デート・ア・ライブ if   作:渡口七海

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pixivに投稿されている沙耶リスタートの加筆修正版です。あちらも完結していないため、こちらで改めて完結させます


沙耶リスタート -再誕(リボーン)- 第1話「始まりは全ての終わり」

ほんの少しの歪みが時に全てに影響を与える大きな物になってしまうことは多々ある。珍しいことではない。特に、この世界においてはそれはありえないことでは無いのだ。

 

平行世界の十香(最終巻 ビーストを参照)がいい例である。

 

何度も繰り返した世界は歪み、通常では有り得なかった自体を引き起こしてしまうものだ。今回はそんな話。

 

狂三は一人回想する。あれは何度目の事だったろうか……

 

この世で最も美しく、そして同時に、この世で最も醜い花が咲いたのは。

 

  ◇

 

薄暗い路地に何かが蠢く。ズルズルとその体躯を引きずりながら移動するそれは明らかに通常の生物とは一線を画していた。

 

「あれぇ? なんだこれ」

 

それに興味を持ったのが五河士道を探していたニベルコル達である。何体かがその肉塊のような生物に恐る恐る近づいていく。

 

それに気がついたかは分からないが、肉塊生物は動きを止め、じっとその場に留まった。じっと、まるで何かを待つように。

 

「……えい」

 

一体のニベルコルがその肉塊に触れたそれでも肉塊は動かない。それを面白がったのかニベルコルは何体かでその肉塊を取り囲んだ。

 

それを待っていたかのように肉塊は蠢動し、周りにいたニベルコルを全て捕食した。

 

捕食である。普通なら〈神蝕篇帙〉のページに戻るはずのニベルコル達は何故かそのままその肉塊に吸収されていった。

 

「は?」

 

周りにいたニベルコル達は戦慄した。そして考えうる中でも悪手を打ってしまった。

 

近くにいた個体全てでその生物の討伐を試みたのだ。

 

肉塊はそれを認めた瞬間には先程のゆっくりとした動きとは比べ物にならない程の速度で動き、向かってきたニベルコルを次々と捕食していく。その過程で少しずつ人のような形を形成していった。

 

そして、取り囲んでいたニベルコルが全て捕食される頃、そこに立っていたのは一人の少女であった。

 

白いワンピース、黒く艶やかな髪、子供のような体躯。それはニヤリと笑い。隠れていたニベルコルを見つけるとそちらにゆっくりと歩いていく。

 

「い、いや……来ないで……」

 

逃げることも忘れ、後ずさるニベルコル。それを楽しむかのように少女はニコニコと歩いていく。

 

「あー。あー。 うん、声は出るね。ふふ、ありがとね、私にこんなに美味しくて素敵な餌をくれて。貴方は食べないであげるよ」

 

鈴のなるような美しい声がニベルコルに届く。見た目は貧弱であり、特に脅威は感じない。しかしながら、雰囲気がニベルコルだけでどうにかなるように思えなかった。時崎狂三を複数人集めたような、異様な威圧感が少女にはあった。

 

「あ、自己紹介がまだだったね。私はね、沙耶って言うの。今は……そうだね、貴方たちの言葉で言えば準精霊って奴かな? あー、でも、これって魔王の力だから準悪魔なのかな? ふふ、まぁ、どっちでもいっか」

 

沙耶はそう言ってニベルコルへと突然肉薄した。

 

「ひっ!?」

 

ペタンと尻もちをついて情けない声を出すニベルコルの耳元に顔を寄せて沙耶は笑う。

 

「そんなに怖がらなくていいのに。貴方の主に伝えて。世界は生まれ変わる、私の力でね。ほら、帰った帰ったー」

 

優しく自分の子供を撫でるかのようにニベルコルの頭を軽く撫でると沙耶はその場を後にした。その場には恐怖に怯えるニベルコルのみが残された。

 

  ◇

 

「は? 何よそれ」

 

琴里は司令室で令音の言葉を聞き、訝しげな顔をした。

 

「私にもよく分からないが、どうも非常事態が起きたらしい。DEMからしばしの停戦を申し出られた」

 

「今更、虫が良すぎるわ。それに、罠の可能性もあるから承諾は出来ないわね」

 

「私もそう思ったのだがね…… これを見てくれ」

 

令音は司令室の画面に映像を映し出す。それは一人の少女にニベルコルが襲われ、蹂躙される映像であった。

 

「…………なによ、これ」

 

「どうも状況は良くないみたいだね。これはDEMと戦争してる場合ではないかもしれない」

 

「確かに、これは少し非常事態かもしれないわね…… 皆をフラクシナスに集めて頂戴。緊急会議よ」

 

「承知したよ」

 

琴里は映像を眺めつつ思考顔になる。この状況はかなり良くない。が、これに関してDEMの提案を受けるか、それを考えていた。

 

この状況でDEMが奇襲をしかけてくる可能性は否定できない。何か交換条件が無ければ安心して停戦とはいかないのだ。

 

相手の戦力を削ぐか、確実にこちらを攻撃しないような条件を突きつけることが出来ないか、それを考えていた。

 

「ん? どうしたんでいやがります?」

 

「あら、真那。ちょっとね、面倒なことになったわ」

 

「DEMに変な動きでも?」

 

「全く別の敵性存在ってやつね……」

 

「へぇ……?」

 

「それを理由にDEMから停戦を提案されたわ」

 

「はぁ。つまり、停戦中に襲われねーように何かしら条件を出してーってことでいやがりますね?」

 

「ま、そんなとこね」

 

「なら、エレンとアルテミシアをこちらの戦力として貸し出させればいいんですよ。ワイヤリングスーツはうちのを使って謀叛があればすぐに随意領域を制御する形してやれば従うんじゃねーですか。っても、アルテミシアに関してはちょいと不安は残りやがりますが」

 

「ふむ……一考の価値はあるわね、ありがと、真那」

 

「いや、礼には及ばねーです。こいつはやべー感じがしやがりますから、戦力は多いにこしたことはねーです」

 

真那は映像に映る少女を見つめながらそう言った。

 

  ◇

 

琴里達が映像を見ている頃、士道は五河家にて家事をしていた。天気もよく、洗濯物を干している時のことだ。

 

突然、少女が落下してきた。

 

「なんっ!? えっ!?」

 

とっさの事だったが、何とか士道はその少女を受け止めた。受け止められた当の本人は目をぱちくりとさせる。

 

「あれ? 地面じゃない?」

 

「だ、大丈夫……か?」

 

「うん? あ、君が受け止めてくれたんだ。そっかそっか。ありがとう」

 

少女は士道の手からぱっと飛び降りるとくるりと回った。

 

冬だと言うのに白い袖のないワンピースに身を包んでいる彼女は、なんというか、見た目がどうにも浮世離れしていた。

 

そう、まるで精霊であるかのように。

 

「……君、名前は?」

 

「え? あ、五河士道……だ」

 

「そ。私は沙耶。よろしく……って言ってもまた会うかは分からないけどね」

 

そう言って笑う沙耶に士道はなんとも言えない違和感を感じていた。

 

そう、精霊であるようなそんな雰囲気は感じる、しかし、絶対的に精霊ではない、そんな威圧感のようなものが彼女からは出ている気がした。

 

「ん? どうかしたの?」

「あ、いや、沙耶はなんで、空から落ちてきたのかと思ってな」

 

「んー? あー。街を見物してたら足を滑らせちゃって。士道がいて助かったよ」

 

「そう、なのか」

 

街を見物して足を滑らせたらどうして空から落ちてくるのか、なんて言うことを聞くのは意味の無いことの気がして士道は心の奥にそっとしまった。

 

「うん……あ。そうだ。士道って、この街に住んでるんでしょ?」

 

「まぁ、そうだな。それがどうかしたのか?」

 

「案内してよ、この街を」

 

「え? ……まぁ、構わないけど」

 

「やったー。 って、それ、干し終わらないとダメだよね。手伝うよ」

 

沙耶はそう言って洗濯物を何個か持って手際よく干していく。最初は突然の事で呆然としていた士道もハッとして、洗濯物を干し始めた。これが、士道と後に最悪の精霊と呼ばれる沙耶との、邂逅であった。

 

  ◇

 

「ところでさ、寒く、ないのか?」

 

「え? あ。そっか、そんな季節だっけ? 仕方ない、これじゃ浮いちゃうもんね」

 

沙耶はそう言って指をパチンと鳴らす。すると、服装が来禅高校の冬服に変わっていた。

 

「あれ? 驚かないんだね。やっぱり、私が精霊だってバレてた?」

 

「…………いや、確証はなかったよ。けど、そうじゃないかと思ってた」

 

「そっか。流石は士道だね」

 

「俺の事、知ってるのか?」

 

「まぁ、ね。なんでかは言わないけど」

 

くすっと怪しく笑う沙耶。その笑顔はどこかで見た事のある雰囲気を醸していた。ただ、士道はその雰囲気を誰の雰囲気だったのかはすぐには思い当たらなかった。

 

「……ま、いいや。デートはこれで終わり。バレちゃったし、仕方ない」

 

「え? デート、しないのか?」

 

「うん、今はその時じゃないよ。ごめんね?」

 

少し、申し訳なさそうな顔で沙耶は笑う。

 

「じゃ、またね、士道。多分、また会うことになるよ」

 

そう言い残して沙耶はものすごい速さで士道の前を去っていった。そのタイミングで士道の端末に琴里から連絡が入った。

 

「緊急の会議よ、フラクシナスに回収するわ」

 

「……了解」

 

沙耶の正体を考えながら、士道はフラクシナスに回収されるのを待った。

 

  ◇

 

「全員、揃ってるわね」

 

会議室にいる精霊及び士道を見回し琴里は機械を操作してモニターを動かす。映像を呼び出したあとはマリアに操作を任せ、自分も席に着く。

 

「この映像を見てちょうだい。厄介なことになったわ」

 

「厄介なこと? それって、DEMに新しい動きがあったとか、そーいう?」

 

手元にあった機械を触っていた二亜が顔を上げずに聞く。どうやらスマホでゲームをしているらしい。

 

「そうじゃないわ、とにかく映像を見て」

 

「へーい」

 

流れている映像は先程の少女がニベルコルを蹂躙する映像である。一個体がそこそこに戦力を有するニベルコルがさも簡単に蹂躙されていく姿に一同は息を呑んだ。

 

その中で、一人別の感情を抱いている者がいた。当然、士道である。

 

「な、なぁ、琴里……もしかして、それって」

 

「数時間前にいきなり現れた精霊よ。まさかとは思うけどもう接触したなんて言わないわよね」

 

「……いや、まぁ……その、まさかだけど」

 

「…………はぁ」

 

士道の精霊エンカウント率はもう何も言うまいと言った感じの琴里は頭を押えた。マリアはそれを見たからかは分からないが、精霊の資料を全員の前に表示させる。

 

「識別名〈グロテスク〉正体不明の精霊よ。良かったわね、殺されなくて」

 

「……仕方ないだろ、空からいきなり降ってきたんだから」

 

「天空の城にでも導いてくれるのかしらね? アホなこと言ってないで資料を読みなさい」

 

士道は言われた通りに資料に目を通していく。沙耶に関しての記述がズラっと並び、読めば読むほどに危険な精霊であることがうかがえた。

 

「彼女の名前は沙耶。発生経緯からしてどうもきな臭い精霊ね」

 

「この時期にワンピースって寒そうですねぇ」

 

美九が場違いなことを呟き七罪に頭を叩かれた。

 

「あんた、もう少し緊張感持ちなさいよ…… かなり危険であたしたちにも被害が及ぶ可能性もあるのよ?」

 

「えぇー、でもぉ、今までの精霊だってだーりんの力で封印できたんですから今回も出来るんじゃないですかぁ?」

 

今まで10人もの精霊を攻略し、無力化してきた士道。その力をみんな信じていない訳では無い。が……

 

「正直ね、今回はかなり厳しそうなのよ。彼女の精神バロメーター、出すわね」

 

マリアが沙耶の好感度グラフを表示した。そのグラフは一律して0を指し示していた。

 

「0ってことはこれから上げていけるんじゃないんですかぁ?」

 

「違うわ、0って言うのは全くの無関心って意味よ。例えば、美九との最初の邂逅は最悪だったけど、あの時はマイナスに振ってたの。嫌いって意味ね」

 

「けど、だーりんを知らないんじゃ……あ」

 

「そうよ、沙耶は既に士道に接触している。それなのに全くの無関心なんて普通、有り得ないのよ。それこそ〈封解主〉でも使わない限りね」

 

その言葉に六喰がぴくりと反応する。

 

「むん……とは言っても、むくはこやつのことは今初めて知ったぞ」

 

「でしょうね。だから、難しいって言っているのよ」

 

会議室がしん、と静まり返る。それに耐えきれなくなったのか士道が口を開いた。

 

「とは言っても、被害はまだニベルコルだけなんだろ? とりあえず、俺たちは出来ることをしよう」

 

その言葉に精霊たちは各々に返事をし、未知の精霊沙耶への警戒を強めたのだった。

 

  ◇

 

沙耶はビルの屋上から何気なく街を眺めていた。前回体内に取り込んでいた遺伝子の情報は何故かきれいさっぱりと消えていたので、絶対的にサンプルと解析が足りない、そんなことを考えながら、どうしたものかと思案顔で道行く人たちを観察する。

 

「まぁ、うん、食べるのが早いかな」

 

ぽつりと呟いた沙耶は1番近くを通った人を人の目では追えない速度で自分の元へと引き寄せる。周りにいた人も、引き寄せられた人も何が起きたのかよく分からない、そんな早業だった。

 

「え? え?」

 

「ごめんね? いただきます」

 

沙耶はそう言うと触手で引き上げた人間をそのまま触手で丸呑みにした。

 

モゾモゾと大きな肉塊がしばらくの間蠢いていたがビクンっと大きく跳ねるとそのまま動かなくなってしまった。

 

「うーん、足りないなぁ。でも、ここでばっかりやってたらすぐバレちゃうし、場所を移そうか」

 

そう呟くと沙耶はビルからビルへと飛び移りながら移動するのだった。

 

 

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