VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「さてと、とりあえずまずは掃除しますかぁ」
そんなに部屋を汚くしてるつもりはないけど、生活感が出すぎな部分があるからそこを見栄え良くする感じでいこう。
とはいえ、まずは掃除機からかな。
「こんな感じでいいかなぁ」
アパートに一人暮らしだから家自体あまり広くないのもあって、思ったより早く清掃関連が終わった。
後は何が必要だ? えーっと……
あ、飲み物とかお菓子とか買い足しておいたほうがいいかな。冷蔵庫の在庫確認してみよう。
そう思いキッチンへと足を運んだ時、ある一つの物体が視界に入った瞬間、私の体は数秒間ピタリと時が止まったかのように硬直した。
「これ……私の生活ではよく見る光景だけど、流石になんとかした方がいいよね……」
よくアニメなどで思春期の男子学生がエロ本をどこかに隠すが如く、私は物の隠蔽にとりかかったのだった。
♪ピンポーン♪
「こんにちは、愛しのましろんが来ましたよ~」
「いらっしゃい! 上がって上がって!」
「いやぁまだ都会は慣れないね。何もかもが濃縮された感じがして田舎暮らしには少し疲れちゃった」
当日の昼過ぎ、予定通りましろんが家に到着した。
友人と呼べる人を自宅に招き入れるのもこのアパートに引っ越して以来これが初めてだ、なんだか緊張するなぁ。
「お疲れ様、飲み物オレンジジュース、コーラ、コーヒー、お茶と色々あるけど何か飲みます?」
「ストゼロはー?」
「……それもありますが」
「はははっ! 冗談だよ。それじゃあオレンジジュース貰っちゃおうかな、お土産にケーキ買ってきたから一緒に食べよ」
「ほんとですか! やった!」
二人でケーキをつつきながら、やっぱりましろんのことが気になって視線を向けてしまう。
うわぁびっくりするくらい肌真っ白で綺麗だなぁ。ライブスタートを収録した時も思ったけど儚げな感じが強くて妖精さんみたいだ。
そう思い観察していると、ましろんはましろんで部屋の内装をチラチラと見ていることに気づいた。
「部屋気になります?」
「あ、ごめんごめん。意外と普通な部屋に住んでるんだなぁって思って」
「どんな部屋だと想像してたんですか……」
「さーあねー♪ ふふっ、でもあの防音材とかは配信者あるあるだよね」
「あ、ましろんも使ってます?」
「勿論。実家暮らしだと音とか一層気を遣うからね」
私の部屋は壁にできるだけ多く防音材を設置している。
少々風情には欠けるかも知れないが、同じ施設に生活している者がいる以上配信者としてのエチケットだろう。
「これなら僕があわちゃんのこと襲ってもばれないね」
「え!?」
「なーんてね」
「も、もう!」
「ふふふっ」
くっ! ちょっとドキッとしてしまったじゃないか。いつもの仕返しをされてしまったな。
「それにしてもこのケーキ美味しいですね、どこのお店のですか?」
「えっと、名前なんだったっけな……ド忘れしたからちょっと調べる」
そう言いましろんがスマホに手をかけ電源をつけた時、私は見てしまった。
電源がついたスマホのホーム画面の壁紙、そこに設定されていたのはましろんと私二人のアバターが笑顔でこっちを向いてピースしている2ショット風のイラストだった。
しかもその絵柄は間違いなくましろん本人が描いたもの、身体すら貰った私が見間違うはずがない。
更に、更にだ、そのイラストは私が知る限りどこにも公開されていない初見のものだった、つまりこれが意味するものは……
「ん? どしたあわちゃん?」
「いや、その壁紙……」
「ああこれ? 壁紙用に描いちゃったんだよね、良く描けてるでしょ」
あかん、これはあかんて、顔が熱くなってきたのが自分でも分かる。
するとそんな私を見たましろんは悪戯好きの猫のようなニタっとした笑みを浮かべながら、ずいずいと私の傍まで寄ってきた。
な、なんだなんだ?
「あーわちゃん♪」
「な、なに?」
「ハイチーズ!」
「え、え?」
「ほら早く!」
「う、うん」
「ハイ笑ってー」
スマホのカメラを斜め上から向けてくるましろんに言われるがまま、ポーズをとり、そしてシャッターが押される。
えーとこれは……
「リアルバージョンゲットー。これはロック画面の壁紙にしちゃおっかなぁ」
「ッッッ!?!?!」
思わず後ろに倒れこみ顔を手で覆ってしまう私なのでした。
あ、勿論二枚とも後で頂きました、宝物です。
そんなことをしている内に脳内に存在するVTuberましろんとリアルのましろんが段々一致してきて緊張も解けてきた。
今は夕飯をましろんにご馳走する為にキッチンで材料を切っている。
「夕食まで作って貰っちゃっていいの? なんなら僕近場に買いに行くよ?」
「大丈夫、いつもやってることだからねー。そんなましろんこそ後ろで見てないでさっきみたいにあっちでくつろいでくれてていいよ?」
「いや、僕は料理できないからちょっと気になってね。邪魔しないようにするから見てていいかな? あわちゃんの料理とか興味深いし」
「見るのはいいけど、別にヘンなものとか入れないからね……」
「ストゼロとか入れないの?」
「今日はただの肉じゃがなので入れません!」
「砂糖、塩、コショウ、みりん、お醤油、ストゼロ」
「調味料みたいに言わないの!」
いつもはどこかめんどくささも感じていた料理だが、今日はなんだか終始楽しく感じた。
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