マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様 作:黒月天星
『笑顔? 笑顔ですって?』
呆気にとられたかような表情のアリスに対し、レティシアは大真面目に頷く。
『アリスお姉ちゃんはこれまでさっきの怖いお人形さんに取り憑かれながら戦っていたんでしょ? なら今のお姉ちゃんとはまだ戦っていないし、笑った顔も見てないよ。それに……デュエルは楽しい。楽しんでやる物なんだよ?』
それは、レティシアがずっと横で自らの管理人を見てきたからこその言葉。
デュエルとは互いを傷つけあう闇のゲームという面もある。精霊同士の互いの存在を削り合う決闘という面も確かにある。しかしその根底にあるのは、どこまで言っても遊戯……楽しむためのゲームであると。
『なら互いに楽しんで、笑ってやらなきゃダメだよ。あと……私の初めてのデュエルなんだもん!』
『悪霊を自分諸共にと悲壮な覚悟をするのは結構だがな人形よ。諦めろ。我が運び手はこの通り、こうと決めたら凄まじくしつこいぞ』
にっこりそう言って笑うレティシアを横目に、私は一応の忠告としてアリスに呼びかける。結果、
『……はぁ。初めて。そうね。そうだったわね』
悲壮な覚悟を邪魔された僅かな苛立ちと、屈託のない笑顔に対する微笑ましさ。そして初めてデュエルに向き合う幼女が、これまで長らく見てきた生徒達と何か重なる所があったのか。
アリスは非常に複雑そうな顔をし、大きく息を吸って……吐いて。
『良いわ。ここからはあたしのデュエルを見せてあげる。今止めておけば、初めてのデュエルで負ける事はなかったのにと後悔しなさいっ!』
その瞬間、アリスの纏う雰囲気が変わった。半分苛立ち紛れ。しかし最初のおどろおどろしく儚げな雰囲気は精神汚染と共にどこかへ消えて失せ、代わりに可愛らしさの中にどこか芯のあるものへと。
『死霊の盾により解き放たれた呪いは不発。でも今度はドールキメラではなくあたしの切り札を見せてあげる。あたしは伏せてある魔法カード『鏡の国の扉-シルバーアーチ』を発動!』
アリスの言葉と共に、場に人間大の丸鏡が出現する。
『このカードは、墓地にさまよいのビスクドール-アリスがある時のみ発動可能。手札かデッキから『うるわしのビスクドール-エシーラ』を特殊召喚するわ!』
うるわしのビスクドール-エシーラ ATK1000
手札から現れたのは、薄桃色の衣装を纏った愛らしいビスクドール。一見攻撃力も低く戦闘向きではないが、
『エシーラの攻撃力は、墓地のドールパーツ四枚一組につき1000アップする。あたしの墓地にはドールパーツが二組。よってエシーラの攻撃力は2000アップ! そして当然エシーラも、呪われたドールハウスの効果により直接攻撃が可能よ』
エシーラ ATK1000→3000
『うわぁっ! 強い強いっ!』
デカブツを一体どうにかしたと思えばまた次とは面倒な。レティシアは普通に楽しんでいるが。
『あたしはこれでターンエンド』
『そのタイミングで死霊の盾の効果。このカードは互いのエンドフェイズに悪魔・アンデット族が自分の場に無ければ墓地に送られる。だから使いたくなかったのだがなぁ』
『これであなたの場はあなたの依り代のみ。LPも残り僅か。対してこちらは攻撃力3000で直接攻撃可能なエシーラが居るわ。もうあたしは自分から負けるつもりはない。サレンダーするなら今の内よ。……安心して。ドールキメラが消えた以上、負けてもそこまで酷いペナルティはないわ』
死霊達が寄る辺を失い霧散する中、アリスはふふふと少し挑発的に笑う。
実際アリスの言う通り、もう存在消滅云々の危険は低くここで負けてしまっても問題はない……筈だ。だが肝心のレティシアは、
『サレンダー? なんで? 遊児お兄ちゃんも十代お兄ちゃんも、万丈目お兄ちゃんだってこんな時、最後のドローまで諦めたりなんかしないんだよ! ネクちゃんっ!』
『はいはい分かっている』
まるで戦意を失っていなかった。もうここまで来たら仕方ない。普段ならさっさとここで引き上げる所だが、幸い今回の戦いで少しだが収穫もあった。ならもう少しだけ、我が運び手に付き合って報いてやらねばな。
アリス LP800 手札3 モンスター うるわしのビスクドール-エシーラ 魔法・罠 呪われたドールハウス 蘇りし魂
レティシア LP800 手札2 モンスター 幻想体 小さな魔女 レティシア 魔法・罠 なし
『行くよ! 私達のターン。ドローっ!』
ここが正念場と察し、レティシアは力強くカードを引く。その内容は、
ウオオオオオオンっ!
その瞬間、おぞましい咆哮と共にアリスの墓地から黒い瘴気、物質化した呪いが噴出する。
『これは……ドールキメラっ!? 破壊されたのにまだこんな力がっ!?』
『あわわっ!? くっついてこないでよっ!?』
瘴気はまるで触手のように変わり、レティシアの方に向かってきた。
やはり悪霊。生き汚いというかなんというか。ボディが壊されたと見るや別の依り代を求めたか。足元に絡みつこうとした触手からレティシアが嫌そうに下がる。
再びアリスにではなくレティシアを狙ったのは、今のやる気になったアリスよりもこちらの方が簡単だと思ったか。……舐められたものだ。本当に。
『レティシアっ! 今引いたカードを翳せっ! 早くっ!』
『えっ!? こうっ!』
こうなる事は想定内。悪党は私も含め、最後まで生き汚くて当たり前。
(“分かっていた訳じゃないぜ。ただ負けても往生際悪く最後まで何かやらかすんじゃないかって考えただけさ”……か。遊児め。我ら悪党の事を良く掴んでいたものだ。奴も悪党の素質があるのかもな。そして)
ズ、ズズズズっ!
レティシアが翳したカードが瘴気を吸い込み始めた事に、ニヤリと私の口元がつり上がる。
『ネクちゃんっ!? これって』
『ああ。本当ならデュエルが終わってからの予定だったのだが……好都合だ。何せこれはカードとしては既に出来あがっていたものの、
ドクンっ! ドクンっ!
慌てて逃れようとする悪霊だが時既に遅しというもの。一秒ごとに瘴気が吸い込まれ、カードが青白い光を放ちながら脈動する。
『ドールキメラの呪いを逆に我が物にしようと? ダメっ!? あなたも汚染されるわっ!?』
『汚染? はっ! 馬鹿め』
アリスの見当外れの心配を、私は鼻で笑い飛ばす。
『たかだかこの程度の悪霊に精神汚染などされるかよ。私の魂をどうにかしたければ、罪善か葬儀かどこぞの天空竜を連れてくるが良いっ! ……今だレティシアっ! そのカードを、
『オッケーっ! 私は除外されている夢魔の亡霊さん、クリッターちゃん、首なし騎士さんをデッキに戻して、このカードを場に出すよ!』
カードをデュエルディスクにセットした瞬間、自らの視界がぐにゃりと歪み……一瞬遅れて普段よりも高い視点に切り替わる。
それは、もう一つの我が依り代。
元々の我が姿をモチーフに、また別の側面を強化して新造したボディ。かつてのそれが“霊と闇を司る者”であったのなら、今の姿は……そう。“死と呪いの支配者”。
『ネクちゃん。『
カース・ネクロフィア ATK2800
『…………ふっ。ふふっ。ふはははははっ! 力が漲るっ! 新造とはいえ懐かしき我がボディよっ!』
身体の表面をドールキメラから徴収、加工して我が力と成した呪いが揺らめく。試しに少し片腕の調子を確認し、調子は上々とほくそ笑む。
『除外されたカードをデッキに戻す事で特殊召喚されるカードですってっ!? いえそれよりもこの気配、この瘴気と呪いの純度。ドールキメラよりも明らかに……濃いっ!?』
『ふんっ。元々こちらの方が格上。おまけに呪いと瘴気を丸ごと喰らってやったのだ。濃くて当たり前よ。……さて。後は貴様をどうするかだが』
クククと笑いかけると、明らかにアリスは警戒の色を見せて一歩下がる。ふむ。称賛も良いが、やはりこうして畏怖と恐怖の顔を見るのも中々……。
『ネクちゃんっ! めっ!』
ペチンっ!
下から軽く平手打ちを受けて綺麗な音が鳴る。やったのは私が片腕で優しく抱きかかえているレティシア(本体)だ。相変わらず物怖じしない奴め。
『もうっ。怖がらせちゃダメだよネクちゃん』
『分かっている。少し脅かしただけではないか。大体そこは本来私の小さい方のボディがある筈なのに、何故レティシアがすっぽり収まっているのだ?』
『えへへ。ネクちゃんが急に大きくなっちゃったから! いつもと逆で何か新鮮だね』
『まあ良いが…………おい。何をそこでホッとしたかのようにくすくす笑っているのだ人形使いっ!? レティシアも喜ぶんじゃあないっ!?』
おのれっ!? 何が『だって。まるで呪いを意にも介していないのだもの。警戒して損したわ。それに、レティシアちゃんにそんな態度を取っている時点で……ねぇ』だっ!? ちょっと戦っただけでレティシアの事が分かった気になりおって。
レティシアはこれでも我が運び手として苦労を掛けたから、その分くらいは労うし報いてやろうというだけだ。あとあまり無碍に扱うとレティシアの友達共がうるさいしな。奴ら霊ではないから手駒に出来んのだ。
『え~い。デュエル再開だレティシアっ!』
『ふふっ! うんっ! 私は私自身を攻撃表示に変更。そして手札から魔法カード『召霊術』を発動するよ。手札を任意の数だけ捨てて、捨てた分×500ポイント私の場のモンスター一体の攻撃力を上げられるの。私は最後の手札を捨てて、カース・ネクロフィアの攻撃力を500アップするよっ!』
レティシア DEF→ATK800
カース・ネクロフィア ATK2800→3300
『エシーラの攻撃力を上回ったっ!?』
『バトルだよっ! カース・ネクロフィアで、うるわしのビスクドール-エシーラに攻撃っ!』
『折角だ。私自らが出るとしよう。食らうが良いっ!』
私はすすっと地面を滑るように移動すると、エシーラに向けて掌を翳す。すると揺らめく呪いが実体を伴ってエシーラに向かって行き……そのまま軽くぺしっと胴体を打ち据え破壊した。あまり派手に破壊するとレティシアが気を悪くするからな。
アリス LP800→500
『これでトドメだよっ! 私自身でアリスお姉ちゃんに直接攻撃っ! プレゼントだよ~っ!』
『きゃあああっ!?』
レティシアの号令の下、モンスターのレティシアが投げたハート形の光弾がアリスに直撃。パンっと弾けて小さな色紙を撒き散らしながら、見事アリスのLPを削り切ったのだった。
アリス LP500→0
『……ふふっ。アハハハハ。あ~あ。負けちゃった。あの状況でここまで綺麗に押し込まれたのでは、もう笑うしかないわね』
『でも、楽しかったでしょ?』
『そうね。……ありがとうレティシアちゃん。久しぶりに……そう。笑っちゃうほどに、楽しいデュエルだったわ』
◇◆◇◆◇◆◇◆
さて。今回話すべきはこんな所だろうか。この後は特に語るような事はない。一日たっぷり遊びまわって疲れ果て、レティシアは来たる旅行に備えて早めに就寝中だ。
何? 私とアリスについて?
私については言わんでも分かるだろう? 見ての通りだ。ボディが出来たのは良いのだが、あれはいわばこの身体を呪いやら何やらで肉付けする事で実体化した物だ。強力だが消耗が激しいのでな。常用出来るだけの力が溜まるまではこちらの姿の方が燃費が良い。あと……まあ我が運び手の仕事を奪うのもアレなのでな。
アリスはあの後姿を消した。もう悪霊は居ないし、今頃は元の人形に戻って素知らぬ顔で生徒達を見守っているだろうよ。まあ精霊なのは変わらないので、あまり生徒がオイタをし過ぎるようなら何か起きるかもな。俗に言う怪奇現象とかいう奴が。
ああ。分かっている。遊児めに話すのは時間が出来てからだ。今はどこもかしこも忙しそうだからな。邪魔をするつもりはない。
貴様が何故遊児に拘っているのかは知らんし興味もない。だが忘れるな? これは互いに対等の契約だ。
これまで通り、そちらには表裏問わずあらゆる伝手を使って捜してもらう。世界から姿を消した我が元主。偉大なる邪神の欠片にして盗賊の王の足跡をな。その代わり、私は貴様が望む情報を流し続けてやろう。
互いに精々、利用しあおうではないか。
如何だったでしょうか? これにて久しぶりの閑話は一段落です。
ネクの素性については、名のあるダーク・ネクロフィアのカードの精霊と言えば誰か? という事から今の形になりました。かの決闘王を追い詰め、天空の神にさえ果敢に立ち向かった伝説のカード(物は言いよう)ですよ!
レティシアに振り回される事が多いのですが、考えてみれば元主の頃から戦略的に自爆特攻は当たり前。おまけに神に憑依しろとか壮絶な無茶ぶりをされているので割と慣れたものだったりします。
あとしれっと新しいボディをゲットしているのですが、あくまでカース・ネクロフィアでありダーク・ネクロフィアではないのでどこぞのサイコ・ショッカーとの契約には引っ掛かりません。もう少し向こうには寝ていてもらいましょう。まあどこぞの黒幕系オジサンと新しい契約を結んでいる様ですが。
最後に、本編は今夏辺りから再開の予定です。リアルの都合により毎週定期更新とまでは行きませんが、その際は楽しんでいただければ幸いです。