―――一人の死神の夢を見た。
生まれながらにして強い霊圧を持ち、若くして護廷十三隊十番隊隊長に任命された死神の少年の夢だ。彼には、護りたいものがあった。しかし、護りきれなかった。やがて、それを傷つけた相手との決戦の時が来た。
『俺はここに戦いに来たんじゃねぇ……暴力でてめぇを叩っ斬りに来たんだ!!』
『…刃に乗っているのが憎しみなら、お前も隊長の器じゃない。…そう言いてえんだろう。
そうだ、俺はテメェを斬れさえすればこの戦いで隊長の座を失っても構わねぇ!』
それは自分が知っている少年とは全く違う顔をしていた。いつも、仏頂面だが優しく自分を見守ってくれた少年とは違う。憎しみに彩られた表情だった。
『シロ……ちゃん……?どう……して……?』
―――罠にはまり自分が護りたかった相手を自らの剣でその胸を貫いたときの彼の表情を、私は永遠に忘れることはできないだろう。
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「目、覚めたか?」
「シロ、ちゃん?」
響が目を覚ますと冬獅郎の顔とその背景に見慣れた天井が見えた。
「ここは……?」
「俺の家の客間の一つだ。何があったか、思い出せるか?」
「……ッ!あの女の子は!?」
少し思い出す仕草を見せたあと響は勢いよく体を起こす。
「いきなり体を起こすな……逃げられたよ。お前らが気絶してる間に」
「どうして……。」
「俺の霊圧に当てられたんだ、まさかあそこまで影響が出るとは思わなかった……すまねぇ」
そう言って冬獅郎は頭を下げ、更に説明を続ける。
「櫻井がメディカルチェックの結果は問題ないと言っていたが、異端技術とやらを持ってしても魂に関しては専門外だからな、専門家である俺の近くで様子を見るってことでうちに送ってもらった。あの鎧やあの女については後日話してくれるらしい小日向には、バイトで疲れて家で寝ちまったと連絡しておいた。明日の朝、迎えに来るはずだ」
「そっか……。」
響は冬獅郎の説明を聞くと顔を俯かせた。そして、その口から出た言葉はとても弱々しかった。
「ゴメンね……。」
「……何がだよ」
「足を引っ張って……。」
「ッ!立花、お前……。」
冬獅郎が響の顔を見ると、彼女は、泣いていた。
「結局、何も変わってなかった……!」
彼女が掴んでいる布団にしわができる。それだけ強く手を握りしめているということだ。
「何もできなかった……!奏さんにも翼さんにも、シロちゃんにも護られるだけしかできなかった。寧ろ、足を引っ張って……!」
涙を流しながら、自分の無力を嘆く響。冬獅郎は彼女の顔に自分の顔を近づける。
「………………」
「……シロちゃん?」
ゴンッ!
「イタイっ!?」
響の額めがけて頭突きをかました。
「自惚れんな。アイツを逃したのは俺が虚化へのお前らの影響を知らなかったことと、俺の甘さが原因だ。だから、いつまでもうじうじすんな、みっともねぇ」
冬獅郎の頭突きを喰らい、涙目で額を抑える響。冬獅郎はその響の様子を見下ろしながら腕を組んで呆れたように言葉を投げかけた。そして、響の隣に腰を下ろし、言葉を続ける。
「お前は、強くなってるよ」
「え?」
「少し見りゃわかる。この一月でお前は十分強くなった。お前のことだから、どうせ相手が人間だったからどうすればいいのかわからなくなった、そんなところだろう?」
「う、うん……。」
立花響はノイズから人間を護るためにシンフォギアを纏った、だからこそ、目の前に……自分と同じ人間が立ちはだかったことで、自分はなんのために戦っているのか、一瞬わからなくなってしまった。そのせいでノイズ達に捕まり、翼や奏の足を引っ張った。
「お人好しなお前のことだ。もし、あの鎧を着てた女とわかり合いたいなんて思ってるんなら―――」
「…………。」
響は冬獅郎が次に出す言葉を聞きたくはなかった。冬獅郎は長い時間を生きてるだけあって、現実主義者だ。そんな夢物語は諦めろ、そう言われるような気がしていた。それを幼馴染の口から聞きたくなくて顔をうつむかせる。
「―――お前は、変わんな」
「え……?」
「何があってもその意志を曲げるな、誰に否定されようがなんだろうが貫け」
自分が考えていたものとは全く違う、冬獅郎の答えにうつむかせていた顔を上げ、冬獅郎の顔を見る。
「……俺は知ってる、たった一人の人間の不変が尸魂界の千年間の不変を変えたことを。奴は、自分を殺そうとした相手だろうと、自分の家族や仲間の記憶を操作し、絆を無茶苦茶にしたやつだろうと仲間と認めた。その意思に触れて尸魂界は変わった」
「…………。」
「一人の人間に一つの世界が変えられた。なのに、一人の人間が一人の人間を変えられねぇわけがねぇだろう。だから、お前は変わんな。お前の不変がいつか奴の不変を変える日が来るかも知れない。もし一人で足りないってんなら、俺が力を貸してやる」
「どうして?」
響の口から漏れ出た言葉に冬獅郎は疲れたようにため息を吐いて、響の頭を小突く。
「アタッ……。」
「二度と言わねぇから忘れんなって言ったはずだぜ。」
冬獅郎は立ち上がり、響に背中を見せて襖の前に立ち、いつか、月夜の下で口にした言葉を口にする。
「俺はどんな事があってもてめぇの味方だってな」
「うんっ……!」
響は目尻に涙を浮かべた笑みを浮かべて冬獅郎の言葉に頷いた。
「で?てめぇらはいつまで人の話に聞き耳立ててん、だっ!?」
「わっ!」
「あっ!」
冬獅郎は襖を一気に開くとそこから二つの影が転がり込んでくる。
「奏さんっ!翼さんっ!どうしてここに……?」
「違うんだ立花!私は奏に無理矢理!」
「何いってんのさ、翼だって途中から興味津々だったくせに」
「奏ぇッ!!」
転がり込んできた二つの蒼と赤の影、奏と翼の姿に響は驚きとともに疑問符を浮かべた。冬獅郎は痛そうな頭を抑えながら響に説明する。
「コイツラも俺の霊圧を受けたからな、一応俺が様子を見ろっておっさんに頼まれたんだよ。お前と風鳴にも天羽と同じように俺の霊圧を分けておいた。もう、霊圧に当てられるってことはねぇはずだ。一応、一晩くらいは様子見ってことで泊まらせてる。俺としては帰ってほしいんだが」
「つれねぇこというなよぉ、響泊めてんのにあたし達だけのけものなんて」
「こいつは半分住んでるようなもんだ、今更だぜ」
「じゃあ、あたしたちも住むか?ねぇ、翼?」
「そんなわけにはいかないでしょうっ!」
奏と翼が言い争いをしている中で冬獅郎は付き合ってられないという表情で、襖の外に出ようとする。
「今から飯持ってくるからとっとと食って、とっとと寝ろ。あと、風鳴と天羽はできるだけ早く帰れ。小日向に見つかると面倒だ」
冬獅郎は客間の襖をピシャリと閉じると、そのまま台所に向かっていった。
「「「………………。」」」
冬獅郎がいなくなった客間から微妙な雰囲気が流れ出している。三人とも何故か口を開けず、ただじーっとしている。
「………立花」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
いきなり翼に名前を言われて変な声で返事をしてしまう響。その様子に張り詰めていた空気が一瞬緩む。
「……私は貴方を戦士としては認めていなかった、いえ、まだ認めていない」
「えっ…?」
響はその言葉にショックを受けた、憧れの人にストレートにそう言われて。
「私達はそれぞれ理由と意志を持って戦っている、自ら力を得ることを選んだ。それは、師匠も同じだ。だけど、貴方の力望まぬもの……今までは奏や師匠が強く言わないので何も言わなかった。そして、先刻のネフシュタンの鎧を纏った者。あのとき貴方は彼女を倒すことに対して躊躇った」
翼は鋭い目つきで響きを見て、その言葉を告げる。
「貴方は日常に帰るべきだ」
「っ……!」
翼の言うことは的を射ている、確かに心優しいからこそ響は戦士に向いていない。敵が人であれば、倒すことに躊躇いを持ってしまう。
「……さっきまではそう思っていた」
「えっ?」
「さっきの師匠の話を聞いて少し考えを改めることにした。立花、力をつけなさい」
「力を?」
「そう、自分の意志を貫ける力をつけなさい。そうでなければ、誰かの不変を変えるなんてできるわけがない。そして、私の中の不変を崩してみなさい」
これは翼なりの激励の言葉、確かに響は戦士には向かないかもしれない。だけど、それでも戦うことを選び、信念を貫こうとしている。自分は先輩として、その道を断念させるのではなく、応援しようと決めたのだ。
「………はいっ!!」
「翼も先輩らしいこと言えるようになったんだな〜」
翼の激励に奏はまるで妹を見る姉のような目で翼を見ていた。だが、次の瞬間にはその目には強い意志がこもった。
「……あたしたちも力をつけないとな」
「……ええ」
「?」
二人の言葉に疑問符を浮かべる響。二人は頷くと、響に尋ねる。
「響、あんたさっき変な夢を見なかった?」
「ッ……!?」
奏の質問に響は驚愕を顕にする。確かに彼女は先程妙な夢を見た、そう、冬獅郎の夢だ。
「あたしもさっき少し寝ちゃったんだけど、驚いたよ。翼も同じ夢を見たって言ってたし」
「それって……!!」
「考えられるとすれば師匠の霊力を譲渡されたことで記憶までも流れ込んできてしまった。霊力が魂の力だとすれば、それもありえない話ではない」
「………このこと、シロちゃんには?」
「……言えるわけないよ」
「……ですよね」
響は理解した、冬獅郎が自分を護るのはあの少女と自分を何処かで重ねているからなのだと。それを思うと胸が痛んだ。
「冬獅郎にあんな顔させないために頑張らないとな」
「……はい」
「ええ」
三人は固く決意をした。
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