宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦742年 帝国暦433年 6月中旬
アムリッツァ星系 惑星クラインゲルト
クリストフ・フォン・ケーフェンヒラー
「シュタイエルマルク提督、軍事に関しては私は素人です。ですが、この基地の効率的な運営には地域経済とのバランスも必要なことはご理解頂けるでしょう?その為にも、軍事宇宙港の民間利用、及び補給基地の倉庫の一部分の民間利用。どうしてもご納得いただけないなら基地敷地のゲート付近に民生用の倉庫の建設を許可頂きたいのです」
「まったく、ケーフェンヒラー殿の気迫にはいつも押されるな。いっその事、計画段階から会議に加わってくれ。民生用の倉庫も基地敷地内に作ろう。ゲート付近に倉庫とは言え中層の建物を立てれば警備に不安が残る。全く、内務省の地方自治課局の職員は皆そうなのか?」
「今まで辺境星域にはインフラを整える予算がありませんでした。この補給基地が辺境における地域開発のモデルになるかもしれないのです。軍務省との共同事業となれば、予算もつきやすくなるでしょう。我々としても必死なのです」
本心を吐露すると、補給基地建設事業の総責任者でもある提督は苦笑された。だが内務省地方自治局にとっては文字通り正念場だ。シャンタウ星域では一定の成果を出せたものの、多くの辺境惑星は予算が付かないまま放置されている。アムリッツァだけでなく、警備哨戒を考えれば数か所は補給基地の新設の余地はある。
「まったく、小官は軍に奉職するつもりだから良いが、卿は男爵家の跡取りだろうに。私には経験がないが、結婚したての新妻を放り出して帝国領の最果てまで出張るとは卿も仕事人間だな。むろん妥協できぬ事もあるだろうが、しっかり相談して進める事は約束しよう」
「ありがとうございます!」
提督に礼を述べて、旗艦ヴァナディースを後にする。文字通り帝国領の最果てであるクラインゲルト領には、人口自体が少ない。基地建設の本部は急造した人造湖付近に着陸したシュタイエルマルク提督の旗艦ヴァナディースだ。地方自治局の職員である私達は領主であるクラインゲルト子爵のご好意で館の一室を提供されたが、作業員の多くは郊外に降下した戦闘艦に寄宿している。
正直、私は旧式の戦闘艦の可能性にも注目していた。インフラを整える際に予算が掛かるのは道路や水道、それに電気だ。退役した旧型艦の武装を外し、惑星に降下させればそれだけで発電所に早変わりだ。装備更新後にスクラップにするより有効活用ができる。軍としても退役艦の利用法があるなら装備更新費を請求しやすくなるのではないか?そんな事を考えていた。
「新婚なのは確かだが、この事業の成否で辺境星域の未来が変わる。理解してくれるはずだ」
婚約していた男爵家の令嬢との結婚式を終えた後、私はこの補給基地の新設のサポート班の責任者として赴任した。内務省地方自治局は責任過多、予算過少な部署だ。そこで一定の成果を出した私は、よく言えば評価されたし、悪く言えば目を付けられた。
人事的には抜擢だが、軍部主体の事業に後乗りする形だ。省庁の中でも屈指の影響力をもつ内務省ではむしろハズレの任。それでもかまわない。シュタイエルマルク提督は前評判では偏屈な戦術家だったが、会って話せばちゃんと理解を示してくれる。
「すぐにとは行かないだろうが、放棄されたままのこの荒れ地が、いつか一面小麦畑になる。誰かが信じなければ、成る物もならない。私が信じなくて誰が信じるのだ」
硬化剤を注入しただけの砂利道を僻地仕様の4輪駆動車で走りながら私は呟いた。残存兵を含め十万を超える労働力もあるのだ。シャンタウ星域での日々に比べたら、余程希望が持てる。そう自分に言い聞かせながら車を進める。
私に同意するかのように良い風が車内を吹き抜ける。帝都では味わえない妙な解放感。それだけが自分に言い聞かせなければ萎えてしまいそうな任をおくる日々の私の救いだった。数か月後に補給基地は完成するのだが、それに合わせて妻から離婚を希望する旨の手紙も届くことになる。
宇宙暦742年 帝国暦433年 8月中旬
惑星テルヌーゼン 市立競技場
アレクサンデル・ビュコック
「兄さん!イケー!」
「シュテファン!そこよ~!!」
士官学校に慣れたかと思えば夏季休暇だ。帰省する事も考えたが、故郷のバラスまで往復すれば、それだけで夏休みが終わってしまう。ユルゲンさんやタイロンさんからビジネスの話を聞いたり、サラと特別講義を聴講したり、シュテファン君に誘われて一緒にトレーニングしたり.....。
士官学校に入ったらもっと殺伐とした日々かと思っていたけど、テルヌーゼンでの生活は予想に反して学園ドラマの様な日々だ。これでいいのか?とも思うが、提督を始め、同盟軍が守っている物のひとつに、後方での平和な生活もあるのだと思うと、今だけはそれを楽しんでも良いのではとも思う。
「もう。アレクもちゃんと応援しなさいよ!」
「サラ姉さま。アレクさんはまだ観戦に慣れていらっしゃらないだけです。まずは雰囲気を楽しんで頂けば問題ありませんわ」
そんな声を聞き流しながら、シュテファン君の動きを目で追う。エースではないがとにかく視野が広い。アシストはチーム最多だし、インターセプトも良く決める。それにフォローがとにかく早い。上に立つ素養の様なものをしっかり持っている。それだけでも彼が提督の息子なのだと思った。
そして長女のエリーゼ。才女なんて言葉があるが、この娘はそれが霞むくらい優秀だ。今の言葉で分かる通り、人の状況を読み取るのがうまいし、大人の話をなんとなく聞いて理解している。クリスティンさんやサラを始め、お屋敷に出入りする面々には経済系を専攻する人物が多い。それもあるのだろうが、言葉の節々から基本的な経済学を理解している雰囲気がある。
『兄さんが羨ましい。私はチームスポーツが苦手だから......』
あれはバーベキューの時だったか?フライングボールの話題で盛り上がっていた時にエリーゼがこぼした一言だ。シュテファン君も優秀だが、どちらかと言うと秀才タイプだ。文武両道を地で行っているが、俺は深夜まで決して楽じゃない練習を終えた後に勉強している事を知っている。
『ターナー家の長男として、エリーゼの兄として相応しい存在でいたいですから』
シュテファン君は苦笑しながらそう漏らした。ビジネスでも成功をおさめ、同盟の生きる英雄のひとりでもある提督を父に持つだけでもプレッシャーだろう。一つ違いの妹がさらにここまで優秀だと、心労が更に重なるのではないだろうか。
チームスポーツが苦手なのも、彼女が分かってもらうためにどう説明したらよいか分からないからだと思う。説明されなくても何となく光景を見ていれば要領を得てしまうのだ。軍なら活かせるか?とも考えたが、全幅の信頼を置いてくれる将官の下で参謀役ならとも思った。でも730年マフィアですらあれだけ実績を示しながらも嫉妬の対象だった。女性のエリーゼなら猶更かもしれない。
『ブッーブッーブッー』
前半の終了を知らせるホイッスルが鳴る。シュテファンが所属するメープルヒル校がかなりリードしている。無重力下を再現した環境で行われるフライングボールは、見ごたえもあるし攻守の切り替えも早い。それだけに一つひとつのプレーに切り替えの早さが求められる。この点差はひいき目かもしれないが、シュテファンが決めたインターセプトと素早いフォローの積み上げの結果のようにも感じた。
「兄さ~ん!」
「シュテファン!ナイスゲーム!!」
横で歓声を上げる二人の視線の先を見るとシュテファンが手を振っていた。さすがに手を振るのは恥ずかしい。俺は視線を向けながら右手の親指を立てた。認識するのは難しいはずだが、シュテファンが笑顔になって右手を上げて親指を立ててくれた。あいつ、本当に視野が広いな。後半もメープルヒル校は試合を優勢に進めていく。そんな状況を観戦しながら、俺はふと思った。
「普通はこうやって切磋琢磨するんだな」
勝敗がはっきりつくのも良いし、一発逆転はまずない。地力の差が積み重なるスポーツだから地道な努力なしでは、余程の才能がない限り勝てない。それにチームスポーツだ。ひとりが突出しても数で潰されてしまう。チームで努力しないと勝てないと言う点で、軍に似ているとも思った。
最前線ではなかったとは言え実戦経験があり、新兵訓練課程も修了した俺は、士官学校では正直異質な存在だ。教官の助手にも任命されたし、時の人でもある730年マフィアの傍にいた事もあって手は抜いていない。だが、死を覚悟するレベルでの訓練なんて大半の候補生には無理だ。それに環境だけ切り取れば恵まれたとも言える。媚びてくる奴と反発する奴が半々くらいだが、正直相手にしていない。
『ブッーブッーブッー』
そんな事を考えているうちに後半が終わる。結果は大差でのメープルヒル校の勝利だ。トレーニング仲間として嬉しく思うが、勝つべくして勝った。そんな試合だった。
「もう。ちゃんと応援しなきゃダメじゃない!」
「サラ姉さま。アレクさんは今は休暇中なんです。どうせ卒業したら父様たちにこき使われるんですから、今は温かく見守りましょう」
エリーゼがドキリとさせる言葉を漏らした。前言撤回だ。俺は君の様な参謀はほしくない。当たってほしくない予言ばかりする参謀なんて抱え込んだら心労が増える。クリスティンさんはヴェルナーのスイミング大会の方に行ったはずだ。結果次第で褒めるか?慰めるかしないといけない。
素直で笑顔が可愛いヴェルナーにはサラも夢中だが、俺も弟が出来たようで可愛がっている。現実逃避に似た思考の切り替えには成功したが、エリーゼの予言は俺の頭の片隅にずっと残っていた。
という訳で精勤が報われないケーフェンヒラーと、先に実戦を経験してしまったからこそ学生生活にどこか違和感を覚えるアレクでした。
ケーフェンヒラーに関しては、当初は悪妻って印象でしたが、血を繋ぐという意味で子作りは最重要課題だったはずで、それを放置して臣民の生活向上に励む夫と言うのも、義務を果たさない悪夫になるのかな?とも感じます。
辺境の臣民の生活向上なんて、首都星では話題にもならないでしょうし、そこに伯爵家3男で成功した若手建築家とどこでかは知りませんが知り合うんですよね。家格も上、仕事の実績も分かりやすい良物件で自分の事もちゃんと見てくれる。妻側からしたら乗り換える気持ちも分からなくはない。でもノーマンはケーフェンヒラー爺さんが好きなので、出来れば支えて欲しかった......。とも思います。では!明日!