笑顔をつくる物語   作:エヌラス

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page20.翔一の覚悟

 

〜am6:00・circle〜

 

「それじゃ」

 

「ありがとうございます」

 

circleの鍵を閉めて、スタッフ用ポストに鍵を入れる八意。それと同時に翔一も頭を下げて八意に礼をする。

 

「おう、それでほんとに送ってかなくて大丈夫か?」

 

「はい、そこまでしてもらうのも悪いですし……それに、色々と考えておきたい事があるんです」

 

「そっか、分かった。気をつけろよ翔一」

 

そう言ってビートチェイサーに跨る八意、ヘルメットを被りcircleを後にする。それを見届けた翔一も1度深呼吸をして八意とはまた別方向へと歩き出した。

 

 

 

 

――――――――

 

〜am7:00・八意宅〜

 

「ふぅ……」

 

ビートチェイサーを駐輪場に止め、ヘルメットを頭から外す八意。季節的には心地よいなと思いつつ久しぶりの朝帰りで眠たさを感じていた。

 

「……それで、これまたどうして黒服さんが?」

 

駐輪場に着いてからずっと感じていた気配。話せる状態になったので漸く口を開く。すると近くの柱から黒いスーツを纏った女性が1人出てきた。

 

「お久しぶりです、八意様」

 

「お久しぶりです、黒服さん。またこうやって会うことになるとは」

 

「ここ数年はお嬢様達と一緒に居ることがほとんどでしたからね。でもこうしてまた2人っきりで話さねばいけないことが出来ました」

 

「……未確認生命体、やっぱり居たんですね」

 

「……ここではなんなので少し付き合ってもらっても?」

 

「了解です」

 

 

――――――――

 

〜am7:15・黒服の車内〜

 

「未確認生命体、警察一部ではアンノウンと名付けられ始めています」

 

「アンノウン……」

 

「未確認生命体とは違い、人の殺し方や狙い方等が全くもってちがうからです。今朝早朝に発見された遺体も、またアンノウンの仕業かと」

 

「また犠牲者が増えてるんですか」

 

「はい、恐らく八意様が対峙なされたあの亀のような未確認が元凶かと」

 

「いつの間に……」

 

いつどこで見られていたのだろうと思いつつ話を進める。

 

「今回のアンノウンはどうやら地中に人を引き込むという殺害方法を取っています。しかも掘り返した跡などは一切無く、まるで最初からそこにあったかのような埋められ方をしていたようです」

 

「でもそれじゃ何年前とかの話に……白骨化もしてそうですし」

 

「それが司法解剖ではその一日前に亡くなっていると、極めて時間が短いのです。1番最初に発見された遺体は縄文時代の発掘作業中に見つかったとの報告が……それもまた死後数時間という極めて不可解なものです」

 

「……だからアンノウンか」

 

「はい、それに警視庁にあるG3ユニット。あの開発には我々も少しばかり手を貸しております。1番近くで貴方の戦いを見てきた私達が……未確認生命体に対しての武装や知識は全て使い尽くしたものになります」

 

「……でもそれはあいつらには何一つ通用しなかった」

 

「はい……その時点で我々は、未確認生命体とは別の存在がいる。と仮説を立てていました」

 

「そして暫くしてやっと、アンノウンと呼称されるようになった……か」

 

「未確認生命体は八意様や警察の方々のお陰で全滅が確認されています。つまり今回、いやこれからは全てがアンノウンの仕業になるかと」

 

「……そうですか」

 

「……」

 

その俺のつぶやきが聞こえたのか、黒服さんが口を噤む。普段何考えてるのかは読み取れないけど、こういう時は伝わってくる。目の前の黒服さんは俺のことを心配してくれている

 

 

 

 

 

 

 

(やはり八意様に伝えるべきではなかったのだろうか……)

 

黒服も、目の前の青年の顔を見ながら少しばかりの後悔を纏わせていた。

 

未確認生命体事件の際も最後まで身体と心を削りながらも戦い続けていた青年。戦いが終わったあとも体内に眠る霊石が身体を蝕み今では人間とは程遠い体内組織になってしまっている。

 

定期検診を受けてもらってはいるものの、彼の身体を何とかする方法は今の人間の技術には無かった。霊石を取り外せば八意想は死ぬ。もはやそのレベルまで彼と霊石はひとつになっていた。

 

(それに、最後のン・ダグバ・ゼバとの戦闘で傷ついた霊石。それは未だに治ってはいない)

 

傷ついた霊石、もしそれが今後の戦闘でさらに傷つき……取り返しのつかないことになってしまったら、八意想の関係者にどう顔を合わせていいのか。

 

ぐるぐると解決することの無い葛藤が黒服の中で渦巻く。だが目の前の彼は……考える素振りすらなく答えた。

 

「分かりました、俺やります」

 

「……八意様」

 

分かりきってはいた、きっと彼は戦うという選択肢を取る。否――それ以外は考えられなかった。

 

「何かを成し遂げられる力があるなら俺は戦う。できるのにやらずに逃げるのは、俺の中じゃ耐えられませんから」

 

「承知しました」

 

「……それに今の俺は、独りじゃない」

 

そう言って目の前で拳を握る八意、黒服もそれを見て深く頭を下げた。

 

「我々も再び、全力でお手伝いさせて頂きます」

 

「ありがとうございます。また頼らせて貰いますね」

 

そう言った彼の顔は、いつものように笑顔があった。

 

 

――――――――

 

〜チュチュ宅・am7:30〜

 

 

「どうすんだよあの部屋……」

 

「私達にはどうしようもないよ……」

 

朝早くからバンドの練習兼ミーティングを初めていたRASのメンバー。だがチュチュとパレオのふたりは防音室に籠っていた。

 

そしてその防音室からは音は聴こえないもののその代わりに凄まじい邪気のようなものが漂っていた。ウォーミングアップ中のますきやレイヤを凍らせるかのように

 

そしてその部屋には、先程突如ふらっと帰ってきた津上翔一がぶち込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

翔一は、パレオとチュチュの2人から向けられる視線を一身に浴びながら正座していた。途中凄まじく覚悟がふにゃふにゃになったが、逃げているだけでは何も変わらない。それを思い出し何とかチュチュのマンションの扉を叩いた(正式にはオートロックだが)

 

最初二人は唖然としていた、何せ居候が実は化け物と同じでしたという常人ならパンクするであろう情報を叩き込まれていた。

 

(正直家に上がらせて貰っただけでも奇跡なんだけど、逆にこの個室じゃあな……)

 

もし糾弾されるならそれはそれで受け入れる。そんな覚悟の翔一だった。

 

「色々と言いたいことはあるわ、色々聞きたいこともね」

 

静寂を破ったのはチュチュの声だった、少し震えているが確かな怒りが籠っているその声。耳に届くだけで少し気圧されそうになる。

 

「でも、やっと帰ってきたわね翔一」

 

「……え?」

 

「翔一さんが突然居なくなってから、あれから二人で考えたんです。もし次に顔を合わせるならどうしようかって」

 

糾弾はおろか、責められる様子もなかった。それに翔一が呆気にとられる。

 

「でも、翔一さんは翔一さんだって、私達を傷付けるような人じゃないって信じることにしたんです」

 

「……そんな」

 

そんな簡単に……と翔一が声を出す前にチュチュに遮られる。

 

「でも一つだけ聞かせてもらうわ翔一」

 

その言葉に、静かに頷く。

 

「――貴方は本当に津上翔一なの?それとも、別の誰か?」

 

「……」

 

チュチュのその言葉が翔一に突き刺さる、確かに重要な事を隠していた。彼女たちからすれば自分は本当に記憶喪失なのか……様々な疑いが生まれるのは周知の事実だった。

 

「僕は、津上翔一です。記憶喪失でそれで貴方達に拾われた。それだけは本当です」

 

信じてもらえるかなんて分からない、だけど今翔一が出来ることは、目の前に向けられた思いにただ答えることだけだ。それが出来ないほど人として腐ってはいない。

 

「……そう、それを聞いて安心したわ」

 

「……」

 

「”おかえり”、翔一」

 

「おかえりなさい、翔一さん」

 

「…………ぁ」

 

目を瞑り、微かに考える素振りをした2人。目すらつぶりたくなるような静寂は2人の”おかえり”を受けて終わった。

 

翔一は安堵を覚え、目から零れ落ちそうになるものを必死に抑える。

 

「泣きたいのはこっちよ……!ただでさえあんなもの見せられて、それで話もせずにアンタは勝手に消えて!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「チュチュ様にこれ程の心配をおかけするなんて、翔一さんは親不孝者ですよ」

 

「えっ、あっ……はい」

 

突如糸が切れたかのように小さな手でチュチュからぶん殴られ、突如親不孝者と呼ばれ困惑が絶えぬ翔一。だがチュチュに逆らえる訳もなく、パレオも後ろに纏うオーラは凄まじいものになっていた為ただそれを受け止めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、ホントにそれ以外は記憶喪失なのね」

 

パレオが入れた飲み物を飲みながら、チュチュが再度確認を取った。それに翔一が頷く。

 

「そうなんです、ホントにそれしか分からなくて……でも、アイツらの気配、みたいなものを感じると考えてたことが全部塗りつぶされて」

 

「塗りつぶされる……?」

 

まるで自分の思考ではないような物言いにパレオが頭にハテナを浮かべた。

 

「まるで、自分の頭じゃないみたいに……いきなり戦えって、それで自分も戦わなきゃってなって、本当に、まるで他人が頭の中に入ってきた、みたいに……」

 

「それが翔一の記憶を失う前の姿ってのは……無いわね」

 

何かをいいかけたチュチュが途中で遮り否定する。

 

「そんな好き好んで戦いをするような人には見えないですけど……」

 

「パレオもそう思う?」

 

「はい」

 

2人が目を合わせつつ話を進めていく、当の本人である翔一は置いてけぼりを食らったかのようにその場に正座していた。

 

「あの…」

 

「……翔一、貴方はこれからどうするの?」

 

話し合いが終わったのか、チュチュが再びこちらを向く。彼女の目線と顔はいつも以上に真剣で……だからこそ目を背けたくなってしまいそうになる。こんな自分を、未だ考えてくれている事に。

 

「どうしたい…ですか」

 

「当たり前じゃない、その力を持ってこれからどう生きていくのか。私が気になるのはそこよ!」

 

ビシッと指をさされ、逃げ場が完璧になくなった。

 

(それから逃げるのも、挑むのも、お前の自由だ)

 

ふと、出会ったばかりの青年から投げかけられた言葉を思い出す。

 

(逃げたい気持ちはまだある……、この心から湧き出る自分じゃない”何か”から。でも、この場所に帰ってきて、貴方達に触れてわかった。守りたいんだ……僕は)

 

冷たくなった心に、優しさという明かりを照らしてくれた人達が目の前にいる。前回のようにその彼女達に牙を向こうとする奴らがいる。

 

……そして、自分は力を持っている。

 

 

「まだ、そんな大層な事は言えないですけど……僕は、守りたい。皆の居場所を」

 

「「……!」」

 

 

「自分の力があるのに、誰かを見捨ててまた逃げるなんて……今の僕には出来ない。きっと、これもひとつの運命だって、僕は考えてます」

 

「……OK」

 

「え……?」

 

「だから、OKって言ってるじゃない。その目標、追い掛けなさいよ」

 

「辛くなったら、いつでも私達に相談してくださいね。戦うことは出来なくても、心の傷を治すことは出来ると思いますから」

 

「パレオさん……チュチュさん」

 

「でも!家事をサボることは許さないわよ、アンタが放置した家庭菜園が軒並み滅びかけてるのよ!何とかしなさい!!」

 

「……はい、分かりました!」

 

 




お久しぶりの更新となりました、ココ最近小説が全然書けなくなってて……
消しては書いて、消しては書いての繰り返しなんですよねぇ。モチベというかなんというか……
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