ある転生者のオーバーロード   作:Solo Mon

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17.凱旋の後直ぐ襲撃ってマ?

 昨日の夜のカルネ村要塞化計画全貌がアインズによって第三次までに制限された上、罰としてハムスター騎乗の刑に処せられたリューシ。

 翌朝早く起きてカルネ村を出発したが、モンスターとは一度も遭遇しなかった。

 代わりにリューシだけは、道中鎧に身を包んだ中身オッサンがハムスターに馬乗りになりながら歩くという羞恥プレイを受け、1人やっとこさの思いで、その他の面々はニッコリ顔で遂にエ・ランテルに辿り着く。

 時刻は18時頃、夕暮れ時だった。

 

「じゃあここで分かれますね。僕たちはこの魔獣を登録しないといけないので。」

 

 

「モモン君、リューシさん、ナーベさん。本当に有り難うございました。荷下ろしは俺達に任せてください。」

 

 しかし、この会話はリューシに届いていなかった。

 耐えがたい羞恥心と、これから漆黒の剣とンフィーレアを襲う惨劇に遂に我慢出来なくなったリューシ。

 

『アインズさん、もう、げんかいです』

 

『何言ってるんですか、これからですよ。これから。』

 

『い、いやだ────!!!!』

 

 我慢の限界が来たこともあり、冒険者組合へハムスケをダッシュさせる。

 

「ハムスケ、ダッシュだ!」

 

「えっあ、りょ、了解でござる。ダ────ッシュッ」

 

 リューシはこのままハムスケごと冒険者組合に突っ込むつもりだ! 

 

 

「あっ! リューシさんがいきなりスピード上げさせた!」

 

「待って下さい、リューシさ──ん!!!!」

 

 嵐のように走り去る3人組。

 

「あ、行っちゃいましたね……」

 

 

「ハハ、僕たちも早めに荷下ろし終わらせちゃいますか。」

 

 そんな三人を半ば唖然として見送りつつ、歩き出す漆黒の剣とンフィーレア。

 

 危険は直ぐ側までやって来ていた。

 

 

 ────────

 

《シャボンヌ視点》

 

 急げ! 急がないと漆黒の剣が殺されちまう! 

 ハムスケ! 急いで! 

 

『ハムスケ、突っ込め』

 

 気が急いて伝言(メッセージ)使っちゃったやん……

 

『わわ! 殿の声が頭の中で響くでござる! 突っ込むのでござるか──!?!』

 

 

『あ、あれだ! あの建物に向かって進め!』

 

 前方に冒険者組合と思しき建物が見えてきた。

 

 

『ちょっと! シャボンさんアンタ一体何するつもりですか!?』

 

 慌てたショタンズさんの声が脳内に飛び込んでくる。

 

 

『魔獣登録DA☆』

 

 

『いやいや冒険者組合に突っ込むつもりですよね? ですよね?!』

 

 

 突っ込むだと? 何を言っているんだチミは。

 

 タイミング見てハムスケ止めるに決まってるではないか。

 

「今だ! 止まれ! ハムスケ!」

 

 

「ブレーキ、でござる!」

 

 

「ふう、計算通り。」

 

 冒険者組合の扉からあと0.2センチというところでハムスケの鼻先が止まる。

 結構ギリギリだったな。

 冒険者組合に入ろうとしていた他の冒険者達腰抜かして泡吹いてるし、周囲の人がワーワー騒いでいるのが聞こえるがスルーする。

 

「何してんの? お前」

 

「一体何事でしょうか!?」

 

 後から急いで追って来たモモン、ナーベとも合流を果たす。

 いや、モモン口調口調! 忘れているよ! 

 

 

「羞恥プレイなんてしたくないのでね。そんな趣味もないし。あ! しまった……」

 

「今度は何?」

 

「しゅうちぷれいとは一体……?」

 

「碌に挨拶とかしてないやん! あーしまった。とりま伝言(メッセージ)で穴埋めしとかないと。」

 

 本当に参ったなーお陰で伝言(メッセージ)する手間が増えたなーこれで襲われてないか確認出来るぞーやったー。

 

「別にする必要なくない!?」

 

「モモン、挨拶は大切だ。人間関係の構築に置いて最も重要な役割と言っても過言ではない。それに、伝言(メッセージ)を使用できるというアピールにもなるからな。」

 

 

『もしもし、聞こえますか? ニニャさん。先程は』

『リ、リューシさん、助けて下さい! 今……ガッ』ブツッ

 

 え? 

 ンフィーん家もう着いちゃったの? 

 あとクレマンさん早くね? 

 

「ニニャさん? ニニャさん!」

 

『どうかしましたか?』

 

『ニニャが何者かに襲われた模様です。』

 

『何だって!?』

 

『今から助けに行きます。登録よろしくお願いします。では。』

 

 よし、助けに行くぞ! 待ってろニニャちゃん! 

 

「ちょっと待っ……」

 

 

『ア、アインズ様、シャボンヌ様は一体どう……』

 

『重要人物のンフィーレア一行が何者かに襲われたようだ。登録を済ませたら直ぐにシャボンヌさんの加勢に行かねば。』

 

『畏まりました。登録を早急に終わらせます。』

 

 

(いや、いきなり事が起こり過ぎだろ! 一体どうなってんDA!)

 

 

 ────────

 

 

「皆さん、お疲れ様でした。どうぞ少し休憩していって下さい。まぁ、ちょっと薬草で臭いですが では冷たい紅茶とお菓子をお出ししますね。」

 

 薬師街の一角、バレアレ家の運営する薬品店の外に積荷を運んだ一行は、休憩の為に店内に足を運んだ。

 どうやら、ンフィーレアが疲れた一行へ水分と糖分を補給するよう促したようだ。

 

「あ、どうも有難うございます、ンフィーレアさん。」

 

 戸を開けつつ、その言葉に返答しようとしたその時、薬品を入れた戸棚の影から金髪ボブヘアーの際どい装備を付けた若い女が突然姿を現し、ンフィーレアに詰め寄ってくる。

 

「うわっ!」

 

 驚き、腰を抜かした拍子に後ろに倒れ込むンフィーレア。

 グラスが落ち、けたたましい音が響く。

 その音を聞いて漆黒の剣が現場へと駆けつける。

 

「貴方がンフィーレア・バレアレくん〜?? お姉さんこれ砥いで待ってたんだよぉ〜」

 

 スティレットを腰から取り出しながら獲物をじっくりと見回す捕食者(クレマンティーヌ)

 

「な、何だ誰だアンタ!?」

 

 ペテルとルクルットがクレマンティーヌとンフィーレアの間に立ち塞がる。

 

「ン〜、ザコを先に片付けてからにしようか。それまでちょっと待っててね、ンフィーレアくん〜?」

 

 驚く程妖艶な笑みを浮かべ、スティレットを構えながら近づき始めるクレマンティーヌ。

 

「ヒッ! ち、近寄るな! 『酸の矢(アシッド・アロー)』!」

 

「おっと、危ないじゃん〜」

 

 ンフィーレアが咄嗟に放った魔法も、クレマンティーヌに予備動作なしで避けられる。

 

「遊んでいる暇は無いぞ。クレマンティーヌ。」

 

 店の奥からまた新たな客ならざるフード姿の者が姿を現す。

 カジットだ。

 

「え〜ケチだねぇカジッちゃん!」

 

 クレマンティーヌはカジットに対して駄々を捏ねる。

 

「その呼び方を止めろと言っている。」

 

 

「チィッ、新手か! ンフィーレアさん、下がって!」

 

 ルクルットが前線から後退し、未だ腰が抜けているンフィーレアに駆け寄る。

 

「ここは通さないのである!」

 

 前線の穴をダインが埋め、後方でニニャが魔法詠唱の準備をする。

 漆黒の剣がクレマンティーヌとカジットへと立ち向かう。

 

「おーおー中々威勢があること。まぁ殺すんだけどねぇ────!!!」

 

 その様子を見て興奮したクレマンティーヌが、目にも止まらない速さでルクルットとダインに瞬時に詰め寄り……

 

「ルクルット! ダイン!」

 

 刺突攻撃でルクルットの足、ダインの腹に風穴を開ける。

 

「づぁ、足がっ」

 

「腹、が」

 

 

「そんな!? あの二人が一撃で!」

 

 ニニャが2人に思わず駆け寄る。

 

「殺さないように手加減してあげたからね〜お姉さん優しい!」

 

 そう言ってスティレットに付着した血を舐めるクレマンティーヌ。

 

「ンフィーレア・バレアレの確保は済んだぞ。」

 

 いつの間にか後方に回り込んでいたらしきカジットが、眠らせたンフィーレアを、担ぎ上げようとしている。

 

「なっ!」「いっいつの間に!?」

 

 ルクルットがンフィーレアを取り返そうとカジットに向き直る。

 

「よそ見している暇があるのかなぁああ??」

 ドシュ

「ガァっくっ」

 

 しかし、クレマンティーヌに隙を突かれ、背後から肩を打ち砕かれる。

 

「ルクルット!」

 

 あっという間にニニャ1人残して全滅してしまった漆黒の剣。

 

「肩やられたら弓兵もただのサンドバッグなんだよ〜」

 

 ルクルットがクレマンティーヌに何度も刺され、呻き声を上げる。

 

「ルクルットから離れろ! 『雷槍』!」

 

 ルクルットに覆い被さるクレマンティーヌ目掛けて雷魔法を使うが、クレマンティーヌは容易くそれを避ける。

 

 丁度その時、ニニャの頭の中にリューシの声が響く。

 

『もしもし、聞こえますか? ニニャさん。』

(リューシさんの声?! いや、今はそんなこと聞く暇は無い。)

 

『先程は』

『リ、リューシさん、助けてください! 今』

「だから危ないって〜。ドスッとな。」

 

 いつの間にか前まで来ていたクレマンティーヌに喉を刺されるニニャ。

 

「ガッ」

 

 

「魔法詠唱者は喉を一突きすればサンドバッグになるよ〜テストに出るから覚えよーね?」

 

 

「……」

『ニニャさん? ニニャさん!』

 

 声を出したくても声にならず、リューシの声が響くも、返事が出来ないニニャ。

 

 

「必死に声出そうとしちゃって、可愛いね〜じゃあそろそろ終わりにしてあげるね〜。」

 

 ニニャに近づくクレマンティーヌ。

 

「や、止めろ! ニニャには手を出すな!」

 傷ついた足を抑えつつも立ち上がるペテル。

 そのまま、足に有りったけの力を込め、クレマンティーヌへと剣を構えて走る。

「ウオオオオオオオオオ!」

 

「煩い。」

 ドシュ

 眉間を一突。

 漆黒の剣のリーダーは仲間を庇い、儚く散って行った。

 

「ペテル!」「リーダー!」

「あー直ぐに死ねて良かったね〜、思わずまた優しさが出ちゃった。反省反省。」

 ケラケラ笑うクレマンティーヌ。

 

「リューシさん……」

 歯を喰いしばりながら、突然に現れ、昨日まで行動を共にした英雄の名を口にする。

 

「あん? リューシさんってだーれ? 付き添いの奴?」

 反応するクレマンティーヌ。

 

「お前なんかよりもよっぽど強い人だ。」

 

 真っ直ぐクレマンティーヌを見据えながら、そう言葉を発するルクルット。

 

「死ね」

 

 

「ルクルット────!!!」

 

(ナーベちゃん……)

 ドシュ

 額に大きな風穴を開けられ、絶命するルクルット。

 彼の顔は最後の不純な妄想によるものか、とても安らかだった。

 

「さーて、残るは2匹っと。どう殺して欲しい?」

 スティレットをまた舌で舐めながらそう言葉を零すクレマンティーヌ。

 

「ふざけるのも大概にするのである! お前はこんなことして楽しいか!!!!」

 

 激昂するダイン。

 既に彼の腹からは多くの血が流れ出て、もう長くはなかった。

 最後にクレマンティーヌの心に強く訴えかけた彼の行動は正しいだろう。

 

「うん、そうだけど?」

 

 しかし、残酷にもその命をかけた呼びかけをあっさりと一蹴するクレマンティーヌ。

 

「じゃあね〜」ドシュ

 

 彼もまた、リーダーと野伏の後を追うこととなった。

 

「クレマンティーヌ、儂は先に行く。遊び尽くしたら戻って来い。但し、後処理としたい回収はしておけ。『第三位階死者召喚(サモン・アンデッド・3th)』」

 

 たちまち、ニニャ以外の漆黒の剣の死体が動き出し、やがて骸骨の戦士(スケルトン・ウォーリア)三体が形成される。

 

「ついて来い。仕事だ。」

 

 そう言ってカジットは三体の骸骨の戦士(スケルトン・ウォーリア)を伴い、闇に姿を消す。

 

「お仲間さん、行っちゃったね〜、いや、仲間だった者、か。可哀想にねー。」

 

 その言葉にニニャは腹が煮え繰り返る程激怒する。

 ヘラヘラ笑うクレマンティーヌを睨み付ける。

 

「おーおーそんな睨まないでよ。益々興奮しちゃうから、さ!」ドシュ

 スティレットで肩に風穴を開けられるニニャ。

 

「ァグゥ!」

 骨を砕かれる痛烈な痛みがニニャを襲う。

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 ドシュッドシュッドシュッドシュッ

 腹、肺、足、腕へと怒涛の刺突攻撃がニニャの身体を襲う。

 耐えがたい痛みに絶えずニニャは悶絶し、叫びだしたくとも声が出ず、ひたすら痛みに耐える地獄をニニャは味わうことになる。

 

「カヒュー……カヒュー……」

 ニニャにはもう叫ぶ力も泣き喚く力も残っていない。

 喉からか細く空気を出し、倒れ伏すニニャに、血に赤く染まった猫がのしかかる。

 クレマンティーヌはスティレットを掲げ、ニニャの頭に狙いを定める。

 

「さーて、留めと行きますか……行くよー。」

 

(たす……け、て……)

 スティレットが振り下ろされる刹那、辺りの空気が突然氷のように冷たい恐怖に包まれる。

「っ!!」

 パリーン

 

 ニニャがそれを殺気だと理解した頃には、殺人女は身を翻してニニャの身体から離れ、今し方破られた窓に向かってスティレットを構えていた。

 

「今のを避けるとは、中々の手練れなようだな。」

 

(き……て……くれ…………た…………)

 意識が飛ぶ直前、窮地にやってきた英雄の声を聞き届ける。

 

 そしてニニャは意識を手放した。

 ────────

 

 薬師街を駆ける英雄、参上! 

 今行きますよ! ニニャさん! 

 

 薬師街を全力疾走して間もなく、ンフィーレア宅の窓が見えてきた。

 そのまま中に見えた金髪ボブヘアーの女目掛けて普通の短剣を投げ付ける。

 

「行くよー。っ!!」

 ヒュバッ

 ニニャから離れ、身を翻すクレマンティーヌを視認する。

 寸でで避けられたかっ……

 パリーーーン

 ドスッ

 短剣はそのまま奥の薬草保管庫らしき棚に思いっきり突き刺さる。

 

「今のを避けるとは、中々の手練れなようだな。」

 

《ワールド・チャンピオン・ミズガルズ》と《ドラコグリードソード》に手を掛けながらそう言葉を零す。

 

「テメェ、何者〜? お楽しみの邪魔すんじゃねぇよ!」

 

 顔面に憤怒の表情を浮かべながら、右手に番えていたスティレットを瞬時に突き出すクレマンティーヌ。

 残念ながら、僕からはすっごく遅くスティレットを突き出しているようにしか見えない。

 

「この程度か?」

 

 剣も使わずに中指と人差し指の指二本で顔前に来ようとしてきたスティレットの先を掴み取る。

 

「そんな訳ないでしょ〜? 燃え屑になりな!」

 ドゥウォッ

 スティレットに仕込まれていた魔法二重化(ツイン・マジック)火球(ファイヤーボール)』が僕の顔面に炸裂する。

 しかし、火属性無効化Ⅳで普通に攻撃を防ぐ。

 

「キャハ! クレマンティーヌ様に敵うもんなんざいねぇんだよ!!」

 

 しかし、まさか完全に無効化されているとは知らないクレマンティーヌは、今度は左手に持つスティレットを突き出す。

 ガッ

 それを今度は薬指と中指で掴み取る。

 

「なっ!」

 

 やっと只者では無いと判断したのか、スティレットを引いて一旦体制を立て直そうとするクレマンティーヌ。

 おいおい、お前のスティレットもうオレのモンだから。

 ということで、スティレットを掴む指に更に力を込めて、クレマンティーヌの筋力では引き抜くことが出来ないようにする。

 

「これだけか? まだまだ隠し球を持っているんだろう?」

 

 更に、クレマンティーヌを煽って見る。

 

「ば、バケモノが! これでも喰らいやがれ!」

 

 ビジジジジッ

 残る左のスティレットから『龍雷(ドラゴン・ライトニング)』を繰り出すクレマンティーヌ。

 残念、これも完全無効化されるんだよw

 まぁここで《ワールドチャンピオン・ミズガルズ》で一太刀すれば終わりなんだが……ちょっと味気ないんだよなー。

 よし、ここらでちょっとイキってみるか。

 ということでクレマンティーヌが未だ引き抜こうと頑張っているスティレット二本を離してやる。

 

「モロに喰らいやがって! 死にな! 『武技 疾風走破』! 『能力向上』! 『能力超向上』! 『鋭光四連刺突』!」

 

 それを『龍雷(ドラゴン・ライトニング)』で怯んだ物と勘違いしたのか、瞬時に全力攻撃を浴びせて来るクレマンティーヌ。

 

「『次元断層』」

 

 それを普通に無効化する。

 

「何ィ?!!」

 全力の一撃を完全に無力化されたクレマンティーヌは驚きで少し体制を崩す。

 

「『竜爪』」

 

 その隙を見逃さず、間髪入れずに『竜爪』を腹部目掛けて叩き込んでおく。

 

「『不落要さ』……グバァ?! な、何故?!」

 

『竜爪』は『貫通』があるから例え『次元断層』であっても完全に防ぐことは難しいぞ。

 そして、腹を抑えて動きが大幅に鈍くなったクレマンティーヌ目掛けて更なる追撃を加える。

 

「せい!」

 

「『超回避』!」

 

 しかし、武技の効果で上手く回避されてしまったようだ。

 武技の使用で難を逃れたクレマンティーヌは、カウンターのへりに手を掛け、身体を起こす。

 尚もスティレットは構えたままだ。

 

「中々の腕前、何故罪人に身を落としたかはやはりその性格からだろうな……お前を道から外させた者達がいるのであろう?」

 

 

「あん? お前なんざに言うわけねぇだろうが! さっきから人をおちょくりやがって!」

 

 

「それは、お前の身内か、はたまた上司か、同僚か、それともその全てか。」

 

「……それでぇ? 何が言いたいんだよ!?」

 

 一拍置いて、こう告げる。

 

「お前を助けたいだけだ。お前は禁忌を犯しながらもここまでの道のりを進み、ここまで来れた。称賛に値する。しかしな、私はこのままお前を見過ごす訳には行かない。このままではお前を倒すしか道は無くなる。」

 

 クレマンティーヌは法国の重要機密を知っている。

 それに、この世界では紛れもなく強者の部類に入る為、ここで勧誘(脅迫)しておく。

 尚も引き下がる様子が無いクレマンティーヌ。

 そこで、僕は自身に無詠唱化した『竜の力(ドラゴニック・パワー)』、『上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)』、『魔力増幅(マジック・ブースト)』をかけ、『剣聖のオーラⅣ』、『強者の威嚇Ⅳ』を発動し、更には《隠蔽の指輪》までも外し、本来の実力(戦闘力)を完全に露わにする。

 

 

「お、お前……いや、アンタ、そ、その力は……?」

 

 スティレットを手から落とし、驚愕に目を見張るクレマンティーヌ。

 

「最後のチャンスだ。仲間にならないか? やり直せるのは今しかない。」

 

 言外にお前にはこれしか選択肢は無いということを悟らせる。

 

「ハ、ハハ……何だよ……最初から勝てる訳ない相手だったじゃない……」

 

 と言って、その場でへたり込むクレマンティーヌ。

 

「……分かった。いや、分かりました。貴方様の提案に乗りますよ。もう、何か吹っ切れた。」

 

 目には先程までの狂気は無く、虚で絶望の光を灯している。

 この先どんな目に合うのか恐怖しているのだろう。

 

「賢明な判断だ。それと、従者になれとは一言も言っていない。気軽に接してくれて構わん。さて、」

 

 ニニャの回復の為、アイテムボックスから《アスクレピオスの杖》を取り出す。

 

「な、なんだ?! 今何処から杖取り出して……」

 

「アイテムボックスだ。」

 

 

「いや、有り得ない……そんな……」

 

 

「ニニャさんは……まだ生きている! 大治癒(ヒール)!」

 

 高位の治癒魔法を使い、ニニャの傷を癒す。

 

「もう少しすれば目覚めるだろう。さて、クレマンティーヌよ。」

 

 

「な、なんで私の名前を……指名手配されてるから当然っちゃー当然か。」

 

 

「お前の相方の元へ戻れ。後で回収しに行く。私がいるというのに、エ・ランテル内に『死の螺旋』など愚の骨頂。事が始まる前に何とか事態を収めたいところだが……」

 

「それは無理だねぇ〜多分もうカジっちゃん達儀式開始しちゃってると思うよ〜」

 

 

「ふむ、では仲間を招集しなければな。おっと、噂をすれば丁度やって来たみたいだ。」

 

 店の扉が慌ただしく開かれる。

 2人の冒険者が姿を現す。

 

「大丈夫ですか! リューシさ──ん?」

 ナーベと、

 

「リューシさんの仇!」

 モモンだ。

 

「モモン、まだ死んでないから。双方、その杖を収めよ。」

 

 

「「はい。」」

 

 

「もしかして、アンタ、プレイヤー?」

 ちょ──────!!!!!!!!! ここでいきなりかよ!! 速いゾォ?! 爆弾発言にも程があるぞ!!! 

 

 刹那、アインズさんがスカーフを外し(そういやもう1日経ってたなぁ)、本来の死の支配者(オーバーロード)の姿に戻る。

 

 そして、『死のオーラⅠ』を発しながらクレマンティーヌに詰め寄る。

 

「その言葉、何処で聞いた?」

 

「答えなさいウジ虫」

 ナーベも椎体する。

 

「は、は、話します! 話しますから! 命だけは!」

「さっさと全て、な。三分間、猶予をやろう。」

「『ぷれいやー』という言葉はスレイン法国民のクソ野郎共が敬愛する六大神がこう呼ばれていたということを……」

 ──(クレマン法国の機密暴露中)──

 

 

 その後、クレマンティーヌから法国の大まかな全貌をあらかた聞き出した。

 法国の国風、神官長達、特殊部隊名、その強さ、さらには法国内にいる神人のこと、国の保有戦力、プレイヤーと思わしき六大神のことまで洗いざらい。

 多分法国の漆黒聖典メンバーのクレマン兄がこの場に居たら躊躇いなくクレマンティーヌを塵にしていただろう。

 隊長ならクレマンティーヌを細胞一つ残らず消滅していただろう。

 最高神官長ならクレマンティーヌの存在自体を人類史から消していただろう。

 

 

「成る程、スレイン法国か……そして、お前の読みは当たっている。何を隠そう、私達はプレイヤーだ。このことは口外するな。もし外部の者達に暴露した暁には……地獄を見せてやろう。」

 

 もちろん、暴露すんなよなぁ? クレマンティーヌゥ? ニコッ

 

 

「ひぃっ! し、ししししな……し、し、しませんから大丈夫です!」

 

 

「機密をここまで知られた以上、君は永久に我等の所属となる。違反さえしなければ待遇は良いぞー。まぁ、違反さえしなければな。」

 

 まぁ、違反した瞬間多分ナザリック勢から()()()()()()()()()()()()()()()()()だから。

 

「」

 

 遂にクレマンティーヌの精神が瓦解しちゃったようだ。

 泡を口角から飛ばしながら失禁してしまっている。

 人としてやってはいけないことまでしながら。

 クレマンティーヌのいた場所が後日四日間程アンモニア臭香るヒノキ板になっていたことから察せ。

 

 

「汚らしいゴミムシが……アインズ様、このような虫ケラ、直ちに処分致します。」

「待て、此奴は重要参考人だ。ナザリックに連行するつもりだからそのようにしろ。」

「……しかし……」

 

 

「なに、ナーベ、この女が汚らしい? ナーベ、それは人間が綺麗な者達だと思っているだけだよ。逆に考えるんだ。『汚いのが人間だ』と。」

 

 まぁ、クレマンに関しては擁護出来ないので多少の毒が入ったけど、ナーベどんな反応をするかな? 

 

「は、はぁ……畏まりました。確かに人間は下賤な種族。ゴミにはやはりこのような姿が一番似合ってますね。」

 

 あ、やっぱナーベダメやん……

 人間の団結力を侮るなと再三言ったというのに……

 ナーベ……お前には失望したよ……

 まぁクレマンに関してはまぁ仕方ないかな? 

 甘んじて受け入れよ。

 

「……ぅぅ」

 

 カウンター前辺りからくぐもった声が聞こえてきた。

 先程までそこで倒れていたニニャの者だと脳が判断する。

 

「!? ニニャさん? ニニャさんが意識を取り戻したようだ!」

 

 ニニャちゃん息を吹き返したようで良かった……と思いつつ、ニニャに声を掛けて意識があるか確認する。

 

「大丈夫ですか? ニニャさん。」

 

 慌ててスカーフを装着したアインズことモモンも次いでニニャへと声を掛ける。

 

「……ぁあ、リューシさん……だ、大丈夫ですか……?」

 

 ニニャの意識は一応覚醒したようだ。

 

「はい。クレマンティーヌと名乗る賊は私達が退治しました。ですが、他のメンバーの方々の行方が……」

 

 苦労人ペテルくんとチャラルットとである! が居ないZOY☆

 

「……ペテル……ルクルット……ダイン……」

 

 えっ……もしかして間に合わなかったのか? 

 

「取り敢えずまだ安静にしておいてください。彼等は私が見つけ出します。ンフィーレアさんは?」

 

 

「拐われました……禿頭の……カジッチャン……とかいう死霊使い(ネクロマンサー)に……」

 

 カジッチャンめ! 許さん! 

 じゃない! ニニャ、それ名前間違ってるからな? 

 

「もう一人の仲間が……奴等は何をする気なんだ……」

 

 

「わ、分かりません……何も言わずに逃げ去りました……リューシさん……お願いしたいことが……」

 

 

「うん?」

 

 

「アンデッド化された僕以外のメンバーを……なるべく直ぐに倒してくれませんか?」

 

 ペテル……ルクルット……ダイン……お前ら……すまねぇ……

 漆黒の剣全員を仲間にすることが実質不可能になってしまった……痛恨のミスだ……! 

 

「アンデッドに……なんたる事……分かりました、ニニャさん。アンデッド化を直すことは今の私達には出来ないですが、出来るだけ直ぐに倒すようにしましょう。それと、ニニャさん。そこの賊はどうやら悪魔に取り憑かれて今回の凶行に出たと見られます。元凶の悪魔を排除したものの、精神に変容をきたしているため、私達がカウンセリングすることにしました。」

 

 クレマンティーヌを間接的に仲間にする旨を伝える。

 クレマンティーヌは悪魔によって狂ってしまった悲劇の女の子だよーだから本人の意思じゃなくて悪魔に唆されてやったコトダヨーホントダヨー。

 

「あ、悪魔に取り憑かれていた!?」

 

 あ、信じてくれた様子。

 案外悪魔に操られた設定は良いかもしれないな。

 ゲヘナ戦の切っ掛けにもなり得るし。

 どうせデミえもんがナザリックの物資補給の為に提案して来るだろうし。

 

「彼女もまた、被害者だったということです。元凶はやはり、秘密結社と結託し、エ・ランテルを混乱状態に持ち込んで自領の評判を上げようという貴族でしょう。」

 

 本当は法国の失態だったと思うが、クレマンティーヌを仲間にする以上、ニニャから恨まれる訳にも行かない為、ここは敢えて貴族を引き合いに出す。

 

「貴族……絶対許さない……」

 

 ニニャの目に深い憎悪と殺意が宿る。

 貴族キラーニニャ、貴族絶対殺すマンに昇格。

 いや、ニニャは女だから貴族絶対殺すウーマンか? 

 

「とにかく、そのンフィーレア氏を攫った連中を捜索しなければなりません。まぁ、そいつは死霊使い。負のエネルギーを集める為、恐らくはこの街の共同墓地なる所にいるでしょう。我々はそれを追います。ニニャさんは傷がまだ完全に癒えていない為、安静にしていてください。」

 

 本当は既に共同墓地で死の螺旋が行われることは知っていたが、適当に理由をこじ付け、最初っから共同墓地へと向かう方針に誘導した。

 しかし、流石にニニャを戦闘に参加させる訳には行かない。

 そこら辺も釘打っておく。

 

「わ……私も連れて行ってください……役に少しでも立ちたいです……」

 

 

「今回はアンデッドとの対決が予想されます。最悪、あなたまでアンデッド化されてしまう可能性があり、人数はなるべく少数にしたいということもあり、連れては行けません。」

 

 

「……私が弱いからですか?」

 

 

「な!?」

 いきなり何を言い出すんだニニャ。

 そういう問題では……

 そういう問題だったわ。

 

「やっぱり……私が弱いのがいけないんですよね? ……お願いします! 力をボクにください!」

 

『ニニャさんが少し怖い』

 

『仲間を姉と同じく一夜で失い、また貴族の策略によって一人残されれば誰だって狂うと思いますが……』

 

『どうしましょう、手元には《堕落の種子》とかエンシェント・ワンさんから貰った1ダース分の《カインアベルの血塊》がありますが……』

 

『英雄のイメージが崩壊するので却下で。これ使いましょう、《昇天の羽》。余る程あるし、天使なら英雄っぽいと思いますし良いかと。』

 

『んじゃそれで。』

 

「ニニャさん、これを。」

 

「……何……ですか? ……この羽は……」

 

 

「これは天使になる為に必要なアイテムです。」

「て、天使?!」

 

「しかし、貴方はここで人間を辞める覚悟はありますか?」

 

 ここでNOと言われると困っちゃうからやめてね☆

 

「……姉さんを助ける為なら……何だってします!」

 

 流石ニニャちゃん! 分かっているね! 

 

「では、これを背中に。」

 

 ニニャの背中に《昇天の羽》を当てる。

 瞬間、《昇天の羽》はニニャの背中に吸収され、ニニャの体に変容が起こる。

 まず背中から羽毛の生えた白い羽が二対生え、身体から聖属性のオーラが発っせられる。

 服が白い布衣のような物に入れ替わり、元の服がその場に落ちる。

 巻いていたサラシが落ちた影響か、胸の膨らみが現れ、顔は完全に女性然となり、髪が伸びて肩まで掛かる金髪に変わる。

 しかし、青い瞳だけは変わらず、そのままで残った。

 

「え!? ニニャさんって女だったんですか!?」

 

 驚くモモン。

 まだ気付いてなかったのかよ……

 

「やはり、か。男装していたのは趣味かと思い、聞いていませんでしたが。」

 

 

「いえ、趣味ではなく、攫われた姉の捜索には男の方が優位かと思いまして。それに、娼館へ客として潜入し、姉を探すこともできますからね。」

 

 

「そうだったのですか。把握です。貴方の秘密を知ってしまったからには、こちらも秘密を明かさねばなりませんね。」

 

 そう言って、手を竜形態にする。

 ニニャは驚いて目を見張る。

 モモンとナーベは更に驚いた様子だったが、知ったことではない。

 

「私は竜人という種族で、実際は人間ではありません。今まで隠していたのは、人間は仲間意識が強く、他種族の受け入れがし難い種族だと知っていたからです。申し訳ありませんでした。」

 

 

「えっ、あ、いや、えっ?」

 

 

「私は悪しき存在を公平に裁く為に旅をしています。そして、人間と他種族の共存共栄を成すことが私の夢の一つです。」

 もう一つ、最大の夢が残っているけどな。

 

 

「一緒に来てくれませんか? ニニャさん。」

 手を元に戻しながらニニャの目を見、そう言う僕。

 告白ではないからな! 

 

「……はい。少し事態が読み込めていませんが、あなた方について行きます。」

 

 

「ありがとう。」

 

『ちょっと待てーい!』

 何だよ今いい所なのに……

 

『アンタ何勝手にニニャさん仲間に引き入れてんだ!』

 

『今のニニャさんは種族が人間から天使に変更しているから受け入れ条件に該当しますし、生まれながらの異能(タレント)も強力ですから有益な人材かと。あとナザリックには招かないようにすれば良いと。』

 

 

『むむぅ……まぁ良いでしょう。元々ニニャさんを仲間にすることは決定事項だったですし。』

 

 臨時政府在席4人中2人(自分含めて)の同意も取れたので可決! 

 

「これからよろしく頼む。ニニャさん。」

 

 

「はい。あと、ニニャは偽名で、私の本名はベルネジーニャ・ベイロンです。でも、ニニャと方が覚え易いと思うので、ニニャとこれからは呼んでください。」

 

 

「分かった。あと、仲間になったから、私達に敬語は不要。気安く呼んでくれ。」

 

 

「改めてよろしくねー! ニニャさん。さん付けで定着しちゃったのでこれで良いよね?」

 

「……精々足を引っ張らないようにね。」

 

 

「はい!」

 

 




ニニャの扱い、ちょっと困りましたね。
ナザリックに吸収することにしましたけど。
ちなみにニニャは現状下僕のちょっと上の扱いのつもりです。
小悪魔ニニャにしたかった…
ま、いっか!

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