美醜逆転アズレン世界における色物系Yongshiber SHIKI-KAN☆TV 作:SHIKI-KAN
【……チチュン ……チチュチュン ……ホーホーッホッホー】
「シキカン。おはようございます、です。とても良い朝、です」
「シキカン! おはようなのだ! もう朝なのだ! さっさと起きるのだー!」
「……2人トモ、オハヨウ、ゴザイマス。 ……昨日ハヨク、眠レマシタカ?」
「はい、シキカンのおかげでぐっすり眠れた、です。綾波は今日も、力が
「雪風様も良く眠れたのだ! 昨日はゲームしてる途中からの記憶がないけど、こんなにスッキリしてるなら多分平気だったのだ! 多分途中で寝ちゃっただけなのだ!」
「ソレハ、良カッタ、デスネ」
……俺は良くないけどね。アレから結局2人とも朝まで両腕離してくれなかったしね。昨日の夜はずっと心の闇さんと闘ってたからね。時間の体感感覚を1000倍に伸ばされた上で、心の闇タワー100階層クリアするまで開放されなかったからね。あの野郎、最後はチートまで使いやがって。俺が心の管理者権限持ってなかったら大変な事になってたぞ。心の中でも体力は消耗するんですよ。心の闇さんはいい加減に大人しくしてて下さい。
「……じゃあ、雪風様達はそろそろ仕事なのだ。シキカン、サラバなのだ。 ……また、遊びに来ても良い、のだ?」
「……適度にね? 2人と遊ぶのは楽しいけど、やっぱり適度が大事ですよね? 一週間に2、3回くらいでお願いしますね? 俺も配信とかあるしね? 連絡とかはいつでもして大丈夫ですからね?」
……綾波さんの時はいつでも来て良いよって言ったけどな。こんなに体力を使うとは思わなかったわ。心の闇を完全討伐するまでは休業日が必要だわこれは。
「……わかったのだ。 1週間に2、3回でも、会えないよりは全然良いのだ!」
「……綾波も、シキカンがそう言うなら、そうする、です」
「……2人とも、ありがとう。 ……じゃあ、いってらっしゃい!」
「……いってくるのだー! シキカンも配信とかいろいろ頑張るのだー!」
「いってきます、です。 ……綾波も、頑張ってくる、です。そして、また……」
……行った、か。疲れた。
……今日の明石さんとの歓談は夕方からか。それまで寝ておこう。なんかお迎えの時間を指定したら重工堂の社用車が迎えに来てくれるらしいし。どれだけVIP待遇なんだよ。
……それでは、寝ます。シキカンは、夢の中でも元気だよ、多分。おやすみぃ。ふぁぁ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【ドゥウン!ドゥウン!】
……!?!?!?!?
なにごと!? 空襲!? 砲撃!? セイレーン!?
『シキカン様ー!? シキカン様のお宅ですかー!? 重工堂の迎えの者でーす! いらっしゃいますかー!?』
「い、いまーす! 準備するので少しお待ちくださーい!」
うわー! もう午後2時じゃん! 俺が指定してた迎えの時間じゃん! 寝すぎちゃったじゃん! ていうか重工堂のお迎え係は鬼神さんかよ! ノックの音が爆撃だよ! 良く扉壊れなかったなあの音で!
……すぐに支度しないと。とりあえずシャワーを3分で浴びて、それからそれから。
……ていうか社長との歓談って何を着てけば良いんだ? スーツ? 紳士服? そんなの持ってないぞ?
……まあ良いか。明石さんならきっとわかってくれる。俺の配信をいつも観てるんだし。いつもの服で大丈夫だろう、多分。
変に着飾ると、こっちの世界の常識が分からないせいで逆に失礼になりかねない。普通普通。ノーマルが一番。
……よし、猛スピードで支度したぞ。完全に手ぶらだけど。スマホしか持ってないけど。でもこれ以上お迎え係りの鬼神さんを待たせると危ない。重工堂へ案内される前に地獄の底へ案内される。扉を開けた瞬間に
「た、大変お待たせいたしましっってふぉあ!?」
な、なんじゃこりゃあ!!!
迎えの車ってこれ!? これが車!? 和風だな!? 平安京の馬車みたいな形だぞ!? そして車輪に顔と火が付いてますけど!?
……あ! あれだ! なんか見た事あるぞこれ!
火車だ! 妖怪の火車だ! 火車が車輪になっている! 鬼神さんに合わせてるせいで規模は3倍くらいデカいけど! そして外見もグロイけど!
『さあ、シキカン様。どうぞこちらへ、お座りください』
「アッハイ。ドウモー」
……うわあ。中も地獄だ。地獄絵図だ。ていうか車内に地獄絵図が書かれている。逆に芸術性を感じる。
椅子も変だぞ? ぞわぞわするぞ? 座るだけでSUN値が削れる感触だぞ? でも座らないと危ないぞ? これがこちらの世界のVIP車ですか? でしたら俺は結構ですけど? リアカーとかで大丈夫ですけど?
……うわー。飛んだよ。空飛んだよこれ。縦横無尽に飛んでるよ。領空権大丈夫かよこれ。揺れないから良いけどさ。飛ぶなら車輪の意味あるのこれ? 完全にただの飾りじゃん。
これならすぐ重工堂に到着しそうだな―。もっと移動に時間かかると思って、早めに迎え指定しちゃったけど。まあ早めに到着する分には良いか。時間まで重工堂の社内見学とかすれば。
取り合えず今はこの火車の移動に耐えよう。移動は快適なのに精神は快適じゃない。なんだこれ。はよ目的地に着いて下さい。お願いします。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『到着いたしました。こちらが重工堂本社です。長時間お疲れ様でした』
「アッアリァトゥゴザィアシァー」
そんなに長時間でも無かったけどね? 時間としては20分とかだったけどね? 精神的には長かったけどね? 俺的には今後はもう少し控えめなお車をご用意していただけると助かりますけどね?
……そしてここが重工堂の本社かー。なるほどねー。
……なるほどねー。
普通のビルを想像してたんだけどねー。そんな事は全然ないですよねー。
なんだろう。ラスボス? ラスボスとかが住んでそうですね? なんで螺旋状になってるんですかね? なんで黒塗りなんですかね? なんで上の方で稲妻が光ってるんですかね? 流石は大企業のゲーム会社ですね。発想が奇抜ですね。俺には理解できませんね。
……もう既に嫌な予感しかしないんですけど。本当にここで宴が開催されるんですかね。宴と書いて
……でも取り合えず、ここまで来たんだから入ってみるか。一人で家に帰れる気がしないし。帰りも送ってもらわないと。今度は普通の車で。
……うん。入口は普通のガラスの自動ドアだし。中はきっと普通だろう。では失礼しまーす。
【……ズ、ズズ、ズゴゴゴゴゴゴゴ】
ほらもうラスボスじゃん。ラストダンジョンじゃん。ガラス張りの自動ドアが開く音じゃないもん。なんで自動ドアの形なのに観音開きなんだよ。そしてどこから鳴ってるのこの音は。演出か? 演出なのか?
……そして入口から歩いて10歩でラスボスだよ。受付の奥にラスボスがいるよ。受付服着た鬼神さんが居るよ。にこやかな笑顔らしき狂気の
……はぁ。あの鬼神さんに話しかけないと先に進めないのかあ。いやだなぁ。でもこの世界にいたら鬼神さんとは切っても切れない縁になるしなぁ。……話しかけるかぁ。
幸い今の立場はこちらが上だし。変な事にはならないだろう。俺は今VIP待遇だし。何故か知らんけど。
よし取り合えず、受付鬼神さんの所に行こう。そうしよう。
『いらっしゃいませ。株式会社重工堂へようこそお越し下さいました。お客様は本日、どのような御用件でしょうか? アポイントメントはお取りいただけておりますか?』
「アッ、ソノ。えーっと。重工堂の取締役さんから、この様なお手紙をいただいたのですが。会場はこちらで合っていますでしょうか?」
『取締役からのお手紙、ですか? ……少々拝見させていただいてもよろしいでしょうか? ………拝見いたしました。担当の者に連絡いたしますので、少々お待ちください』
「は、はい。よろしくお願いします」
うわー。鬼神さんがめっちゃ丁寧に対応してくれてる。鬼神さんなのに。
恐らく美人な女性受付鬼神嬢さんなんだろうけど、声が凄いダミ声なせいで全然わからん。見た目も全然わからん。男女の区別がつかん。なにその声は。それでお静かな物腰のつもりですか? 喉の奥に変声器でも入っているんですか?
『……もしもし。こちら受付のキ・シンです。
あれ? なんか明石さんに会う前に
……まああれかな? 明石さんの秘書みたいな感じかな? 受付鬼神さんも蒲部長を通して明石さんに連絡しようとしてたし。
『お客様。大変申し訳ございません。本来は社長の赤茶へ、直接お取次ぎするべきなのですが。 ……当社の蒲の方が、どうしてもお客様にお会いしたいと申しまして』
「い、いえいえ! かまいませんよ!
『そう言っていただけると助かります。 ……では、あちらの階段をお上がり下さい。蒲の部署はあの階段からしか、向かう事が出来ませんので。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします』
「な、なるほどー。蒲さんはなにか専門的な部署にいるんですね? わかりました。あちらの階段ですね! 案内ありがとうございましたー!」
……あー、怖かった。何あの最後の鬼神スマイルは。3秒以上見てたら石にされるレベルだぞあれは。これだから鬼神様は。 ……あ、ゴメンナサイ調子乗りましたあんまり見ないでくださいお願いします。
さて、鬼神受付嬢さんはこの階段で上に行けって言ってたな。
……なんだか暗い階段だけど。屋内にある非常階段みたいな感じだけど。そこはかとなくバイオなハザード感が出てますけど。まあいきなりゾンビに襲われたりしないだろ。
取り合えずこの階段を上がろう。でも、もしかして、社長室までずっと階段なのか? え? このビル何階建て? 螺旋状だけど10階以上あったよな? 全部階段で上がるの? ウソォ。
……ま、まあ流石に途中でエスカレーターとかエレベーターとかあるよね。社長室へつながってるならあるよね。
……本当に社長室へつながってるのか? この階段は。
……よし、2階についたぞ。階段もここで途切れてるし。やっぱここからはエレベーターとかかな?
……とりあえず目の前の、鉄の扉を開けてみよう。
向こう側にすぐ直通エレベーターがあるかもしれない。
……ん? 鉄の扉に
【食べないと進めない部屋】
……は? 何これ? 食べないと進めない部屋? 何を食べないといけないの?
……もしかして虫さん? 虫さん食べさせられるの? それだったら完全に詰むんだけど? 攻略不能なんだけど? ナイトメアモードなんですけど?
……い、いや。最悪の予想はしないでおこう。食べないと進めない部屋って事は、多分、食べなければ戻る事は出来るんだし。マジで虫さんが出てきたら戻れば良いだけだし。取り敢えず、何も考えずに進もう。進まなきゃ何も始まらない。3歩進んで5歩戻ろう。よしそうしよう。
……イクぞっ!
【ギギギギィ……】
……うわあ。めっちゃ錆び付いてる。整備されてないのかよ。いや、整備はされているみたいだな。扉はめっちゃ綺麗だし。なんなの? ワザとなの? ワザと扉に油を刺してないの? なんかの演出なの? やっぱりバイオなハザードなの?
……おぉー。中は和室だ。扉は完全に鉄製なのに。いきなり和室だ。扉開けたらすぐ畳だもん。しかも広い。パッと数えただけで10畳はある。奥に
……これ靴は脱ぐ必要あるよね? 流石に畳の上を靴では歩けないよ、日本人としては。
あ、ちゃんと靴入れがあった。用意が良いな。しかもスリッパまである。超高級そうなスリッパまである。なにこれ? 畳の上用? 外国の人向け?
さすが大企業。社屋の構造はおかしいけど。変な配慮は行き届いている。まあ、ゲーム作ってる会社はこのくらいの発想がないとだめなのかな?
靴下履いてるけど、折角だし高級スリッパ使ってみようかな。よし、じゃあ履き替えてっと。それじゃあお邪魔しまーす。
……取り合えず、この部屋には畳以外、何もないみたいだ。正面に見えている
おお、襖を開けたら和室から茶室に。掛け軸やら鎧やら茶道具やらいろいろ揃ってる部屋だ。なんだかとても懐かしい。風流を感じる。
あ、誰かいたわ。茶室の中央に人間サイズの人が座布団に座ってるわ。全く動かないから置物か人形かと思ったわ。しっかり正座してるわ。
……あれ? これは
……うん、間違いない。不知火さんだ。黒い生地に紅の模様が入った着物を着てて、日本人形風な黒髪で片目を隠してて、うさ耳が頭から生えてて、周りに火の玉が浮かんでる人物なんて不知火さんしかいない。少なくともKAN-SENの中では。
おおー! 購買部でいつも見てた不知火さんが正座しておられるぞ! ビシッと姿勢正しく正座なされておるぞ! ちょっと拝んでおこう! ありがたやありがたや。
「……なにをしておられるのでせうか?
「い、いやちょっと感動して拝んじゃっただけで、他意は特にないと言うか。 ……あれ? 貴方が蒲さんですか? 不知火さんじゃなくて? KAN-SENの」
「……! ……ど、どうして、その名前を? わ、妾は蒲でございます。不知火などと言う名は知りませぬ。 ……受付でも、蒲とお伝え申しておりましたが? 貴方さまはやはり、大うつけでございましたか」
「ええー。もう見た目とかしゃべり方とか完全に不知火さんじゃないですか。なんですか蒲って。またコードネームって奴ですか? 分かり難いからコードネームは出来ればやめて欲しいんですが。鬼神さんにバレなければ、本名使っても良いんでしょう?」
「……貴方さまは、一体どこまで、妾達の事情を? ……はあ、どうせ明石にでも聞いたのでございましょうね。あのうつけ猫は、普段はしっかりしておりますが、信用した人物に対しては口がとても軽いのが、玉に傷でございますので」
「え? いや、明石さんに聞いたわけでは無いんですが。まあ重桜のKAN-SENの皆さんがどんな状況かは大体知ってますよ。俺はKAN-SENの知り合いが多いので」
「KAN-SENの知り合いが多い、でございますか? 貴方さま程の容姿の人物が? ……はあ、この妾を前にして、その様な嘘を
「え、えーっと、嘘なんて付いてないですけど? そんな嘘ついても何の得にもなりませんし。まあ本当かどうか示せと言われると困りますが。 ……友人のKAN-SENに電話でもしてみますか?」
「……そこまでせずとも、良いでございます。どうせ、貴方さまと妾は今宵限りのお付き合いになりますので。妾の事も、蒲でも、不知火でも、どうぞお好きな様に、お呼びくださいまし」
「こ、今宵限りのお付き合いってそんな。 ……まあ確かに、先程がお互いに初めまして、でしたもんね。すみません、馴れ馴れしくしてしまって。 ……でも俺は、出来れば不知火さんとお呼びしたいので、不知火さんと呼ぶ事にします」
「……はあ、やはり貴方さまは大うつけでございますね。この様な妾の呼び方にすら、その様に拘りなさるとは。 ……よろしゅうございます。それでは妾の方も、これから貴方さまの事を、シキカンさまと、呼ばせていただきませう。最近、明石が話題にするのは貴方さまの事ばかり。良い加減、妾も名前を覚えてしまうと言うモノ」
「……俺の方は構いませんよ。どうぞシキカンと呼んで下さい。よろしくお願いします、不知火さん」
「……はあ。 ……では、よろしゃうお願い申します。この大うつけ……シキカンさま」
「……やっぱり不知火さんは所々に大うつけって付けるんですね。まあそんな可愛い声で言われても全然気にならないので良いですが」
「……可愛い? ……妾の声が、可愛い、でございますか? ……はあ、大うつけにも程度がございますよ? 流石の妾も、大うつけ以上に馬鹿にする言葉なぞ、生憎持ち合わせておりませぬ故」
「うーん、本当なのに。 ……えーと、それで。俺はここで何をしたら良いですか? 何か食べなきゃいけないんですか? 部屋の扉には、食べないと進めない部屋とかなんとか書かれていましたが」
「……そうでございましたね。では、これでシキカンさまと妾はお別れでございます。短い時間でしたが、楽しゅうございました。 ……オフニャ。アレを持ってまいれ、でございます」
「オフニャ? ……あ!? オフニャだ! オフニャが何か運んできてる!」
おおー! 現実のオフニャはビシャマルちゃん以外あんまり見ないから新鮮だ!
えーっと、アレは【タケマル】ちゃんかな?
水色の髪とネコ耳に、
そう言えばタケマルちゃんは重桜陣営だったか。不知火さんの所に居たんだなー。
良かったなー、お前は鬼神さんに潰されずに済んで。外の世界はお前らにとって地獄だからなー。ちゃんと不知火さんの所で良い子にしてるんだぞー。
「……御用意が整いました。
「おおー。すごい。お茶漬けだ。こっちに来て久々に日本料理って感じのを見た気がする」
久々って言うか初めてじゃないか? 赤城さんの所で食べたのはお菓子だったし。
……うん。盛り付けも完璧だ。完璧なお茶漬けだ。ご飯の上に乗ってるのは鮭とイクラかな?
「さあ、どうぞどうぞ、お召しあがりを。召し上がれないとおっしゃるのなら、どうぞお引き取りを。お帰りは
「あっ、これ食べて良いんですね。では有難くいただかせて貰います」
「……は?」
「……へ?」
「……食べるのでございますか? そのぶぶ漬けを?」
「……え? いただいて良いんですよね、これ。さっきの、お召しあがりを、って言葉は、凄い分かりにくい、他の言い回しだった、とかじゃないですよね?」
あれ? もしかして本当は食べたらイケナイ系の奴なのこれ? 店頭に飾る用の偽物とか?
……いや、でも目の前のお茶漬けは間違いなく本物っぽいぞ。湯気も出てるし。良い匂いもするし。
……あれか? やっぱり遠回しな言い方のアレか? ぶぶ漬け出すから帰って下さい的なアレか?
でもあの作法も実はぶぶ漬け食べない方が失礼みたいな解釈もあるらしいし。うーん、わからん。
……もしかして俺、不知火さんに歓迎されてない? 明石さんの手紙には熱烈歓迎的な事が書いてあったのに。
なんで? どうして? 俺不知火さんに何か悪い事した? してないよね? 今日が初対面ですもんね? なんだかお互いにお互いを知ってるみたいですけど。
なんですか? 明石さんから何か悪い事でも吹き込まれたんですか? シキカンは虫さん如きにビビるクソ雑魚なめくじにゃ、とか。それだったら許しませんよ? 誤解ではないですけど。事実ですけど。
「……はあ。シキカンさまはやはり大うつけでございましたか。この妾を前にして、またしてもその様な
「きょ、虚勢なんかじゃないですよ。普通に美味しそうなお茶漬けじゃないですか。俺は本当に、このお茶漬けを食べたいと思ってますよ」
「……それならば、どうぞお食べになって下さいませ。しかし、その後どうなろうが、妾には関係ございませんが。シキカンさまがこの場で倒れようがどうしようが、妾がするのは精々、社屋の外に運んで、救急車を呼ばせていただく程度でございます。それでもよろしければ、どうぞお食べ下さいませ」
「そ、そんなに危険なお茶漬けなのこれ。毒でも入ってるんですか? ……まあ、美味しそうなので、まずはひと口だけ。 ……モグモグ。 ……うまっ! めちゃくちゃ美味い! 見た目通りの美味しい味ですよ! 不知火さん!」
うわー! マジで美味いわこれ。イクラも新鮮だし。鮭なんて焼きたてじゃないの、これ。骨もちゃんと取ってあるし。お茶も適温だし。漬物もしっかり漬けてあるし。完璧だ。見た目通りの完璧なお茶漬けだ。誰だよ毒入ってるとか言ったやつは。謝れよ。不知火さんに。
俺だったわ。不知火さんごめんなさい。
「……はあ? ……な、何故? なぜその様に、おいしゅうそうに、ぶぶ漬けをいただくのでございましょうか? ……妾の味付けは完璧でございましたよ? 人間達の舌を、これでもかと
「な、何故とおっしゃいましても。めちゃくちゃ美味しいので、としか答えようが。 ……うん、やっぱりこのお茶漬けは不知火さんが懇切丁寧に作っていただけたんですね! お茶漬けも漬物も、ちゃんと食べる人の事を考えて作られた、完璧なものです! 折角なので全部いただきますね!」
「た、確かに妾は、食べるお方の事を考えて、お作り申しましたが。そ、その様な反応をなさるとは、思ひもせなんだ……」
「……よし、完食! ご馳走様でした! 不知火さん、こんな美味しいお茶漬けを食べさせていただいてありがとうございました! ……えーと、ところで。 ……食べないと進めないって言うのは、このお茶漬けの事ですか? そ、それともこれは前菜で、まだ何かあるとか?」
「………………」
「………………」
「………………」
「……あの? 不知火さん? もしもし?」
「……………………チッ」
「……え!? 舌打ちされた!? 何故!? ……あれ!? 不知火さん!? どうしたんですか! 無言で立ち上がって! ……え、え!? どこへ行かれるのですか!? せめて何かお言葉を!? し、不知火さん!? しらぬいさあああん!?」
……行ってしまわれた。しかも無言で。なに? 俺何か対応間違えた? 何か失礼な事言ってた? 言ってないよな? な、なんで不知火さんは怒ったんだ? そもそも怒ったのかあれは? 表情が一切変わらないから感情がわからんぞ。
……まあ兎に角、行ってしまわれたという事は、進んでも良いという事ですよね? 食べるものも食べたし、大丈夫ですよね?
あ、タケマルちゃん。なになに? そんなジェスチャーして。そっちに行けって事なの? 君が案内してくれるの? 一緒についてきてくれるの?
優しいなぁタケマルちゃんは。いいこいいこ。
……あ、またなんか鉄の扉がある。しかもまたなんか
【耐えないと進めない部屋】
……また変な部屋が来たよ。なんだよ、耐えないと進めない部屋って。何を耐えるんだよ。拷問でもされるのかよ。そんなの5秒で
……まあこれも、何が起きるか見ない事には判断が付かないし、取り合えず進んでみよう。逃げる準備は万全にして。よし、頼んだぞ、タケマルちゃん。
【ギギギギィ……】
……うん。この扉も留め具だけが錆び付いてますね。なんなのだろう。やっぱり演出なのだろうか。不知火さんの粋な計らいなのだろうか。この音が不知火さんの趣味なのだろうか。趣味ならしょうがない。趣味は人それぞれだ。馬鹿にしてはいけない。
おお、今度は日本風の中庭みたいな所に出たぞ! ここも凄いな! 一見さんお断りの超高級料亭の中庭って感じがする。テレビでしか見たことが無いような、ワビサビの風景だ! 池とか
……お? なんか中庭の真ん中あたりにある井戸の中から、誰か出て来たぞ?
……誰かって言うか不知火さんが出て来たぞ。直立不動で。何の前触れもなく。
なにそれ? どうやって井戸から昇ってきたの?
「一枚……でございます。二枚……でございます。三枚……でございます。四枚……でございます」
……なにあれ? なんか不知火さんがお皿を数えだしたぞ? 井戸の中で。直立不動で。
これはなんなの? アレなの?
でも正直なんにも怖くないですよ? 周りも照明で明るいし。不知火さんの周りも火の玉が飛んでて明るいし。着物姿をした女性が普通にお皿数えてる光景にしか見えないですよ?
しかも無駄に丁寧に数えてますね? お皿1枚1枚に傷や汚れがないか、しっかりと見られておいでですね。目を皿の様にして。なんですかそれは。この後お店にでも並べるつもりですかそのお皿を。購買部で売るつもりですかそのお皿を。確かに高級そうなお皿ですけど。
不知火さん、実はそれ在庫確認だったりしますか? 商品の
……え? なに? 耐えるってこれ? 何を耐えれば良いのこれ? ツッコミ? たしかにツッコミどころは満載だけど。
「七枚……でございます。八枚……でございます。九枚……でございます」
「………………」
「………………」
「………………」
「一枚、足りないで、ございます」
「……あ、はい」
「………………」
「………………」
「……一枚、足りないで、ございます」
「あ、はい。聞こえてます。大丈夫です。」
「………………」
「………………」
……気まずい!!! 気まず過ぎる!!!
何だこの空間は! 何だこの空気は! 不知火さんは何をしようとしているんだ! この空気を耐えろと!? 確かにいたたまれない空気ですけども! なるべく早く解消して欲しいですけども! でも想定してた耐え方とは違いますよ!? 多分不知火さんもそう思ってますよね!? 必死に無言を貫いてますもんね! なんかちょっと冷や汗かいてませんか!? でも俺もどうしようもありませんよ!? どうするんですかこの空気!?
「……い、一枚、足りないで、ございます」
「わかりました! わかりましたから! 一枚足りないのはわかりましたから! でも、俺にどうしろと!? このまま見てるだけで良いんでしょうか!?」
「………………」
「また無言!? ほ、本当にどうしろと? 在庫確認を手伝えば良いんでしょうか? 足りない一枚をこの中庭から見つけるってミッションですか? そういう感じで良いんでしょうか?」
「………………」
「……え、えっと。では探しますね? ……あと一枚はどこかな~。 ……あれ? 不知火さん? この井戸の裏側に置いてあるの、そうじゃないですか。なんか段ボールに『予備のお皿』って書いてありますけど。在庫確認ならこれも数えないといけないんじゃないですか? 結構いっぱいあるみたいなので、数えるなら俺も手伝いますよ?」
「………………」
「………………」
「………………」
「……あの? 不知火さん? もしもーし?」
「……………………チッ」
「また舌打ちされた!? どうして!? ……あれ!? 不知火さん!? どちらへ!? 何故井戸の底へ潜って行かれるのですか!? しかも無言で!? この井戸
……また行ってしまわれた。この井戸、
……まあ不知火さんが何処かへ行ってしまわれたという事は、先に進んでも良いという事だろう。タケマルちゃんも、次はこっちだよ的なジェスチャーしてくれてるし。ありがとうタケマルちゃん。可愛いぞ。いいこいいこ。
よし、さっさと次の場所へ行こう、時間がもったいない。
後半へ続きます。