「何だ、ありゃあ……。」
―――立花響の体に変化が起きた頃、響を探しながら立ちふさがるノイズを斬り裂いていた冬獅郎は、少し離れたところで輝く、光の柱を目の当たりにしていた。
「まさか、あそこにいるのか……?」
嫌な予感を感じ光の発生源に向けて、全力の瞬歩で駆け出す。
(急げ、急げ、急げ!!)
冬獅郎は全力で駆ける。また、あんな思いをしないために、二度とあの少女を傷つけさせないために……!!
(今更、死神の力がどうのなんて言ってられねぇ……!!)
彼は例え、響に見られても彼女を守る覚悟を決めた。
あの日、響が重症を追ったツヴァイウィングのライブでの事件、冬獅郎は病気の祖母の検査のために本来なら付き合うはずのライブについていってやれず、ライブ放送でノイズの発生を知り、まさに今のように全力で会場に向かった。だが、結果は間に合わず彼女はもうすぐ命を落としていた。
(この世界に来てまで
―――いつも間に合わなかった。助けられなかった。届かなかった。
死神とは本来、すべての魂に平等に接しなければならない。その点では、今の冬獅郎は隊長どころか、死神としても失格だ。だが、それでもいい。今の自分はただ、あの幼馴染の少女を護りたい。
やがて、空中を駆けていた冬獅郎の眼下に天羽奏が纏っているスーツとよく似たものを纏った、少女を確認した冬獅郎は、
「縛道の六十二―――”百歩欄干”」
一瞬の迷いもなく、ノイズ目掛けて鬼道を放っていた。
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一方、奏と翼も響が発する光を現場の近くで確認していた。
『奏、翼。聞こえるか?』
「旦那、あの光は一体何だい?」
『こちらも反応を確認した、信じられないことだがあそこから感知されているのはアウフヴァッヘン波形だ!』
「なっ、では、あそこには聖遺物が!」
通信機から聞こえてくる源十郎の声に翼と奏は信じられないという表情で光を睨む。アウフヴァッヘン波形とはシンフォギアの核になっている聖遺物が起動した際に発生するエネルギー波形、すなわちあそこにはシンフォギアが存在するということ。自分たちしか持っていないはずのシンフォギアが。
『しかも、この反応は奏と同じガングニールだ!』
「はぁっ!!?」
源十郎の言葉に更に困惑する、奏。当然だ、ガングニールは現在、奏のもとにあるのだから。
『とにかく急いでほしい、その反応の正体を突き止めてほしい。さらに言えば、その近くのノイズの反応が次々と消滅している』
「ッ!司令、それはつまり……!!」
「あそこには『死神』もいるってことか……!!」
『あぁ!!』
「奏、飛ばすわよ!!」
「おうっ!!」
翼はバイクのスピードをさらに上げ、奏は振り落とされないようにその背中にしがみつく。やがて、ノイズが視認できる場所になり、二人は歌を口にする。
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl―――」
「Imyuteus amenohabakiri tron―――」
橙と蒼の光が二人を掴み、響と同じようにその姿を変える。そして、バイクを降りた二人が見たのは氷を放つ刀を振るう銀髪の少年と、十歳くらいの少女を護るように拳を振るう高校生くらいの少女。
(あの娘、まさかあのときの……!?)
奏はその少女の顔立ちにかつて、自分のせいで大ゲガを追わせてしまった少女の面影を重ね、ことの顛末を悟り、奥歯を噛みしめる。だが、今は一刻もノイズを倒さなければと現れた槍を振るう。
翼も刀を振るい、気づけば三人の距離はかなり近くなっていた。そして、二人は気づいた。『死神』が―――冬獅郎がいつもつけている仮面をつけていないことに。
そして、その顔を見た二人は手を止めてしまう。その幼い身長には似合わない、凛々しい顔立ちで刃を振るう氷のような戦士の姿に一瞬見惚れてしまったのだ。
「破道の四―――”白雷”」
だが、彼が指先からはなった光線が自分たちの隣を通ったことで我に返り光線が放たれた背後を振り向くと、そこには体に穴の空いたノイズがおり、そのまま消滅していく。
「戦闘中になにしてる」
「ッ!!」
瞬歩で二人に近づいた冬獅郎はそれだけ口にしてそのまま次のノイズを斬りにいく。
「奏ッ!」
「わかってる!」
冬獅郎に注意された二人もそれぞれに武器を持ち、ノイズを倒していく。
だが、ノイズの数はなかなか減らず次々とおそいかかってくる。
「きりがない……!!」
その異常な多さに翼が苛立ったように、呟く。冬獅郎も同感だが、下手に氷輪丸の力を使って響達を巻き込むわけには行かないと力を抑えている。
(仕方ねぇ……。)
「おい、天羽、風鳴」
「なんだい?」
『死神』に始めて向こうから声をかけられ、一瞬驚くがすぐに落ち着いて奏が聞き返す。
「今からノイズを一掃するためにデカイ技を使う、あそこにいる二人が巻き込まれねぇようにあいつらを護って欲しい」
「「…………。」」
二人は『死神』が自分たちのことを頼ったことに驚き目を見開くが、冬獅郎はこう言って続ける。
「こんなことを頼みたくはねぇし、頼める義理もねぇのは承知してるつもりだ……だが、頼む」
二人はその言葉に冬獅郎が真剣に自分たちを頼っているのだと、理解した。そして、奏は笑みを浮かべて答えた。
「……いいよ、引き受けてやる。ただし、」
「?」
「あんたの名前、教えてよ」
その戦場ににつかわしくない相棒の言葉に翼は呆れながらも、奏らしいと彼女と似たような笑みを浮かべる。
「冬獅郎……日番谷冬獅郎だ」
「冬獅郎か……よっし、冬獅郎あの娘達のことは任せな!いこう、翼!」
「えぇ!」
満足した顔で響と少女のもとへ向かう奏と、それについていく翼の背中を見送り冬獅郎は自身の霊圧を高める。
「はああぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」
氷輪丸を振り上げ、その一撃を放つ。
「―――”霜天に坐せ”!!!!”氷輪丸”!!!」
氷の斬撃が竜となり、ノイズ達を凍らせながら蛇行しながら縦横無尽に駆け回る。そして、氷の竜が最後のノイズを喰らい尽くすと冬獅郎はゆっくりと氷輪丸を鞘に収めていく。そして、鯉口と鍔がぶつかり合うカチンという音が響くと同時にノイズを閉じ込めていた氷がノイズごとくだけ、あたりには氷の欠片が散るのみとなった。
「綺麗……。」
少女がふと漏らした言葉はその場にいる全員の言葉の代弁だった。
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「おかあさ〜ん!!」
「無事だったのね!良かった……!!」
ノイズを無事駆逐したのち、冬獅郎と響は自分たちが助けた少女があとからやってきた黒服の集団の一人につれてこられた女性に抱きつくのを少し離れたところで見ていた。どうやら、母親と無事に再会できたらしい。
そのあと、母親が黒服の男と二言三言話しあとどこかへ案内され去っていく。
「ありがとう、お姉ちゃん!それに、小さいお兄ちゃんも!」
そういって、少女は去っていった。
「小さい……。」
「シロちゃん、抑えて!」
禁句を言われ、眉間に青筋を作る冬獅郎を必死に響がなだめる。
二人は近くにあった木箱に移動し、腰掛ける。
「「…………。」」
しかし、お互いに何も言葉ははっしない。お互いがお互い、何を話したらいいのかわからないからである。
「あの、温かいもの、どうぞ」
その二人の静寂を破ったのは藍色の制服を来た一人の女性だった。その両手には紙コップが握られていてそこからは湯気が出ていた。
「あっ、ありがとうございます」
響はなんの疑いもなく、それを受け取り火傷しないようにちびちびと飲み始める。
「貴方も、どうぞ」
「悪いが、信用してない相手からの施しを受けるつもりはねぇ」
「シロちゃん、言い方!」
幼馴染の無遠慮な言い方に響は叱りつけるように言うが、冬獅郎は彼らを警戒しており響が元の姿に戻ったのに対し彼は未だに死覇装の姿のままだ。
「相変わらず、容赦ないな。冬獅郎は」
冬獅郎は顔をしかめながら、先程名前を名乗ったばかりだというのに無遠慮にファーストネームを呼ぶ人間を睨む。そう、奏だ。その隣には翼もいる。
「えと、ありがとうございました!実は奏さんたちに助けてもらったのは、二回目なんです!!」
「二回目、やっぱり二年前のあの娘か……。」
「二年前ってあのときの……。」
響はあこがれの人を目の当たりにし、木箱から飛び上がり礼の言葉を述べる。そして、奏は自分が思っていたことが確信に変わり、翼も奏と同じ結論に至る。
「うん、あんたのことも色々聞きたいけど。今は、」
奏は響からその隣に座る、冬獅郎に視線を移し。自分の顔を冬獅郎の目の前まで近づけて、まじまじと見つめる。文字通り、目と鼻の先にまで顔を近づけられても冬獅郎の目線は厳しいままだが、奏は嬉しさからか目が子供のように輝いているのがよくわかった。
「へぇ、これがあんたの素顔か……結構可愛い顔してんじゃん」
「…………。」
「かっ、奏さんっ、近すぎですッ!!」
しかし、顔を真っ赤にした響によって二人は引き剥がされる。さらに、響は冬獅郎の前に立ち奏を威嚇するように冬獅郎との間を手で遮る。まるで犬猫が対峙しているようにも見えた。
「ふ〜ん、なるほどねぇ」
奏はその響の反応で響が冬獅郎にどういう感情を抱いているのかを察した。というか、その場にいる全員はだいたい理解できた。
「立花、そろそろ帰るぞ。小日向が心配する」
「申し訳ありませんが、貴方方をこのまま返すわけには行きません」
冬獅郎は付き合ってられるか、響の手を引いてその場をさろうとするが、その道を黒服の集団に遮られる。その中でリーダー格のような男性が前に出て二人の前に立つ。
「貴方方には聞きたいことが色々ありますので、我々の本部にご同行願えますか?」
「断る、といったら?」
冬獅郎は氷輪丸の柄に手を置き、いつでも抜剣できるように準備をしながら黒服の集団目掛けて殺気を飛ばす。黒服たちは咄嗟に、胸元の拳銃を取り出すが―――引き金を引くよりも早く、銃身が真っ二つになってカラカラと地面に落ちる。
「「「「ッ!!!!?」」」」
「そんなもんじゃ、俺は殺せねぇぞ」
視線を上げると、そこには氷輪丸を抜身にした冬獅郎の姿があった。
「テメェらがそこをどかねぇならそれでもいい。俺が押し通るだけだ」
「待ってくれ」
「落ち着いてくれよ、冬獅郎」
冬獅郎が響の手を引いて黒服たちを突っ切ろうとしたとき、翼と奏が黒服たちの前に立ち冬獅郎に話しかける。
「前から言っているが、私達は貴方と足並みを揃えたいだけだ。さらに言えば、彼女が使ったあの力についてなら、こちらの技術者が調べてくれる」
「少しでもあたしたちを信頼してくれてるなら、ついてきてほしい」
「…………。」
翼と奏は先程の戦いから、冬獅郎が自分たちを頼ったのは多少なれど自分たちを信用しているのだと考え、そこに訴えかけることにした。冬獅郎は片手を氷輪丸から片手を離し、考える素振りを見せる。
「シロちゃん、ついていってみようよ」
「立花……。」
「私、知りたいんだ。私が使ったあの力のこととか、シロちゃんの力のこととか」
「お前、知ってたのか……ッ!?」
「うん、二年前から……シロちゃんが隠したがってるみたいだったから、聞かなかったけど」
「ッ……!」
一番隠していたかった相手に力のことをバレていたことを知り、冬獅郎は隠したつもりでいた自分が馬鹿らしくなってくる。そして、響の言葉が決め手となった。冬獅郎は氷輪丸を鞘に収めた。
「……いいだろう、ついていってやる」
冬獅郎の了承の言葉に黒服たちからホッと言う声が聞こえてくる。どうやら、一触即発の状況だけはなんとか回避することができたようだ。だが、冬獅郎の次の言葉に再び肝を冷やす。
「だが、覚えとけ。こいつに手荒な真似をしたら―――俺はテメェらを斬るぜ……!!」
「「「「「ッ!!!?」」」」」
確かな殺気を孕んだ、冬獅郎の低い言葉。体感温度が一気に下がり全員が身震いする。これがハッタリや虚勢のたぐいでないことはこの場の誰もが理解できた。
(これは手錠をかけたりしたら容赦なく斬られますね)
二課のエージェントの中で指折りの実力を持つ、緒川慎二は自分と冬獅郎の実力の差を肌で感じ、手錠での拘束を断念し、車に案内した。
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