氷華は戦姫の隣で咲き誇る   作:クロウド、

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はい、本日はかなでメインになりま〜す


DEATH&WING 1

 ―――午前五時。冬獅郎は庭の離れにある道場で木刀を振っていた。

 

 姿は道着であり、かれこれ一時間以上も剣を振っている。

 

(まだだ、まだ、全盛期の俺には遠く及ばない……ッ!!)

 

 冬獅郎は転生時、霊圧こそ全盛期のままだが肉体的な技術は全盛期には到底及ばないものだった。この数年で実力を取り戻したが、それは全盛期に比べれば五割に届くかどうかだ。

 

 冬獅郎は長年の勘で、近いうちにより力が必要になるということを感じていた。

 

(今度こそ、護り抜かなきゃならねぇ……!!)

 

 だからこそ、冬獅郎はこうして地道に戦いの勘を取り戻そうとしているのだ。これを記憶の整理がついてから毎日している。冬獅郎の卓越した斬術はこれが基盤となっている。

 

「……ふぅ」

 

 やがて、今日の分のノルマを終えそろそろ起きてくるであろう幼なじみたちが起きないうちに一風呂浴びるために浴場に向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「それじゃ、行ってくるね。シロちゃん」

 

「あぁ」

 

 響達の登校時間になり、今日が開校記念日で休みの冬獅郎は玄関先で二人を見送っていた。冬獅郎は二つの小さな小包を二人に渡す。

 

「ほら、弁当。忘れんなよ」

 

「ありがと、シロちゃん!」

 

 冬獅郎はそれなりに料理ができる。なにせ、一人暮らしになる前から祖母に迷惑をかけなように家事全般はこなせるようにしていた。

 

「響、そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ!」

 

「うん、今行くー!……それじゃ、シロちゃん後でね」

 

「ああ」

 

 先に出ていた未来に呼ばれ、響は小声で冬獅郎にそういって外に駆け出していった。冬獅郎と響は、彼女の学校が終わったあと、昨日の二課の本部で合流することになっていた。

 

「「行ってきます!」」

 

「……あぁ、行ってらっしゃい」

 

 二人を見送り、しばらく玄関に立ち尽くしていた冬獅郎だったが。二人の気配がかなり離れたのを確認し、玄関を出て家の曲がり角に視線を向ける。

 

「それで、いつまで隠れてるつもりだ。天羽奏」

 

「ははっ、バレてたか」

 

 そこに隠れていたのはサングラスと帽子をかぶって素顔を隠した、ツヴァイウィングの片翼天羽奏が困ったような顔で立っていた。

 

「なんでここにいる?」

 

「帰り際に明日迎えに行くって伝えたろ?それで弦十郎の旦那に頼んであたしがその役目を任してもらったのさ」

 

「約束の時間までまだかなり時間があるはずだが?」

 

 冬獅郎の言葉に奏は答えない。冬獅郎は困ったように頭をかくと、玄関に戻り。

 

「上がれ、()()お前と話したいことがある」

 

 そういって、冬獅郎は奏を家に上げた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「茶だ」

 

「こりゃどうも、隣のこれは……甘納豆か?」

 

「嫌いなら食わないでいい、俺が食う」

 

 冬獅郎は縁側に案内した奏の隣に盆に乗せて持ってきた茶と甘納豆が乗った小鉢を置く。

 

 冬獅郎は尸魂界にいたときから甘納豆が大の好物である。故に、常に切らさないように心がけているのだ。奏は出された茶を一口すすると「……うまい」と小声で漏らし、自分の隣に腰掛けた冬獅郎に視線を向けてここに来た用件を告げる。

 

「冬獅郎、お前。響の力の原因に心当たりがあるんだろう?」

 

「……あのとき、アイツの胸に刺さったお前の槍の破片だろう」

 

「だよな……。」

 

 二年前、響が大怪我を追った原因。ノイズとの戦いで砕けた奏の槍の欠片、響があの力を使えた原因は間違いなくそこにある。冬獅郎はその事をわかっていた。

 

「…………。」

 

 奏は目を瞑って、冬獅郎の次の言葉を待っている。もしかしたら、軽蔑されるかもしれないと、自分の不注意で彼女に怪我をさせ、今まさに戦いに巻き込もうとしているのだから。だが、冬獅郎の口から出た言葉は奏にとって意外なものだった。

 

「―――お前達には一度礼を言おうと思っていた」

 

 冬獅郎は縁側の縁から放り出していた足を正座に直し、綺麗に手をついて奏に頭を下げる。いきなり、頭を下げられた奏は一瞬わけがわからない表情になる。当然だ、自分が礼を言おうと思っていた矢先に自分がその相手から頭を下げられたのだから。

 

「おっ、おいっ!?」

 

「二年前、俺はアイツが傷ついた瞬間に側にいてやれなかった。もし、お前たちがいなかったら、俺は間に合わなかっただろう」

 

「…………言わないでくれよ、そもそもあたしがもっとしっかりしていたら響の怪我は」

 

「命には変えられない。それにアイツに聞いた、お前が死にかけたアイツに言ってくれた、『生きるのを諦めるな』という言葉、アレがなかったら俺は本当に間に合わなかっただろう。その言葉がアイツの魂をこの世界に繋げてくれた」

 

「俺が着くまで、立花を護ってくれて……ありがとう」

 

 冬獅郎が今まで自分たちにしたことのない、混じり気なしの感謝の言葉。

 

(な、なんか照れるな……。)

 

 まさか礼を言おうと思ってきた相手にこんなにストレートな感謝の言葉を述べられるとは思っていなかった奏はなんとも言えない表情を浮かべる。だが、自分にも言うべきことがあることを思い出し同じように正座で向き合う。

 

「―――こちらこそ、あのとき私を止めてくれてありがとう」

 

「?」

 

「あっ、そっか……わかるわけないよな。―――あたしさ、あのとき死ぬつもりだったんだ。ノイズを道連れに」

 

「…………。」

 

「あたしたちには『絶唱』っていう、捨て身の技があるんだけどさ。翼はともかく、あたしが使ったら間違いなく死ぬ代物だ。アタシはそれを使おうとした、だけど、あのとき冬獅郎が飛んできて。ノイズを倒してくれたお陰で私はそれを歌わずにすんだ」

 

「…………。」

 

 冬獅郎は奏の言葉にただ耳を傾ける。その表情は氷のように落ち着いている。

 

「使おうとしたときはそうでもなかったけど、あの事件の後いつもは落ち着いてる翼がわんわん泣くの見てさ……『あぁ、使わなくてよかったな』って、思った。だから、あのときのアタシを止めてくれた冬獅郎にはずっと礼が言いたかったんだ」

 

 奏は冬獅郎と同じように指を床につけて、綺麗に頭を下げる。それを受けた冬獅郎は、

 

「……お前の覚悟を否定するつもりはない、俺の先輩に当たる隊長も似たようなことをして死んだ奴がいる」

 

「…………。」

 

 冬獅郎の口から漏れる『死』という言葉の重み。高々、二十年しか生きていない、自分と数百年生きてきた彼、(ホロウ)との戦いは常に命がけであり、さらに言えば冬獅郎は隊長だった。多くの隊士の死を身近に経験してきた。

 

「だがな、これも俺の先輩の言葉だが―――『命を捨てて振るう刃に護れるものなどない』らしい」

 

「ッ……!?」

 

「―――見誤るなよ、天羽奏。人類を救う?そんなものは聞こえのいいただの建前だ―――大事なのは誰と一緒に生きたいがために戦うか、だ。少なくとも、今の俺はそうやって戦っている」

 

 氷のような鋭い眼光で奏を睨みつけ、淡々と語る冬獅郎。

 

 冬獅郎は知っている、仲間を護る。それだけのために戦い、自分等より遥か高みに至った男の存在を。彼の存在が、意思の強さの証明とも言えた。

 

「―――だがあくまでこれは俺の持論だ。気に入らなければ、年寄りの戯言とでも思え」

 

「……ぷっ、年寄りって……!確かにその通りだろうけどさ。」

 

 再び縁側の縁に足を放り出した座り方に直った冬獅郎のジョーク交じりの言葉に、先程の緊迫した空気から一転、笑みを零した。

 

 そのあと、しばらく甘納豆をつまみながら茶をすすったあとで奏が切り出す。

 

「そういや、冬獅郎。あんた、アタシの体になんかした?」

 

「どういう意味だ?」

 

「あたしは翼みたいになんのリスクもなしにあの力、『シンフォギア』を使えないんだ。LINKERって薬で無理やり使えるようにしてるから、その反動がひどいんだけど」

 

 奏は自分の胸に触れながら冬獅郎に問いかける。

 

「あのライブの日からかな、『死神』と接触すると、妙に体調がいいし、LINKERの副作用も殆ど出ないんだ」

 

 冬獅郎はしばらく顎に手を当て心当たりを探す。

 

「……おそらくだが、俺の霊圧に触れてお前の魂と肉体に変化が現れたんだろう」

 

「どういうこと?」

 

「霊圧が高い存在が近くにいると、人間にも稀に特殊な力を持つ事がある。俺も気をつけて霊圧は基本抑えているんだがな、あのときは俺も感情が逸って霊圧操作を誤った。影響が出たとすればそれだろう。アレが原因でお前は俺の霊圧に反応して、その劇薬とやらの毒性を中和する能力を得たんだろう」

 

 冬獅郎の頭には、先の青年に影響を受け、特殊な力を得た彼の友人の姿が思い浮かんだ。

 

「へぇ〜、そいつはありがたいや。要するに冬獅郎のそばにいればアタシはほぼ翼と同じ状態で戦えるってわけだ」

 

 奏がそう言うと、冬獅郎は縁側からおり死神の姿に変わる。

 

「ついでだ、もし俺がいなくてもその力が使えるよう。俺の霊力の一部をお前に渡しておこう」

 

「そんなことできんのか?」

 

 冬獅郎は背負った、斬魄刀を抜いてその鋒を奏に向ける。いきなり刃を向けられ、驚く奏だったが、冬獅郎が説明を始める。

 

「この刀、死神たちの斬魄刀ってのはその死神の霊圧で形成されている。鋒を胸元に突きつけろ、本来なら腹に突き立てるんだが。量が量だ、そこまでする必要はない」

 

「わかった、胸元に向けりゃいいんだよな?」

 

 奏は冬獅郎の言う通り氷輪丸の鋒を自身の胸元に突きつける。

 

「いくぜ」

 

「来いっ!」

 

 冬獅郎が氷輪丸に霊圧を注ぐと、氷輪丸が淡い光を放ちそれが煙のように奏に流れていく。

 

「んっ……!んんぅ……。」

 

「おい……その声なんとかならねぇのか……。」

 

「しょっ、しょうがないだろっ……!なんかこれ、変な感じ……んっ!」

 

 霊圧を注がれるという、不思議な感覚にやたら色っぽい声を上げる奏と、それを本気で困った表情をする冬獅郎。未来に見られたら―――冬獅郎の命はなかっただろう。




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