宇宙暦640 ダゴン星域会戦
宇宙暦669 コルネリアス1世の大親征
宇宙暦682 フェザーン成立
宇宙暦696 シャンダルーア星域の会戦
宇宙暦720 ★第一話スタート
宇宙暦726 730年マフィア 士官学校へ入校
宇宙暦728 ジークマイスター亡命事件
宇宙暦728 フォルセティ会戦
宇宙暦730 730年マフィア 士官学校卒業
宇宙暦738 ファイアザード会戦
宇宙暦742 ドラゴニア会戦
宇宙暦745 第二次ティアマト会戦
宇宙暦751 パランディア会戦 ミヒャールゼン提督暗殺事件
宇宙暦765 イゼルローン要塞完成
宇宙暦767 ヤンウェンリー誕生
宇宙暦770 シェーンコップ 祖父母と亡命
宇宙暦776 ラインハルト誕生
※星間図は『銀英伝 星間図』で画像検索すると出てくる帝国軍が青、同盟軍が赤で表現されている物を参照しています
宇宙暦744年 帝国暦435年 4月中旬
惑星テルヌーゼン ターナー邸
アルフレッド・ローザス(大将)
「このワインは.....。また気を使わせてしまったな......」
「気にするな。逆の立場なら、お前がこうしただろう?それだけの話だ」
連れ添って14年、出会ったのは初等学校だから26年。隣にいるのが当たり前のようになっていた妻を失った私は、自分が思っていた以上に打ちのめされていた。このままでは軍務に支障をきたすと翻意を促すブルースに今回ばかりは気持ちを押し通し、休職させてもらった。
倒れた直後にカークを始め、クリスティンさんの手配で子供たちも病院に駆け付けた。だから一人で逝かせる形にはならなかったが、自分が間に合わなかったことは心に銛が刺さった様にズキズキと痛む。
流石に子供たちだけでシルバーブリッジの官舎に置いておくわけにもいかない。普段から家族ぐるみの付き合いをしている僚友達の伴侶たちが協力を申し出てくれたが、官舎を引き払い実家のあるテルヌーゼンに居を移す判断をした。
「子供たちの件もすまんな。カークの様な存在を支える志を立てたというのに甘えてばかりだ」
「気にするな。そもそもメープルヒル校の時代からフレデリックだの、ウォリスだのヴィットリオだのと頭痛の種に囲まれていた。その上、ブルースだろ?そう言う統計があるとしたら、平均の10倍は苦労を背負いこんだんだ。こういう時期があっても誰も文句は言わんさ」
軍人として前線に赴いている私は、誰がどう言おうと戦死の危険が付きまとう。妻の薫陶もあって子供たちもそれを理解はしていた。それだけに亡くなると言う想像をした事が無かった妻の死は、子供たちにもショックだったようだ。
カーク夫妻の勧めもあって、3人の子供たちはターナー邸で生活している。そして土曜日の昼から夕方にかけて、庭でのバーベキューや燻製造りなどを行いながらその週にあった事を聞く。それからカークと一緒に少し酒をたしなみ、ローザス邸に帰る。そんな生活をしている。
「両親に似て良い子達だ。それにうちにはサラ君もいるし何だかんだとタイロンも入り浸っている。アレクも出入りしているしな。距離感を確認しなおす意味でも今はこのままで良いだろう。復帰するにも、転職するにも保護者役が近くにいる必要はあるんだからな」
「そうだな。私からも折を見て小遣いを渡しておかないといけないな。それにしてもテルヌーゼンもだいぶ変わったな。子供の頃は士官学校が特色だったが、人口の増加でその色も薄まった。スーツを着て出歩けば誰も私だと気づかないしな」
「ふふ。アルフレッド、サングラスにスーツはほどほどにな。『8人の無頼漢』の大ヒットで、採寸したスーツに濃い目のサングラスをかけるのが流行っているらしいぞ。もっとも最近ではミラーグラスが流行り始めたらしいが......」
「それは初耳だが、確かにミラーグラスをかけている市民が増えていた気もするな。それにしてもあの時は、こんなことになるなんて思いもしなかった。流行りが何から生まれるかなんてわからないものだな......」
自然に少しだけ笑えた。笑ったのはカトリナを失ってから初めてかもしれない。そう言えば昔から頼んでいるテーラーでもだいぶ選べる生地が増えていたし、サングラスも記憶よりだいぶ種類が増えていた。
「男性陣には苦労をかけたかもしれないな。スーツが流行った事で女性陣の見る目も肥えた。誰でも着ればそれなりに見えたのに、最近では採寸したものでないとシルエットが醜いとか、カフスが派手過ぎないか?靴は安物じゃないか?ちゃんと磨かれているか?なんてのがモテるポイントらしいぞ」
「女性陣はいつだって男性に厳しいものだが.....。スーツを流行らせた原因の一人としては、申し訳ない気もするな」
「豊かになった証拠でもあるんだろうな。女性陣からすれば化粧に装いと気合を入れたのに、男性陣が普段着.....。なんてのがご不満だったんだ。スーツを着ればそれなりになるが、それでも女性の準備に比べたら楽だろうからな。もっと気合を入れろという事だろう」
結婚してからはそうでもなくなったが、付き合っている頃は私も何かと妻にリードしてもらったものだ。カークの配慮で一緒に通った帝国亭でもエスコートが成っていないとよく怒られた。
『食べるペースを合わせないとそう言うつもりはなくても急かされている気がするわ。美味しい料理も大事だけど、会話も同じくらい大事なの。料理に夢中になり過ぎないで』
そんな事を言われた記憶がふと蘇る。クリスマスに手品を披露した時も、自分以外には見せるなと言われた。後から知った事だが、直前の人気バラエティで手品の特集があり、ネタばらしを妻は見ていたようだ。
「少しサングラスをかけておけ。男同士でハンカチのやり取りなど様にならんな」
カークにそう言われて、瞳から涙が流れている事に気づいた。ハンカチを受け取り目元を拭ってからサングラスをかける。既に夜になる時間帯。サングラスをかければ視界は真っ暗になるが、むしろそれが良かった。ワインをちびりちびりと飲みながら雑談を続ける事2時間。私はカーク夫妻と子供たちに見送られ、家路についた。
宇宙暦744年 帝国暦435年 4月中旬
惑星テルヌーゼン ターナー邸
クリスティン・ターナー
「よし!子供は寝る時間だぞ~」
そう言いながらヴェルナーを肩車し、セシリアちゃんを抱っこした夫が玄関へ戻って行く。一時期は焦燥した様子が強かったアルフレッド君もだいぶ落ち着いて来たし、預かっている彼の子供たちもこの生活に馴染んでくれている。
「シュテファン、良い判断だ」
視線を向けると玄関のドアをシュテファンが開けている。
「クリスティン、君も体を冷やしちゃいけない時期だ。早くおいで」
玄関で2人の子供をゆっくり下ろした夫は、息子とドアの抑え役を交代し、私に声をかけてくる。少し足早に玄関に進み、夫に迎え入れてもらう。気遣う様に腰に手を回してくれる夫。統合作戦本部次長職を兼任してから夫は週末を自宅で過ごすようになった。そういう機会も増えたから私のお腹には4人目の命が宿っている。
「アルフレッド君も一時期よりは落ち着いたようで安心しました」
「うん。まぁ、あいつは自分の為というより誰かの為に頑張る方が動機付け要因になるタイプだ。もう少し休めばそれを自覚して立ち直ってくれるさ」
知り合った頃からアルフレッド君は周囲に配慮を欠かさない人だった。そんな彼にカトリナさんはもどかしい思いを感じていた時期もあったようだけど、彼女が思いを寄せたのもそういうアルフレッド君の美点があったから。でも私が彼女だったらやっぱりやきもきしたと思う。意中の人が自分に配慮してプロポーズを迷っているなんて、やきもきするだろうから。
「大事にしないといけない時期に負担をかける形になって済まないな」
「いいえ。子供たちは一緒に遊んだ仲ですし、皆良い子ですから」
妊娠するのは4回目。何となくそんな気がして産婦人科の診察を受けたのが1月の末頃。それを知った夫は『ありがとう。これで室長に名付け親になって頂ける』と大喜びだった。士官学校を卒業して最初に任官した部署がジークマイスター室長の分室だったそうだ。機密もあるので詳しくは話してくれなかったが、だいぶお世話になった方との事だった。
初めて我が家にお迎えする時は緊張したが、物静かな初老の男性でスーツをきれいに着こなし、軍人だと知らなければ財界の名士のような雰囲気をされていた。父と同じように子供たちとのバーベキューを楽しんで頂けた。もっとちゃんとしたおもてなしをすべきではとも思ったが
『美食という意味では食べようと思えばどこでも行けるんだ。我が家らしいおもてなしの方が喜ばれるよ』
夫の言葉にしたがったが、ヴェルナーが室長に肩車を要求した時は正直どうしたものかと思った。笑顔で孫をあやすように肩車をする室長を見て、なぜか昨年、ウォリス君の次男の誕生の報を待っていたかのようにお亡くなりになったグレック会長の顔が頭をよぎった。
会長も私達と接する時は優しい祖父のような印象だったが、ビジネスの場では別の顔を持っていただろう。室長しかり、夫しかり。戦士たちが羽休めに訪れる我が家が休息の場として相応しいものであれば良いのだけど.....。
「クリスティン。何も気にする必要はないさ。子供はまず家庭で社会を学ぶんだ。年長者としてタイロン、アレク、そしてサラ君。同世代もいるし赤ん坊も生まれる。我が家は環境としてはかなり良いと思うよ?」
表情に出ていたのか?夫は私がなにか懸念している事は察してくれたみたい。少し方向がズレていたけど、そんな事は雑事だ。夫の左腕を抱きしめながら階段を上り寝室に向かう。留守がちだった夫との時間が増えて喜んでいるのは子供たちだけではないのだから.....。
「そう言えばサラ君の件はどうするんだい?人生の進路を決めるのは少し早い気もするが、アレクと結婚するつもりなんだろ?」
「ええ、良い子ですし記念大の経済学部卒なら人材としても申し分ありません。断る理由は無いと思うのですが......」
「そうか。二人の卒業は3年後だ。軍の主要な任地にはウーラント商会は進出しているし問題ないだろう。私からもユルゲンにお願いしておくが、クリスティンからも口添えしてやってくれ。もし仲人を頼まれたら受けるつもりだが、良いだろうか?」
「もちろんです。式は帝国亭でなさいます?それとも蒸留所の会場にされますか?」
「本人たちの意向を確認してからだな。タイロンに資産運用を依頼している様だが、新婚生活は何かと物入りだ。多少は支援してやりたいが構わないか?」
「当然ですわ。それに士官学校と記念大の卒業生が出席するんですから宣伝効果も見込めます。むしろ報酬を出したい位です」
「君も一人前の商売人になったな」
そんな話をしながら二人の時間が過ぎていく。妊娠中だからお酒は控えているけど、それでも私にとっては世界で一番満ち足りたひとときだ。こんな日々がずっと続いたらと思わないと言ったら嘘になる。でもさすがにそれは望みすぎだろう。
夫は近いうちに前線に戻る。だからこそこのぬくもりを今のうちに噛みしめておこう。肩を抱き寄せる夫のぬくもりに意識を向けながら身体を預けゆったりと過ごす。妙に子煩悩な夫の事だ。お腹の子が生まれれば、そちらに意識を向けてしまうだろうから。
カトリナさんの件は判断に迷いましたが原作踏襲としました。補佐役として苦労を重ねていたローザスが妻に先立たれるのは凄く印象に残っていましたし、老提督との邂逅編との整合性もあったので。では!明日!