とある昼下がり、リディアンの敷地内で響と未来はクラスメイトで特に中の良い、三人組と昼食をとっていた。
「ねぇねぇ、響」
「ん?なに?」
「最近彼氏とはどうなの?」
「ブッ!ゲホッゲホッ!」
「大丈夫、響!?」
仲のいい同級生三人組の一人。ツインテールの少女―――板場弓美の言葉に響は食べていた弁当が妙なところに詰まったらしく、咳き込む。心配した未来が彼女の背中を擦る。
「あ、ありがとう、未来。それで板場さん、か、彼氏って誰のこと。」
未来のお陰で落ち着いたのか、響は弓美に聞き返す。
「誰って、結構前にビッキーを迎えに来てた銀髪の男の子よ」
「立花さんをバイクの後ろに載せてた、男性です」
弓美の代わりに答えたのは響の隣座っていた三人組のリーダー格のような存在の少女―――安藤創世と金髪の少女―――寺島詩織だ。彼女の言葉で二人が言っているのは冬獅郎であることを響と未来は悟った。
「あっ、あぁ……シロちゃんのことかぁ……。三人とも見てたんだ」
「「「シロちゃん?」」」
三人組は響が口にした愛称を復唱する。
「日番谷冬獅郎、私と響の幼馴染だよ」
「あぁ、冬獅郎だからシロちゃんなんだ」
「そうそう、見た目も白っぽいし」
「思っていたより可愛らしい愛称なんですね」
未来が冬獅郎との関係について話し、響があだ名の由来を話す。詩織は以前校門で見かけた冬獅郎の姿から想像がつかなかった愛称に少しの驚きを感じる。
「まぁ、本人はそんなに好きじゃないみたいなんだけどね。三人でいるときとかは別に指摘しないけど、人前で言うと絶対『シロちゃんって呼ぶな』っていうし」
「そうそう、言われる言われる」
「そっか、幼馴染で彼氏かぁ……前聞いた時彼氏なんていないって言ってたくせにしっかりイケメンの彼氏がいるんじゃん!」
「か、彼氏じゃないって!」
弓美の指摘に顔を真っ赤にした響が即座に否定する。
「え?じゃあ、ただの幼馴染なの?」
「それだけの関係にはとても見えませんでしたが」
「うっ、うぅ……!」
創世と詩織の指摘に響はうめき声にも似たような声を上げ顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。その反応で三人は響が彼をどう思ってるのかがわかった。
「なるほど」
「つまり」
「片思いってわけね」
「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!未来ぅ、皆がいじめるぅ!」
容赦なくズバリ指摘され、未来に泣きつく。未来はまんざらでもない顔でよしよしと響の頭を撫でる。その様子を三人は思春期の娘を見るような目で見ている。
「片思いかぁ……なんかアニメみたいだね」
「告白はなさらないんですか?」
やはり女子高生、同級生の恋バナなどという面白うそうなネタに食いつかないはずがない。
「うぅ、できないよ。だってシロちゃん私のことそういうふうに見てないもん」
「そうなんだよねぇ、シロちゃんお硬いもんね」
響の言葉に未来が同意する冬獅郎の二人への接し方は男女間の愛ではない、だからといって友人同士での友愛というレベルのものでもない、彼が二人に向けているのは家族愛だ。故に冬獅郎は二人をそういった目で見たことは一度もないのである。
「あれ?その口ぶり、ひょっとしてヒナ……。」
「―――うん、響に近い感情を向けてるのは間違いないよ。だけど、三人仲良くできるなら私は別に今のままでもいいかなぁって」
未来の言葉に絶句する三人、何という年不相応な余裕。そして、この美少女幼馴染二人を侍らせる少年、日番谷冬獅郎、いったいどんなプレイボーイなんだと興味が湧いた。
―――本人のあずかり知らないところで冬獅郎に妙な評価が付けられた瞬間であった。
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場面は変わり、リディアン地下のトレーニングルーム。
「二分間ジャストか……まぁ、まだ体力が足りてないから仕方がないか」
冬獅郎はストップウォッチを片手に眼下で四つん這いになって玉のような汗を流す二人の弟子を見る。シンフォギアを纏っている二人は息絶え絶えで立つこともやっとの様子だ。
最初の特訓から数週間、完現術も安定し形を保てるようになりようやくシンフォギアと完現術の連装ができるようになった。確かに連装は凄まじい力のブーストになったが如何せん体力を使いすぎるようだ。
「はぁ……はぁ……。これっ、無茶苦茶体力使うな……。」
「使いどきを……考えなければ、いけませんね……。」
二人の言葉を聞きながら冬獅郎は斬れた死覇装の裾を見る。
(大した成長速度だ、既に俺の霊圧の二割は超えてる)
冬獅郎は最初の訓練で私服をボロボロにされてから死覇装で組手をしていた。死覇装は斬魄刀と同じく冬獅郎の霊圧で作られているため彼が回復すれば自然と死覇装ももとに戻るからだ。だが、死覇装の姿になるということは基本スペックが死神の状態になるということ、その上で彼の袖に切れ込みをつけた二人は確実に、かつ凄まじいスピードで成長している。
この成長速度は今までノイズと戦ってきたことによる戦士としての経験によるものか、それとも、本能か、才能か、執念か、どれにしても大したものだと冬獅郎は感心していた。だが、完現術が完全なものになるまでその言葉は自身の胸のうちにとっておくことにした。
「―――今日はここまでだな、ノイズが出ても任務に差し支えのないように回道で可能な限り体力は回復してやる。」
「頼む……」
「お願いします……」
冬獅郎は二人の近くに座り、二人の体に手をかざして霊圧の回復に努める。霊圧が回復することで回復した内部霊圧と、術者による外部霊圧で肉体の回復の速度を早めるのである。
「なぁ、冬獅郎。今のあたし達って護廷十三隊でどれくらいの強さかな?」
体力が回復し、少し気だるい感覚は残るが話せる余裕ができた奏が未だ治癒中の冬獅郎にふとした疑問を訪ねた。
「―――完現術込みで大体、八席から六席ってところだろうな」
「まだそんなもんなのかよ〜。てっきり副隊長くらいはいけると思ったんだけどな〜」
「馬鹿が、一つの隊だけに一体何人の隊士がいると思ってんだ。そのなかで席官ましてや副隊長になれるのはほんの一部だ、そんな簡単に副隊長になれたら護廷の二字を背負えねぇんだよ」
「うぐっ……」
奏の身の程知らずな言葉に冬獅郎は厳しい叱責を飛ばす。回道での治療も終わり、立ち上がって二人を見下ろす。
「人類守護なんて大層な言葉を背負いたきゃとっとと強くなるしかねぇ」
「「ッ!!」」
「わかったら、次回からは完現術の持続時間を長くするために体力づくり本格的に始めるぞ。それとわざわざ連装しなくても、加速と空中に足場くらいは作れるようにしとけ」
「「はい(あぁ)ッ!!」」
二人は覚悟を新たに気合の入った返事をした。
『冬獅朗君、奏、翼!』
「うん?」
「「司令(旦那)?」」
突如トレーニングルームに響いた弦十郎の声に冬獅朗達は顔を上げる。
『緊急事態だ、ブリーフィングを始めるので集まってくれッ!』
その切羽詰まった声に三人は顔を見合わせ司令室へと向かった。