ある転生者のオーバーロード   作:Solo Mon

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25.蜥蜴人(リザードマン)

《シャボンヌ視点》

 

【ナザリック第九階層 シャボンヌ用の部屋】

 

只今グループ通話中…

 

アインズ『蜥蜴人(リザードマン)ってそこまで有益なんですか?』

 

 

シャボンヌ『コキュートスの戦略スキルとかを確認する為には必要ですかね。コキュートス長い間放ったらかしにしてましたし。』

 

ヘロヘロ『こちらヘロヘロ〜』

 

アインズさんと駄弁ってたらまさかのヘロヘロ参戦!

これで僕含めて三人、話し相手増えてうれちい!

ん?ペロさんどうなったって?

リア充はね!!

 

シャボンヌ『お疲れ様です、ヘロヘロさん。すいません、ブレイン君の修行任せちゃって。』

 

そんな内心は置いといて冷静に返答。

我ながら流石のポーカーフェイスだな〜。

 

ヘロヘロ『あーそれは大丈夫ですよ〜、シャボンさん。というか、私が昔のブラック企業の上司みたいなことやってたことに後から気付きまして、今ナイーブになっていただけですから。』

 

ヘロヘロさん…何か、ホントにごめん…

 

アインズ『ブラック企業にすっごいアレルギー反応示しますねぇ…まぁ、お気持ちはよく分かりますが。』

 

ブラック企業は労基が何とかしようね!(人任せ)

僕には関係ないことだけど!(煽り)

 

ヘロヘロ『確かアインズさんもブラック企業で働いていましたもんね。同志だ同志だ!』

 

…残念ながら、僕、企業の親玉みたいな立ち位置ですた……

 

シャボンヌ『今トブの大森林内の蜥蜴人(リザードマン)について、少し話していたところでして。ヘロヘロさんもお疲れの所申し訳ないのですが、少し話に参加してくれませんか?ペロさんはシャルティアとおねんねしていますし…』

 

 

ヘロヘロ『良いですよ、三人寄れば文殊の知恵ですからね。あとペロロンチーノォ…』

 

 

アインズ『三人寄れば…何ですか?それとペロロンチーノォ…』

 

 

シャボンヌ『説明しよう!三人寄れば文殊の知恵とは、1人より3人の時の方がより良い知恵が出せるよ〜、ということわざのことである!えーと、ペロロンチーノォ…』

 

ペロロンチーノォ…

 

アインズ『なるほど…俺小卒なんでよく分からなかったです…』

 

 

ヘロヘロ『…これ、私がこっそりネットサーフィンをして見つけた言葉なんです。絶対忘れませんよ、あの後…うっ、頭が…蜥蜴人(リザードマン)達の情報は分かっていますか?』

 

 

アインズ『え、えぇ、蜥蜴人(リザードマン)達はトブの大森林奥地に独自の技術で集落を持ち、幾つかの部族に分かれて抗争を行なったりしている戦闘種族だそうです。彼等は魚や木ノ実等を餌にしており、魚を囲う生簀、簡素な果樹園らしき物を建造出来る程の原始的な技術力、使用階級は現段階で第二位階しか使っていない貧弱な魔法力、種族平均レベルは20程の、言わば雑魚ですね。』

 

戦闘種族とは(哲学)

 

シャボンヌ『ここまで来る(弱い)と逆に可愛く見えてしまう…』

 

 

アインズ『シャボンさん、それ末期ですよ…あと詳しい部族名が… 「緑爪(グリーン・クロー)」、「小さき牙(スモール・ファング)」、「鋭き尻尾(レイザー・テイル)」、「竜牙(ドラゴン・タスク)」、「朱の瞳(レッド・アイ)」の5つ、と。』

 

 

ヘロヘロ『そこまでその報告書に書いてあるんですか!?ヤベーなアルベド。』

 

ワーオ、スゲーアルベド。

オバロ正史ダトアンナアインズ様専属ストーカーダッタノニナァー。

 

シャボンヌ『スゲーアルベド。』

 

 

アインズ『さすがアルベド、今度有給取らせよっと。まぁ、先ずは蜥蜴人(リザードマン)達をどう攻略するかですが…コキュートス単騎で乗り込んでもぶっちゃけ勝てそう(小並感)』

 

 

ヘロヘロ『まぁ、シャルティアを操ったヤツらは蜥蜴人(リザードマン)じゃなかったそうですしおすし。』

 

漆黒聖典ってヤツラがな…

 

シャボンヌ『さすがにソイツらが森の奥地のリザードマンの味方をわざわざするかどうか…しないっすね、常識的に考えて。』

 

 

アインズ『一応大将のコキュートスにはワールドの所有を義務づけておけば…それも一つだけ。』

 

 

シャボンヌ『お供には…今プレアデスの中では手が空いているエントマを向かわせておこっと。』

 

 

ヘロヘロ『蜘蛛人(アラクノイド)なんで、同じ虫系同士仲良くさせておきましょっか。』

 

 

シャボンヌ『そうですねぇ。彼等がもし最後通牒を蹴ったら解放をするようにコキュートスに命じておかなくては、Урааааа !』

 

 

ヘロヘロ『やめてくださいよ〜どっかの赤軍じゃああるまいし。』

 

 

シャボンヌ『貴様!資本の犬だな!粛清!』

 

 

ヘロヘロ『いや何でや!』

 

 

アインズ『コキュートスにはそう命じておくとして、侵攻前の使節はどうします?』

 

 

シャボンヌ『そうですねぇ、アインズさんのアンデットを使うか…もしくは竜軍団で殴り込むか?』

 

 

ヘロヘロ『うわ…竜達行かせたら威圧感ヤバそう(小並感)』

 

 

アインズ『というか竜を使節団員にしたら威圧感で直ぐ降伏しそうなんですが…相手のレベル低いし、サイズも…』

 

 

シャボンヌ『あーそれだとコキュートスの成長にはならないか〜。じゃ、無難にアインズさんのアンデットのどれか、「死霊(レイス)」辺りが良いですかね?』

 

オバロ正史でもアインズさんそういうようなヤツ向かわせてたし。

 

アインズ『じゃそうしましょ。』

 

 

ヘロヘロ『うーん、手っ取り早く攻めた方が…ま、いっか、賛成でーす。』

 

 

シャボンヌ『んじゃ、決まりですね。』

 

 

アインズ『そういえば、ブレイン・アングラウスはどうなりましたか?修行を開始したそうですけど…』

 

 

ヘロヘロ『すんごい勢いで急成長中ですね。たった1日でlv59からlv65までになりましたもん。』

 

…マジ?webブレインより強いんだけど…

 

アインズ『思ったより成長早いですね…このままlv100までに上り詰められるかどうか、ですが、この分だと大丈夫そうですね。』

 

 

シャボンヌ『やはりあのジーニアスとかいうこの世界独自の職業レベルが関係しているかと…』

 

 

アインズ『まじすか!ジーニアス…新要素だぞコレは…』

 

 

ヘロヘロ『いや〜凄いですね、相変わらず。この事はアルベドには言ってありますか?』

 

 

シャボンヌ『えぇ、あと、これ、使えますよ。』

 

 

アインズ『え?何ですかそれ?』

 

 

シャボンヌ『魔法のブレスレットですよー、《ミ・エール》って言うふざけた名前ですけど。』

 

 

ヘロヘロ『え?いつの間にそんなアイテムが?』

 

 

シャボンヌ『それ、ユグドラシル運営が最終日の1年前に出してきた課金アイテムなんですよ。まぁ、その頃には大抵のプレイヤーがlvカンストでぶっちゃけ要らない無用の長物な訳で…デザインもこれ完全に女性受け狙ってるし…それで誰も気付きすらしていなかったんですが、僕は運良くそれ見つけられたんですよ〜。』

 

 

アインズ『嘘だろ…俺、最終日までログインしてたのに知らなかった…』

 

 

ヘロヘロ『Oh…』

 

 

シャボンヌ『あとアインズさん、』

 

 

アインズ『はい何ですか?』

 

 

シャボンヌ『少しお願いがありまして…』

 

 

ーーーーーーーー

 

【第十階層 執務室】

 

 

「アルベドよ、これより私は蜥蜴人(リザードマン)達の集落に使節を飛ばす、コキュートスにこう伝えて置いてくれ、『百獣の王、如何なる者でも闘いに手を抜かぬ』とな。」

 

…何処のことわざか全く分からんのだが…

 

「畏まりました、アインズ様。」

 

 

「うむ、頼んだぞ。」

 

 

「さて、隣国、リ・エスティーゼ王国についてだが、偵察メンバーに再度ヘロヘロを加えたいと思う。シャルティアを洗脳した者達がセバス達に接触したとの情報が入っていなければ、の話だがな。」

 

 

「ご安心下さい、セバス達の身辺警護にあたっている部隊には一人も欠員が見られず、加えて精神操作の類も未だ確認されていないとのことですので、御身の御考え通り、ヘロヘロ様をメンバーに加入させるということについては問題が無いと判断してよろしいかと。」

 

 

「ふむ、やはりそう考えたか、アルベドよ。やはりナザリック三大知謀の将の1人と呼ばれるだけある、流石だな。」

 

 

「お褒めの御言葉、恐縮の至りです…!」

 

 

「良い、今後もセバス達の身辺の監視は継続するように。…身内…ペロロンチーノ…そうだ、ペロロンチーノとシャルティアの様子に何か変わりは無かったか?ここ数日は第二階層まで行く余裕が無かった物でな。」

 

 

「えっと…その…//」

 

 

「あぁ(察)、すまなかった、今の言葉は全て忘れてくれ。」

 

(ペロロンチーノォ…お前今の今までシャルティアとナニやってんだよ…)

 

全くである。

 

「あっ!いえ、お、御身の御気を煩わせる訳には…」

 

 

「いや、私は何となく予想はついていたのに、確証を持てず、部下へセクハラを働いたのだ。本来なら謝罪一つでは到底償えん事だろう。すまなかった。」

 

 

「御身が謝られることではありません!全ては私の不手際にございます!」

 

 

「うむ…いやしかし…この話はここでお終いにしよう。さて、アルベドよ。実はコキュートスの遠征について、シャボンヌから頼み事をされてな…」

 

 

 

 


 

【トブの大森林奥地 蜥蜴人(リザードマン)部族緑爪(グリーン・クロー)勢力圏 生簀】

 

大規模な生簀、その前で1人、生簀の修理を行う蜥蜴人(リザードマン)が居た。

彼の名前はシャースーリュー・シャシャ。

蜥蜴人(リザードマン)部族緑の爪(グリーン・クロー)族長である。

 

「こんな所に族長自ら足を運ぶとはな。」

 

そんな彼に背後から声を掛ける者がいた。

シャースーリューの弟、ザリュース・シャシャである。

 

「おぉ、その声はザリュースか。」

 

呼びかけにそう答えつつ、シャースーリューは立ち上がる。

 

「どうだ?弟よ。この養殖場は俺自身が自力で作ったもんだ。まぁ、そうまでしないと我等の腹を満たす程の食事にありつけないと言う事でもあるがな…」

 

シャースーリューは近づいて来た弟に向き合いながら、そう言葉を繋げる。

そして、横目で先程まで修理をしていた生簀を見やる。

 

「コレは…以前に俺が作った物と大きさも質も段違いだ…コレを一人でとは…兄者はどれ程の時を費やしたのか…」

 

 

「お前が再び旅に出てから2年程、といった所か。我等の縄張りを抜けてお前も新たなる発見があっただろう。それを聞かせてはくれないか?」

 

 

「前の旅とほぼ期間は変わらなかったが、こっちの旅の方が俄然面白かったな…再び、故郷を離れてから、色々あった…先ず森の西を守る主、リュラリュースというナーガの王と出会い、彼と杯を交わした。彼からは狩猟の方法を学んだよ、効率良く(ウルフ)やジャイアント・スネークを倒す術を。それからさらに人間達の住む集落にも行った。そこの…確かスカマ、といったか?人間の雌と出会ったな…最初は敵視されたが、身の上を話すと仲良くなれた。四武器という冒険者コロニーに属する者で、仲間の、確かリリネット、それとグラウニー?…だったっけな…彼等と合流したかった所だったそうだ。俺はその人間と共にもっと多くの人間達が住む大規模な集落群に行き、そこでその雌とは別れることとなった。まぁ、もう一度あの人間には会いたいと思っているよ。」

 

 

「スカマ、か。良い響きだ。その人間の雌は強かったのか?」

 

 

「あぁ、とてもな。下手すれば俺は今頃、この相棒(フロストペイン)を失っていたかもしれない。何とか和解できて本当によかったと思っている…」

 

 

「その剣に随分と愛着がついたようだな。」

 

 

「あぁ、コイツと共に数え切れない程の窮地を切り抜けたからな。兄者、あそこにそびえる山々が見えるだろう?」

 

「あぁ、確かあそこは恐るべき厄災が住まう地、決して足を踏み入れてはならないという伝承がある山々、それがどうかしたのか?」

 

厄災の答えはフロスト・ドラゴンと霜の巨人(フロスト・ジャイアント)です。

 

「俺はあの山の奥地に行ってみたんだ。」

 

 

「何!?」

 

驚きに目を見開くシャースーリュー。

 

「人間達の多く住まう集落群で、俺は人間達の生活方式、そして釣り餌、漁獲網の形状、様々な事を目にした後で、さらに北に進もうと考えた。険しい道のりだったよ…」

 

 

「よく生きて帰ってこれたな…」

 

 

「全てはこの《凍牙の苦痛(フロストペイン)》があったからだ…道中氷の魔物達が襲い掛かってきたが、何とか命からがら逃げおおせることが出来たんだ。」

 

凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)》の特徴の一つ、装備者の冷気耐性付与、そして、『氷結爆散(アイシー・バースト)』による目眩しが出来るので、アゼルリシア山脈を生きて帰る事が出来たのだ。

 

「流石は我等が知りうる四大至宝の内の一角、弟の身を守り通したこと、深く感謝する。」

 

 

「兄者、頭下げても何も起きないと思うが…」

 

 

「すまないな、続きを話してくれ、と言いたい所だが…流石に此処には用は無くなった。村に戻るぞ、弟よ。」

 

 

「あぁ、まだまだ話は尽きない、俺とロロロ、アイツな、との出会いの話もまだ済んでいないからな。」

 

 

「そいつは楽しみだ。また後でじっくりと聞かせてもらうぞ、ザリュース。」

 

 

「おう、勿論だ、兄者。」

 

 

「…やはり、お前は村を発つべきではなかったと今でも思う…」

 

 

「兄者、今も昔も言っている事だが、これは俺の意思だ。俺の独断で起こしたことを、兄者が気に病む必要は無いんだ。」

 

 

「だがな…村の掟を知っているだろう?」

 

 

「一度村を出た者は二度と村の者とは認めて貰えない。」

 

 

「そうだ。おかしな話だろう?危険を省みずわざわざこの村を出て、村に有益な情報を持ち帰って来たお前が、この村に与えた恩恵は計り知れないというのに、一生涯お前は部外者となってしまうなんてな…」

 

 

「…村が救えるのなら、俺が犠牲になることなど安いもんだ。」

 

 

「お前はこの村にとっても、そして俺にとっても、掛け替えの無い存在であることに相違ない。それだけは覚えて置いて欲しい。」

 

 

「…俺はそんな大層なヤツじゃないよ、兄者。」

 

ザリュースはフッと笑みを作りつつ、自分の家へと戻って行く。

程なくしてシャースーリューも自分の村への帰路に着く。

 

ーーーーーーーー

 

「村の様子が…!」

 

シャースーリューが村から百メートルという所に来た時、村のある方角の上空に、巨大な()が浮いていることを視認する。

シャースーリューは村まで全力で疾走し、その闇へと向かって行った。

 

シャースーリューが村に到達したときには、村の上空を完全に闇が覆っていた。

 

「子供達を家に隠せ!戦士でない者達も家に避難しろ!何があった?」

 

「それが…先程突然空にあの黒いモヤが現れて…」

 

若い蜥蜴人(リザードマン)の1人がシャースーリューの問いに答える。

程なくして、異変を察知したらしきザリュースも村に姿を見せる。

 

「兄者、一体アレは何だ?」

 

「分からん…っ!形が変化しているぞ!」

 

突如、上空の闇は渦を巻く。

やがて、渦の中心部から、シャースーリューが生涯で初めて見ることとなる、強大なアンデットが姿を現した。

 

「聞け!我等は偉大なる御方々に仕えし者。汝らに死を宣告する。」

 

 

「!?」

 

 

「偉大なる御方は汝らを滅ぼすよう御命じになられた。されど汝らに、必死の無駄な抵抗をさせる為の時間を、お与えになられるとの事。本日より数えて8日、その日この湖に住む蜥蜴人(リザードマン)部族の中で汝らを二番目の死の供犠としよう。」

 

「二番目…?」

 

 

「必死の抵抗をせよ。弔鐘をもって、偉大なる御方々がお喜びになられるように。ゆめゆめ忘れるな、8日後だ!」

 

 

ーーーーーーーー

 

蜥蜴人(リザードマン)集落群 緑の爪(グリーン・クロー)族 集会所】

 

集会所内には、これまで祝祭、部族内での争い等、特別な慣わし事や抗争以外には滅多に緑の爪(グリーン・クロー)族の代表全てが集まる事は無かった。

そう、突如現れた外部からの敵によって部族が滅亡の危機に瀕するなど、これまでの蜥蜴人(リザードマン)達の歴史を見てもかつてない出来事だったのだ。

 

祭祀頭「空を覆ったあの黒い雲を覚えておるじゃろう、アレは恐らく第四位階魔法天候操作(コントロール・クラウド)じゃ。」

 

 

シャースーリュー・シャシャ「第四位階…!」

 

 

祭祀頭「強大な魔法詠唱者(マジックキャスター)でしか使えん領域じゃ。ワシ等の中で最も強い魔法詠唱者(マジックキャスター)でさえ第二位階までしか使えん。すぐにでも避難するべきじゃ。」

 

 

戦大頭「まだ戦ってもいない内から逃げよと言うのか!」

 

 

狩猟頭「奴は8日後と言った。時間はまだあるのだから、敵の様子を伺うのはどうだろうか?」

 

 

シャースーリューは弟、ザリュースに向かって首を向ける。

二人は互いに目で暫し会話し、やがてザリュースはシャースーリューに向けて首肯すると、族の頭達に向かう。

 

 

ザリュース「逃げるか戦うかの二択なら、選ぶは徹底抗戦。」

 

 

長老「ザリュース、旅人のお主が口を出すことではない、この場に居させて貰っているだけで…」

ダンッッッッ

ザリュースを諌めようと、族の中でもかなりの齢をいく長老の一人が口を開くも、程なくしてシャースーリューの立てた尻尾の打撃音に遮られる。

それに伴い、周囲が少しばかりざわつく。

 

シャースーリュー「今知識ある全ての者達をこの場に参加させているのだ。旅人の意見も聞かなくてはおかしかろう。」

 

若衆「しかし族長、お主の弟だからといって特別扱いは…」

祭祀頭「知識ある者の言葉を聞かぬのは、愚かな者のすることじゃ。」

 

 

戦大頭「あの《凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)》の所有者たる者の意見を聞かぬ戦士はおらぬ。」

 

長老達は祭祀頭と戦大頭の追い討ちにより、渋々ながら口を噤み、身を引いた。

 

シャースーリュー「うむ…それで、理由は?」

 

 

ザリュース「それしか、生き残る道は無い。…」

 

 

祭祀頭「…勝てるのか?」

 

戦大頭「勝てるとも!」

 

ザリュース「いや、今のままでは勝算が低かろう。」

 

戦大頭「…どういうことなのだ?」

 

ザリュース「相手は、こちら側の戦力を知っているからこそあのような態度を取って来たのだ。ならば、相手の計算を狂わす必要がある…!」

 

ザリュースは拳をギュッと握りしめる。

 

ザリュース「…皆、かつての戦いを覚えているな?」

 

若衆「…無論だ。」

 

祭祀頭「忘れることなど出来ん!」

 

 

ザリュース「かつてこの湿地には、7つの部族が居た。俺達の一族、『緑の爪(グリーン・クロー)』、狩猟を得意とする『小さき牙(スモール・ファング)』、全部族随一の防御力を持つ『鋭き尻尾(レイザー・テイル)』、戦を好む『竜牙(ドラゴン・タスク)』、穏健派の『黄色の斑(イエロー・スペクトル)』、剣の技に秀でた『鋭剣(シャープ・エッジ)』、祭祀の才能を持つ者が多い『朱の瞳(レッド・アイ)』。主食の不漁が続き、どの部族も食糧を巡って争うようになったのは数年前。そして遂に、俺達『緑の爪(グリーン・クロー)』と『小さき牙(スモール・ファング)』、『鋭き尻尾(レイザー・テイル)』の三部族対、『黄色の斑(イエロー・スペクトル)』、『鋭剣(シャープ・エッジ)』の二部族での協力戦へと発展していった。結果、俺達は勝利を収め、負けた二部族は、争いに参加しなかった『竜牙(ドラゴン・タスク)』へと吸収された。」

 

戦大頭「それがどうした。」

 

ザリュース「奴は、この村は二番目と言った。ならば他の部族達も、順番に滅ぼすつもりなのではないか?」

 

 

戦大頭「奴等が攻めてくる前に、他の部族と手を組んで、奴等を迎え撃つのか!」

 

 

長老「かつての盟友、『小さき牙(スモール・ファング)』と『鋭き尻尾(レイザー・テイル)』ならば、再び同盟を結んでくれるじゃろう。」

 

ザリュース「間違えないで欲しい、俺が言いたいのは、全部の部族とだ。族長!『朱の瞳(レッド・アイ)』や『竜爪(ドラゴン・タスク)』とも同盟を結ぶことを提案するぞ!」

長老「無理だ!」

祭祀頭「『竜爪(ドラゴン・タスク)』には先の戦いで負けた二部族の生き残りも居る。ワシ等との同盟などあり得ん。」

 

 

狩猟頭「『朱の瞳(レッド・アイ)』とも交流は一切無い。そう易々と同盟というのは難しいのでは無いか?」

 

この場にいる他の仲間達も否定の意をざわつきによって表現する。

ザリュースは咄嗟に俯きたくなる衝動に駆られた。

 

シャースーリュー「…五部族連合か…分かった。その二部族、誰が使者となる?」

 

しかし、族長である兄、シャースーリューはザリュースの考えを読み取ったようだ。

 

ザリュース「…俺が行こう。」

 

 

シャースーリュー「…旅人だからか?」

 

 

ザリュース「その通りだ。旅人だからと話を聞かない相手ならば、組むに値しない。」

 

 

 

シャースーリュー「うむ……族長の印を持たす。」

 

 

ザリュース「…感謝する。」

 

 

ーーーーーーーー

 

〜三時間後〜

【ザリュースの家】

 

緊急集会が終わり、各自は自分の家へと戻り、戦争の支度をすることとなる。

1人使者を名乗り出たザリュースは、明日からの交渉に向けて、着々と準備を進める。

ふと、ロロロに餌をやる事を忘れていたことに気づき、生簀の魚を4匹捕まえて持って、自分の木造小屋へと向かう。

しかし、どうやら先客が居たようだ。

 

「っ!…兄者…」

 

月が雲から顔を見せると同時に、月明かりに小屋が照らされる。

月光が照らす先には、自分の慕う兄の顔があった。

 

シャースーリューは何も言わずに立ち上がると、ザリュースの側まで来る。

ザリュースは魚を手にぶら下げたまま兄、族長と会話するのは流石に失礼だと思い、先にロロロへ餌をやることにした。

 

「ロロロ!」

 

ザリュースの呼び声に応じて四つの顔が影から姿を現す。

 

「ふんっ!ふっ!はっ!ホレッ!…」

 

ザリュースはその顔それぞれに餌の魚を投げ与えていく。

 

「…俺はつくづく思う。もし、お前が族長になっていれば、とな。」

シャースーリューが不意に口を開く。

彼の顔は何処か神妙な面持ちであった。

 

「兄者は村にとっても、俺にとっても、大切な存在だ。現に俺が二度も旅をして、そこで学んだ技術を皆に伝えることが出来たのは、兄者が俺が旅人になり、二度も旅をすることを許してくれたおかげだ。それに、兄者が必死に皆を説得して、村に俺の学んだ技術を取り入れることを許可してくれた事も知っている。兄者が族長でなかったのならば、到底なし得なかったこと。それを、なにを今更…」

 

 

「お前がこの村に居ても出来たことだ。むしろ、お前のような聡明な男こそが、この村を背負って立つべきだったんだ…」

 

 

「兄者…」

 

しばらくの間、ザリュースとシャースーリューは沈黙する。

 

「…それで、本当にあれだけがお前の狙いか?」

 

 

「…!!…兄者、何が言いたい?」

 

 

「かつての争いは、各部族間の小競り合いだけではなく、我が部族の数が増えすぎたのも問題だったのだろう。」

 

 

「兄者、それくらいにするべきだ。」

 

 

「…やはりそうか…」

 

 

「…それしか無かろう…かつての戦いを二度も繰り返さぬ為には…」

 

 

「…ならば、もし他の部族が同盟を拒否した場合、どうするというのだ。」

 

 

「…先に…潰す。」

 

 

「同族を滅ぼすというのか。」

 

 

「…兄者…」

 

 

「あぁ、分かっているとも。部族の存続。それを、上に立つ者が考えずにどうしよというのだ…」

 

シャースーリューは再び口をつぐむ。

 

「…ロロロ!」

 

ザリュースは荷物を肩に背負いつつ、ロロロを小屋から外に出す。

 

「出掛けるよ。それで兄者、人数はどうなっている?」

 

 

「戦士階級10、狩猟20、祭祀3、雄70、雌100、子供多少といったところだな。」

 

 

「了解した。場合によっては、その人数を交渉の材料にさせて貰う。」

 

そして2人は近寄ってきたロロロを見やる。

 

「まぁ随分と大きくなったなぁ…」

 

 

「拾った時はまだこんなに小さかったというのにな。」

 

 

「未だに信じられんなぁ。お前がコイツを連れて村に帰ってきた時には、既にかなりの大きさだったからなぁ。」

 

そう会話しながらも、ザリュースはロロロの背中に登り、ロロロの体勢を変えている。

会話が終わる頃にはもう既に、ザリュースの出立の準備は整っていた。

 

「無事に帰ってこい、無茶はするなよ!」

 

 

「当然だ。全て完璧にこなしてから戻るとしよう。待っていてくれ!兄者!」

 

そうして、ザリュースはロロロに跨り、兄を尻目に、自分の家を発つのであった…

 

 

ーーーーーーーー

 

【ホーンバーグ 市街地演習場】

 

塹壕、有刺鉄線、ガス兵器、自動小銃、野砲…

如何にも軍の訓練基地みたいな場所に如何にもなブツ(兵器)が普通に設置されているここは『ドラゴン騎士団』演習場。

騎兵部隊の訓練場がどうしてこんな有様に変貌したか?

シャボンヌ(ミリオタ)に聞いてくれ…

 

ドォォォォンンンン…

 

「…狙い良し。…次はいつものBB2手榴弾の投擲訓練。」

 

野砲バンバン打ち鳴らして遠くのダミーを跡形もなく破壊している…

ちなみに実弾演習。

 

「了解!」

 

 

「……スゥッ各員配置に着け!BB2投擲用意!

 

 

「放てーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

歩兵ダミー、ダミー人形に向けて黒い物体が飛んでいく…

 

チュドオォォォォンッ…

 

無事、ダミー人形達は爆散したようだ。

 

「…まだまだね。」

 

 

「え〜、評価厳しいですよ〜!!!」

 

 

「…わざと外していない?キリル。」

 

 

「あ、バレました?」

 

いや、ダミー砕け散ったやろ!ダミーにもろ当たっとるやんけ!と思った方も多いでしょう。

実は、ダミーには赤い直径2mmの点が打たれており、そこにBB2の先端部が触れるように投げる訓練…

なのだが、

キリルはわざと5mm赤い点からズレた位置にずっとBB2の先端部を当てており、それも同じ角度で

同じ軌道、

同じ入射角、

先端部が触れた時のBB2の形まで、

細やかに計算してかつ、5mmズレた位置に投げ付けているもんだから、もう頭おかしい(褒め言葉)

 

「訓練は真面目に受けなさい。」

 

 

「ふあ〜〜〜い。」

 

徐に大きな欠伸をかますキリル。

ヴァルは少し不機嫌です。

 

「隊長!…でヤンす。」

 

と、不意に部下のアンドレイから声を掛けられる。

 

「…如何したの?アンドレイ。」

 

 

「はい、先程シャボンヌ閣下から…」


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