「ッ!!」
冬獅郎はいつものようにノイズを斬り裂いていた。だが、その剣戟はどこかいつものようなキレを失っているように見えた。
『主よ、刃が鈍っているぞ』
「………わかってる」
氷輪丸からの忠告を受けるが、それでも刃がいつものようなキレを戻すことはなかった。全てのノイズを切り裂くと冬獅郎は空を見上げる。じきに流れる、流れ星。自分たちと見るはずだった一人の少女と、この日を楽しみにしていた少女を思い出すと胸が締め付けられる思いだった。
今日は冬獅郎と、響と未来。三人で流れ星を見る約束だった。だが、度重なるノイズの発生でそれは叶わなくなった。未来に行けないということを伝える電話をしたときの響の顔が彼の胸の平静を揺るがす。
『大丈夫、へいき、へっちゃらだよ』
(あんな顔してどこが平気なんだ、馬鹿がッ!)
―――わかってる、戦士が自分の時間に呆けている暇などないのだと。それは響にも言えることだ。だが、結局彼女の日常を壊してしまった。そんな今の状況で彼は本当に彼女を護れているといえるのだろうか?
じきに流れるであろう、流れ星を思いながら冬獅郎は夜空を見上げる。だが、彼は背後からの殺気を感じ咄嗟に瞬歩でその場から移動して回避する。冬獅郎がさっきまでいたとこを長い何かが空振る。
「へぇ、今のを避けるのか」
「誰だ、お前は」
振り返ると、そこには銀色の鎧を纏いバイザーで顔を隠した声音と胸部からいって、少女がそこに立っていた。その手には鎖、いや鞭のようなものが握られていた。冬獅郎を攻撃した刃はあの鞭によるものだろう。少女は冬獅郎の言葉には答えず、その口元には歪んだ笑みが浮かんでいた。そのことがさらにに冬獅郎を苛立たせる。
「……俺は今気が立ってんだ、三度目は言わねぇぞ。テメェは誰だ?」
氷輪丸の鋒を向けながら、冬獅郎は威嚇として少女に圧を飛ばす。
「はっ、随分余裕だな死神さんよ。だけど、アンタの相手はあたしじゃない」
そう言うと、少女は背中に背負っていた一本の錫杖のようなものを取り出す。そして、その先端が発光し冬獅郎の周りに無数のノイズが現れる。
「なにっ!?」
ノイズを召喚した、そのことに驚き現れた背の高い、ダチョウのようなくちばしを持つノイズが口からはなった液体の回避に一瞬遅れる。
(粘液?)
液体の掛けられた腕を見ると、そこには粘着性のある液体がべっとりと付着していた。おそらくはこの液体を使って拘束するのがあのノイズの戦い方なのだろう。
「あたしがここに来た理由はアンタの足止めだ。本命は融合症例なんでねッ!」
「ッ!?待ちやがれ!!」
「おっと、アンタの相手はそっちだぜ!!」
飛び上がり、その場を立ち去ろうとする少女を追いかけようとするが背後から四体のダチョウノイズが粘液を放ってくる。冬獅郎は瞬歩でダチョウノイズから距離を取る。今度は反応が間に合い、攻撃を回避できる。
「ホラッ、追加だ!!そいつらと遊んでろッ!!」
更に錫杖から、無数の光が飛んできて冬獅郎の周りを見慣れた人形、オタマジャクシ型、先程から粘液を飛ばす、ダチョウ型、さらにはブドウのような頭を持つノイズまで現れ、冬獅郎を完全に包囲する。その間に、少女の姿は既に見えなくなっている。
「……『氷輪丸』」
斬魄刀の名を呼び、腕についた液体を凍らせて砕く。飛び去っていった少女は融合症例を捕まえる、そう言っていた。融合症例……その言葉を聞いた瞬間、冬獅郎の脳裏に浮かんだのは今もこことは違う場所で戦う幼馴染の少女。
「狙いは立花か……!」
彼女の胸に刺さったガングニールの破片は彼女の体に深く根付いている。融合症例という言葉も酷く納得がいく。その考えに至ったとき、冬獅郎の背後のダチョウノイズが再び粘液を放つ。
「しつけぇよっ!!」
冬獅郎は再びダチョウノイズが放った粘液を氷輪丸で凍結させ、そのまま本体も凍らせる。急いで司令室や、響に連絡しようとインカムに通信を入れようとするが、ノイズがかかって妙な音しか流れない。
(ジャミングか……。)
「舐められたもんだな、この程度で俺の足止めになると思われてるとは」
冬獅郎は眼前に佇むノイズ達を見ながら、氷輪丸を正面に構える。その全身から冷気のような霊圧を発生させ、彼の足元を中心に次々に大地が凍り始める。確かに数の差は圧倒的、九十番台の鬼道を使ったとしても倒しきれない数だ。いや、そもそもあのダチョウのようなノイズのせいで詠唱ができるとは思えない。
「本当は……まだ遣う気はなかったんだがな」
急がなくてはいけない。ならば、これを遣うしかないと冬獅郎は判断する。昂ぶっていた霊圧を安定させると、冬獅郎は自身の顔の前に手をかざし、次の瞬間に彼の顔は髑髏のような面で覆われていた。
『ガアァァァァァァァ!!!』
月夜に
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「歌うなっ!翼ッ!!」
場面は変わり冬獅郎がノイズたちと戦っているとき、響の元に向かった鎧の少女―――完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』をまとう少女から響を護ろうと合流した翼と奏が、その少女と戦っているとき。
ダチョウのようなノイズに拘束された響を護りながら戦う奏と翼だったが、完全聖遺物の前に劣勢を強いられていた。だが、翼が影縫いと言う技でネフシュタンの鎧の少女を拘束し、諸刃の剣『絶唱』をまさに使おうとしたときだった。
足に怪我を追った奏は必死に翼を止めようとするが、彼女の決心は既に揺らがない。
「歌うつもりか、絶唱を?」
ネフシュタンの鎧の少女は翼の攻撃を察し、動けない体を後ろに反らせる。
「翼さんっ!!」
響も必死に呼び止めようとするが、もはや彼女は覚悟を決めている。
(ごめんなさい、師匠。貴方の教え、護ることはできそうにありません。だから、せめて貴方が護ろうとした子を今度こそ護らせてください)
心のなかで自分の命を無碍にするなと教えてくれた冬獅郎に詫びを入れ、翼はその歌を口ずさみ始める。
(どうしよう、どうしよう……!このままじゃ翼さんが……!?)
響はなんとかノイズの拘束から逃れようとするがビクともしない。
「そうだっ、アームドギアッ!!」
未だに自分が顕現させることができないシンフォギアのメイン装備、『アームドギア』。今こそ、その力を顕現させるときだと、必死に自分のシンフォギアに呼びかける。
「出てこいっ!出てこいっ、アームドギア!!」
しかし、どんなに呼びかけても彼女の体に変化は訪れない。
(なんで、なんで出てきてくれないのッ……!)
響がそうしてもがいてる間も、翼は歌を続けもはや終盤だ。
「……助け……て」
その時、響の脳裏に浮かんだのはいつも自分を護ってくれた幼馴染。ネフシュタンの鎧の少女は彼は来ないと言っていたが、もはや、彼に縋るしかできることがなかった。
「助けてよぉ……シロちゃぁん……。」
涙で顔をグシャグシャにして、ただ彼に助けを求めることしかできなかった。
―――しかし、その声は確かに届いた。
「「「「「ッ!!!?」」」」」
空から何かが大地におりてきた。その衝撃であたりに粉塵が舞い、あたりを包む。翼もその衝撃で絶唱を中断してしまう。そして、その一瞬の間に奏もろとも担がれ、少女から離れたところに降ろされる。次の瞬間には、響を拘束していたノイズが凍りつき、響の体も開放される。
急に開放され倒れるようにした彼女の体を何者かが支える。
「待たせて、すまない」
その声が聞こえたと同時に粉塵が晴れ、そこには黒い死覇装に身を包んだ見慣れた銀髪の少年が立っていた。
「俺の幼馴染と弟子が随分世話になったようだな」
彼は、自身の背後にいる鎧の少女に向き直ると全身から吹雪のような霊圧を発しながら、口を開いた。
「無事に帰れると思うなよ、小娘」
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