VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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最終話 そして伝説へ2

 長かった、あまりにも長かった一月が終わった。

 

「いただきます」

 

 目の前にあるストゼロに手を合わせる。

 それ以外は何もない。

 今この瞬間私の体は、ストゼロを()()、その為だけに存在している。

 この禁酒が始まった時は、一ヵ月後の自分は一体どうなってしまうのだろうと心配になった。

 その答えがこれだ。ストゼロが一度完全に抜けた結果、私の体は器として完成した。

 ストゼロを()()のではなく、ストゼロを私の体に()()。どうしてこの発想に今まで辿り着かなかったのだろうか。

 器となったこの体は、グラスに注ぐが如く、ストゼロをありのまま体に受け入れるだろう。

 今となってはこの一月に感謝している。なぜなら私は今、ストゼロと真の意味で一つになることが出来るのだから。

 

「プシュ!」

 

 缶が開く。

 

コメント

:プシュ!

:¥155

:¥211

:¥162

:¥220

 

 私は――ストゼロになるのだ――

 

「ごくっ、ごくっ、ごくっ――――」

 

 器にストゼロが流れ込む。

 

「ッ!!」

 

 私は――ストゼロの声を聴いた。

 そして知ったのだ。

 なぜ宇宙があるのか――

 なぜ無ではないのか――

 なぜ存在するのかを――

 

「あ、面接の時のこと思い出した!」

 

 やっべ、なんか大事なこと知った気がしたけど、今ので忘れたわ。

 

コメント

:へ!?

:このタイミングで!?

:草

:面接ってライブオン受けた時の!?

:そういやずっと忘れたままだったな……

:さっきまでの超越した様はどこへ……

:よくは分からないけど、こいつがとんでもないヤラカシをしてしまった気がするのは俺だけか?

:聞かせてー!

 

「いやぁあの時のことを思い出させてくれるなんて、一ヵ月ぶりに飲むストゼロちゃんは一味違うどー! うわぁ~なっつかし~!」

 

 うんうん、やっぱり鮮明に思い出せる! ストゼロちゃんありがとー!

 これは私の始まりの記憶、大事な大事なことだからね! ちゃーんとリスナーさんにも教えてあげないとね!

 今まで忘れていた記憶――そう、あれは、面接で私の番が来て、面接部屋に入るよう名前を呼ばれてからのことだ――

 

 

 

「次の方、お入りください」

 

 私の番が来たので、待機していた椅子から立ち上がる。

 この時点で私は度を越えた緊張により、平常心を失い、シュワちゃんに近い状態になっていた。ライブスタートの収録の時にもなっていたあの状態だ。

 つまり思考というものを失っている状態だったわけだけど、幸いなことにノック等の礼儀はしっかりとこなせていた。

 部屋に入り、用意された椅子に座る。数メートル空けた前方には、当時はまだ面識のなかった鈴木さん、社長、人事部の社員さんの3人がこの通りの並びで机を前にし、私に向かって座っていた。

 面接を通して主に声を掛けてきたのは社長だった。

 

「本日は面接にお越しいただきありがとうございます。なんて言っても、ここはライブオンだからね! 繕った貴方が見たいわけじゃなく、素の貴方が見たいわけだから、リラックスしてお話しましょう!」

 

 私は一度深く頭を下げた。

 

「おぉ、なんというか、すごく清楚な方なんですね! スーツもビシッと着ていますし! たまにすごい格好で来る人もいるからね……いやそれが悪いわけじゃないんですけどね! なんたってここはライブオンだからね! あはは!」

「社長、それさっきも言いました。あと、早くお名前の確認してあげてください」

「はい、ごめんなさい……」

 

 部下であるはずの人事さんから注意され、謝る社長。この人はこの頃からこんな調子だったなぁ。

 

「それでは――田中雪さん、でお間違いないですか?」

 

 いよいよ面接の始まりだとばかりに、数秒の間をおいて、名前の確認をしてくる社長。

 私の暴走は――ここから始まった――

 

「名前は――まだない!」

「「「!?」」」

 

 面接官達の目が一瞬にして変わった。

 具体的に言うと、清楚な女性を見る目から、ライブオンの卵を見る目に変わった。

 

「あ、あの、田中雪さんじゃないんですか?」

「ここに来るまではそうだった! けど、これからの私は違う! 私は、VTuberになるのだから!」

「「「!?」」」

「あれ、違う?」

「…………確かにそうですね、失礼しました。それではこの面接中は形式上、雪さんと呼ばせていただきますね」

「おけ!」

 

 開幕から覚悟ガンギマリ発言で社長を謝罪させた私。

 態度も合わさり、この時点で普通の面接なら落とされているが、こんなのはまだ序章だった。

 一応本人確認は済んだこともあり、社長は質問に入っていく。 

 

「それではまず、定番ですが、ライブオンを選んだ志望動機を教えていただけますか?」

「ライバーとイチャイチャしたいから!」

「「「!?」」」

「あわよくばSEXしたいから!」

「「「!?」」」

「あと会社やめたいから……」

「「「……」」」

 

 即答する私に、面接官達の目が再び変わった。

 具体的に言うと、ライブオンの卵を見る目から、危険人物を見る目に変わった。

 無理もない。これでは志望動機ではなく死亡動機だ。全て本心ではあるけど、尚のこと問題である。

 この時点で面接を終わらせても恐らく誰も怒らないだろう。しかし、律儀なことに社長は面接を続けてくれた。

 

「書類の情報だと、外見通りの清楚な方をイメージしていたんですが……確か、雪さんの書類を通過させたのは一期生の晴なんですよ。雰囲気があるとか言ってね。流石の慧眼というか、あはは……」

「じゃあ合格ってことか! これからよろしくお願いいたします」

「受かると分かったら敬語は斬新だな……あの、まだ合格とは言えないですね……この面接に合格していただかないと……」

「なるほど! 形式上ってやつね!」

「いえこっちは思いっきり実質上ですね」

 

 もう半分コントみたいになっているが、質問は続く。

 

「これは書類の情報はあまり頼りにしない方が良さそうだな……それでは次に、雪さんが自分の最も個性的だと思う部分を聞かせてください」

「ストゼロが好きなところかな」

「「「!?」」」

 

 今なら分かる。この時面接官は全員が「そこじゃないだろ!? さっきまでの発言は!?」とツッコミを入れたがっていた。

 まさかこれも嘘偽りがないことが後に判明するとは、この時思ってもみなかっただろう……。

 

「つ、次に、雪さんがライブオンのVTuberになった場合、ライブオンに何をもたらしてくれますか?」

「将来の社長!」

「「「!?」」」

「セカンドキャリアもガッポガポ!」

「その視点は新しいですね……」

 

 ここまでの経過だけを見ると、間違いなく私は落ちていたと思う。

 傍から見てるだけなら面白いかもしれないが、一緒にライバー活動をしていくと考えると問題が多すぎる。

 ただ――

 

「それでは次に、VTuberとしてデビューした際の目標を聞いてもいいですか?」

「目標……」

 

 この質問への回答で、私の人生は変わった。

 

「伝説」

「「「え?」」」

「私は、伝説になる」

「「「……」」」

 

 またヤバいこと言い出したと苦笑を隠せない面接陣。

 

「だって納得できない」

 

 しかし、内容はともかく簡潔に返していた今までの質問と違い、私は更に言葉を続けた。

 

「今までの人生酷いものだった。ずっと地の底に這いつくばっているみたいで、幸福という言葉の意味を私はまだ知らない。だからこそ、このまま終わるなんて納得できない。今までの人生が辛かった分、私は幸せになってやる。成功するだけじゃ足りない、私がこの世から去った後でも名前が語り継がれるような存在――伝説になってやる。そしてそれを実現出来る場所がVTuberであり、ライブオンなんだど」

「「「……」」」

 

 産まれてから大人になるまで、私の体が耐えられる限界ギリギリまで積もり積もった負の感情。取り繕うことを忘れ、素が完全に露呈していたからこそ、それは不満となり、不満は他を寄せ付けない程の向上心になった。

 面接陣が息を呑むのが分かる。それほどまでにこの時の私には気迫があった。

 地の底を生きてきたからこそ、幸福に飢える人間の狂気が、確かにあった。

 

「……ありがとうございます。これにてこちらからの質問は終了になります。最後に、雪さんの方から質問はございますか?」

「ライブオンに退職代行頼んでいい?」

「専門外なので無理ですね……あと、まだ合格ってわけじゃないですからね?」

 

 合格ってわけじゃない。この言葉からも、落選一択ではなくなったことが窺える。

 ただ、流石にこの時点で合格決定ではなかっただろう……鈴木さんも前にライブオンは相当悩んだって言ってたのも納得だ……。

 結果的には無事、私は『輝ける人』と判断されたようで、後日、合格通知が届いたのだった。

 

 

 

「本当に、懐かしいなぁ」

 

 面接時のことと、配信画面に映る()()()()()()のサムネイルを見て、私は感傷にふける。

 リスナーさんに思い出した面接時のことを話したあと、私は今しかないと思い、ずっと前に約束していたデビュー配信等の初期淡雪の振り返りを急遽開催することにした。

 見ようとする度に、本当に今でいいのかという想いが湧いてきて、ずっと後回しにしてきたこの企画。今ならなんの躊躇もなかった。

 遅くなったけど、これでようやく約束を果たせる。

 

コメント

:ごめんこっちは懐古に浸るんじゃなくて衝撃で溺れそうなんだわ

:面接時本当にヤバい奴でストゼロ草味

:まじで素はあんな感じなんすね……

:さっきもありがとう言ってたけど、書類審査通したハレルンに一生感謝しろよ

:不思議と受かったことに納得感はある

:絶対に受かりに来たというか、受かること以外考えてないことは伝わる

:面接の常識すら考えてないんだよなぁ

:将来的には社長狙ってる新情報おもしろ過ぎるだろwww

:これは伝説になれますわ

:狂ってる、お前がライブオンだ ¥50000

 

「二本目を~プシュ! ほらほら、もう再生するど!」

 

 一本目が空になったので、二本目のストゼロを開け、いざアーカイブを再生する。

 

『みみみなさまこんばんは。きょきょうはよいあわわゆきがふっておる。いやおるじゃない、いますね! あれ、待ってください、今日じゃなくて今宵だったかも!?』

 

 うーん開幕から酷い。

 

「これ、淡雪って名前も相まって極寒の外から配信してる説がやや受けしたけど、三日で飽きられたよね」

 

コメント

:何もかもが初々しい……

:三日は残酷

:出オチネタは鮮度が落ちやすいのがね……

:今は挨拶間違えたくらいじゃ止まらないよね

:シュワちゃんに至っては毎回違う挨拶してるから……

 

 グダグダしながらもなんとか挨拶を終え、配信は自己紹介へと入る。

 

『あの、淡雪ということで、あっ、名前のってことです、降る方じゃなくてですね、あ、違う、降る方の淡雪が降る頃にだけ現れます、私の方の淡雪がですね、いや、皆様の方で降ってなくても配信しているかもしれませんが、そこは私の地方では降っているということにして頂けると幸いです、はい……』

 

 話が分かり辛いし、いきなり設定ブレそうなこと言ってるし、何より――

 

「うん、面白くない!」

 

 これに尽きる。

 

コメント

:ですね

:完全に同意

:頭に入ってこないのよ

:の、伸びしろがあると思う!

:ごめん、これは配信閉じちゃうかも……

 

「台本とかちゃんと作って、メンタルもばっちり備えた上で挑んだはずなんだけどなぁ……」

 

 その後も特に見せ場はなく、ただ分かりにくい話を続ける私に、頭を抱えそうになる――かと思いきや。

 面接のことを思い出したからだろうか。ここにきて私には、羞恥や怒りとは違う感情が生まれていた。

 

「まぁそうだな…………お疲れさま」

 

 それは()()

 どんなに人気がなくても、どんなに情けなくなっても、この時の私は配信から逃げることはなかった。

 だからこそ今の私がいる。あの切り忘れは偶然だけの産物じゃない、頑張ったからこそ手に入った、一つの成果なのだと、今は思う。

 

「もう大丈夫だよ」

 

 優しくそう告げた。

 

コメント

:まさかそういう反応になるとは

:淡雪お前はようやったよ ¥22000

:今の姿を見せてあげたいね

:あっちが頭抱えるぞwww

:お、そこまで言うってことは、心音淡雪完全復活か?

 

「そりゃあもう! 完全復活どころか完全覚醒よ!」

 

 なんたって、()()()()()なんて野望を持っていることを思い出しちゃったんだからね!

 経験と野望を両立し、新たなる武器フォームチェンジまで手にした今、私こそがライブオン一のヤベー女だと自負できる。毎日トレンド一位とってやる気概よ!

 ぁ……でも、そうだな。

 

「……ねぇリスナーさん。確かに私のライバー人生はまだまだ続いていく。世の中から伝説として語り継がれるようになるなんて、もっともっと人気にならないと! ――でもさ、今この瞬間が忘れられない思い出になるのは間違いないと思う。だからさ、世の中じゃなく、リスナーさん1人1人にってことで、いっこ質問してもいいかな」

 

 そう切り出すと、私はこう問いかけた――

 肯定でも否定でも、その答えの全てが過去の私へのプレゼントになり、そしてこれからの人生の支えになるように――

 

「私は、貴方にとっての伝説になれましたか?」




VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた、これにて完結になります!
書籍版も2月くらいに最終巻が出るかと。
ただ、ぶいでんの原作が完結しただけであって、YouTubeチャンネル等のメディアミックスは続くので、以降も応援よろしくお願いします。
https://www.youtube.com/@Live-ON_official_ch
それでは、ご愛読ありがとうございました!

追記
新作開始しました!

「え、私がそっちなの!?」子犬系後輩彼女に食べられるカッコいい私
https://kakuyomu.jp/works/16818792438538969448

こちらの私の新作が、カクヨムネクストにて連載中です!
カッコいい女の子が、かわいい女の子にグイグイリードされちゃう、ギャップが魅力の百合作品です。
ぶいでんの読者さんにも楽しんでもらえる内容になっていると思うので、よろしければご一読ください!

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