騎士王の影武者   作:sabu

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栄光の伝説
第1話 選定の誓い


 

 

 

 季節は4月。

 冬がもたらした寒冷による爪痕をようやく乗り越え、暖かい日差しと体を包みこんでくれるような柔らかな温もりによって、鮮やかな花が咲き乱れる事になる、春の始まり。

 

 そんな季節の中に、なだらかな平野を進む人影があった。

 

 燦々と照らす太陽の光を跳ね返す、磨きあげられた数十に及ぶ白銀の鎧の集団。その鎧達にはただ一つも汚れはない。ただ小さな傷だけはいたる所にあった。それを恥じいる騎士はこの場にはいない。

 騎士になりたての若者とは違い、鎧についた一つ一つの傷が自身が打ち立ててきた勝利と、誇りの証明なのだと認識しているからだ。

 

 

 それはそんな白銀の鎧の集団達の先頭に居る、数名の騎士——円卓の騎士達も例外ではない。

 

 

 深緑の上質な服の上に純銀の鎧を身に纏い、鎧と同じく輝く銀の髪。翡翠色の瞳。そして男性と女性の二つの容姿を混同させた、端正な美少年——ベディヴィエール卿

 

 騎士剣の他に弓を扱うからか、周りの騎士よりやや軽装の黒と白の鎧を身に付け、その上から純白のマントを身に纏った、薔薇の様に艶やかな髪の青年——トリスタン卿

 

 紫の整えられた短髪に女性受けするであろう甘いマスク。他の騎士よりも頭抜けた気配を滾らせ、剛健な紫の重鎧を過不足なく身につけている騎士。

 まだ正式には円卓の騎士とはなっていないが、既に他の騎士とは断絶した強さを誇り、後に円卓最強の騎士と謳われる事となる——ランスロット卿

 

 

 そして三の円卓の騎士、と数十の騎士に、幾つかの戦馬を随伴させて平野を進む一人の騎士がいる。

 

 

 戦闘用に無駄な装飾や飾りを取り除いた古風な蒼のドレスに身を包み、その上に胸甲や腕甲の銀色の甲冑を装着していた。長い戦の中でも一つも輝きを損わない、星の光を束ねたが如き金の髪。か弱さや儚さとは無縁の、強い意志を見る者に感じさせる碧眼。

 ただそこに存在するだけで、周囲の空気を引き締める凄烈なる王気(オーラ)を持ちながら、同時に清らかな水の様な清々しさを矛盾なく合わせたカリスマを持つ者。

 

 

 "彼女"の名前はアーサー王。幼名をアルトリア。

 

 

 ウーサー・ペンドラゴンの嫡子にして、来たるべき卑王ヴォーティガーンとの決戦や、北方に棲むピクト人、海を越えてくるサクソン人との戦いを制し、ブリテンの統一の為"理想の王"になるべくして生まれ堕ちた、竜の心臓をもつ赤き竜の化身である。

 

 

 これが一つの平野を越え、今目の前に広がる森の中にひっそりと佇む、村里に訪れようとしている数十の集団の正体であった。

 

 

 一人一人が皆誇り高き騎士であり、優れた戦士だ。

 もし彼らが戦いに出れば輝かしい栄光を手にする事だろう。

 数の差を物ともせず、数百の軍勢を倒し、騎士にとって最高の名誉を得るだろう精鋭達に他ならない。

 

 しかも精鋭の中の精鋭。王に最も近いとされる騎士、円卓の騎士が実質三人に、そして騎士王アーサーが直接この集団を率いているのだ。勝利が約束された集団と言ってもいい。

 これで皆の士気が低い筈がないだろう。本来なら……

 

 

 ——だが現実は違い、彼らは失意の底にいた。

 

 

 数十の騎士からは感じられる覇気は一切なく、ただ足下を這う暗い泥の様な諦観が心を覆っている。一部の騎士はまるで絞首台に登る囚人の様に目に光はなくうなだれていた。

 木が生い茂る森に入り、太陽の光がまばらになったせいか、より彼らの心を暗くしている。

 

 ここに、今現在不在にしているアーサー王に代わり、戦の準備と兵の指揮をしている、太陽の騎士——ガウェイン卿がいたとしても晴らせないほどに騎士達の心は暗い。

 

 

 

「……何故こんな事をしなければ…………」

 

 

 

 集団の後方にいる騎士の一人が思わず口を溢すがそれを咎める者はなく、周囲の騎士も言葉にはしていないがその言葉に同調しているようだった。

 そしてそれは集団の前方にいる、三人の騎士と騎士王にも届いた。

 

 森から聴こえる風や木々が擦れる音はあれど数十の集団は、誰も彼もが愉快に談笑などしている訳がない。

 ただ集団が発せられる音は、鎧の音と歩行音だけで、鎮まり返っているからだ。

 

 ただ三人の騎士は何も言わない。

 彼らは今から行う行為が必要なのだと理解はしているが、完全に納得できる訳ではない。

 

 ——これは正しい行いなのか?

 ——これ以外に何か方法はないのか?

 

 そう思わずにはやっていられなかった。

 

 

 

「明日勝つ為の措置だ……みな堪えて欲しい……」

 

 

 

 この状況に見兼ねたアーサー王がそう告げるが、効果は今一つであった。

 むしろより今から自らがやらなければならない行いを深く認識してしまい、多くの騎士が顔を歪ませる。

 今からやる行いは騎士にとって余分な犠牲を許容するものであり、不名誉な事である。そうしなければより多くの犠牲者が出るのだと理解しながら受け入れられる騎士は誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

  なぜなら

 

 

 

 

               ——今から行うのは村を干上がらせる事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリテン島は動乱の中にあった。

 ことの発端はブリテン島の外、大陸にあり世界に手を伸ばす、強大なローマ帝国と異民族との戦争から始まる。

 元々ブリテン島は、ブリタニア州と呼ばれるローマ帝国の最北端の州である。

 

 その起源は、紀元前一世紀当時のローマ皇帝であり、皇帝(シーザー)の由来となった、

 "ガイウス・ユリウス・カエサル"。

 

 一世紀ブリタニアの勝利の女王、

 "ブーディカ"。

 

 そして、その勝利の女王ブーディカが敗北を喫した当時のローマ皇帝、

 "薔薇の皇帝ネロ"などにまで遡る。

 

 

 そして五世紀後半、ローマ帝国の統治に影が差す事となる。

 

 

 サクソン人——と呼ばれる前のゲルマン人が東から勢力を広げ、ガリア地域——現在で言うフランス、ドイツ、スペイン周辺の広大な土地を一時的に支配する事に成功したのだ。

 ローマ帝国とブリテン島を繋ぐ橋であったガリア地域をゲルマン人に支配された為、ローマ帝国の庇護下にあったブリテンは力を衰えさせる事になった。

 これを受けたローマ帝国は、国からガリア地域に向け軍隊を派遣。

 更にブリテン島に自治を行えと宣言を出し、ブリテン島に駐屯させていた軍隊を引き上げさせ、ゲルマン人によって支配されたガリア地域奪還に軍隊を向ける事にした。

 

 

 事実上、ローマ帝国がブリテンを切り捨てたのである。

 

 

 これによりブリテン島は完全に帝国の庇護を失い、更にローマ帝国との戦争から逃げてきた、サクソン人、と名を変えたゲルマン人が海を渡り、ブリテン島に侵略に来たのだった。

 ブリテン島は民族の大移動という巨大な歴史的事象の災厄に襲われる事となった。

 

 

 だがブリテン島は何の抵抗をせず、簡単に侵略される訳ではなかった。

 

 

 帝国の加護を失いはしたが、ブリテン島は元々多くの部族と諸侯、その王達によって治められていた国である。

 部族間同士の争いは絶えなかったが島の北に棲むピクト人や、大陸と違い未だ神秘を数多く残した土地には、容易に人を喰らう魔獣のこともあり、部族達は協力しあっていた。

 

 

 しかし部族の王の一人がこの結束に罅を入れた。

 

 

 その王の名は卑王ヴォーティガーン。神秘の残されたブリテン島の中でも強力な超常の力を有する白き竜の化身である。

 彼は海を越える異民族を利用し、己の野望、ブリテン統一を果たす為名乗りを上げたのだった。

 

 ヴォーティガーンはサクソン人を利用し——ブリテンを暗黒時代へと突入させた。

 ローマ帝国が統治していた頃に作られたブリテン島守りの要、城塞都市ロンディニウムを滅ぼし、自らの居城にしてしまった。

 ピクト人は北から攻めて来る。海を渡って来たサクソン人は土地を占領する。国にまとまりは無くなった。

 

 数えきれない暴力が島を駆け抜けた。

 多くの人々が虫の様に命を落としていった。

 多くの村が、土地ごと燃えた。

 多くの畑が完膚なきまで破壊された。

 

 

 国土は荒れ果て、島から血が流れない日はこうして消える事になった。もしヴォーティガーンを倒す事が出来なければ遠くない未来、島は滅びる事になると誰もが思った。

 

 

 それはブリテンの部族中で、もっとも偉大とされた王"ウーサー・ペンドラゴン"もその一人だった。そして自分ではヴォーティガーンには勝利することができないとも確信した。

 ウーサーはブリテン島の王にのみ、そして選ばれた者のみが持つ神秘、超常の力を持つ超人である。

 しかしそれでも彼は"人間離れ“した者であり、竜の血を飲み込み人間である事を辞め、更にウーサーと同じ、もしくはそれを上回る超常の力を持つヴォーティガーンには敵わないだろうと悟った。

 

 

 

 ——それ故、彼は"人間離れ"ではなく“人間ではない"モノを用意すると決断した。

 

 

 

 この決断にウーサーの補佐として仕えていた魔術師——花の魔術師"マーリン"は、諸手を挙げて賛成した。狂乱と言ってもいい。其れは傍から見たら新しい玩具を得た子供の様であった。

 

 こうしてウーサー王の血、マーリンが用意した竜の血、それを合わせる女の血。

 それらによって卑王ヴォーティガーンに対する切り札を彼らは作り出した。混沌とするブリテン島を統一する為に作られた、人の鋳型によって誕生した竜の化身。

 ただの呼吸によって莫大な魔力を精製する、竜の心臓を核とする人型。

 

 その行為に悪気はない。悪意も無い。親としての——子供に対する愛情もなかった。

 王として国を統治する為。次代の王の基盤をより強固にする為だけの行為にして、ブリテンを生かす為だけの行いだった。

 

 

 こうして——アーサー王は誕生した。

 

 

 だが今度は新たに二つの問題が出来た。

 一つ目はアーサーが女性であった事。

 

 

 ——多くの部族、領土、騎士を述べる王は男でなければならない——

 

 

 その為彼女は男として育てられる事になった。

 ウーサーは信頼できる自身の部下の一人——騎士"エクター"に子供を預けた、彼女の正体を知る者は、エクターとその息子の、後に円卓の騎士となる——ケイ。

 そして魔術師マーリン、最後にウーサーのもう一人の"人間"の娘、モルガンだけとなった。

 

 そしてもう二つ目の問題。それはウーサー王、最初の娘。

 モルガンが生涯をかけて復讐する妖妃と化した事。

 

 アーサーと同じ、偉大とされたウーサーの子供でありながら、自分には引き継がれ、アーサーには引き継がれなかったブリテン本来の王が持つ超常の力を持ちながら——父からの期待を、王としての期待を全て受け継いだ妹を憎む、魔女と化した。

 

 

 しかし彼女ではアーサーには敵わない。

 

 

 ブリテン本来の王が持つ超常の力はブリテン島を一つの肉体とするもの。

 島を流れる竜脈から魔力を吸い上げ自身の肉体に変換する強力な呪術である。

 しかしそれと同じ力を持つヴォーティガーンを倒す為に作られたアーサー王に、モルガンでは敵わない。

 

 それ故に将来、モルガンはアーサー王に対し時には刺客を送り、時には罠に嵌め、時には自らの正体を隠しアーサー王に復讐し続ける事になる。

 しかし、それが真に成功する事は一度もなかった。

 

 

 

 そしてウーサーは、アーサー王が生まれてから五年後、ブリテン島の時間とアーサーが成長するまでの時間を稼ぐ為に、ヴォーティガーンとの決戦に挑み——その姿を世界から永遠に消した。

 

 こうしてヴォーティガーンは最も偉大とされたウーサーを倒し、実質的にブリテン島を支配することに成功した。

 ヴォーティガーンはサクソン人に土地を与え、彼らに休息を与える事で異民族の進行は一時的に沈静化はしたが、まだ多くの部族とその王は反抗を続けていた。

 ウーサー王が亡くなった事で人々の希望が潰えるかと思われた時、花の魔術師マーリンはこう予言する。

 

 

 

「王はまだ消えた訳では無い。ウーサー王は、次の後継者を探している。

 その人こそ次代の王。赤き竜の化身。

 新たな王が現れた時こそ騎士達は集結し、卑王ヴォーティガーン。白き竜の化身は敗れ去る。その証はいずれ現れるだろう」

 

 

 

 人々はマーリンの予言に新たな希望を見出し、ヴォーティガーンはその王の後継者を凶暴に探し続けた。

 しかしヴォーティガーンにも、人々にも王の証は見つけられずに、十年の月日が流れた。

 そしてその日に、何の前触れも無くマーリンはまた人々に預言を告げる。

 

 

 

「この岩に突き刺さった剣は、勝利を約束する聖剣であり、血より確かな王の証である。ただ力ある者、ブリテンを救えるものだけが剣に認められ、この剣を引き抜くことができるだろう」

 

 

 

 昨日の今日でヴォーティガーンはこの動きに対応できなかった。

 

 ブリテンの復興を望み、救おうとする騎士。

 王の座を得て大成しようとする騎士。

 王の選定を見る為、集まる民達。

 

 岩に刺さった剣がある広場に、人々が集まり続けた。

 岩に突き刺さった剣を抜こうと剣の柄に真剣な面持で試み——びくともせず、そして落胆していく人々と騎士。

 

 

 

「聖剣よ! 我を選びたまえ! ……ぐっっ!! ……〜〜ふっぅぅ!! ……」

 

「あんなに立派な騎士でも引き抜けないなんて………」

 

 

 

 諦めずに何度も挑戦する者。

 何かの間違いだと言う者。

 岩ごと持ち上げられそうな者。

 

 しかし誰も選定の剣を引き抜けず、微かに動くことすらなかった。

 預言を出した筈のマーリンは選定の広場に現れず、落胆は一気に人々に広がっていく。

 

 

 ——この国に王足り得る証を持つ者はいないのか。

 ——ブリテンに未来はないのか。

 ——マーリンの予言は嘘だと言うのか。

 

 

 騎士達は新たに王を選ぶ方法を模索する。単純に騎士としての技量を測り、最も優れている騎士がウーサー王の後を継げばいい、と。

 こうして人々と騎士は王を選ばなかった剣を無視し、新たな方法で王を選定する事とした。

 彼らは新たな王を選ぶ為、騎馬戦を行う会場を近くの農園に作った。

 

 選定の広場には誰もいない。

 辺りは静まり返り、多くの人で賑わっていた広場には寂しく風が吹くのみ。岩に刺さっている剣は初めから、なかったかの様に打ち捨てられている。

 

 ——その広場に近づく一つの人影があった。

 着ている衣服はどこにでもある麻布で出来た"男物"のシャツとズボン。髪を後ろに縛っている。中性的な、しかし村中で一番の男性らしさと女性らしさを持った美貌。

 

 

 そして—— "か弱さや儚さとは無縁の、強い意志を見る者に感じさせる碧眼"

 

 

 十五になるまでは華奢な体つきで誤魔化せて来たが、この先はもう通用しないだろう。そんな人影が広場に一つ。アルトリウスと言う名と偽って、男として育てられてきた、アーサー王その人であった。

 

 彼女は岩に突き刺さった剣の柄に手をかける——瞬間、カチンと岩と剣が擦れる様な音が響いた。剣の柄は驚くほど手に馴染む。まるで生涯扱って来た愛剣の様だった。自らが持て余していた力が剣と同調し、剣に吸い込まれていく。

 ただ持っているだけで身が軽くなった様に感じる。

 

 後は手を引くだけで剣は抜ける。そう確信し、息を吸う。その時——

 

 

 

「——それを手に取る前にきちんと考えた方がいい」

 

「驚きました、夢の外で出会うのは初めてですね……マーリン」

 

 

 

 いつの間にか見た事のない魔術師が、後ろに立っていた。

 いや正確には違う。現実では出会った事がないというだけで、彼女はこの十五年の間、夢の中で魔術師マーリンから王の教えを受けていたのだ。

 

 

 

「悪い事は言わないから止めた方がいい。それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ。

 ……それだけじゃない。手にすればあらゆる人間に恨まれ、惨たらしい死を迎えるだろう」

 

 

 

 まるで教え子を導く様に、優しく子供に語り継ぐ様に、彼はアーサーに語り掛ける。

 

 

 

「——いいえ」

 

「……いいのかい?」

 

 

 

 けれど、それが彼女に最後の決意を促した。

 彼女は金の髪を風に揺らしながら、振り向かずに頷く。

 

 

 この時彼女には恐れがあった。

 

 

 決して剣を引き抜いた事による、自分の結末に対する恐れではない。

 自分よりもふさわしい王が、その王が自分よりもブリテンを平和にする事ができるのではないか……という恐怖が。しかしそんな人物は今はいない。あと数十年はきっと現れないだろう。

 それまでの間、誰かがこの役割を引き継がなければならない。それまでの間、誰が人々を守る?

 

 

 人々の生活を見ているだけで力が湧いてくる。

 人々が幸せそうに生きているのを見ると背中を押される。

 

 

 憧れでも、愛でもない。

 王としての使命感でもなければ、支配欲や義務感でもない。

 ただ、人々の平和が良き物として映ったから。

 

 

 

 ——それが十五年間、人として育てられなかった、彼女の願いの全てだった。

 

 

 

 人が人として生まれるように。

 竜には、竜に望まれた役割がある。

 

 

 

 

 

「多くの人が笑っていました。

 

 

 

             ——それはきっと間違いではないと思います。」

 

 

 

 

 

 彼女が誓った気高き誓いは、誰も知らない。

 

 

 たとえ何があろうと

 たとえ何かを失おうと

 たとえ何と引き換えようと

 たとえその先に避け得ない、破滅があろうと

 

 

 

              ——彼女は戦うと誓ったのだ。

 

 

 

 

 彼女は人々の為に生き、人々の為に死ぬのだと決意する。彼女の碧眼には、何事も退ける、強い信念が浮かんでいた。

 こうして多くの人が力を込めて抜こうとし、そして誰も抜けなかった選定の剣カリバーンは、いとも簡単に引き抜かれる。剣は淡く輝き、アーサーを包み込んでいった。

 

 魔術師は困った様に顔を背けたが、内心は彼女の選択に胸を躍らせていた。

 なぜなら彼女の道は波乱に満ちた物になると、多くの苦難と挫折に満ちた、茨の道となるだろうと確信したから。その果てに、最高に美しい光景が見れると思ったから。だから彼は無邪気に喜んだ。

 

 

 

「あぁ、辛い道をえらんだんだね……でも奇跡には代償が必要だ。アーサー王よ。

 君はその、一番大切なものを引き換えにする事になる」

 

 

 

 いけしゃあしゃあと、最初の助言をのたまりながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして剣を抜いた彼女は、王としての道を進む事となった。

 しかし彼女はまだ王の名乗りを上げない。例え選定の剣カリバーンを引き抜いたとしても、十五の子供では王として認めてもらえず、戦士としてすら侮られるだろうと考えたからだ。

 

 こうして、アーサーとマーリンは選定の剣カリバーンを使いこなせるように修行をしながら、いくつかの部族や集落を救っていった。こうして徐々に自身の力と勢力を増やし、ヴォーティガーンに気づかれないまま力をつけていく事になる。

 

 彼女が王としての名乗りを上げたのは、選定の剣を引き抜いてから数年後。自分の名が島中に響き渡ってからだ。

 自分はウーサー・ペンドラゴンの嫡子、アーサー・ペンドラゴンだ、と。選定の剣を引き抜いた自分こそ、ヴォーティガーンを倒すべくして生まれた王であると。

 

 それから彼女は、破竹の勢いで勝利を収めていく。

 失われていた騎馬形式(カタフラクティ)を再編し、戦場を駆け抜けていく。

 

 

 

 第一の会戦。

 北から襲ってくるピクト人を、ドゥグラス河畔にて、撃退し。

 

 第二の会戦。

 西のアイルランド島から襲ってくる部族を、ウェールズ郊外にて制し、自らの勢力に合併させ。

 

 第三の会戦。

 南から侵略してくるサクソン人達を、現代で言うリンカンシャー州にある二つの川に挟まれた山の上で撃退した。

 

 

 

 そして今、来たるべき卑王ヴォーティガーンとの決戦に向けた、第四の会戦の中にいる。

 

 

 

 ヴォーティガーンの根城となった、城塞都市ロンディニウム。

 その城への足掛かりにする為、ブリテン南部にあるベドグレイン城を奪還。

 サクソン人とベドグレイン城周辺の部族、ヴォーティガーンに下った部族との戦争。

 

 

 選定の剣を引き抜いてから八年。

 今までの会戦で最も大きな戦いになるであろう、会戦。

 

 

 

 

 

 この会戦を前に今、彼女は

 

 

 

 

              ——選定の剣を引き抜いた代償を支払う事になる。

 

 

 

 

 

  




 アーサー王伝説参考文献&資料。

  マロニー著 
   アーサー王の死
  
  ローズマリー・サトクリフ著
   アーサー王と円卓の騎士
   アーサー王と聖杯の物語
   アーサー王最後の戦い
   エクスカリバーの宝剣(上・下)
   トリスタンとイズー

  アンヌ・ベルトゥロ著
   アーサー王伝説

  トールキン著
   サー・ガウェインと緑の騎士
 
  著者不明
   散文ランスロ流伝(名称不明)
  
 Garden of Avalon 小説版&ドラマCD

 後、その他のFate作品や原典から付け足す様に作っています。
 また、設定の整合性を図る為ところどころ設定を変えたり、解釈の幅を広げる為、微妙に文脈などを変えたりしています。
 ご容赦ください。
 
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