【原作年表】
宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦773 鬼教官の講義←ここです★★
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦773年 帝国暦464年 9月上旬
惑星テルヌーゼン 同盟軍士官学校
ウランフ候補生
「ムーア候補生、私の講義で余所見とは良いご身分だな」
「はい。いいえ教官殿。小官は予備資料の閲覧をしていただけであります」
「ほう.....。そうか。私は候補生ひとり一人が誠実であると信じている。だから確認する事はしない。ただし、任官した後にそれが通用するとは思わない事だ。上官と部下の関係になればひとり一人信頼に値するか見極める。少なくとも私はそうしてきたからな」
ビュコック教官に一喝されてムーアは極まりが悪そうだ。あの様子だと大好きなフライングボールのリーグ戦速報でも観ていたな。教官としても候補生が嘘をついたと明らかにしてしまえば何かしら処分しなければならないから敢えて見逃したという感じだろう。同期のムーアやパストーレは、代議員の親戚である事を鼻にかけて目に余る行動をすることが多い。中には見逃す教官もいるが。さすが鬼教官と言われるビュコック教官だ。この講義でそういう事は許さないと明確に意思表示された。
「さて、話を戻そう。今日の教材は『ドラゴニア会戦』だ」
そう言いながら教官が手元のタブレットを操作すると、講義室中央に設置された3Dモニターが起動し、小惑星ドラゴニアの宙域図が3次元で表示される。白と緑で補足線が追加され、自転方向や通常航路が示される。
「730年マフィアが主導した会戦のひとつとして有名な会戦だ。候補生の多くも一度は分析した事があると思う。帝国軍は赤、同盟軍は青で表示している。一度開戦から終戦までの流れを確認した上で、何名かに私見を述べてもらう。では、始めよう」
教官がそう言うと3Dモニターに表示された両軍が動き始める。本来ならアルレスハイム側から進出した際にスイングバイを開始しするポイントに遊弋した同盟軍。状況に戸惑うかのように、一度進軍を停止してから、帝国軍は意を決した様に進軍を再開した。長距離砲の射程に入り、砲火を交えながら同盟軍は後退、帝国軍は前進していく。それと同時に新たな補足線が表示された。帝国軍の索敵範囲でドラゴニアの影になる部分が判りやすく表示される。そしてその陰になる部分に同盟軍の増援が表示される。
一方で後退しつつ斜線陣を形成する同盟軍。そして帝国軍がドラゴニアに最接近したタイミングで、同盟軍が新たな動きを始める。分艦隊単位で、左翼方面に砲火を交わしながら進軍し、最左翼まで進むと後方へ離脱。そのまま艦隊後方のメンテナンス部隊で補給を受け、また最右翼から戦線に復帰する。ドラゴニアが邪魔になり、帝国軍右翼の艦隊展開に制約がかかるポイントまで引き込んだ辺り、戦術の妙を再確認する思いがした。
ただ、後退に違和感を抱かせない為とはいえ、自軍より2万隻近く多い帝国軍を相手に、計画的な後退戦を実行した先人たちの胆力にも畏怖を感じる。もし帝国軍が損害を無視して全軍突撃を実施していたら、食い破られていた可能性もあったはずだ。
こうして寡兵をうまく展開しながら帝国軍を押さえている間に、本来のパランティア側からの航路を突き進み、スイングバイのポイントで加速しながら、左舷ではなくドラゴニアに沿うように右舷に舵をとり、帝国軍後方に増援部隊が進んでいく。
挟撃が成功してから包囲までの展開も、帝国軍が気の毒になるほど見事だ。帝国軍の左翼後方から突撃した増援部隊は、そのまま帝国軍中央に痛撃を与えると右舷に舵を取り、帝国軍右翼の後方に展開。メンテナンス艦部隊から補給を受けた分艦隊が増援部隊の通過した穴を埋める様に展開して、挟撃から包囲殲滅へ陣形が変化する。そこからさらに数分、包囲の中で帝国軍が撃滅される様子が流れた後、時間経過が止まった。
「さて、では私見を聞いていこう。まずは.....。パストーレ候補生、述べよ」
「はい。やはりアッシュビー提督の艦隊運用の構想の偉大さが光るものかと。小官もこうありたいと思う次第です」
730年マフィアの代表的な存在であるアッシュビー提督の特徴は、大きな視野での作戦構想にあると私も思う。ファイアザード会戦ではあの長征一万光年もかくやという艦隊展開で挟撃を成功させた。ドラゴニアはそれを凝縮した一例とも言えるだろう。帝国軍を寡兵で待ち受けて引き寄せ、挟撃から包囲殲滅に至るまで思惑通りに運んだ。パストーレの意見は間違ってはいないが、ハイスクールの学生でも言える意見だ。
「うむ。ではウランフ候補生。私見を述べよ」
「はっ。小官としては寡兵で敵軍を引き受けるにあたって、艦隊司令達の能力や現場の努力に頼るのではなく、斜線陣からの全軍での機動戦術、メンテナンス部隊の配置に凄みを感じました」
「うむ。ちなみに私は当時メンテナンス部隊に配属されていた。無くなっていくミサイルの残弾、埋まっていく重傷者の収容枠。もうだめだと絶望しかけた時に勝利が確定してな。周囲の歓声でそれに気づいたのだが、一息つこうとオペレーター席を立とうとして気が付いた。腰が抜けて歩けない事にな。振り返れば圧勝だったが、後方のメンテナンス部隊ですらそんな状況だった事を添えておこう。では次に......」
『ビュコック教官は3年次の夏休み明けの講義は必ずドラゴニア会戦を題材にするからな。ちゃんと予習しておくとよい事があるかもしれんぞ』
候補生の私見を聞いていく教官を横目に、事務長として赴任されたシトレ少佐の言葉を思いだしていた。当時大佐だったビュコック教官が士官学校に教官として配属されたのが10年前。シトレ少佐はそう言うくくりは公式にはないが、ビュコック一期生といえる方だ。候補生だけじゃなく、民間人でも軍の胸章に詳しい人物なら、教官の胸章のひとつがレンジャー有資格者を示すものである事に気づく。
その資格の取得難易度を示すかのように、教官は士官学校に赴任してからすっと自主トレを欠かさない。誰が言い出したか、いつの間にか『鬼のブートキャンプ』と呼ばれ、毎年自主的にそれに参加し、その多くが脱落していくのが士官学校の恒例行事だ。私はしぶとく食らいついているし、シトレ少佐も、『懐かしいですな』と赴任されて以来、笑顔で復帰された。
もちろん苦しい事ばかりではなく、教官の伝手で割引してもらったウーラント商会の高級食材を使ったバーベキュー大会などもある。そう言う場にはOBもたまに参加する。参謀畑を進まれているグリーンヒル大尉や、入れ替わりで卒業されたボロディン・ホーウッド両先輩と知己を得たのもバーベキュー大会の場だ。
バーベキュー大会にはターナー商会で働いている教官の息子さんや、市立経大に進学した娘さんたち、そしてまだ9歳の双子の男の子も参加する。鬼からこんなキレイな娘さんが出来るのかとびっくりするのも、教官の妻であるサラさんを見て、『サラさんの遺伝子が強くてよかった』などと話すのもブートキャンプ継続組の恒例行事にもなっている。
話を戻そう。これは諸先輩方の私見も含めた話だが、ビュコック教官は意図的に何か苦難に立ち向かった共通の経験を末する場を設けるためにブートキャンプを継続されているのだと思う。『同期を持つなら730年マフィア』なんて言葉があるが、多くの候補生が彼らの輝かしい功績に目を奪われて、本質を理解しているものは少ない。
730年マフィアは確かにひとり一人が優秀だった。ただ、特筆すべきはその団結心と信頼関係だ。ファイアザード会戦でも、ドラゴニア会戦でも、確かに戦史に残る勝利をあげられた。だが、アッシュビー提督の構想を実現し、あらゆる可能性を検討し、対策を立案した僚友がいなければ、彼の構想も絵に描いた餅だし、一歩間違えば大敗していた可能性もあった。
ブートキャンプが自己鍛錬の場だけでなく、ブートキャンプに耐える経験をした人物たちの顔つなぎの場としての機能を有しているのも、結局は信頼できる軍人を、先輩後輩関係なく見つけろと言う意思なのだと思う。そしてそれはブートキャンプに限らない。試験対策なり、シミュレーターで切磋琢磨するなりなんでもよいのだ。もっとも候補生からみても甘く言って過酷なブートキャンプ以上の連帯感は生まれないだろう。私自身、同期のムーアやパストーレより、シトレ少佐たちに親近感を感じる位だ。
『キツイかもしれんが、ブートキャンプは頑張れ。きっとウランフの宝物になる。それに、本当は教官が一番欲しかったものを得られる場かもしれんぞ』
シトレ少佐の言葉を思い出す。15歳で早期志願し、ドラゴニア会戦に一等兵として参加した教官は、翌年士官学校に合格し軍歴を大きく転向した。ただ、実戦経験があり、当時のターナー中将の従卒だった事もあって、同期の中では浮いた存在だったとも聞く。成績もよかったしレンジャー資格も持っていた彼は、同期どころか先輩から見ても格上の存在だった。反発する者や迎合する者はいても、信頼できる僚友足りえる存在は、遂に現れなかった。
その傾向は、士官学校卒業後にさらに強まる。第2次ティアマト会戦の勝利で昇進したターナー元帥の補佐官として軍歴を始め、長年宇宙艦隊司令長官の地位にあったジャスパー元帥や、統合作戦本部長だったファン元帥を始め、730年マフィアの面々から直々に薫陶をうけた。
多くの候補生は、教官をどこかで見た記憶があるはずだ。統合作戦本部長や宇宙艦隊司令長官の秘書官として、広報活動にも参加していた教官には私にも見覚えがあった。それを抜擢と捉えるか?ひいきと捉えるかは人ぞれぞれだが、防衛戦争を圧倒的優勢にした同盟軍では実戦の機会が減り、教官が実力を示す機会は少なかった。それもあってひいきと判断した人物も多かったようだ。
『最近の新任士官はたるんどる。アレク、お前が行って叩き直してこい。宇宙艦隊司令長官になる頃には、帝国軍はまた押し寄せてくるぞ。当てになる連中を育てておけ』
そう言ったのは、私の中では財務委員長という印象が強いターナー元帥だという説と、宇宙艦隊司令長官だったジャスパー元帥だったという説があるが、36歳で大佐、宇宙艦隊司令本部の参謀のひとりだった教官は、主任教官として士官学校に赴任する。3年後に准将に昇進し戦略研究科の学部長に、更に3年後に少将になり副校長を兼任した。数年前から宇宙艦隊司令本部に戻り、艦隊司令になると言われている。
『ウランフさん、父の旗下になる事があったらよろしくお願いしますね。厳しい人だけど、優しい人でもあるんです』
国葬だったため士官学校の候補生も動員されたファン元帥の葬式で、教官の次女、レベッカ嬢から言われた言葉を思い出す。『喪服の女性は魅力的に見える』とはだれの言葉だったか。いつも以上に美しく見えた彼女に、思わず承諾の旨を回答していた。
教官に恩返しができて美しい女性の願いがかなえられるなら、私自身も本望だ。もっとも旗下に呼んでもらえるか?という問題が先にあるが.....。後に勇将として多少の名声を得、宇宙艦隊司令長官の婿のひとりになる私の候補生生活は、こうして過ぎて行った。
という訳で、原作では同盟軍でも勇将と評されたウランフ視点でドラゴニア会戦の答え合わせをしてみました。察しの良い方は気づいているかな?レベッカは某作品でニュートの愛称で呼ばれていた人物から引っ張りました。ニュートって響きはカワイイけど、トカゲって意味らしい。妹をトカゲと呼ぶ兄。宇宙開拓者の生活は楽ではないようです。
これで4章はおしまいです。明日は章末恒例の老提督との邂逅をお送りします。年代がジャンプするのでご留意くださいませ。
『緊急企画 なぜ喪服の女性はセクシーに見えるのか?」
ウ「なんだシュテファン。そんな事も知らんのか?ビジネスマナーなんかよりもっと楽しい事を教えてやるべきだったな」
フ「シュテファン君。悪い大人に感化されてはいけないよ」
ウ「ファン、何を堅物ぶっているんだ。葬式は厳粛に行われるべき儀式。だからこそ、そこで不謹慎な行為を犯すのは、タブーを破る快感がある。お前さんも良い大人なんだ。これ位、知っておけよ」
フ「ウォリスの自称恋愛体質も先が見えたな。むしろ喪服が「自分の死」を連想させるからだ。死を意識するからこそ『種の保存』の本能が刺激されるのだよ」
ク「シュテファン、こっちにいらっしゃい。大体男の子相手に何を話しているんです。喪服だなんて縁起が悪い。それでも軍人ですか!」
ウ&フ「「面目ない」」
シ「!!(母さん最強)」
※プライバシーに配慮し頭文字のみでお送りしました。えっ、男性陣の名前はフルネームで出ている?おかしいなあ。では!明日!