ひたすらモブを捏造します

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来鷹大学経済学部二年生のモブ視点

陽務楽郎、大学生プロゲーマールートです


陽光差して修羅の道

ローテーブルに置いた携帯端末の画面は、普段はあまり見ない地上波の生中継を流している。

 

勝者(あとそれからもう一人のビッグゲスト)による英語での煽りと、番組MCのエイトちゃんによる大袈裟な振り、それからお決まりのCMで十分な尺が使われた後、既にトレードマークとなっている金属質なカボチャのヘルメットがいよいよ外される。

 

大きく映ったのは、見覚えのある顔だった。

 

「え、陽務じゃん」

 

一人暮らしの壁の薄いマンションの部屋で、思わず声に出してしまう。

普段は小声すら出さないというのに。

 

それでも仕方がないだろう。

この三年間、シルヴィア・ゴールドバーグとの激闘に始まり、アメリア・サリヴァンからの勝利、魚臣慧との別ゲー十番勝負、彼とタッグを組んでアメリカ代表と対決した去年の試合など、度々話題をかっさらっていった正体不明のゲーマー「顔隠し(ノーフェイス)」が、同じ学科の知り合いだったのだから。

 

今日の勝者──ついに三年越しのリベンジを果たしたアメリア・サリヴァン──の言葉を通訳も兼ねている魚臣慧が困り顔で伝えると、再び画面は陽務の顔に切り替わった。

 

やはり陽務楽郎だ。

 

大学ではいつも寝不足なのか怠そうにしているから、悔しげな表情を隠していない今は新鮮に見える。

 

「えと、負けたらって約束だったんで、はい。あ、名前は勘弁してもらっていいですかね?」

 

語り口調はボイスチェンジャーを通しているとどこかミステリアスにも思えた朴訥としたものであり、それはいつもの陽務のものだった。

こっちがつい先ほどまでケイオスシティで暴れまわっていたリアルカースドプリズンの素なのか。

 

エイトちゃんと魚臣慧に話を振られながら、彼は到底テレビ向きではない発声で質問に答えていく。

しきりに腰のホルスターを撫でているが、ライオットブラッドは試合前に飲んでいたのを見た。

あれの二本目を求めるのは、正気の沙汰じゃないと思う。

 

「ズバリ、「顔隠し(ノーフェイス)」さんはプロゲーマーに?」

「あー、はい、そのつもりです。こいつ……あー、あの魚臣慧にも誘われてますし、電脳大隊に」

 

話すにつれ、どこか晴れやかな顔にも見えるようになってきた陽務が答えた。

顔隠し(ノーフェイス)」なら日本のトップチームでも魚臣慧に劣らず両看板を張れるだろう。

 

……そうなると、大学は。

 

『おいおい、勝ったのは私だろうが』

顔隠し(No Face)ならZodiac Clusterも大歓迎!」

「……なんて?」

「アメリカ来いってさ」

「いや、大学あるし」

 

続けるのか、と素直に驚いた。

 

セミプロの学生ゲーマーも少なくないが、大体は言ってしまえば稼ぎが微妙な者たちだ。

すでにライオットブラッドのCMにも起用され、池袋のディスプレイも飾っている「顔隠し(ノーフェイス)」ならば無用の心配のはず。

 

この前もゲリラで開かれた生放送枠に、何かキマってるんじゃないかというような額の投げ銭が飛んでいたところだ。

軽く6桁を投げつけていたアカウントがいくつかあったのが衝撃的で覚えている。

今でさえ固定ファンが強いのだから、プロになればさらに稼げることは確実だろう。

 

……学校に彼女いるから、とか?

 

彼は同じ高校だったという他学科の斎賀さんと、本人は付き合ってはいないというが、よくお昼ご飯を二人で食べているところを見かける。

何のために否定するのかは知らないが、既に仲は公然のものだ。

 

その後なぜかシルヴィア・ゴールドバーグが番組を締めて、来週の予告になった。

 

端末を手に取り、SNSを開く。

予想通りトレンドには顔隠しが入っていて、俺のタイムラインには「顔隠しが同級生でビビった」なんていう投稿が表示されていた。

 

きっと週明けの大学では陽務のところに多くの人が集まるだろう。

うちの大学は個性の強い学生も多いが、今日この時点で陽務が知名度でトップに躍り出たのは確実だ。

普段絡みの無い顔ぶれも周りを囲むのが、目に見える。

 

それ以上を見るのは気が進まず、画面を切ってテーブルに置いた。

 

「……」

 

立ち上がり、ベッドまで。

しばらく置きっぱなしにしていたが、コードはつなげたままだったはずだ。

 

「久々にやるか」

 

ネフホロ(正式にはネフィリムホロウ2)はいつか駄弁っていた時、初心者の俺に陽務がおすすめしてくれたものだ。

最近はバイトで忙しくしていたからあまりインしていなかったけれど、今日はやる。

 

俺と陽務はそんなに喋る仲でもなければ、親しい共通の友人がいるわけでもなく、普段もわざわざ声をかけたりしない。

ただ去年選択した授業で偶然グループが一緒になり、その間に話をした、それだけだ。

けれどその時、俺と同じ地方組にもかかわらず毎日充実しているように見えた陽務が、ゲームが趣味だと言ったから、興味が湧いてヘッドセットから買ったのだった。

 

ネフホロは確かに陽務が言っていた通り少し操作が難解なところもあったけれど、こういうものだと思えばむしろそれが楽しくて、しばらくずっとやりこんでいた。

シャンフロシステムの名作だから、ランク戦で上位に食い込むのは初心者の俺では無理だったけれど、中級者ぐらいにはなれた自負がある。

 

……あー。

 

そういえば一時、顔隠し(ノーフェイス)()()()トリッキーなカスタムをいくつか作って、ランキングと環境を荒らしていた。

一位こそネフホロの絶対王者が守り抜いていたけれど、あの時は一気にランキングが動いて俺も色々調べながらいくらか参考にさせてもらったし、今もその時一番しっくりきたネフィリムを微調整しながら使っている。

 

週末はしばらくやりこんで、来月発売するシリーズ作も買おう。

お金は貯まっているから、何本か他の作品を買うのもありかもしれない。

 

……しばらくしたら陽務に聞いてみようかな。

 

トップゲーマーの彼ならきっと、面白いゲームをいくつも知っているだろうから。

 


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