〜公園・AM5:30〜
――――ワン!!ワンワン!!
「どうしたんだそんなに掘って……お宝でも見つけたか??」
ある日の朝、昨日は雨が降っており愛犬との散歩を断念した男がいた。今日も愛犬に朝早くから叩き起され散歩に付き合う羽目になった。
だが男性自体それを嫌とは思っておらず、むしろ雨上がりの朝早くの日光を浴びながら散歩をするのは愛犬と同じレベルで好きなのである。
だがいつもとは違い、愛犬は公園の土をずっと掘っているのである。最初は普通に散歩をしていたのだが、行きつけの公園に来て、いつも通りにマーキングをしようとした時だった。そこから愛犬はある場所の土を掘り返し始めたのだ。
困ったな……と男性が呟く。次の瞬間、愛犬は掘るのをやめてそこに向かって執拗に吠えていた。
「……ん?何何?お宝見つけた?」
そう言いながら掘り返した所を見る、掘ったとはいえ底はまだ浅く何かが眠っているようには到底思えなかった――――――――
「え?」
だが、その何も無いと思われる所に微かに肌色の物が見えた。
「え、これ……うわぁぁ!!!」
それが”人間の腕の一部”と理解する迄にそれなりに時間は掛からなかった。
――――――――――――
〜circle・AM2:30〜
少し時間が経った、今現在翔一はとてつもなく、それこそ過去最高に気まずい時間を過ごしていた。目の前の青年……八意想を押し倒したり殴り飛ばしたりと、割と怒られてもいいようなことをしていたからだ。
だが彼は怒ったり反撃すること無く、寧ろ頭を下げて謝ってきた。何も知らないのに知ったような口を聞いてごめん……と。それを聞いた翔一は自らの幼稚さを改めて思い知らされることになる。
「絆創膏……こんな感じでいいか」
八意想はcircleの備品の一つである絆創膏を、殴られて切れた場所へと張りつけていた。
(……クマ)
彼自体こだわりがないのか分からないが……あの歳でクマのピンクの絆創膏はどうなのかと翔一は内心考える。
「……それで、津上翔一くんだっけ?ちょっとは落ち着いた?」
「はい……後全然呼び捨てで大丈夫ですよ。津上でも、翔一でも」
「じゃあ翔一って呼ばせてもらう。俺のことも全然呼び捨てで良いからな」
「え、あ……はい。八意さん」
「……まぁいいか」
「八意さん!」
「おわっ……」
気まずい空気を払拭するため、一先ず大きな声を出し立ち上がる翔一。それに八意が椅子から転げ落ちそうになる。
「さっきは……その、殴ったり押し倒したりして本当にごめんなさい!!」
次に土下座する勢いで頭を下げる翔一。今自分に出来ることはこれしかない、初対面から最悪な出会いとなってはいるがそれでも謝るしかない。
「……」
「まぁまぁ、頭上げなって」
「……え」
「突然知らない奴に、知ったような口を聞かれれば誰でもそうなるさ。特に誰にも触れられたくない所にズケズケと入り込まれたらな……俺もそこの配慮が欠けてた。俺もそこは謝るよ、ごめん」
「いえいえそんな……」
「翔一が謝りたかったように俺も謝りたかった、それでお互い晴れてサッパリだ。それでどうだ?ちょっとは話す気になったか?」
「……俺、実は記憶喪失で――」
そこから翔一は、これ迄の事を少しずつ話し始めた。記憶喪失の事、拾って貰った人がいること。そして……その人達を傷つけてしまったこと。
もちろんアギトについては一切明かしていないし、チュチュやパレオ達のことも一切話していない。ただの居候の喧嘩っぽい人になってしまった気もしなくもないが、自分と彼女達を守るためには仕方がないことでもある。
「……そうか」
全て話し終えた後、八意想から出た言葉はその一言だった。
「実は俺も似たような境遇でな。家なし金なし彼女無しのところを拾ってもらって色々と大切なものを貰ってそして……俺も、その大事な人を傷つけたことがある。」
「……え」
意外な境遇を聞き、翔一が驚く。何故彼が最初に大切な人を傷つけたんだなと言ったのか、そこで漸く翔一は理解した。
彼もまた、翔一と同じようにどん底に落ちそうになったことがあるということだ。だから同じシンパシー的なものを自分から感じたのだろうか……
「その時は俺もめちゃくちゃ後悔したし、ぶっちゃけ死にたくもなった。でも今もこうして俺は生きてる」
「それは八意さんが強いだけですよ、僕は耐えられなかった。次会った時あの人達にどんな顔をされるのか……想像するだけで怖いんです」
拳をギュッと握り、下を見る翔一。想像したくもない言葉をかけられたらどうしようと……恐怖で埋め尽くされそうになっていた。
「……最初に言ったろ、世界はそんなに冷たくは無いって」
「……それは」
「何がどうなってその人達を傷つけてしまったのか、俺にはよく分からない。でもその人たちの最後の顔と言葉を覚えてるか?」
「…………」
「翔一を恨むような目をしていたか?翔一を咎めるような言葉を投げかけていたか?」
「あ……」
八意の言葉に、翔一が呆気にとられる
そうだ、自分が逃げ出す時、彼女達は自分を追いかけていた。その顔は怖くて見れなかったけど、でも言葉は必死に閉ざす直前の翔一の心に響いていた。
彼女達は翔一を恨むような言葉を吐く訳でも無く、ただ翔一自身の名前を呼んでいてくれていた。そこに恨みや咎めるような意思は感じず……寧ろその言葉は心配や後悔を孕んでいた……だからこそあの時の翔一の耳に残り、心の中に残った。
(自分は勝手に彼女達の言葉を、恨み節だって思ってしまってたのか……それじゃ俺は、本当に救いようのないクズじゃないか)
「……どうやら本気で恨まれたりしては無いらしいな。思い出したか?その人たちの最後の顔を、言葉を」
「……はい、思い出しました」
「なら翔一のやるべき事は、言わなくても分かるだろ?」
「はい」
「よかった、君を救えて」
「……え」
「誰かを傷つけて、それをひとりで思い悩んで潰れてしまうほど人間怖いものはない。それを少しでも救えたのなら……俺は満足だよ」
「八意さん……」
この人と居たのはたかが数時間のことだ。だがそれだけでも分かる。この人は優しい人だ。ただ優しいだけではなく、人に寄り添い、思い遣り、気遣う。
簡単に言えば、聖人君子と呼ばれてもおかしくない部類だ。
「会って、もう一度話をしてみる。それでダメならそれはそれで色々と考えればいい。最悪俺ん所に戻ってきてもいいもんだからな」
「……そうですね」
「でもその様子じゃ俺の出番は無さそうだな。逆に心配されてめちゃくちゃ怒られるかもよ」
「想像つくのが何とも」
「尻に敷かれてんだなぁ……」
「……まぁ、そんな感じです」
そこで2人は苦笑する。そして翔一は八意から渡されたパンと飲み物を開けて食べ始めた。
「おう、食っとけ」
「はい」
「……」
食べ始めた傍らで、八意想はふと思い出したように懐から携帯を取り出す。
そういえばリサ達になんも言ってねぇなぁ……と思いつつ通知を見ると――――
「おうまいがー……」
ふと、囁きにも似たような声で八意がそんな言葉を放つ。
めちゃくちゃ心配されていた。というよりこれ心配と怒り混じってない??え??どうしようめっちゃ帰りづらい……
というか他人の家で女子会してんじゃないよと、次々様々な感情に襲われていた八意だった。