シャボンヌ達が野営地に戻る数刻前【エ・ランテル 共同墓地】、ハゲの男と若き金髪ボブヘアーの痴女が地下神殿内で会合をしていた。
「クレマンティーヌ、遅かったな。」
ハゲことカジットが黒紫色の宝珠を片手にそう言葉を発する。
「ごめんねぇ〜(๑˃̵ᴗ˂̵)男達からチヤホヤされちゃってねぇ〜」
頭ポリポリかきながらテヘペロするクレマンティーヌ。
「お前のことだから無いだろうが、ちゃんと全員始末したな?」
「もっちろん! いや〜身体に穴を開けられる度に身体をビクつかせちゃってさー! ゾクゥときちゃってもう下着が台無し〜」
クレマンティーヌは身体をよじる。
「この変態が」
読者の心の声を代弁するかのようにカジットが的確なツッコミをする。
「あぁん? おんなじ風にして欲しい?」
笑いつつも少し殺気を放ちながらカジットを睨め付けるクレマンティーヌ。
「出来るものならな。まぁでも、ここで仲間割れは不味い。
「うーんまぁそうね〜でも、あんま調子に乗んない方が良いよ〜。うっかり殺しちゃうかもよ?」
「調子に乗るということはえてして悪い結果しか産まん。儂がそのことを知っていない訳が無かろう。さっさと仕事を済ませ、我らが盟主にありったけの死を御献上することこそ最優先事項だと思っての行為。お前の行為はとても良いとは言えんぞ。」
知的にクレマンティーヌをdisっていくカジット。
「なんでよ〜、ちゃんと殺してるのに〜?」
口を尖らせるクレマンティーヌ。
もしも場所と格好が少し違っていたら、年若いギャルが敬虔な僧侶に構ってアピールしているように見えたかもしれない。
しかし、ここは墓地内の地下神殿、カジットもクレマンティーヌも怪しいローブに身を包んでいる状態である。
「死者が生者に死を与えることこそ死者の王たる我等が死の神への貢物である。お前は生者であろう。」
カジット、宗教観が世紀末。
「ごめん、ちょっとよくわからない。」
まったくだ。
「なんだと!」
いや、言われても仕方ない案件ですけど。
「ちょっとーここで仲間割れは不味いよー。」
「ぬぐ、儂の台詞を……」
クレマンティーヌの見事な燕返しが決まる。
「えーとね〜攫うって言う薬師のガキいなかったんだけど。」
唐突な話題転換。
「……何?」
「どうやら薬草取りにトブの大森林辺りに行ったってよ。帰ってくんのは遅くとも2日だとさ。護衛には銀級のザコと変な新人が付いているみたい。」
「チームの頭の殺気は凄かったらしいが、所詮はガゼフ・ストロノーフ以下だろう。後はガキと女らしいではないか。」
あ、カジットオワタやん。その人達、ガゼフより何倍も強いですよー。
「銀級とまとめてスッと行ってドスッだね〜。あー楽しみぃ〜!」
逆です。あなた方がスッと行ってドスッですよー。
「あんまり血で汚すなよ。後始末が大変だからな。」
「あ〜ハイハイわかってるよ〜。」
「……このエ・ランテルが死に呑まれるまで、あと少しだ。待ち遠しい、ああ待ち遠しい……」
「あー楽しみぃ〜! 早く痛ぶって穴開けて殺して! フヒッッ! ぶっ壊してやるよ……何もかも!」
エ・ランテル共同墓地内に狂人達の笑い声が木霊する。
ぶっ壊されるのは自分達の方だというのに……
《リューシサイド》
【トブの大森林周辺 野営地】
翌朝、僕は朝一番に起きた。
朝ご飯のフランスパンっぽい携帯パンと昨日の残りをみんなで食べ、トブの大森林へ行く為の拠点としてカルネ村へ行く予定である。
昨日ンフィーレアが自爆して好きな人がカルネ村にいるってことで話題になっていたが……ンフィーレア、エンリ将軍は手強いぞ
それにしても初依頼をこなすの中々楽しかったな〜。
仲間と共に冒険してるっていうリアルRPGが楽しめたよ。
まぁ、僕どっちかっていうと魔王サイドなんですけどね!?
アインズさんなんかモロ魔王なのに、今では完全なる冒険者見習いの少年にノリノリで成りきっているし。
この後やることってトブの大森林内で薬草取りだよな〜。
後魔獣の捕獲だったっけ?
うーん、そこで何か起きたような気がするけど……
ま、いっか!
取り敢えずは漆黒の剣をクレマンから守ることが先決。
そして彼等と共にエ・ランテルの共同墓地に突っ込んで〜
最後にミスリル級になることが目標事項だ。
えーと、確かその後直ぐシャルティア洗脳の報告がアルベドから来るけど……
まぁ大丈夫やろ。
ワールドアイテムの《ヒュギエイヤの杯》持たせたし。
そしてそのまま法国に突入、と。
シナリオは出来つつある……。
到底崩れはしないだろう。
──────
と、明らかフラグを立てながらそう考え込んでいるリューシ。
モモンとニニャとルクルットとナーベで話が展開していた為に、入り込む余地が無かったのもある。
ちなみに、モモンはニニャから英雄の乗っていたというドラゴンについて聞いてた。
「へぇ〜英雄ってやっぱ凄いや!」
「モモンくん位の実力なら成れるよ。きっと。」
「俺と共にな! そしたらナーベちゃんに告白して……」
「生理的に受け付けません。」
「ひどっ! またまたそんなこと言って〜ほんとは心ではねっ!」
「黙れ」
「ちょっとルクルット、仕事してよ〜」
「わりぃニニャ、ナーベちゃん口説くのに忙しいんだ!」
そう言って双眼鏡をニニャに放るルクルット。
「少しお痛が過ぎるんじゃないか?」
「これが青春なのである!」
「ダイン……あれはただの粘着行為だぞ……」
「……多分この先もう少し行けばカルネ村です。うん? あれ? えっ?」
ルクルットの双眼鏡を貸してもらったニニャがカルネ村方向を見て素っ頓狂な声を上げる。
「どうした? ニニャ、そっちに何……」
「どうしたのであるか? まさか村に何かあっ……」
「どうしたんだ? みんなして固まって、そっちに何がぁあ?!」
『ちょっとシャボンヌさん?! アンタカルネ村を魔改造しすぎだろ!』
『ヴィレッジ・オブ・ドラゴニア・カルネですよ。略してカルネ村。』
カルネ村は立派な要塞になりました。
めでたしめでたし。
『いや一体何やったらあんな竜の巣窟みたいになるんだよ!!』
そう、ここから見えるカルネ村は、明らかに村ではなかった。
というか村の範疇を容易に越していた。
フォレスト・ドラゴンやら
ご丁寧に道中の看板には警告文が記され、村内部に3〜4カ所程の物見櫓が設置されていて、さらには堀の外側に柵、壁面には弓を射ることが出来る隙間窓、張り出し櫓まで付いている。
フルコンボだドン!
外見からは、少し前までの典型的な田舎村の面影は全く無くなっていた。
何故こうなってしまったのかというと、事の発端は3日前に遡る。
ホーンバーグ内の自室内で仕事中、ふとシャボンヌは思い出す。
そういや、POP竜達の置き場所がないやん……と。
そこで、カルネ村に何匹かやらないかな〜と思ったシャボンヌは、パッとその場の思い付きとノリだけで、アインズにカルネ村強化の案があるとだけ言って、ルプスレギナに連絡し、カルネ村要塞化を進めることにしたのだ!
拠点魔法と竜達の頑張りにより、僅か3時間という速さであらかた完成してしまった。
ちなみに作業していた時間帯が夜だった為に、翌朝エンリ以下村人達は腰を抜かしてしまったそうな。
「何だ何だよ! あれの何処が村だってんだ!」
ルクルットがまるで初めてゴジ◯を目の当たりにした奴みたいに喚く。
「ンフィーレアさん! 何か知っていることとかありますか?」
いち早く冷静になったペテルが以前カルネ村に行ったことのあるンフィーレアに何か知っていないか尋ねる。
「あれ? 薬草の匂いで頭がおかしくなったのかなぁ。おしろがめのまえにあるなんてこれはゆめだ」
「夢じゃないです! しっかりしてくださいンフィーレアさ──ん!!!」
ンフィーレア、残念ながら夢じゃありません現実です。
「取り敢えず、村の人達と何かコンタクトを取りたい所ですね。ところで、貴殿らは何か知っているか? ゴブリン達よ。」
シャボンヌが草地を見遣りながらこう言葉を発する。
その言葉に答えるかのように数匹のゴブリン達が武器を構えながら草地より出てくる。
「バレちまったみたいでっさなぁ、人間の兄さん方。俺らはそこのカルネ村の来客を監視する役割だったんすが……それで、カルネ村に何か用で? 最近この村が騎士に襲われたらしいんで、危害を加えようってんなら話は別ですがねぇ。」
そう言いつつも警戒は怠らずに脅しまで付ける使役ゴブリンの鏡。
「え! 騎士に襲われただって?!」
ンフィーレアが叫ぶ。
「逆に問おう。貴殿らに危害を加えてこちらに何かメリットでも?」
お手上げポーズを取りながらそう言葉を零すリューシ。
「へへ、それもそうですかねぇ。」
そう言ってようやく警戒を解くゴブリン達。
「警戒しているのはやはりあの娘の命によるものだな?」
「え!? 何か知っているんですか? リューシさん!」
とニニャが聞いてくる。
「ん? もしかして兄さん、エンリの姐さんの言う……」
先頭のゴブリンも何か言いかける。
と、その時声が響く。
「ンフィー!」
エンリ将軍だ。
「エンリ!」
二人は互いに走ってお互いを抱きしめ合う。
リューシはサッとモモンの背後に移動する。
「聞いたよ、村が騎士に襲われたんだって? 大丈夫だった? エンリ。」
「うん! 怖かったけれど、通りすがりの冒険者の方が助けてくださったの!」
「それなら良かった。エンリを助けてくれたその冒険者さんには僕からもお礼を言わなきゃ。」
「ほんと凄かったの! 剣でズバズバって……確かその人、リューシ様って言ってた」
「ゥエエエエエエエエエエエエ?!!?!?!?!?!?!?!」
ンフィーレアと聞いてた漆黒の剣の面々が一斉にシャボンヌを見遣る。
その顔はさながらワンピ◯スの神エネ◯にそっくりだった。
「ンフィーもそこの人達も何をおどろ……あれ?! リューシ様!?」
遅れてエンリも気付く。
『アインズさん、カルネ村に来たときの姿、直ぐに成れますか?』
『えっ? あ、はい成れますけど……』
「モモン、あの姿をここでお披露目しなさい。」
「えっ!? ここで!? はーい、よっと。」
そう言いつつ、アインズことモモンは青年フォームへと姿を変える。
「……」
「モモンくんが大きくなった!?」
「これがモモンの第二の姿です。肉体も精神も急成長し、接近戦への強さが増しますが、魔法攻撃力が下がるのであまり使いません。この村が襲われていたのを発見した時、丁度このフォームの特訓中だったので……そして隠していましたが、私は竜騎士です。」
「モモンくんに第二の姿!? それにリューシさんが竜騎士って初耳です!」
ニニャがめっちゃ興奮している。
「この村の復興に使役した竜達を当てがっています。中々可愛いモンですよ。あいつらは。」
『ちょっと! シャボンヌさん流石に我々の情報をここまで垂れ流しにする訳には……』
『ニニャには魔法習得速度倍加のタレントがあります。そして、ンフィーレア少年は全てのアイテムを使えるというタレントを持っている。早いとこ彼等二人をこちらに引き込み、仲間にしてしまいたいです。』
『ぬぅ、でもそれで』
『彼等が裏切るような輩に見えますか? ここは我々にとって良き人材の確保に走りましょう。それに、あいつらおもろいですし。』
『……諦め』
「リューシさんスゲェ!」
「リューシさんパネェ!」
「まさしく英雄である!」
「凄い……カッコいい……」
「リューシさん凄いです!」
「助けられた身として、とても感謝しています!」
モモンと会話している内に、エンリが他の面子に事の顛末を話していたみたいだ。
飛び交うリューシさんコール。
内二人は女の子から。
許せん! シャボンヌ! アンタは今再び、俺達非リアを『裏切った』ッ!
「暴力は奪う為に在りて、実力は守る為に在り。私は実力行使に出たまでです。モモン、そろそろ元の姿に。」
「はい。」
そう言って再びモモンは元の姿に戻る。
「戻りましたー!」
「うむ。それで、エンリといったな。我々はトブの大森林へ依頼を遂行しに行く為、途中ここに立ち寄ったまで。ンフィーレア氏の薬草採集の護衛任務だ。その拠点としてこの村を使わせてもらいたい。」
「あ、多分良いと思いますよ。村長さんを至急呼んできますね。」
「感謝する。ところで、敬語の方がよろしいか?」
「えっあ、えーとそのままでも全然……」
「差別は良くない。これからはこの口調で話しますが、大丈夫でしょうかな?」
「えっちょっ」
「さて、ンフィーレアさん、漆黒の剣の皆さん、そろそろ打ち合わせを行いましょう。」
「命の恩人に敬語を使わせるなんて〜……怒られる〜!」
「は、はい。えーっとエンリが困っているのですが……」
「いきなり敬語はキツいと思いますけど……」
「まず、トブの大森林内のスポットAに向かい、そこから」
(ダメだこの人、話聞いてねえ!)
────────
大森林内部
薬草が取れるスポットを目指してぬかるんだ森の小道をしっかりと歩くンフィーレア一行。
ところどころに生えている薬草をちょくちょく採集しながら森の奥地まで進んでいく。
「ナーベちゃん、怖いかい? 俺が介抱してあげ」
「要りません、気持ち悪い。」
「ありがとうございます!」
「ルクルットとナーベの会話がどんどんめちゃくちゃになっているような気がしますね。」
「ほんとウチのルクルットがご迷惑を……」
「ペテルさんが謝ることでは無いですよ。それに、面白いのでそのままで。」
「は、はぁ……」
「ナーベちゃん、いくら俺に冷たい言葉を投げても逆効果……全員警戒! やべえ奴がこちらに向かって来ている!」
「切り替え早! それで、敵の詳細な情報は?」
「大体ダイン三人分程の背丈だが、足跡から四足歩行の魔獣だと推定! 恐らく全長ダイン6人位です! 横の長さはダイン5人分はあると……」
「毎回思うのであるが、なんで長さの単位が私なのであるか?!」
ダインは単位にされた。
「ここは打ち合わせ通り、私達が抑えます。ンフィーレアさんの警護、よろしく頼みましたよ!」
「相手は森の賢王と呼ばれる大魔獣です! くれぐれも無理はしないでください!」
「心配御無用!」
ンフィーレアを連れて漆黒の剣の面々は森の中に消えていく。
「そろそろかな、出てきていいぞ、アウラ。」
木々の隙間の影からひっそりとフェンリルに乗ったアウラが現れる。
「魔獣の誘導は完了しました! 私のペットのクアちゃんが囮になってくれています!」
「偉いぞアウラよ。後で何か褒美をあげよう。」
モモンが少年の声でこんなこと言うので、思わず吹き出しかけたリューシ。
「それにしても、あのガガンボ達、我々を信頼し切っていましたね。」とナーベ。
「冒険者もまた、強い者に対する信頼感という物がある。弱者は強者が守り、強者は弱者に見返りを求める。これがこの世の掟だ。」
「何と偉大なるお言葉……! 絶対に忘れません!」
と言いながらメモ帳に今リューシが言ったことを凄いスピードで書き記していくナーベ。
「さて、ここは僕がチャチャッと終わらせますね。」
「苦戦するような相手では無いっぽいですけど……」
アウラの報告により、トブの大森林内に森の賢王と呼ばれる一際珍しい魔獣がいるという報告があったので、アインズが捕縛することにしたのがことの始まり。
リューシには魔獣の捕獲をトブの大森林でやるとだけ伝えていた為、リューシは重要なことを思い出せていなかった。
ドドッドドッ
遠くから魔獣が駆ける音が聞こえる。
直にここまで来るだろう。
「来ますよ。アウラは一応隠れて。」
「はっ!」
姿を消すアウラ。
それと同時に森の奥から鞭のような物が飛んできた。
「剣を使う必要もない。」
それをリューシは素手で鷲掴みにする。
飛んできた物体は蛇のような鱗に覆われた生物の尻尾のようだ。
「森に侵入した愚か者〜尻尾から手を放すでござるよ〜!」
「「ござる?」」
モモンがまさかの魔獣の口調に驚き、あんぐりと口を開ける一方、前世のリューシの記憶が蘇る。
「……先に攻撃した方が悪い。これは正当防衛だ。」
「いいから放すでござるよ〜!」
『アインズさん、この魔獣は……』
『えぇ、そうですよね、アレですよねぇ。』
「質問に答えたら放してやる。お前の種族名はジャンガリアンハムスターと言わないか?」
「な、何でそれがしの種族を知っているでござるか〜?! ま、まさか!」
「お前に良く似た奴を以前に見た。雌だったよ。」
そう言いながら尾から手を放すリューシ。
「ガーン! オスじゃないのでござるか……残念でござる〜」
体勢を整えつつそう言う魔獣ハムスター。
『うーん、マスコット担当ならいけるか?』
『戦闘技術は……基本的な補助系統を使ってこない所を見ると我々からすれば雑魚でしょう。テキトーに流してお終いですね。』
「それで? 我々はこの森の散策に来ただけだが、邪魔するのであれば予定を変えざるを得ないな。」
そう言って間髪入れずに《剣聖のオーラ》を放つリューシ。
「参った、参ったでござるよ〜! 邪魔もする気は無いでござる〜」
瞬間的にお腹を見せて服従のポーズを取るハムスター。
「貴様! 至高なる御方々に無礼な……」
「ナーベ、止めよ。アレは服従のポーズだ。」
「はっ! 申し訳ありませんでした!」
「さて、お前を今後どうするかだが……」
「殺さないで欲しいのでござるよ〜……」
その丸いつぶらな瞳を潤ませる巨大ハムスター。
刹那、アインズとリューシを耐え難い罪悪感が襲う。
『……コイツ殺したら、次元を超えてやってきた動物愛護団体から訴えられますね。』
『そんな動物愛護団体いないでしょ!? まぁ愛らしいハムスターを殺すっていうのも中々気がひけるのは確かですねぇ。』
「お前は我等と共に来い。必ずお前の同族を見つけ出してやる。それまで生きてついて来い。分かったな?」
「承知したでござる、今日から目一杯の忠誠を誓うでござるよ殿〜!」
『ここは仲間にしておきましょう。一応、この世界の有力者っぽいので。』
『有力……者? 魔獣ですよね?』
「流石はシャボンヌ様とアインズ様! 御二方が揃えばこんな英知を感じる魔物も容易く手懐けてしまう! カッコイイです!」
興奮するアウラ。
「うん? カッコ……」
「至高なる御方の御威光にはどんな雄大な獣であったとしても、逆らうことなど不可能だと知れ、大魔獣。」
『あれ? シャボンヌさん、俺の感性が間違っているんでしょうか? あのハムスターどう見ても可愛い以外の何物でも無いと思うんですが……』
『モフりたい(切実)』
『大の大人が……(呆れ)』
「さて、そうと決まれば早速お前に名を与えよう。前に何かこれといった呼ばれ方はあったか?」
「それがしは以前にここに来た人間が言っていた『森の賢王』という呼び名が気に入ったでござるが、それ以外には特に何とも呼ばれていないのでござるよ。」
「『森の賢王』は称号だな。名前では無い。ならば……アインズさん、何か案とかはありますか?」
「えっ? 俺ですか。……やっぱりここは『ハムスケ』にしましょう。なんか口調が武士っぽいので。いや、待てよ。雌だったっけ?」
「では、今日からお前の名は『ハムスケ』だ!」
「おお! 何とも雄大な響き……! それがしにそんな素敵な名前を名付けてくださった恩、行動で必ずお返しするでござる!」
「あぁ。頑張れよ。」
(森の賢王なんだからもっとバケモノみたいなのが来ると思っていたが……何だこれは、お笑い芸人の出し物じゃないんだぞ……)
一人そう思うアインズであった。
────
「待たせましたね、皆さん。」
リューシ達は緊急避難場所と指定していた森の一角に足を踏み入れる。
そこにいた漆黒の剣とンフィーレアは出迎えようとして硬直する。
(そりゃそうだよな……こんな巨大なハムスターを三人がかりでリンチにしたなんて言ったら)
「そいつが……森の賢王……!」
「何と立派な魔獣であるか……! 強大な力がひしひしと感じられるのである……!」
(ん? 立派? 強大?)
「こ、この子が立派に見えるんですか?」
「この英知を感じさせる瞳! 俺の弓でも傷一つつかなそうな美しくもとんでもない強度を誇る毛皮! どんな弾幕をも跳ね返しうる硬質な尾! 俺達だったらとっくの昔に全滅だよ! こんな奴生け捕りにするとかモモン君達ヤバすぎるだろ!」
「ぇ、え〜そ、そうですか?」
(英知? ヤバい? イヤイヤ、ハムスターだよ!?)
「凄いです! 流石リューシさん、ナーベさん、モモンくん! これは英雄級の偉業ですよ!」
『リューシさん、ハムスケを見た感想は?』
『可愛い』
『良かった……』
現地とNPCの物の感性はリアルと大分違っている。
「ハムスケ、一つ聞くが、何かしらの幻術の類を今使用しているか?」
「
「キィヤァァァアア! シャベッタァー!!」
「ハムスケという呼び名なのであるか……何とも雄大な響きであるか……」
「お! そなたも理解してくれるのでござるか〜! 殿が名付けてくださった素晴らしい名でござるよ!」
巨大なハムスターに畏敬の念を込めた視線を送る一行。
「えーと、可愛いとは思いませんか?」
若干困惑気味にそう問うモモン。
「え!? モモンくん!? この大魔獣が可愛く見えているの?」
「少年にも関わらず、とても肝が座っているのである! 将来は立派な英雄になれるであるよ!」
「か〜やっぱ実力者って常人と感性が違うんだなぁ〜。」
「見るからに食べられそうな魔獣を可愛いって……凄すぎるよモモンくん……」
(ハムスターって、雄大だったんですね……)
(アインズさん! しっかりしてください! 貴方の感性は間違ってないですよ! ……多分)
(多分って……確証持てなくなって無いですか?)
「あっ! でも待って下さい、もし森の賢王がいなくなってしまったら、今まで森の賢王の強大さからカルネ村周辺を行くことを避けていたモンスター達が村を襲うのでは……?」
ンフィーレアが自身の考えうる最悪の可能性について問う。
「村とは……あぁあの人間達の住処のことでござるか。一つ言うと、それがしが居なくともそこは直に襲われると思うでござるよ。」
「えっ……それはどういう……」
「最近森の奥地に変な輩がやってきたのでござるよ。そやつらは森の中に何か大きな物を作ろうとしているのは間違いないのでござるが、よく見ようと近づいただけで此方に攻撃を仕掛けてくるのでござる。余程大きな何かが大事な物だと思うのでござる。とにかく、そやつらの性で森の生態系が崩れて来ているのでござるよ。この森に住む者たちは大混乱してこっちに続々と住処を探しに来ているのでござる。遅かれ早かれ、そこへも住処を探しに来ると思うのでござるよ。」
「賢王様が何とか出来ないでしょうか?」
「それがしは縄張りを極度に荒らす者とは戦うが、眠りを妨げずに通る者達は基本見逃しているのでござるよ。弱き者を痛ぶるような趣味もないでござるからな。」
「そ、そんな……」
ンフィーレアはこの世の終わりみたいな顔をする。
ンフィーレアにとってカルネ村とは思い人がいる村であり、同時に二人の思い出の地でもあるのだ。
『アインズさんアインズさん、』
『何ですか?』
『ここはンフィーレアを助けましょう。恩を売るチャンスですよ。』
『ハムスケの言う森の奥地の変な輩と大きな何かって絶対アウラに命じて建造に当たっている下僕達とその造っているトブの大森林内の偽ナザリックのことですよねぇ。ここは我々にも責任がありますからね。罪滅ぼし且つンフィーレアを引き込むということになるので良いかと。』
『良し、じゃあンフィーレアに』
「リューシさん!」
『おわっ!!』
いきなり声を掛けられてビックリしつつも声の主を探るリューシ。
見ると、ンフィーレアが覚悟を決めた顔でリューシに向かい合っていた。
「何でしょうか?」
努めて冷静に言葉を放つリューシ。
「僕をあなた方のチームに入れて下さい! お願いします!」
ンフィーレアが真摯な目でリューシを見ながらそう嘆願する。
その目からはリューシへの憧憬と思い人への愛、男としての本能が強く感じられた。
大切な者を守ろうとする男の目、かつて木々を愛し、守ろうとしていた過去の自分の姿と通ずるものがあった。
「ははははっ」
リューシは朗らかに笑う。
それには、相手を侮辱する響きは一切なかった。
「失礼、貴方を馬鹿にした訳ではないです。ただ、君の気持ちは良く分かりました。しかし、君をまだ仲間にすることは現時点では出来ません。」
「な、何故ですか?」
すまんな、ンフィーレア。
ウチのギルドはメンバーを募集してないし、アインズ・ウール・ゴウンも確か異形種プレイヤーの社会人という条件だった筈だ。
ンフィーレアは社会人だが異形種ではない。
それに、メンバーの過半数の合意も必要だ。
ペロロンチーノさんはロリじゃなきゃヤダって言いそうだし、ヘロヘロさんは金髪メイドじゃないから却下しそうだ。
「我々のチームの加入条件二つの内、片方しか君は満たせていないからです。しかし、この村を守ることに関しては君と協力したいと思っている所存です。君さえ良ければですが……」
「はい! 協力します!」
「では、詳しい話はエ・ランテルで。君のお祖母さんにも話合わなくてはなりませんからね。」
「はい! ありがとうございます、リューシさん!」
「では、薬草採取を再開しましょう。お待たせして申し訳ありませんでした。漆黒の剣の皆さん。」
ンフィーレアとの話に一旦終止符を打ち、待たせていた漆黒の剣の面々を見る。
「それがし、『ぶぎ』なる物を修得したいのでござるが、そなたらは何か知っているでござるか?」
「『武技』ねー。知ってるぜ、じゃあ少し見ていろ、今この石を切るから。『武技 斬撃』!」
スパッ ボトボト
「わぁ〜凄いのでござるよー!」
「いや、お前の方が凄いと思うのだが……」
「あ、リューシさんンフィーレアさんとの話し合い終わったようだよ。」
「良し、それじゃあ再開しますか。行きましょう、リューシさん!」
「はい。」
「この大魔獣が怖いかい? ナーベちゃん。」
「こんなザコ取るにも足りません。話し掛けないでください。刺しますよ?」
「おお、大魔獣をザコ扱い、やっぱナーベちゃん強いねー!」
「切り刻まれたいですか?」
「寧ろご褒美です!」
「……」
静かに腰の短刀に手を掛けるナーベ。
それを見て慌ててモモンが
『ナーベ、落ち着け。今は耐え時だ。』
『アインズ様、このボウフラを殺すご許可を』
『これも試練の一環だったのだが……ナーベよ、お前の覚悟はそんな物だったのか?』
『も、申し訳ありませんでした! このナーベラル・ガンマ、御方の試練を完璧に遂行いたします!』
『うむ。』
────────
この後は滞りなくンフィーレアが必要な薬草を全て集め終え、というか余分にれあめっちゃ採取出来て、森の賢王ハムスケの協力もあってか4時間程で任務は終了した。
夕暮れ時にはカルネ村にハムスケ連れて帰還し、入植者の為に空けてある空き家の中でゆっくりとくつろいでいた。
漆黒の剣の面々はまた別の空き家を借り、ンフィーレアはエンリの家に泊まることとなった(モモンとリューシの策略)。
モモン、ナーベ、リューシの三人はテーブルを挟んで向かい合っている。
ちなみに森の賢王ことハムスケは胴回りで入り口につっかえた為、外でお留守番だ。
「『
「はっ!」
「では、アインズよ。これからの方針だが、ンフィーレア少年は我らにとって有益な人材。現地産ポーションの製造が可能になるやもしれん。」
「ンフィーレア君については同意見だ。彼はナザリック内でも重要保護人物として下僕を付けておこうと思う。また、漆黒の剣も保護対象に置くべきかと。」
「アインズ様、あの
「そこは私が保証しよう。それに、あの者達へこれ以上の情報は与えないようにしておく。だが、あの
「成る程、流石はリューシ様!」
「先ずはンフィーレア少年。彼をカルネ村の思い人エンリと結び付けられれば、そして我等がその全面的サポートをすれば十分だろう。そして、安定した平和な生活を保証させればなお完璧だ。」
「彼をエンリと結びつけるには……幸い二人は幼馴染み。シチュとしては完璧だ。」
「後は二人をどう動かすだが……」
ンフィーレアの思い人がエンリということは日を見るより明らか。
二人の恋路を応援する童貞二人がそこには居た。
「ここはエンリの危機を命懸けで助けようとするンフィーレア少年、という状況を作り出すことだな。」
「ンフィーレア君が死に掛けた瞬間、我等が敵を瞬時に殲滅すると。中々に良案だな。」
「その為には村のモンスター襲撃タイミングで我等が丁度良く現れなくてはいけないな。」
「それかルプスレギナに任せておこうか。丁度来たようだからな。」
その言葉の後直ぐに貸家の扉がひとりでに動く。
扉は開いた後直ぐに閉まった。
村の者達からは『
程なくしてルプスレギナが『
「ルプスレギナ・ベータ、御身の前に。しばしの遅延をお許しください。」
「よく来たな、ルプスレギナよ。まぁそこに座ってもらおうか。」
「し、しかし……私めは一下僕。アインズ様とリューシ様のお座りになられている席と同位置に座るなど烏滸がましいです。」
「ではこうしようか。お前は冒険者ナーベの姉だ。よって、ナーベの監督者として席に付く権利がある。」
「……申し訳ありません、失礼します。」
渋々といった調子で席に座るルプスレギナ。
「さて、お前には引き続きカルネ村の監視を行って欲しいと思う。特に、最重要人物としてエンリ・エモットとンフィーレア・バレアレを、だ。その内のンフィーレアに関しては今はまだ村に送ることが出来ていないが、直に祖母と共にやってくるだろう。祖母は前に言った二人の次に重要だ。彼等を何としてでも死守し、命を守ることがお前の第一の任務とする。」
「か、畏まりました。ですがアインズ様、何故人間共にそんなにお目を付けているのでしょうか?」
「有益な人材と判断したからに決まっているだろう。さて、第二の任務はカルネ村に侵攻するであろうトブの大森林内のモンスター達の動向をその都度報告して欲しい。これはアウラにも頼んで置くつもりだ。カルネ村襲撃タイミングで我等を呼んでくれ。」
「畏まりました。万事手筈通りに行います、アインズ様。」
「報告と連絡と相談を怠らないように。」
ルプスレギナに念押ししていくリューシ。
「承知致しました、リューシ様。」
そう言うと再び『
駄犬のサポートとしてユリも付けといた方が良いか、少し心配だ。
「さてと、後はルプスレギナに委託したカルネ村第一次要塞化計画の報告書を待とう、では、解散! また明日!」
「ま、待て! お前これ以上カルネ村要塞化する気か!」
「そのとお〜り! お休み〜!」
少年に追われる全身鎧の偉丈夫の姿は『
このことを知っているのは当人3人と覗きをしていた