたんだ。戦死なんかさせてみろ。温かい家庭に融合弾を撃ち込むようなものだ。少なくとも伴侶は志願には反対だったらしいからな」

 

『あいつは仕える対象と真逆で素直で努力家だからな。家族も手放したくなかったんだろう。それで置いて来たのか?』

 

「そこまであからさまに優遇したら奴の軍歴に傷がつく。メンテナンス部隊の司令艦のひとつにオペレーターとして乗船させたよ。結局スパルタニアンのシステムを流用して開発を進めていたナビゲーションシステムは間に合わなかったからな」

 

デニスのおっちゃんから預かったアレクを、志願したとはいえ任官一年もしないうちに最前線には連れていけない。それに俺の秘書官役のコナー曹長の娘さんと、ちょっといい感じなんだよな。俺の精神的な安寧の為にも、旗艦への乗船は許可しなかった。万が一の事があってもコナー曹長はとやかく言わないだろうが、それはそれ、これはこれだ。

 

同盟軍が導入している制宙機、スパルタニアンは所属する宇宙空母とシステムでリンクされている。帰還や補給のオペレーションはかなり自動化が進んでいる。このシステムを流用してメンテナンス部隊のオペレーションも自動化を目指したんだが、残念ながら開発が間に合わなかった。

 

代案として司令艦の一部を改装しオペレーター席を50席追加した。星間国家の戦争で、メンテナンスの段取りを人力で整えると言うのも時代錯誤な気がするが、その道のプロが捻りだした解決策だ。信じるしかないだろう。当初は肉体派の傾向が強かったアレクも、曹長に事務仕事を振られたり、司令部の面々と関わる機会が多い事もあって、勉学の方にも意識が向いている。今のあいつになら、開戦すればてんやわんやになるであろう指令艦のオペレーターも務まるはずだ。

 

『指令艦のオペレーターか。あいつも苦労するな。今度何かうまい物でも奢ってやるか』

 

『なんだジョン。そんなに大変なのか?』

 

『ああ。当初は戦死の可能性が低いから希望者も多かったんだ。実際に運用演習が始まったら後悔した連中も多かったはずだ』

 

「まぁ、可愛い児には旅をさせないとな。それにメンテナンス部隊の働きは今回の作戦の肝だ。俺達の命を預けたようなもんだ。ちゃんと一人前として扱っているだろ?」

 

『強行偵察艦よりに入電、我、回廊出口で帝国軍を発見。アルレスハイムへ進路変更を確認す』

 

俺がジョンに応じたタイミングで、緊急入電が流れた。

 

『良し、作戦開始だ』

 

ブルースの号令と共に、俺達は移動を開始した。

 

宇宙暦742年 帝国暦433年 2月下旬

パランティア星系外縁部

アレクサンデル・ビュコック(一等兵)

 

「アレクよう。いい加減機嫌を直したらどうだ?いくら従卒だって言ってもよ。志願まもないお前さんを旗艦に乗せるのは提督だって気が進まないだろ?わかってやれよ」

 

「エイポーン軍曹、頭ではわかっているんです。艦橋に居ても飲み物を出す位しか出来ませんし。でも、お傍にいたら最悪弾避け位は出来るかなって。俺、筋肉もだいぶつきましたし......」

 

「やっぱりな。お前さん、ちゃんと提督の話を聞いてなかったろ?俺も詳しい事は知らないが、今回の作戦ではメンテナンス部隊の活躍が肝になるはずだぜ。そうじゃなきゃ、方面軍の上層部総出で最終確認なんかするはずなねえ。なんか言われなかったのか?」

 

正直、旗艦への乗船を禁止された時点で意気消沈して、ちゃんと話を聞いていなかったかもしれない。

 

「確か、ブルースの御守に成功したから、次は俺達の命を預けてやるって......」

 

「ほらな。お茶の用意も大事だが、命より大事なものはねえ。ちゃんと話してくれてるじゃねえか。お前さんには今更かもしれねえが、俺達がうまくメンテナンスを回し続ければ前線は楽になる。逆に下手を踏めば提督方を危険にさらす。お前の双肩に、同盟軍が勝利できるかが掛かっているといっても過言じゃねえ。どうだ?やる気が出て来たんじゃないか?」

 

「やる気が無かったわけじゃないですよ。ただ、少し気落ちしていたんです。ありがとうございました。もう一度、運用プログラムの演習をしてきます」

 

俺がそう言うと、軍曹は嬉しそうに肩を叩いてくれた。エイポーン軍曹の本職は衛生兵だ。ただ、指令艦のオペレーターが果たす役割は、衛生兵が行うトリアージに似ている。なので運用のサポート役としてメンテナンス部隊に参加している。新兵訓練のメディカル担当でもあるから、もともと顔見知りだった。陸戦隊もかくやという筋骨隆々の身体付きで、衛生兵ってよりレンジャーが似合うと思う。

 

既に帝国軍をキャッチした同盟軍は、先行していた4個艦隊からパランティア星域の外縁部を通り抜けて、アルレスハイムとの航路の中間地点にある小惑星ドラゴニアを目指している。たまたま発見された時、表面の影がドラゴンに見えたからそう名付けられたらしい。割り当てられたオペレーター席に座り、運用シミュレーターを起動する。メンテナンス部隊が担当するのは中破判定以下の艦だ。大破判定の艦は戦線から後退して工作艦のお世話になる。

 

メンテナンス艦は大型輸送艦の両舷に簡易ドックを取り付けたような艦型をしている。メンテナンスを受ける分艦隊が近づいてきたら、自分の担当するメンテナンス艦の状況を確認しながら、タッチペンでどの艦で補給するかを指示する。口頭で追いつく作業ではないから、モニター上で割り当てを触れば指示が完了する。その時に気を付けないといけないのが、ミサイルの残弾数と重傷者の受け入れ枠だ。これは各メンテナンス艦の状況を青⇒黄⇒オレンジ⇒赤で視覚的に把握できるようになっている。これの偏りが無いように指示するのが俺の役目だ。

 

『話を聞く限りだと、生産設備の効率向上に似ているかも』

 

そう言いながら、ボトルネックの活用法について書かれた本を貸してくれたのは、いつの間にか一緒に勉強する仲になった、コナー曹長の娘さんのサラだ。彼女は記念大の経済学部志望だから博学なんだ。話を聞いているだけで色々勉強になる。

 

さっきのボトルネックの話だと、俺の任務の中では、提督の時間とかが良い例かもしれない。艦隊司令以外の任務も多く抱えている提督は、決済する書類も多い。でも現場確認や訓練で不在にする事も多い。つまり限られた時間で決済を取らないと艦隊運営に支障をきたすんだ。だからこそ提督の手元に行く前に何回もチェックされる。

 

あと面白かったのがキャッシュフローの話だ。ビュコック家も農場を経営しているけど、世の中には黒字でも倒産する事があるらしい。利益が出ていても支払うべき時に資金が手元に無いと、倒産してしまうんだ。確かに利益が出ているからって給料は半年後とか言われたら困る。戦場で、遊兵を多く生み出してしまい、局地的な優勢を許してしまう感じにも似ている。

 

「でもサラには戦場には来てほしくないな。」

 

俺が勉強を意識したとどこかで耳に挟んだターナー提督は、自分で作ったと言う士官学校対策ノートを俺にくれた。それを見たサラは、何故か過去問を一緒に解きたがったし、たまに提督がしてくれる対策講義にも参加するようになった。このままだと士官学校にも合格しそうだけど、記念大はどうするんだろう。

 

「俺がサラに戦場に出て欲しくないと思うように。提督たちも俺にそういう想いを感じたんだろうな。確かに志願して一年足らず。身体付きは成長したけど、まだ殻を被ったひよこみたいなもんだし......」

 

でも、再会した時には胸を張ってお会いしたいし、どうせならトコトン役に立って見せよう。何度も繰り返して作業感を感じ始めていたシミュレーターを一回リセットし、真剣に取り組む。そんな俺を乗せた指令艦は、着々とドラゴニアに近づいていた。

 

 

『ねえ母さん。アレクと仲が良い女性兵っているの?』

 

『どうかしら?でも素直で皆から好かれているし、顔も悪くない。もう少ししたらアプローチをかける子も出てくるんじゃないかしら?』

 

『ええ~どうしよう。私、記念大はやめてエルファシル市立大にしようかな』

 

『ずっとエルファシルが任地とは限らないじゃない』

 

『そうだよね.....。どうしよう.....』

 

『実現できるかは分からないけど、士官学校にアレクを押し込めば良いんじゃ無いの?記念大の経済学部って、テルヌーゼン市立経済大学とキャンパスが合同になったんじゃなかった?』

 

『士官学校の対策なんて今からで間に合うかな?ねえ、ターナー提督は次席入学だったんでしょ?母さんから頼んで、対策ノートみたいなの貰ってよ』

 

『お優しい人だから力になってくれると思うけど、こういうのは本人がその気になるのも大事なの。そこまで言うなら母さん、提督と相談してみるわ』

 

そんな母娘の会話の結果が、今の俺の置かれた状況の遠因なのだが、そんな事を知る由もなかった。

 




と言う訳で、感想欄で予想に上がっていましたが、アレク君は友達以上、恋人未満のサラの画策で士官学校へ行くことになりそうです。

と言うか士官学校も出ていないし、士官教育を受けていないユリアンは、いつ教育を受けたのかとも思ったのですが、従卒とは言え司令部勤務だし、軍神並みの功績もあげているし特例なのかな?とも思いました。では!明日!

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