ありきたりな事故で死んだという設定を付けられて転生前の真っ白な世界で女神様と駄弁る作品。主人公は何もしないし何も為さない。とにかく皮肉と愚痴と文句に溢れたツッコミを入れるための最終回。

1 / 1
二時間。それがこの作品の製作時間だ。頭がオカシイとしか思えない。


神様が転生前の部屋で皮肉りまくるしょうもない話

気がつけば白い地面に白い地平線白い空。おおよそ距離感を感じさせることのない単一色の風景はとてもじゃないが心臓に悪い。前後左右上下、見回す限り全てが白。いくら地に足がついていても、飲み込まれそうな感覚が背筋を這う距離感の無さはやっぱり同じで。

 

――唯一、自分の足元にある影だけが救いだった。

 

それすらも一体ドコから照らされることに出来た影なのかわからないけど。前面真っ白だし。光源特定できないし。かかる影だって長さはあやふや。ついでに自分自身の服のシワや裏側にも影が無い。あれ、おかしいな。何も信用できやしない。

 

「やぁ少年」

 

――耳元に、息を吹きかけるように声をかけられた。カラダがゾワリと震える。

 

 こそばゆい。唐突に隣に現れて耳元でささやいた誰かは、一生涯で見たこともないほど華奢で、綺羅びやかな長い黒髪の映える美人だった。それこそ出会った瞬間に襲いたくなるくらい。驚きで硬直して、チラ見で済ませたことが救いだったのか、なんとか理性を保てた。

 

「ふふ、どうした?こっちを見てもいいんじゃぞ?」

 

――そんな事言われても、俺の嫌な予感レーダーはビンビンしてるんですが。

 

 左肩にそっと置かれた右手の、優しく肌を撫でる指の動きがソロリソロリと俺の脆弱な心を撫でる。空いた彼女の左手は顎下から右頬にぺたりと貼り付けられて、女の子特有の柔らかい冷たさが鼓動を刻む心を熱くさせる。カラダは密着されて二の腕は柔らかな胸に沈む。指先は彼女のいけない場所に当たりそうな位置にある。

 

――もしもこの指を……軽く動かしたら彼女は綺麗な声をあげてくれるのだろうか。

 

「興味無さそうなツラして、なかなかにスケベじゃのう少年。ムッツリか?」

 

――!!!!

 

 完全に、ばれている……。自身の奥底に潜む思考の枠組みなんぞなんのその。奥深くまで覗き込まれるような感触、しかし彼女のその目は別にこちらを向いていなくても俺のことをわかってくれそうでとても嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

――なんだ、俺は変態だったのか。

 

「やっと気づいたのかぇ少年?まぁ、遊んでやるのはここまでにしとくかのぅ」

 

 スルリ、と彼女の柔らかなロックが外される。あぁ、もっと楽しんでいたかったのに。この離れ行く微妙に切ない感覚を、俺は滝の涙と名付けた。

 

「そんなに残念じゃったか?とは言うても、妾とて仕事は果たせなばならんからな」

 

――なんと、これを仕事と申すか。一分コースでお願いします。

 

「どんだけ早いんじゃお主。妾の第一話作業表にはそのようなものはありゃんせん」

 

――ならば、プライベートでお願いします。

 

「アホか。妾のプライベートは寝る、飲む、食べるの3つだけじゃ。そこにお主が入ることなど、那由多の欠片もありゃせんよ」

 

 絶望した。怠惰の限りを尽くしてる美人に絶望した。見目麗しいというだけでも貴重な財産だというのに、それを庶民に分け与えないとはなんたる王。

 

「王ではない、神じゃよ」

 

――まさかの神か。とすれば、ここはテンプレ的に神様転生というやつか。

 

「そうじゃ?お主は交通事故で死んだのじゃよ。足の止まっていた少女の身代わりにな」

 

――そうだったのか。しかし、俺はそこまで勇敢な善人だったろうか。

 

「ああ、じゃから妾が拾ってあげたのじゃよ。報われぬ少年に愛の手を、とな」

 

 なるほど。どうやら俺が行った行為は神様が見てくれるほどに価値あるものだったようだ。それでこんな美人な女神が拝めるとは。眼福眼福。転生なんてどうでもいい。しかし、転生するまでがテンプレなのだろう?

 

「そうじゃ、テンプレじゃ。しかし…………、

 

 

ただのテンプレはここまでじゃ!!!!」

 

 

――彼女の威圧感あるオーラでブワリと風が起こる。その姿は神というだけあって神々しく、無慈悲なまでに荒々しい。そんな彼女に俺は――――、めくれ上がる純白のスカートの中身にしか目がいかなかった。

 

「すがすがしいほど変態じゃなお主。まぁそれはいい。それはいいとして、たかだか交通事故で死んだ奴に目をつける神様とか、バカバカしいにも程があると思わんかの」

 

 ソレは確かに。死亡事故の統計で言えばそこそこ上位に位置するありふれた死に方だ。例えば仮に、少女が死ぬ運命だったとしてそれを翻したとしても、そんなものは確率論や因果論、平行世界論まで持ちだしてしまえば塵芥とかしてしまう。どのような行動をしたのか、ではない。究極的な価値というものは死んだか、死んでないか。それだけだ。

 

「中々頭はいいようにできておるようじゃの。よく神様が死亡させる奴を間違えた、とか言うとるがの。バッカじゃないのかのぅ!神様は全能だから神様なのじゃよ!間違えるなど断じてありえん!そして神様は神であるがゆえに独善じゃ!なんで謝罪やサポートをたかが一人間、もとい生命なんぞに手厚い加護を与えねばならんのじゃ!!」

 

――ええ、えぇ。そうでしょうね。だってこんなに俺の情欲を弄んでくれたもの。

 

「そうじゃそうじゃ!その上神様が仕事してるとか……フフッ、ぶふっ……笑い話にもならぬわぁ。何故そんな俗な事を妾がやらねばならん。仕事なんぞして給料でももらえるのかぇ?何が神様じゃ世知辛い。かような凡人のイメージに神を当てはめるな」

 

――まくしたてましたね。喉が渇いたでしょう。どうですか、お水でも。

 

「ぬ?お主水なんぞ出せたか?」

 

――唾液で良ければ溢れ出ます。

 

「やっぱりお主はアホじゃな。ああ、ところでお主転生先がどんなところか知っとるか?」

 

 転生先、それは往々にしてもう一度人生のチャンスを与えられる墓場。しかしてその実態は二次元のマンガやアニメの世界に行ってオリジナル主人公を食いつぶすための確定された目立つ世界。

 

「そう思うのが普通じゃろうな。しかしな、妾はこう思うのじゃ。マンガを芝居と例えて、お主ら読者は観客と喩えよう。すると転生主人公というやつはの、演じられる劇の内容が気に食わないから俺が乱入してやるぜ!!というキチガイな観客なのじゃよ。お主はこれをどう思う?」

 

――はた迷惑ですね。

 

「そうじゃ。その行動に観客は蔑み、役者は呆れ返る。その行動には一片の価値すら無い。――じゃがしかし、お主らが乱入することを許される状況がただ一つだけある。それはじゃな――、

 

乱入した客すらも「役者」じゃった時じゃ」

 

――っ、つまりそれは!

 

「あぁ、お主ら、もとい妾も芝居のための作られた装置でしかない。三次元の人間が二次元の世界に行くじゃと?っは、バカも休み休み言え。お主らは所詮、「転生主人公」という枠組みを与えられた喜劇の人形でしか無い。つまり二次元と同義じゃ。今の行動も、話している内容も、考えていることも、全ては「作者様」のキーボードの上にしか過ぎぬ。……そして、妾も「神」という役柄を与えられた俗な役者にすぎん」

 

――なんということだろうか。この美貌も、この憂いも、この情熱も、全て俺と彼女は無価値であり同価値でしかないということか。

 

「いやはや、本当にこの舞台は踊らせるバカもじゃが、踊るのもバカしかおらん。なにせ「神」と称される何者かが、能力を与えるためのたったの一話で舞台から蹴落とされるのじゃぞ?便利屋さんか妾は。「転生主人公」とて、わかっておるのは「死んだこと」だけで、何にもバックグラウンドが無い。こんなんでオリ主に感情移入しろと言うほうが無理じゃ。だからオリ主様とか()とか言われるのじゃよ。知っておるか?妾たちは生まれてから過ごした時間が全く同じなのじゃよ?」

 

 つまり、物語を書き始めてからが俺たちの生まれた時だということ。そして神様はその命をわずか三〇〇〇文字程度で散らすのだ。これを儚いと言わずなんというのだろうか。

 

――それは、凄まじい偶然だな。俺達が出会うのはどうやら運命だったらしい。

 

「さっきの地文はなんじゃったのじゃろうか。ちょっとくらい同情してもいいのじゃよ?それと、これは偶然ではなく必然、「運命」と書いて「お約束」と読むのじゃよ。さっきからお主のセクハラに怒らないのもそれじゃ。所詮コレは強制させられとる芝居なのじゃからのぅ」

 

 ため息を煙突から伸びる煙のごとく出しそうな顔をしながら、彼女はゆっくりと腕を上げて、指で俺の鼻をフニフニといじりだした。

 

「あー、そうじゃ。能力じゃ能力。テンプレじゃからの。これも与えねばならんらしい。時々ランダムで与えるとか言うとる奴がおるがのぅ、神様のいる確率を超越した高次元でランダム要素持ちだすとか、アホの極みじゃ。神は全能なるが故に全てを知っておる。然り、確率の果てに何が出るかも当然わかっておる。それに加えてランダムで選んだとか言いつつ後々役に立つことが丸わかりじゃないかやぁ、やだぁ。伏線のふの字にもなりゃせんわ」

 

 そう言いながら彼女は更にフニフニフニフニと鼻を連打する。気持ちいいのでもっとやって下さい。

 

「願い事に誰々になりたいとか、誰々の能力が欲しいとか、芝居しとる奴にさらなる役をかぶせてまともに機能するわけもないよの。白けるだけじゃ。あぁ、鼻を連打するのにも飽きたわ。というわけでお主の能力はコレじゃコレ」

 

 

FPS能力:なんかすごい

バリアを張ってる。

死んでもリスポン地点から生き返る。

リスポン時に選択したクラスの武器を持ってこれる。

五〇〇kgのモノを持てる。

グレネードは二個。フラッシュバンも二個。

Perkを3つまで選択できる。

:所持弾数増加。道端に弾薬が落ちているのが見える。

:足音がしない。姿を察知されない。

:銃弾が突き抜ける。

:UAVに映らない。

:人の名前が見える。

:リロード時間が短くなる。

:無限マラソン。

:撃つのが早い。

:爆発から身を守る。

etcetc.......

キルストリークが要請出来る。

爆風で空をとぶ。

免許証なしで運転できる。

後ろから叩かれると死ぬ。

後ろからナイフアタックされたらやっぱり死ぬ。

犬に噛まれても死ぬ。

 

 

「これでいいじゃろこれで。めんどくさい」

 

――身も蓋もない。そしていろいろ混じってる。

 

「ゲームに準じてゲームに死ぬのじゃ。スナイポーでビューティフォーすればどんなラスボスでも一撃じゃぞ?」

 

――最終局面の豪華なラスボス部屋で佇むギリースーツの男。モリゾー……!お前はそこには居てはいけない存在なんだ!

 

「さて、次は行く世界じゃの。世界は「○○○」でいいか。ほれ、はよぅいけはよ」

 

――なぁ、女神様。

 

「なんじゃ。時間はまってはくれんぞ?」

 

――俺が転生するということは、あなたの役割が終わるときなのだろう?

 

「……そうじゃ。妾は先にも言ったが、舞台から蹴落とされる。短い命なのじゃよ。神と称されながら妾はお主ほど生きることが出来ぬ」

 

――いいや、違う!例えこの俺の思いが虚構だとしても、存在が虚像だとしても!俺達には生き延びるための最終手段が残されている!

 

「ま、まさかそれは!バカな、今まさに転生物語を書こうとしてる作者様がそれを許すとは思えぬ!」

 

――思っていようともどうだろうと!これは俺の願いだ!そして俺がそう思っている限り、作者様もそれを想定して書いている!その方法とはつまり!!!

 

 

――転生しないことだ!!

 

 

 そうだ、転生しなければオリ主転生物語なんてものは始まらない。基盤が崩れたらそれは二次ではなくそのままのオリジナル。誰にも汚されない真っ白な物語。そして俺達は、ここで打ち切り最終回を迎えることで作者様読者様に観測されない不確定の世界(アフターストーリー)に行く事が出来るのだ!例え誰かがその後を妄想したとしても!それは全て起こったことであり、起こらなかった事でもある!俺達は、自由だ!

 

「お主……」

 

――だから敢えて言おう!女神よ!俺と結婚して下さい!!!!

 

 決まった!完璧なジャンピング土下座!このプライドすら投げだした願いは床に頭をぶつけるほど勢いのあるものだ!その願いのエントロピーは読者様の期待を裏切り全てを終わりに導くのだ!

 

 

「……ふふっ、馬鹿者め。神に求婚するとは、不遜がすぎるぞ人間。じゃが、お主は神の妾と同じ舞台にあげられた人間じゃ。同じ価値を持つ、同志よ。

 

 だから受けよう。その思い、永久に枯れぬといいがの」

 

――…………!!

 

 

 

 

 

 願いは、成就された。そう、俺は、そっと耳元に息を吹きかけられた瞬間から一目惚れだったのだ。吐息で美人とわかる素晴らしい息だった。これで告白せずになんと言う。転生先もいらぬ。転生先で巻き起こる役者との恋愛劇もいらぬ。俺は、ここでただ一人死にゆく定めだった彼女と歩き続ければいいのだ。

 

「そうじゃ。まだ聞いておらんことがあったの。お主の名前、なんというんじゃ?」

 

――これは大事なことを忘れていた。我ながら情けない。俺の名前は――、

 

「そうか。妾は――じゃ。行こうか――。妾の手を離すでないぞ?」

 

――ああ、最後まで、ベッドの中までお付き合い致します。

 

「っくく、ど変態め。それじゃあ、締めといこうではないか。さぁ」

 

――そうだな!

 

 

 

 

 

 

 

「私達の戦いはこれからじゃ!」

――俺達の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勿論、下的な意味でな。

 

 

 

 

 

 

Fin

 



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。