「ふんふふ〜ん!」
「良かったな、CD買えて」
「うん!ありがとね、シロちゃん!!」
「あぁ」
CDショップの帰り道、無事に初回購入特典付きのCDを購入することができてご満悦の表情と結局、足にされただけで特に得るものがなかった冬獅郎だったが、響の笑顔を見ているとまぁ、いいかと思えてきた。このあたり、護廷十三隊にいた頃の冬獅郎ならありえない光景だろう。それだけ、この世界に、立花響に影響されたのだろう。
二人は今、リディアンの近くの学寮に響を送り届ける道の途中だ。響のルームメイトの未来が心配する前にとっとと帰ることになった。
―――だが、その道の途中。凄まじい警告音が辺り一帯に木霊した。
「シロちゃん、これって……!」
「嘘だろ……!?」
二人の表情は驚愕に染まる。ふたりとも、その音には聞き覚えがあった。
それはノイズの発生を知らせる警告音だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「司令ッ、ノイズが出現しました」
「反応はっ!?」
「湾岸地帯……工業区画付近のようです」
冬獅郎と響がサイレンを聞いていのと同時刻、特異災害対策起動部二課の司令室でもノイズ発生を知らせるアラートが鳴り、その対策に追われていた。
「藤堯さん、『死神』は?」
「ノイズの消滅が確認されていないので、おそらくまだ現れていないようです」
「そっか……。」
「奏」
「わかってるよ、旦那。今はあたしがやることをやるさ」
「奏、私のバイクに乗って」
「おうっ!」
奏はオペレーターの藤堯朔也の言葉に一瞬残念な表情をするが、咎めるように弦十郎に呼ばれすぐに気持ちを切り替え翼とともに現場に向かう準備を始める。
―――剣と槍、そして、拳と『死神』の邂逅は近い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「立花、こっちだ!」
「う、うんっ!」
冬獅郎と響は自分たちを追い回してくるカラフルな体のオタマジャクシのような丸っこいノイズと、人形の手が平たいノイズから逃げていた。既にバイクは乗り捨て、小回りがきく足で逃げていた。
途中、かろうじて人の形をして地面に倒れる灰の山をいくつか見かけた。ノイズに触れた人間は灰となって消える。その光景に苦虫を噛み潰したような顔をする冬獅郎と、悲しげな表情を浮かべる響。
(どうする、死神になれば間違いなく立花に見られる……。)
冬獅郎は死神の力を使うか迷っていた。冬獅郎は響を危険に巻き込みたくない、彼が二課に協力しようとしないのも、自分が彼らに力を貸すことで身近な存在である響や未来に危険が及ぶのを危惧しているからである。そして、響は優しい少女だ。自分がノイズ狩りなんて危険なことをやっているなんて知れば必ず心配する。
(黒崎、テメェなら迷いなく死神の力を使うんだろうな)
彼の脳裏によぎるのはオレンジ色の髪をした一人の青年。人間でありながら死神代行として戦い、現世を、尸魂界を、そこにいる仲間を護り抜いた男。彼が自分の恩師とも言える存在の息子だと知ったのはあの戦いのあとだった。
(俺と立花だけなら、なんとか逃げ切れる。周りに他の人間もいねぇようだし、このまま)
「おかぁさ〜ん、どこ〜!?」
その時だった、二人の視界に十歳にも満たないであろう少女が涙を流してそこに立ち尽くしていた。当然、ノイズの目標はその少女に向かう。
「危ないっ!!」
「立花っ!!」
響は冬獅郎の手を離し、女の子のもとへと駆け出す。そして、ノイズから少女を護るためにその体に覆いかぶさるように抱きしめる。響は襲いかかってくるノイズにギュッと目をつむる。
だが、ノイズの手が二人に届きそうになった瞬間―――二人はそのノイズの背後にいた。
「「え?」」
「無茶なことをしてくれるぜ、ったく」
「シロちゃん?」
気がつくと響は冬獅郎に抱き寄せられていた。そのことに気がつくと響の顔が一気に紅潮する。冬獅郎は死神の歩法、”瞬歩”を使い二人を担いで一瞬で離脱したのだ。人間の姿では力を抑えているので最速とは行かないがそれでも十分に速い、これくらいの芸当は可能だ。
「子供は俺が担ぐ、とにかく走るぞ」
「うっ、うん!」
響は冬獅郎の瞬歩に疑問を抱いたが、この状況なので逃げることに専念しようと冬獅郎の言葉にうなずく。
そのまま走る続けるが、やがて、三人は水路の前に追い込まれてしまう。
「シロちゃん……。」
「……立花、コイツを」
不安な声音で自分を呼ぶ響に冬獅郎は自分が抱きかかえていた少女を渡す。そして、響の肩に手をおいて、
「立花、お前泳げるよな?」
「え?」
響は質問の意味がわからず呆けてしまうが、次の瞬間ドンッと体を押され一瞬の浮遊感の後、水面に叩きつけられた。自分は少女ごと冬獅郎に水路に落とされたのだと、気づくのにそう時間はかからなかった。
「シロちゃんッ!!」
水面から顔を出し、幼馴染の名を呼ぶ。
「後で必ず追いつく!それまで、そいつの手を絶対に離すな!」
「シロちゃんッ!シロちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
響は水路の流れでどんどん離されながら、ノイズに囲まれた幼馴染の背中に必死に呼びかけるが冬獅郎は既に前しか見ていない。なぜなら、目の前のノイズを早く倒せば、それだけ早く、響と少女を追いかけることができるのだから。
霊圧を高めると、冬獅郎の姿が制服から黒い袴へと変わり背中に一本の刀が現れる。死神の戦闘装束、死覇装。そして、虚を斬るための刀、斬魄刀。冬獅郎は斬魄刀の白い柄を掴む。
「久しぶりに行くぜ」
『あぁ、出番がなくて退屈していた頃だ』
「しょうがねぇだろ、街中を氷漬けにするわけには行かねぇからな」
『ならば、今回はどうなのだ?』
「非常事態だ、目ぇ瞑れよ」
『ふっ、相変わらずあの娘に対して過保護だな』
「うるせぇぞ!テメェ、いつからそんな饒舌になりやがった!?」
柄を伝って頭の中に流れてくる声に軽口を叩きあう。どうやら、最近鬼道でばかり戦っていたせいで幾分へそを曲げているらしい。
―――斬魄刀とは使用する死神の霊力によって形成され、それはその死神の半身であり独自の意思を持っている。冬獅郎とこの刀は文字通り長い付き合いであり互いのことを認めあっている。死神として理想の関係だ。
「霜天に坐せ―――」
飛び上がり、刀を抜いてその力を開放するための解号とその名を叫ぶ。
「―――”氷輪丸”!!」
『キュオォォォォォォオォォ!!!』
刀を抜くと同時に振り落とされた刃から、氷の竜が生まれ咆哮しながらノイズたちに向かっていく。ノイズごと地面に叩きつけられた氷竜を中心に大地が凍りつきノイズたちもまとめて物言わぬ氷像へと変わる。
たった一振りでノイズの群れを一瞬にして全滅させた。
―――これが日番谷冬獅郎の斬魄刀。名を氷輪丸。尸魂界では氷雪系最強の斬魄刀と言われていた。
「立花を追わねぇとな」
霊圧で空中に足場を作り、水路の流れに沿って流された響の後を追う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
立花響は走る、少女の手を引きながら。
(シロちゃんは必ず追いかけてきてくれる、だって、シロちゃんは強いもん!)
立花響は知っている、日番谷冬獅郎が
本人は隠しているつもりだろうが、響は二年前からその事実を知っていた。
思い出されるのは二年前、《ツヴァイウィング》のライブに現れた大量のノイズたち、逃げ惑う人々、瓦礫となった会場、不思議なスーツを纏って戦うツヴァイウィングの二人、そして、黒い袴を来て白い仮面をつけ、氷の龍のような鎧を纏った幼馴染の姿。
(シロちゃん、私が気づいてないと思ってるんだよね。あんな変なお面をつけただけでわからないわけないのに)
伊達に長い付き合いをしてきたわけではない、あのとき自分を護ってくれたあの人物が彼であることを響は直感でわかっていた。
それからも、生き残った自分への世間のあたりは酷かった。だけど、響にはそれほど辛くはなかった、だって、自分には未来や彼がいた。いつだって、彼が助けてくれた、そばにいてくれた。
だから、彼はきっと来てくれる。だから、それまであの小さなヒーローの代わりに自分がこの子を守らなければ。水路でびしょびしょに濡れ、何度も転んでぼろぼろになった制服でひたすらに走る。
―――だが、現実は無常で……ついに二人はノイズたちに囲まれ追いやられていた。
「お姉ちゃん、私達死んじゃうの……?」
「ッ!!」
少女が涙をためた瞳で響きを見上げる。その体はガクガクと震える、まるで、あのときの再現だ。
『生きるのを諦めるな』
あのとき、重症を追った自分にツヴァイウィングの片翼、天羽奏がかけてくれた言葉。そのときに聞こえた歌、優しく力強いあの歌。あの言葉がなかったら、自分は……。
―――だから、今度は自分からこの子に言おう。
「生きるのを諦めないでッ!」
その時だった、響の胸に熱さとともに歌が聞こえてきた。響は胸に手を置き、その歌を口ずさむ。
「―――Balwisyall Nescell gungnir tron」
その歌、聖詠を口にした瞬間、胸の古傷から光が溢れその全身を包む。
「ガッ、アアァァァァアァァアァァァ!!」
凄まじい鼓動の高まりに四つん這いになり、獣のような声を上げる。
そして、目に見える変化が始まった。彼女の姿がレオタードのような姿になり、そして両腕、両足に機械的な装甲が装備され、頭にもアンテナのようなものが生えたヘッドギアが装備されいた。
「これって、あのとき奏さんが着てた……。」
その姿は、あのライブ会場で自分たちを護ってくれた天羽奏がまとっていたもの酷似していた。ならばもしかしたらと、響は近くにいたノイズに向かって拳を振るう。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
振り抜かれたその拳がノイズにぶつかると一方的にノイズが打ち砕かれ、そのまま灰となって消えていく。
「やっぱり、これならノイズを倒せる……!」
「お姉ちゃん、かっこいい!!」
状況に希望を見出した響は向かってくるノイズを撃退しながら少女を護る。
(これなら戦える、だけど、それじゃ、この子が……!)
だが、ノイズを倒せるようになったとはいえ少女を護るためにどうしても前に出られない、このままではジリ貧だ。
「縛道の六十二―――”百歩欄干”!」
しかし、頭上から光の杭が雨のように降り注ぎノイズたちを貫いていく。体を貫かれたノイズたちは次々と灰となって消滅していく。
「え?」
その光景に唖然とする響だったが、次の光景に更に唖然とすることになる。死覇装を纏い、氷輪丸を構えた冬獅郎が空から降りてきたのだから。
「シロ、ちゃん……?」
幼馴染が二年前、自分を助けてくれたときと似た姿で現れ、呆けてしまう響。だが、次に冬獅郎が発した言葉で我に返る。
「立花、俺の後ろから離れるなよ」
冬獅郎は響を護るように前に立ち、氷輪丸を構える。大気が冬獅郎と氷輪丸の霊圧に反応して、気温が下がっていく。
「テメェはその子供を護ってろ、その間俺がテメェを護って戦ってやる」
その後ろ姿は紛れもない、あのライブ会場で自分を助けてくれたときの背中だった。
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