ジャン「人類を救うために恋のキューピッドになる」   作:三木えーっと

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進撃アニメはじまりましたね!
新opは、神聖かまってちゃん「僕の戦争」です。
神聖かまってちゃんといえば、めちゃくちゃ流行ったアニソン「OS-宇宙人」を作った神バンドです。


二十八話

ジャンと一悶着あった夜。

自室のベッドの中で、アニは目覚めた。

ぼうっとする頭で身体を起こし周囲を見渡すと、窓から月の光が差し込んで、暗い部屋を仄かに照らしていた。

隣のベッドからは、ミーナの規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

そうだ。

結局、デートには行かなかったんだっけ。

 

とてもじゃないが、そんな気分にはなれなかった。

誰の顔も見たくなくて、拗ねた子供のようにベッドの中で丸まっているうちに、眠ってしまったんだろう。

せっかくのデート服がしわくちゃになっているのを眺めていると、だんだんと思考がクリアになっていく。

寝過ぎた頭が痛む。

けれど、昼間の混乱よりかはいくらかマシな気分だった。

 

アニは息を吐くと、足先を床におろした。

ぎしりと床板がきしむ。

夜行性の鳥や虫の音にまぎれるように、無駄に終わった白いシャツとスカートを脱いで、パーカーとスキニーパンツに着替えた。

綺麗な金髪を低い位置で丸める。

自分らしさを取り戻していく儀式。

戦士に寄っていく自分を自覚しながら、ミーナを起こさないようにして、アニはそっと自室を抜け出した。

 

今夜は、戦士たちの最後の会合の日だった。

 

 

 

 

 

「アニには、任務から外れてもらうことにした」

 

唐突な宣告に、アニは耳を疑った。

急に垂れ込めた暗雲で、月が陰った瞬間の言葉だった。

立体機動訓練場の森は闇に沈み、それを言ったのがどちらの男か一瞬わからなくなったが、すぐにベルトルトの声だと思い至る。

久しぶりに口を開いたかと思えば、タチの悪い冗談だ。

 

アニは眉をひそめ、

「冗談言ってる時間はないはずだよ。今日の報告から手短に話して」

とライナーがいるはずの暗がりに話しかけた。

が、返事はない。

 

アニは自分の心臓が大きく脈打つのを感じた。

嫌な沈黙に息が詰まる。

目が慣れてくると、木にもたれかかったライナーが、直立したベルトルトが、自分の方を向いているのが輪郭でわかった。

 

「……どういうこと?」

アニは呆然と尋ねた。

「僕が判断した。今のアニは、任務を遂行できる精神状態じゃない」

ベルトルトが言った。

毅然とした態度が鼻につく。

人の心を見透かしたような物言いに、アニは怒気を孕んで言い返した。

 

「バカなこと言わないで。私は冷静だよ」

「冷静? 昼間のはどう説明するの? ジャンと派手に言い合ってた時は、とても冷静には見えなかったけど」

「……少し疲れてただけだよ。もう大丈夫だから」

「大丈夫じゃないだろ。そんな言い訳で済むと思ってるなら、大間違いだ」

ベルトルトが力をこめて言った。

 

言い訳なんかじゃない。

何であんなことをしたのか、自分でもわからないだけだった。

わからないことを説明しろと言われても困る。

ふつふつとした怒りが腹の底から込み上げてくるのを感じた。

 

「ああ、そうだね。アンタの言う通りだよ。私は冷静じゃなかった。――とっくに狂ってる。当たり前でしょ? あんなに大勢の人間を殺しておいて、まともな精神でいられるはずない」

アニは眼光鋭く、ベルトルトを睨みつけた。

「けど、だから何? 私が狂ってるから、任務から外す? バカじゃないの。作戦は目前に迫ってる。計画は変えられない。私が抜けた穴を埋めるなんて不可能だよ。故郷に帰るためには、やるしかないんだから」

 

改めて口にすると、ずしりと胸に来た。

自分の言葉に、意識しないようにしていた現実を突きつけられる。

 

そうだ。

やるしかない――故郷へ帰るために。

 

彼女の決意に、しかし、ベルトルトはあっさりと首を横に振った。

 

「いいや、問題ないよ。壁を壊すのは僕とライナーの役目だ。壁さえ壊せれば、壁内人類を滅亡させることができる。つまりアニは必要ないんだ」

予想だにしなかった返答に、アニは目を見開き、

「そんなこと――ッ座標はどうするの⁉︎」

と激しく詰め寄った。

至近距離で、男の顔を見上げる。

すると暗がりの中でも彼の目鼻立ちがくっきりとわかって、本当に久しぶりにベルトルトと目が合った。

その瞳にはアニが記憶していた弱々しい光はなく、暗く沈んだ狂気があるだけだった。

 

「僕とライナーでなんとかする」

彼は静かに言い切った。

 

雲が流れ、月の光が再び三人を照らしていた。

アニは青ざめて後退り、今度はライナーの方に顔を向けた。

精悍な顔立ちに落ちる影。

その影にはベルトルトと同様の狂気が潜んでいて、二人の結託した決意を感じさせた。

そして、アニは悟る。

 

もう何をしたって無駄だ。

本気で私を――。

 

「……私を殺すの?」

正気のない顔で、アニは声を絞り出す。

 

「ち、ちがうよ! そんなことするわけないだろ⁉︎」

ベルトルトはぶんぶん頭を振って否定すると、

「どうなっても僕たちは戦士だ。アニのことは仲間だと思ってるよ。だから、作戦がうまくいって故郷に帰れることになったら、一緒に帰ろう。あとは僕たちに任せるんだ」

「……それはアンタたちにだけ人殺しを押し付けろってこと?」

「そうは言ってないよ。ただアニが限界なら、僕たちだけでも殺しはできるんだ。アニが無理して手を汚す必要はないよ」

「自分だけ何もしないなんて、そんな虫のいいことできるわけない!」

 

最悪だ。

いくつかある選択肢の内で、ベルトルトから提示されたそれは、アニにとって最も受け入れ難い選択だった。

下劣で、狡猾。

糞野郎のやる所業だ。

しかし、それは同時に甘美な響きで彼女の胸を震わせてもいた。

 

「なら、殺せるか? エレンやミーナ――104期の連中を」

静観していたライナーが、鋭く問う。

 

「やれる。その時になれば、やるに決まってる」

口先で、アニは答えた。

薄っぺらい言葉。

頭の芯から指先にかけて麻痺したように痺れが走り、アニは何か言い足さなければと思ったが、今更何を言っても意味がないようにも思えた。

 

黙り込んだアニをじっと見つめて、

「じゃあ、証拠を見せてよ。殺せるって証明してくれれば、アニを作戦に加えよう」

とベルトルトは提案した。

そして冷酷に告げる。

「ジャンを殺すんだ」

 

その瞬間、アニの頭の中は真っ白に染まった。

ベルトルトの言葉が何度も何度も脳内で再生される。

 

殺す? ジャンを殺す? 私が?

そんなこと……一体何の意味があるの?

――いいや、わかってたじゃないか。

すべてに意味はないって。

何の意味もない。

私の苦しみも、誰かの死も。

ただ私は証明すればいいだけだ。

すべてが無意味だということを。

 

「わかった。それでアンタたちの気が済むなら」

そう言って、アニは踵を返す。

 

もう何も考えたくはなかった。

考える必要もないことだと自分を納得させていた。

 

ジャンを殺す。

それだけでいい。

そうすれば私は戦士に戻れるんだから。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「おい……聞いてないぞ。ジャンを殺せなんて、どういうつもりだ? 作戦前に目立つ行動はまずいだろ。お前がアニのことは任せてほしいって言うから、俺も黙っていたが――」

アニの背中を見送った後、ライナーが渋い顔で言うのを遮って、

「ああ、悪かったよ」

とベルトルトはため息をついた。

「でも、大丈夫。見てただろ? そんなこともわからないぐらい、アニは混乱してるんだ。今の彼女にジャンを殺すなんて――もしそうなっても、僕が責任を取る」

「……お前ばかりが背負う必要はないんだぞ。ユミルと別れたのも、任務のためだろ」

「ははっ……ユミルのことは関係ないよ。単に僕が飽きられただけさ」

 

ライナーの追求を、ベルトルトは曖昧に笑って誤魔化していた。




ご存知とは思いますが、諫山先生は神聖かまってちゃんのファンなんですよね。音楽の趣味もいいなんてメシアすぎる。
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