―――私立リディアン学院。遠方からも多くの入学希望者を持つ音楽に力を入れた特別な学校だ。
「ねぇ、アレ……。」
「凄い、イケメン……。」
その校門前にはちょっとした人だかりができていた。その中心には一人の小柄な少年が、おそらくは自分のバイクによりかかりながら携帯をいじっていた。何度か校門を見る素振りから誰かと待ち合わせをしているのは明白であったが、問題は彼の容姿にあった。
珍しい銀髪に吸い込まれそうな翠色の瞳。そして何よりもその顔立ち。身長こそ160cmに届くか届かないかと低いが、それでも魅力的に見える顔立ちをしていた。
「あっ、
やがて、校門から聞こえてきた明るい声で携帯の電源を切って顔を上げる。
「……人を呼び出しておいて待たせるな、それとシロちゃん呼ぶな。
不機嫌さを隠そうともしない表情と、口調で少年『日番谷冬獅郎』は駆け寄ってくる幼馴染でありこのリディアンの生徒である『立花響』を見る。幼い頃からそう呼ばれてきたが、未だに子供扱いのようなその呼び方は気に入らないからだ。
だが、幼馴染の呼び方に文句があるのは響もだった。
「もうっ、幼馴染なんだから名前で呼んでっていつもいってるじゃん。未来も言ってたよ『シロちゃん、そのへんドライ』だって」
「その小日向はどうした?」
冬獅郎はあたりを確認し、もうひとりの幼馴染の姿がないこと確認する。小学生の頃から基本いつでも一緒にいるので今日もいるものだと思っていた。
「未来はパスだって、シロちゃんのバイク二人乗りだし」
「ったく、CD買いに行くだけで呼び出しやがって……。」
冬獅郎は男であるため、リディアンの生徒ではない。都内のそこそこ学力の良い高校に通っている。響も最初はそちらを受験しようとしたが如何せん偏差値が足らず、彼女のあこがれである風鳴翼が通う、この私立リディアン学院に通うこととなった。
だが、それからも、響ともうひとりの幼馴染である『小日向未来』とは連絡やしばしば会うことはあった。今日は、『ツヴァイウィング』の特典付きCDを買いに行くために響が冬獅郎にバイクを出してほしいと頼まれ、学校帰りに学院に寄ったのだ。
「いいじゃん、せっかくバイクの免許を取ったんだから後ろに乗せてくれても」
「別にてめぇがCD買いに行くためにとったわけじゃねぇよ」
口ではそう言いながら、座席の下からヘルメットを取り出し響になげわたす。口ではこんな事言いながら、ちゃんと響の分のヘルメットを用意している―――ツンデレである。
冬獅郎は自分もヘルメットを被りバイクに跨りキーを差してエンジンを入れると、背中に重み、響が後ろに座ったを確認した。
「ほらほら、早く!CD売り切れちゃう!」
「うるせぇ、急かすな。てか、今どきCDかよ」
「初回特典のラインナップが違うんだよ」
「知るか」
急かす響にそう言うとバイクを走らせ響の行きつけのCDショップに向かう、傍から見れば、まるで恋愛青春ドラマのようなワンシーン。周りで見ていたリディアンの生徒たちは砂糖を吐きそうな思いだった。
(松本や斑目達がいたら、爆笑されてたな……。)
だが、冬獅郎はかつての自分の副官と、その人物と仲の良い武闘派死神達が今の自分を見たらどんな反応をするのかを想像しなんとも言えない表情になった。
『キャー!隊長に春がきたわよぉぉぉぉぉ!!』
『おめでとうございますぅっ!日番谷隊長っ!』
『てめぇら今日は宴会じゃあぁ!!』
(やるな、アイツラならやるな。絶対)
十番隊隊舎で、喚きまわる副隊長とそれに引きづられて来て笑みをこらえる十一番隊副隊長と参席の顔が容易に思い浮かぶ。
「……最近、親父さんから連絡はあったか?」
その腹の立つ光景を忘れようと頭を振り、響に何気なく問いかける。
「え?うん……バイトしながらの就活は大変だけど、なんとかやってるらしいよ」
「そうか」
「……ありがとね、シロちゃん。」
「……なんのことだ?」
「あのとき、お父さんを叱ってくれて」
「聞き飽きたぜ、その礼は」
二年前、とある事件に巻き込まれ生き残った響は世間や当時のクラスメイトにひどいバッシングを受けた。その影響で彼女の父は会社で不当な扱いを受け始め、響に手を上げるようになり挙句の果てに家族を捨てて家をさろうとした、だが、偶然その場に合わせた冬獅郎は―――その横っ面を殴り飛ばし五時間に渡って説教をした。
いい大人が中学生の少年に説教を喰らうというシュールな光景だったがそのあまりな言葉の正当性に父は反省。家に残ることを選んだ。今はバイトをしながら、新しい仕事を探している最中らしい。
「そっちこそ、一人暮らしには慣れた?」
「あぁ、ばあちゃんが残してくれた金のおかげで大学卒業までは暮らしていけそうだ」
「そっか……。」
日番谷冬獅郎、前世では死神。護廷十三隊、十番隊隊長だった男。若くして『神童』と言われた男。とある戦いで寿命を減らし若くしてその命を散らした。だが、彼は目覚めると死神も虚も存在しないこの世界に『死神』の力を持って転生した。
しかし、物心がついたときにはすでに両親はおらず、肉親は祖母だけだった。その祖母も一年前に他界し、今は一人暮らしだ。
故に、冬獅郎は響、この場にはいない小日向未来をどこか家族のように思っている節がある。
―――かつて、自分がまだ死神ではなかった頃。尸魂界、流魂街で祖母と暮らしていた家族のような少女とどこか重ねているのは自分でもわかった。
今の彼は護廷十三隊ではない、尸魂界を守るという使命がない今、前世から引き継いだ『死神』の力を家族を守るために使っている。
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