美醜逆転アズレン世界における色物系Yongshiber SHIKI-KAN☆TV   作:SHIKI-KAN

18 / 18
#18 重工堂本社に潜入します! 内部から乗っ取れば俺が社長です! 後編

 

 

 

 ……和風の中庭を抜けたら、また鉄の扉か。そろそろこれで最後にしてもらわないと、明石社長との歓談の時間に間に合わなそうなんだけど。えっと、掛札には何が書かれているのかな?

 

 

(おどろ)かさないと進めない部屋】

 

 脅かさないと進めない部屋。ついに俺が受け手じゃなくて攻め手側に廻ってしまった。なんなのこのダンジョンは。攻守交代制なの? ドラゴンなクエスト的なあれなの? 出てくるのはドラゴンじゃなくて不知火さんオンリーですけど。俺としてはドラゴンよりこっちの方が良いですけど。ドラゴンも格好良いけどね。

 

 

 ……まあ進んでみるか。多分これで最後だろう。脅かすのもタケマルちゃんがいれば大丈夫だろう。配信ではビシャマルちゃんを見たらみんな驚いてたし。タケマルちゃんも同じ事が出来るはず。頑張れ、タケマルちゃん。俺は応援しているぞ。

 

 

【ギギギギィ……】

 

 

 はいはい。この音にも、もう慣れましたよ。完全に不知火さんの趣味ですねこれは。とても良い趣味をお持ちですね。何かこだわりを感じます。全部同じ音ですもんね。職人芸です。神業です。全く無駄のない無駄な技術です。尊敬します。

 

 

 ……そしてここは。なんだここは。雰囲気が全然違うぞ。何もない。

 

 マジで何もない。鉄筋コンクリートブロックが剥き出しの、ただの部屋だ。格ゲーの練習ステージとかでありそうな、正方形コンクリートブロックで囲まれた、灰色の空間だ。

 

 なんだろう、ついにネタが尽きたのかな。もう完全に、誰かが此処まで来ることを想定してませんって感じですよね。何の用意もされてませんもんね。用意周到な不知火さんにしては珍しい光景ですね。

 

 

 ……向かい側の扉から不知火さんが出て来た。なんか高級そうな座布団を二枚、両手で抱えながら出て来た。

 

 なんなの? 今から何が始まるの? 笑点でもはじまるの? 大喜利(おおぎり)しなくちゃいけなくなるの? この世界では大喜利すると驚くの?

 

 

 ……中央に座布団を2枚置いた。そして向かい側の座布団にお座りになられた。うむ。正しい姿勢の正座ですね。教科書に載るレベルの姿勢です。ちょっとご参考にしたいので写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか。悪用は致しませんので。ちゃんと額縁に入れて飾っておくだけですので。

 

 なにか圧力を感じる。無言のプレッシャーを感じる。向かい側に座れと言っている気がする。無言だけど。

 

 しょうがない。俺も座るか。失礼しまーす。よいしょっと……。

 

 タケマルちゃんはどうする……って、タケマルちゃんもいつの間にか自分用の座布団持ってる。君も用意が良いね。そして可愛いね。いいこいいこ。

 

 

 「……。正直、この部屋までいらっしゃるとは、思ひもせなんだ……。妾はシキカンさまを少々侮っていた様でございます」

 

 

 「そ、それはどうも。俺も、何が来るんだと構えていましたが、何故だかトントン拍子で進んでしまいました。 ……すみません。なんだか想定外だったみたいで。この部屋も、何も用意されていないようですし」

 

 

 「……想定外だったのは事実でございます。そして、この部屋の装飾を、何も用意していなかったのも、こちらの失態でございます。謹んで、お詫び申しあげます」

 

 

 「あ、謝らなくて大丈夫ですから! 俺は気にしてませんから!」

 

 

 「そうでございますか。 ……この様な大うつけに気を遣わせてしまうとは。陽炎型二番艦不知火の名が泣き申す。これは、この部屋で何としても、シキカンさまを食い止めねばいけませぬ」

 

 

 「……やっぱり不知火さんは、俺を食い止めようとしていたんですね。どうしてですか? そんなに俺を明石さんに会わせたくないんですか? それとも何か別の理由ですか? 俺何か悪い事しました?」

 

 

 「シキカンさまは何も悪い事はしておりませぬ。 ……今はまだ、でございますが」

 

 

 「い、今はまだって。俺はこれからも、特に悪い事はしないつもりですよ? 働かないのが悪い事って言うのなら現在進行形で悪い事してますが」

 

 いや、Yongshiberも立派な職業だ。俺は悪くない。大丈夫。まだ負けてない。逆に、働いてないから勝ってるまである。

 

 「そうではありませぬ。シキカンさまもどうせ、明石の持つ権力とお金に引かれて、あのうつけ猫に、媚びを売ったのでございましょう?」

 

 

 「そ、そんな事はないですよ? 確かに明石さんにはお世話になっていましたが。配信でも何度か、お礼も言いましたが。それが、媚びを売っているって事ならそうですが。でも、明石さんの権力を狙って、とかではないですよ。明石さんが重工堂の社長って情報は、俺も昨日知ったばかりですし。権力なんていりませんよ。お金は欲しいですけど」

 

 

 「……はあ。シキカンさまは(なお)も、その様な(うそ)を重ねるのでございますね。流石の妾も、少々頭に来て参りました。 ……妾が覚えてるだけでも、シキカンさまを含めると5名ほどが、このようにして明石に呼ばれるか、(みずか)らこの社屋まで足を運んでおります故。 ……シキカンさまより以前にいらっしゃった大うつけ共も、最初は誰もがそうおっしゃっておりました。明石の権力ではなく、その魅力にひかれたのだ、と」

 

 

 「……そんなことが? ……呼ばれたの俺だけじゃなかったの?」

 

 まあ、ゲームのエンディングを1個発見しただけで会社まで呼ばれるなんて、少しおかしいなとは思ったけど。

 

 「そして明石も、それを信じて、最初は自分をさらけ出して、大うつけ共と接してございました。あのうつけ猫は純粋でございますから。 ……ですが、すぐに気づくのです。この場に呼んだ大うつけ共は、結局うわべだけの者であったのだと。その場限りの嘘で誤魔化していたに過ぎないのだと。 ……結局、呼ばれた大うつけ共も、すぐに本性を現して、此方(こちら)に来て半日程度で、明石に追い返されてございました」

 

 

 「……俺は明石さんの本当の気持ちを知りません。正直、なんで歓談に呼ばれたかも、わかってないので。単純に俺と話をしたいだけなのかな、としか。でも、俺の知っている明石さんなら、俺は大丈夫だと思いますよ? 少なくとも、配信中に来ていただけてた、明石……赤茶さんと俺となら、気が合うんじゃないかと思ってます。一緒にゲームしてて楽しかったですし」

 

 

 「……確かに、あのうつけ猫も、何度もおっしゃってございました。シキカンは違うにゃ、と。これまでの奴らとは絶対に違うにゃ、と。 ……ですが、妾はもう見たくはないのでございます。あのうつけ猫が、ほんの少しの希望を見出(みいだ)して、そして打ち砕かれて、絶望するさまを。 ……あのうつけ猫は、少々心を砕かれ過ぎでございます。もし、アレだけ入れ込んでいるシキカンさまも、あのうつけ猫を受け入れる事が出来ぬ場合。 ……あのうつけ猫の心は。 ……明石の心は、本当に、完全に壊れてしまうでございましょう。もう、妾でも、どうしようもなくなる程度には」

 

 

 「……明石さんがそんなに追い詰められていたなんて。 ……確かに最初に配信に来ていただいた時は、少しツンツンしていましたけど。でも、それもすぐに無くなって、今では一緒に楽しく配信出来ていると思っていたんですが」

 

 

 「……確かに、最近の明石は元気を取り戻してございます。まるで、最初にこの会社を立ち上げた時のように。他のKAN-SEN達も雇える様な、大きな会社を作ってやるにゃ、と宣言していた時のように。ですが、それはシキカンさまと言う、大きな希望があるから、でございます。希望が打ち砕かれれば、今度こそ、あのうつけ猫は終わり、でございます。 ……そうならぬ様、妾は全力で、あのうつけ猫を守りとうございます。KAN-SENとしての活躍も出来ず、どうしようもなくなっていた妾を雇って会社を立ち上げ、妾の居場所を作ってくれた、あのうつけ猫。 ……明石の、ためにも。 ……シキカンさまも、どうか、希望は希望のままで、居て下さいまし」

 

 

 「そ、そこまで言われたら、俺も引き下がざるを得ない様な気が……

 

 でも、明石さんとは、どうせ今後も配信で会うしなぁ。重工堂の社長って事は、俺の住所も完全にバレてるだろうし。もし今日を回避しても、問題の先送りにしかならない気が。

 

 「……不知火さん、やっぱり俺は今日、明石さんに会いますよ。そしてちゃんと話してみたいと思います。明石さんが俺の事を、本当はどう思っているのかについて」

 

 

 「……そうでございますか。シキカンさまにはシキカンさまの考えがあるのでございますね? ……ですが、妾にも意地(いじ)がございます。この部屋を通りたくば、どうかこの妾を、驚かせていただけるでございましょうか」

 

 

 「し、不知火さんを驚かせる、ですか? 俺が?」

 

 

 「そうでございます。先ほどまでは、妾が攻め手側。シキカンさまは、受け手側に廻らざるを得ない状況でございました。やはり、それでは不公平というモノ。今回は、シキカンさまが攻め手となって、妾を驚かせていただきませう。妾はここから動きませんので」

 

 

 「……驚かせるっていったって、どうやって。不知火さんが驚いたって言う判定も曖昧(あいまい)ですし。どうするんですか? 隣に座ってるタケマルちゃんが判断するんですか? その娘、実は審判だったんですか?」

 

 

 「そのような曖昧な判定は用意してございませんが。判定は簡単でございます。ただ、妾に大きな声を出させる、この1点だけが条件でございます」

 

 

 「お、大きな声を出させる? 不知火さんに? 俺が何かして?」

 

 

 「そうでございます。この部屋には、音声認識センサーが設置されてございます。妾の声も既にその装置へと登録済み。妾がこの世に生れ落ちてから、今日(こんにち)までの人生の中で、一度も出したことのない大声を、その装置に登録してございます。その音量を超える事が出来れば、妾の後ろ側にある扉が自動的に開く仕掛け、という仕様でございます。簡単でございましょう?」

 

 

 「……確かに、言うだけなら簡単ですけどね? 条件的にはシンプルですけどね? でも、言うのとやるのとじゃ違いますよね? 不知火さんの、人生で一度も出した事のない大声を、超えさせるレベルで、驚かせるんですよね? ……こ、この状況で、俺はどうすれば良いんですか?」

 

 

 「それはそちらが考える事、でございます。妾は何も致しません。ですが、それでは流石にシキカンさまに不利でございます。……その代わりと言っては、でございますが。シキカンさまは妾に、何をして下さっても構いませぬ。叩くにしても、殴るにしても、どの様な事をしていただいても結構でございます。妾はその様な事で、声をあげるような事はございませんが。体が大破するのは、戦場で慣れておりますので」

 

 

 「た、叩くとか、な、殴るとか。……そういうドメスティックなバイオレンス的なのは流石に出来ないですよ。特に、不知火さんの様な人にそんな事したら、犯罪ですよ」

 

 

 「……でしたら、(くすぐ)るなり、(つね)るなり、如何様(いかよう)にも出来るでございましょう? 妾は特に反抗などは致しませぬ。制限時間は今宵(こよい)の宴が始まるまで。もう、半刻(はんとき)と残っておりませぬが、シキカンさまには十分なお時間でございます。あのうつけ猫から伝え聞いた事が、本当であれば、の話でございますが」

 

 

 ……どうしよう。なんだか大変な事になってしまったぞ?

 

 不知火さんを驚かせるって。マジでどうすれば良いんだよ。ゲーム内でも驚いてる反応なんてあんまり見た事ないし。イケナイ所をタッチしても、悲鳴をあげる所か、ドン引きされてる様な反応されるし。絶対あの反応は、タッチした人を虫さんを見るような目で見てる雰囲気だったし。無表情だけど。

 

 半刻って事は1時間だよな。なんか道具とか買ってこようかな。流石に丸腰では辛い気がする。近くにドン・〇ホーテ的なお店ないかな。面白グッズ的な何かが欲しい。

 

 いや、でも時間がない。この辺の地理にも(うと)い俺が、この短時間でお店を探し回る余裕がない。不知火さんにお店の場所を聞くか?

 

 いやいや、無い無い。不知火さんも流石に自分の不利になるような事に協力してくれるわけがない。

 

 どうしよう。叩いたり殴ったりするのは流石にアウトだ。無抵抗の女の娘を殴るなんて出来るわけがない。不知火さんは別に悪落ちとかもしてないし。あっちはあっちで正義があるし。そんなの殴れる様な人は、男女平等パンチが出来る人だけだし。

 

 (つね)るのもあんまりやりたくない。今は何の反抗もしないって言ってるけど、これが終わった後も反抗しないとは言ってないし。後で5000倍返しされそうだし。不知火さんの恨みは恐ろしそうだし。

 

 (くすぐ)るか? (くすぐ)ってみるか? もうそれしか選択肢が残ってないような気がするんだが。

 

 でも、自分から言うって事は(くすぐ)り耐性もあるって事だよなぁ。不知火さんが擽られて爆笑してる姿なんて想像出来ないし。

 

 うーん。でも取り合えず、選択肢はこれしかない。何かアクションを起こさないと何も始まらない。1時間もあるんだから色々と試行錯誤が必要だ。

 

 よし、最初の手段は(くすぐ)りに決定だ。

 

 問題は何処(どこ)をターゲットにするか、なんだけど……。

 

 

 ……取り合えず、今の不知火さんの状況を見よう。綺麗な正座だ。着物もバッチリと着付けられている。写真屋さんに飾られてもおかしくない程に絵になっている。今写真を撮っても怒られないかもしれない。やめておこう。後が怖い。

 

 キッチリとした姿勢のせいで、完全に脇と腰は着物で守られている。膝の上に両手を載せているのでガードもバッチリだ。足の裏も無理だろう。擽るのでちょっと腰上げてくださいって言っても、(さげす)んだ眼で『大うつけでございますか?』って言われる落ちが見える。ちょっと言われてみたい気もする。でもやめておこう。後が怖い。

 

 じゃあ首筋はどうか。ここも無理だ。着物なんだから首筋ぐらい出てるだろうと思いきや、不知火さんは首に紅いチョーカーを装備していらっしゃるので、首のガードもバッチリだ。防御力が半端ない。本当に駆逐艦ですか貴方は。

 

 もう後は、顔か、うさ耳しか残されてないんだけど。

 

 顔を擽ってもなあ。絶対何も反応しないよなぁ。俺も顔を擽られただけじゃ反応しないもん。何コイツうぜえってなるだけだもん。不知火さんにやっても冷たい瞳で見られて大うつけされるだけだもん。少しやりたいもん。でもやめとく。後が怖い。

 

 残るは耳だ。うさ耳だ。不知火さんの、()()ぎだらけのうさ耳だ。

 

 なんであんなに継ぎ接ぎだらけなの? 痛々しいんですけど。ゲームではなんだか修繕費の削減とか言ってた気がするけど、絶対他に理由があるだろ。(かたく)なに修理しない理由が何か。

 

 うーん、でも触ってみたい。どんな感触するんだあれ。普通のうさ耳か? でも、普通のうさ耳が、あんなぬいぐるみの修理方法みたいなピン止めでくっつくはずないよな。なんなんだろう。ロングアイランドさんに(のり)でくっつけて貰ったのだろうかあれは。

 

 よし、触ろう。うさ耳を触ってみよう。不知火さんも、何をしても良いって言ってたし。耳を触るくらいなら大丈夫だろう。めっちゃ睨んで来てるけど。冷たいまなざし、受けてますけど。

 

 

 ……こ、怖いので、最初はソッといくか。もう、触れてるの? 触れてないの? みたいな感じで行くか。触ったらすぐに壊れる物に触るような感じで。フェザータッチの理論で行くか。

 

 よ、よし。行くぞ。触るぞ。

 

 ……し、不知火さん? 何ですかその目は? 俺まだちょっと動いただけですよ? まだ何もしてませんよ? 絶対その目は怒ってますよね? 絶対内心ブチギレてますよね? めちゃめちゃ睨んでますもん俺を。無表情ですけど。

 

 

 ……だ、大丈夫ですよ不知火さん。そんなに痛い事しないですから。お耳を触らせていただくだけでございますから。マジで怖いですからその目。見られるだけで魂削られてますから俺が。なんで無表情なのにそんなに眼力(めぢから)あるんですか。特殊な修行を積んでるんですか。

 

 

 ……こ、これはマジで細心の注意が必要だ。俺も本気で集中しなければ。

 

 全神経を指先に集中させろ! 絶対に不知火さんに不快な思いをさせるなよ俺! 不知火さんがちょっとでも不快に思われたらその時点で俺の魂が抜き取られる! 睨むだけで魂が抜き取られる! 不知火さんは絶対に真の瞳術を極めてらっしゃる! 間違いない!

 

 

 ……そーっと触るんだ! そーっと ……そーっと

 

 

 

 ……サワサワ ……サワサワサワ

 

 

 

「……ひゃあぅ!」

 

 

【ドアさん:がちゃ!】

 

 

 「……………………」

 

 

 「……………………」

 

 

 「……………………」

 

 

 「……………………」

 

 

 「……あの、不知火さん?」

 

 

 「……………………」

 

 

 「……ど、ドアが開いたようなのですが」

 

 

 「……………………」

 

 

 「……こ、これはクリアと言う事で、良いんでしょうか」

 

 

 「……………………」

 

 

 「く、クリアで良いんですよね? ドア開きましたもんね?」

 

 

 「……………………」

 

 

 「じゃ、じゃあ俺はいきますね? ドアが開いたので!」

 

 

 「………………………【ピッ】」

 

 

【ドアさん:ばたん!】

 

 

 「あ! ドア閉められた! ちょ! 不知火さん! 今絶対何かしましたよね! 『ピッ』って音しましたもん! 『ピッ』って!」

 

 

 「……な、なんの事でございましょうか。わ、妾は存じ上げておりませぬ」

 

 

 「 此処(ここ)に来て、その反則技はありなんですか? 今までは一応、正々堂々?な闘いだったのに」

 

 

 「い、今のは少し、吃逆(しゃっくり)が、出てしまっただけで、ございます。け、決して、シ、シキカンさまの行為で出た声では、ございませんが」

 

 

 「なるほど~? そういう言い訳を使うんですね? わかりました。じゃあ俺ももう容赦しませんよ」

 

 

 「ど、どうぞご勝手にしていただいて、結構でございます。妾は痛みには、慣れておりますので。さ、先程のは偶然。そう、不幸な偶然が、重なってしまっただけでございま……」

 

 

 

 サワサワサワサ…… サワワ、サワワサ……

 

 

「……ひゃあん!」

 

 

【ドアさん:がちゃん!】

 

 

 「よし、開きましたね。では俺はこれで失礼しま【ピッ】」

 

 

【ドアさん:ばたん!】

 

 

 「不知火さん!? 2回目ですよね!? 2回目はダメですよ!? ほとんどの強キャラは同じ技を2回喰らう様な事はしませんからね! バトル物でそれやったら手痛い反撃を受けますよその行為は!」

 

 

 「シ、シキカンさまは、一体何を、おっしゃっているのやら。わ、妾には皆目見当(かいもくけんとう)もつかぬでございます」

 

 

……サワワワワ、サワワワサワワ、サワワワワ。

 

 

「……ひゃうん!」

 

 

【ドアさん:がちゃん! ……もう疲れた】

 

 

 「ほら! 不知火さん! もうドアさんも疲れてますよ! いい加減に負けを認めてください! ……あ、その手に持ってる奴がドアさんの開閉装置ですね! そんなものは没収! 没収です!」

 

 

 「あっ……。な、何故、妾が、この様に簡単に、これ程の大きな声を……。あの装置へは、妾の本気の大声を、登録したはずでございます。……シキカン様の指先には、何か特殊な装置が、埋め込まれているのではございませんか?」

 

 

 「……そんな事はないですよ? 俺の指先は至って普通ですよ。これはアレじゃないですか? 俺じゃなくて、不知火さんが敏感過ぎなんじゃないですか? 痛みには耐えられても、(くすぐ)りには弱いとかそんな感じで。先程から、痛みに耐えてやる的な感じで、なんだか物凄く集中して構えられてたようですし。神経が一時的に敏感になってるんじゃないですか?」

 

 

 「そ、その様な事は決して……。確かに心構えは、しておりましたが。このような感覚を味わうのも、初めての経験で、ございましたが。だからと言って、この様な結果になろうとは……、思ひも、せなんだ……」

 

 

 「……すみません。なんだか不知火さんの想定外だった事ばかり起こしてしまって。でも一応、この勝負は俺の勝ちですね。ドアさんも開いたし。3回も開いたし。3回勝負でも俺の勝ちです。そういう訳で、俺はこの先に進む事にします。不知火さんには悪いですが、明石さんにも一度はお会いしてみたいので。 ……それでは、失礼しま……」

 

 

 「……ま、まだで、ございます」

 

 

 

【……クイッ ……クイッ】

 

 

 

 ……んんー? なんか不知火さんが、俺の腕の袖を掴んでいらっしゃる。親指と人差し指で、そっと掴んでいらっしゃる。奥ゆかしい手つきで、俺の袖を御掴みになっていらっしゃる。

 

 なんだこれは。こんなの振り払えんぞ。少し力を入れたら一瞬で手が離れそうなのに。そんな事なんて絶対出来ない空気が流れているぞ。なんだこれは。幻術なのか? また幻術なのか?

 

 

 

 「……ふ……ふふっ。 ……ど、どうでございますか? ……こ、これが。こ、この妾の、最後の、抵抗でございます。 ……恐ろしいでございましょう? (おぞ)ましいでございましょう? ……妾の名は不知火(しらぬい)。本来ならば決して、誰にも触れる事が出来ない、不知(しらず)の炎。遠くに視えども実体は在らず、近づこうにも近づけぬ、何処(いずこ)とも無く消えゆく炎。 ……その様な、お、お化けと名高い、この妾が(みずか)ら、シキカン様の、そ、袖を掴んでいるのです。……流石のシキカン様も、これには恐怖を感じざるを得ないご様子、でごさいます。 ……さあ、この不知火から逃れたくば、どうぞ、お引き取り下さいませ。引き返すのなら、妾はそれを止める事など、ございませんので」

 

 

 「……なるほど。不知火さんは自分の事を、とても怖い存在だと思っていたんですね。だからあんな演出でも、俺が恐れをなして引き返すと思ったんですか。でも、残念でしたね。俺は不知火さんと、今日初めて出会ってから今までの間、一度も不知火さんを怖がったりはしませんでしたよ。 ……眼力以外は」

 

 

 「ま、またその様な戯言(ざれごと)を言うのでございますか? し、シキカン様には、本当に、付ける薬がございません」

 

 

 「うーん。今までの事も含めて、俺は全部心の中で思った事を、そのまま言ってるだけなんですけどね。不知火さんはお化けなんかじゃない、可愛い女の子ですよ。少なくとも俺にとってはね。 ……じゃあ俺は行きますね。なんだか明石さんにも、直接会わないといけない様な気がしてきましたし」

 

 

 「……わ、妾は、か、陽炎型駆逐二番艦不知火、でございます。か、陽炎型の誇りにかけて、シキカンさまの好きな様には、さ、させま……」

 

 

 

 「……不知火さん、失礼します」

 

 

 「……な、なんでございますか! その手の動きは! やっ! ひゃあ嗚呼ああああああああ!! ……ああ。 ……あ。 ……きゅぅぅ」

 

 

 「……不知火さん、すみません。俺は先に進まなければ、なりませんので。 ……少しだけ、眠っていて下さい」

 

 

 

 ……いや、流石にこのまま放置しておくのは可哀想だ。座布団以外、何もない部屋だし。

 

 仕方ない。背負って明石さんの所へ行くか。社長室なら高級なソファーぐらいあるだろうし。そこで寝かせておこう。

 

 

 ……軽っ!? 不知火さん軽いなっ!? ふっわふわだな!? なにこれ!? 本当に人間!? 不知火さんは本当にお化けなの!? どういう原理なのこれは!? 不知火さんは自分の体重の増減でも出来るの!? 重力使いか何かなの!?

 

 まあ、軽い分には良いか。俺にもあんまり負担ないし。

 

 お? タケマルちゃん。また案内してくれるの?

 

 あ、なんかある。『社長室はこっちにゃ』って看板が見える。社長室直通エレベーターもちゃんとある。

 

 流石はタケマルちゃん。良い仕事しますね。可愛いし。いいこいいこ。

 

 

 

 ……さあ、取り合えず、不知火さんの試練も超えたし!

 

 後は社長の明石さんに会うだけだ! 頑張るぞー!

 

 はい! タケマルちゃんも一緒に!

 

 えい! えい! にゃ~!

 

 

 

 

 




重工堂タワー、中ボス不知火さん撃破。


戦場での痛みには慣れてましたが、人から触れられるのは不知(しらず)の炎でした。


不知火さんのキャラストーリーは、明石に引っ付かれただけでしぶしぶながらなんでも言う事を聞いちゃう不知火さんが見れます。もう半分明石のキャラストなのでは?
2人の掛け合いにとてもホンワカします。


次はラスボスです。(別にラストでは無い)

……次の投稿は不定期です。
そして誤字報告ありがとうございます。とても助かっております。
何度も同じ誤字してゴメンナサイ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。