笑顔をつくる物語   作:エヌラス

150 / 150
さて、1番最初の最終回から数年経った訳なんですけど、ある日いきなり書いてみたくなったのでかきました!!
見ていただけると幸いです!
俺成長してるんかね?ちょっとでも成長してて、それが伝わったら嬉しいなぁって

最近仕事がバカ忙しくて、この作品書いてる時が癒しの時間のひとつになってきてる……昔っから勢いだけで書いてますけどね


2026年リメイク版最終回〜前編〜

 

「はぁ……はぁ……」

 

東京は雨が降っていた。

 

だが炎は、雨が降っているにも関わらず燃え広がり、下は地獄のような光景が広がっていた

 

「あはは……はははっ」

 

少年は見ていた、燃える世界と、そこに立つ1人の少年を。

 

眼前で広がる、燃え上がる炎の人間たちを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜PM19:00・circle〜

 

「……雨、止まないね」

 

circleの休憩や団欒などに使われるスペース、そこにRoseliaのメンバーは全員が集まっていた。今井リサが、両手でスマホを握りしめ、窓の外を見て言葉を漏らす。

 

突如集められたRoseliaの面々、全員の持ち物の中に楽器類は含まれず、練習に来た!という背景では無かった。

 

「こんな時にまで遅刻をするなんて……彼はどこまで私達を振り回すのでしょうね」

 

厳しい言葉を口から出す紗夜も、その言葉にはいつものキレがないように見える。

 

 

『未確認生命体第0号は、長野市内に____』

 

あこが何となくつけていたテレビでは、アナウンサーがニュースを淡々と読み上げていた。その内容はきっと、1年前の自分達なら鼻で笑うような与太話ばかりだったかもしれない、でもこの1年で、それは事実となり、今生きる誰の記憶にも鮮明に刻まれることになっていた。

 

 

 

 

_________

 

 

 

2日前、第0号を除く未確認生命体を全て撃退したと報じられてからすぐの事だった。東京や長野、様々な場所で突如として数万人規模の命が次々と奪われていった。

 

雨が降る中、車や建物が火に包まれる光景は、まさに地獄だった。

 

だが、本当に恐ろしいのはその炎を纏っているのが、建物や車ではなく、その中に居る人間たちから広がっていたことだった。

 

的確に突如として発火した1人は暑さに耐えきれず、走る車から身を投げ雨で鎮火しようとした。だがその炎は雨に触れても消えることはなく、車は近くのコンビニに激突し爆破と炎を上げ更なる犠牲者を生む。

 

身を投げた人物も、消えず燃える炎に命を奪われ、後続のトラックに頭を潰され命を落とした。だがそのトラックに乗る運転手もまた、体が燃え上がり火だるまのようになり命を落とす。

 

 

別の場所でも同じような光景が繰り広げられ、現場は阿鼻叫喚の地獄となっていた。公衆電話のBOXの中に逃げた人間も、例外なく火だるまになり焼死。

 

学校に通う生徒たちも例外なく焼死。

 

焼死体が散らばる。それに気を取られた人間が新たな事後を起こし犠牲が増えていく。永遠に消えることのない負の連鎖。

 

 

 

『お前……っ!!』

 

だが未確認生命体の中にも、4号と呼ばれる人物が居た。彼は1年前の未確認生命体事件が初めて確認された時から観測されており、他の生命体とは違い、人間を助け、同じ種族であろう未確認生命体を次々と撃破していくという特異な生命体だった。

 

『きっと4号が助けてくれる』

 

『お父さんやお母さんも助けられた!だから4号が何とかしてくれる!』

 

『4号なら!』

『負けんなよ4号!!』

『頼んだぞ4号!!』

『お願い4号!!!』

『頑張れ4号!!』

 

世間はいつものように”4号”に希望を押し付け、今回もすぐに事件は解決すると思っていた。

 

だが、次に新聞やネット、テレビのニュースの一面を飾ったのは____被害の拡大と

 

4号の敗北だった。

 

 

 

 

 

 

〜1日前・弦巻邸、AM7:28〜

 

『先日の4号の敗北を影響に、更に被害は増え__』

 

まるで4号が敗北したから、被害は増えたと言わんばかりに言葉を放つニュースを、電源を切ることで遮る。

 

4号と呼ばれた彼は、暗くなったテレビの画面に反射して映る自分の顔を見ていた。

 

(どういう顔してんだ、俺……)

 

反射した液晶に浮かぶ俺の顔は、自分でも分からないほど無だった。テレビにリモコンを投げつけて憤る訳でもなく、酷い言われようのニュースに涙する訳でわもなく、ただただ、無表情だった。

 

別に恨んじゃいなかった。醜いといわれる場所も含めて人間だと理解していたし、幼少期からそういう場面に沢山出くわしてきた。今更何かを思うこともない。

 

半端な俺が0号__ン・ダグバ・ゼバに挑んだ結果がこうだったから、仕方が無いんだ。

 

 

そう、ほんとうに、それだけの話だったんだ

 

「………」

 

だが、そう思い込もうとしても、人としての俺の心は……少し曇り始めていた

____________

 

 

 

『お前は……っ!?』

 

ビートチェイサーから飛び降りるようにして俺は地面へと足をつけた。既に辺り一面は焼け焦げたモノがひろがっており、それから漂う臭いに鼻がツンとする。

 

それが何だったのか、俺は直ぐにわかった。次の瞬間、身体が沸騰しそうな程の怒りが湧いてくる。

 

『来たんだね』

 

声がした。怒りに身を任せ振り返ると、そこには俺と似た様な年齢の少年が立っていた。白いシャツに白いズボン、白い靴を履いた少年は俺に話し掛けていた。

 

『っ!!!』

 

俺はソイツが元凶だと、本能で察し直ぐ様クウガへと姿を変える。赤の金____そのまま黒の金へと姿を変えて、俺はそいつに拳を叩きつけようと駆け上がった。

 

 

 

『はっ……はっ……あ、がぁ…っ!』

 

 

 

だが、アイツにとっては、俺の全ては児戯に等しい様で、俺は完膚なきまでに敗北した。拳の重みも、蹴りの重みも、全てが桁違いだった。

 

殴られれば身体の中身が丸ごと揺さぶられるような衝撃に包まれて嘔吐する。出ては行けない中身が出た感覚に襲われ再び吐血する。

 

「うふふっ!」

 

遊ぶように、まるで人形を握るように頭を掴まれ、地面へと叩きつける。ゴシャ、グシャ、べキッと頭蓋がヒビ割れ、脳味噌が出ていきそうになる感覚があった。

 

必死に腕を掴み、頭部へのダメージをこれ以上蓄積させない為に足掻く。傍から見ればみっともなかっただろう。滑稽に見えただろう。

 

世間が見てるのは戦いじゃない、テレビや新聞で見た、4号の英雄譚だ。

 

『ははっ!!あははっ!!』

 

ボロ切れのように転がるしかない俺を再び手に持ち、まるで玩具で遊ぶ子供のように、俺は一方的に壊された。アマダムによって強化され、治癒能力も人間の何十倍となった俺の身体は無慈悲にも驚異的速度で回復する。

 

千切れた神経は繋がり、血管は修復されて血が流れる。折れた骨が再び繋がろうと動いてくのを体感していた。

 

「キミ、凄いんだね」

 

だが数秒後には、再び壊される。修復すれば再びそこを潰す。形の変えたスポンジが元に戻るのを面白がって、また形を変えるように。

 

 

 

そして目の前で只管に、遊ぶように何人、何十人、何百人、何千人の人間の命が葬られた。覚悟を決め切れずにいた俺に対しての罰のように

 

雨が身体を打ち付ける中、俺は痛みを堪え、懸命に手を伸ばしていた。そんな俺をダグバはただ笑顔で見ていて_次の瞬間に俺に手を伸ばしていた子供と母親が燃えた。

 

『あっ……あああああっ……』

 

憎しみよりも先に、無力感と絶望が俺を襲った。

 

『どうしたの、もっともっと強くなって……僕を笑顔にしてよ』

 

涙か、雨か、血か、全てが混ざって俺の頬を流れていく。そんな中ダグバはそう言い放って__消えた。

 

 

『うっ……うぁ、ぐっ…!』

 

無理矢理身体を起こし、近くの物にしがみついて立ち上がる。どこに行ったのかなんと分からない。追いつける自信も更々無かった。自分にも分からない、相手はもう居ないのに、何故立ち上がりアイツを倒そうとしているのか

 

不意に、横にある鏡が俺を映した。

 

かつてジャラジと戦った際に、アマダムが警告を促し俺に見せた凄まじき戦士、角や全身のトゲトゲしさはなくとも、今の俺は確かに黒くなって前よりも凄まじき戦士に近づいている。

 

そして、そのアマダムに____ヒビが入っている事にも気が付いた。

 

 

___________

 

 

 

(……)

 

ダグバが消えたあと、俺はすぐ駆け付けた黒服さんに拾われ、肉体とビートチェイサーは弦巻邸に送られた。

 

そして数時間の休息、その後すぐに医療室に呼ばれ俺は椅子に座った。目線の先では黒服さんが座っており、どことなく疲労を感じさせていた。

 

だがサングラスをピシッと整え、彼女が離そうとする言葉に俺は耳を傾ける。

 

 

『八意様のアークル、その霊石に、ヒビが入っています。石の力はいつものように稼働していますが…次、また同じようなダメージが入り、霊石が破壊されてしまえば』

 

 

「死ぬんですよね」

 

『……はい』

 

当然っちゃ当然だろうなと、内心思ってしまった。俺が取り込み、今までずっと俺の身体に馴染んでいたアマダムは、いわば俺にとっての第二の心臓のようなものになっているんだろうとどこかで分かっていた。

 

当然俺の身体の隅々まで神経組織のようなものを張り巡らせているアマダムが破壊されれば俺は死ぬ。

 

 

だが、今の俺の心配はそこではなかった

 

 

『もし、俺が死んだら……アイツらみたいに爆発するんですかね』

 

俺が漏らした声に、黒服さんの目がサングラス越しでもわかるくらいに揺らぐ。

 

『影響はないと思われますが……八意様、しかし』

 

『……』

 

黒服さんの言いたいことは分かっている。きっと自分が死ぬことは何とも思わないのかと思っているんだろう。この人達は何だかんだ言って優しい人たちだから。

 

『何も思わない訳じゃ無いんですよ。でも……彼女達に迷惑は掛けたくないし、それに葬式をあげるなら棺に入れる物だってあるべきだと俺は思うんです』

 

その言葉に、微かだが黒服さんの眉がピクリと動く。室内の空気が、微かに冷たくなる。

 

『俺だって死にたい訳じゃ無いです。ただもしもの事があったらですよ。アイツと戦ったら俺は多分……元の俺に戻れないでしょうから』

 

そして俺は、言葉を口にした。

 

『俺”凄まじき戦士”に、なろうと思ってます』

 

『……八意様』

 

張り出された俺のレントゲン、その写真越しでも分かる程のアマダムと、そこにあるヒビ。それを見ながら俺は口にした。

 

『そうじゃないと、アイツを倒せない。アイツと同じにならなきゃ……きっと勝てない』

 

俺なりの覚悟を出して、黒服さんの方へと顔を向ける。サングラス越しの彼女の目は、先程とは違った感情で揺らいでいた。だがそれを必死に理性で抑えようとしているのも垣間見える。

 

『正直、黒の金になった時。親父と戦った時のあの姿を見た時、俺はもう強くならなくてもいいと思ってました。もう半分人間じゃないって感じですけど、それでも、グロンギのようになってしまわないようにって』

 

『……』

 

『でも、昨日アイツと戦って、思い知らされました。ダグバを倒すには…ダグバと同じになるしかないって』

 

『ですがそれは……っ!!』

 

淡々と話す俺に、黒服さんがとうとう耐えきれなくなったのか机を叩いて声を荒らげた

 

『心清き戦士、力を極めて戦い邪悪を葬りし時汝の身も邪悪に染まりて永劫の闇に消えん。それが碑文に書かれたかつての凄まじき戦士です!そんなものになってしまったら、貴方は貴方ではなくなる!!ダグバを倒した後も、貴方は生きなければならないのですよ!!』

 

その言葉を放った後、ハッとなったのか小さく謝罪して、再び席に着いた。

 

『黒服さんも、やっぱり俺が勝つって思ってるんですね』

 

『……え?』

 

黒服さんの言葉、何故か無性に腹が立つ。

 

『皆そうだ……、毎度毎度俺の事も考えずに、どんな気持ちで戦ってきたのかも分からない癖に、殴る感触、斬る感触、刺す感触、痛みだって誰も理解しちゃくれない…っ!!』

 

黒服さんは優しい人というのは1番わかっている。今も俺が勝つ、俺が勝って生きて帰ってくる。そう信じた上での発言なのはわかっていた。

 

だが今の俺は、それに腹が立って仕方無かった。あまりにも子供じみた感情が溢れ出し、顔に、言葉に出る。

 

「今回だってそうだ!アイツに負けて、そしたら世間は何だよ!俺に全責任を押し付けるみたいな言い方して!」

 

「八意様……」

 

「勝つのだって当たり前じゃない!俺だって死ぬかもしれない!なのにまるで生きて帰るのが当然みたいな口で言われて……今こうしてベルトにヒビが入ってる、次変身してまともにアイツとやり合えば、どんな結果になるなんて分からないのに!!」

 

ぶつける、俺が今まで溜めてきていた不満を。誰にも言えずに、誰かに言おうともせずに一人で勝手に溜め込んできた感情を。

 

いちばん俺を信じて、サポートしてくれていた人に目掛けて、それを言われた相手の気持ちすら理解しようともせずに

 

惜しみもせずに、何もかもを黒服さんにぶつけてしまった。

 

 

「………」

 

「はぁ……はぁ……」

 

息も絶え絶えになりながら、全てをぶつけ終わった俺は肩で息をする。黒服さんは表情一つ変えずに俺を見ていた。

 

だが俺は……その黒服さんの目を見れなかった。怖かった、失望されたかもしれないって考えると、目が見れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ……この子は本当に優しいんだ』

 

初めて彼に声を荒げられた。最初から今までずっと文句1つ言わない彼に心配の声を漏らす黒服達も居たが、1歩踏み込めずに今までその心の悲鳴に耳を傾けようとする者は居なかった。

 

否、怖い気持ちが勝っていた。彼が居るところは普通の人間では到底味わえない世界だ。共感することは決して出来ない、同情も出来ない。下手にしてしまえばかえって彼を傷つけてしまうんじゃないかという恐怖があった。

 

だが今こうして彼は自分の悩み、怒りを自分にぶつけている。

 

だがその内容の節々で、彼は世間へと怒りなどより、自分に対する後悔や恐怖が渦巻いていた。

 

あの時中途半端な気持ちで挑んだから被害が増えた。もっと自分がちゃんとしていれば防げたかもしれない。

 

人間で無くなっていく自分が、今井リサ達と一緒にこれからも過ごしていいのか。ダグバと相打ちになって、本当の意味で未確認生命体がゼロになるべきではないかと。

 

大人である自分達でさえ経験しない事をしてきた。それもお嬢様達と同じような年齢の子供が……

 

痛かっただろう、苦しかっただろう、悔しいこともあっただろう。今まで一言も弱音を吐かずに頑張り続けてきたであろう彼は、今こうして目の前で1人の子供に戻ってくれている。

 

それが無性に嬉しくて、自分がこの子の親になったような感覚に包まれる。

 

彼は”戦士”である前に、1人の子供なのだから……

 

本来なら戦いに巻き込まれることは愚か、自分たちと一緒にいるはずのない人間だったはずだ。

 

「……」

 

やがて、全てを吐き終えたのか彼が肩で息をしながら立っていた。暫くして冷静になったのかこちらと目が合わなくなる。

 

この時、自分ならどうするだろう。底が見えないほど明るいお嬢様とも違う。1人の少年。

 

子供すら持った事ない自分が、何か言葉をかけてやれるのだろうか。お疲れ様ですなどという他人行儀な言葉じゃない。

 

全てを許し、全てを信じ、全てを包み込んで受け入れる言葉を。

 

 

「……八意様」

 

ふと、立ち上がり彼の元へ歩み寄る。自分が出来るのはこんな事しかないが、想いは必ず伝わってくれると心で信じる。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

そっと優しく彼に腕を回して抱き込む。母が息子を抱き抱えるようにそっと、そして頭に手を置く。ぎこちなくてもいい、今の彼にはきっと____親のような人が必要なんだ。

 

「黒服さん……?」

 

突然の謝罪に困惑し、そのあとの行動に余計に混乱が重なる。それに抵抗する力を感じる。拒絶というより、困惑から来るそれを黒服は受け流して頭に置いた手を動かす。

 

「貴方の苦しみを、1個も聞こうともせずに」

 

「そんなつもりじゃ……」

 

先程までの本心を否定するように口を動かす彼に構わず、黒服は言葉を交わす。

 

「貴方だって苦しかったのに、痛かったのに、それを理解せずに全てを押し付けて……ごめんなさい」

 

親を理不尽にも亡くし、どれほど腐っていようとも唯一の肉親を自分の手で葬り、そんな彼の気持ちなんて簡単に共感できるものではない。

 

 

「貴方の全てを理解できるとは思いません。でも貴方には私達やお嬢様、Roseliaの方々がいらっしゃることを忘れてはなりません」

 

彼女達と話す時間、お嬢様達と話す時間は、唯一彼が戦士という肩書きを捨てられる時だったと黒服は信じながら話す。彼はどう感じているかは分からないが、それでいい。

 

「……」

 

彼は暫く、何も言わなかった。だが最初のような抵抗は徐々に弱まり、遂に抵抗をあきらめる。

 

ぐっと何かをこらえるような啜りが聞こえ、彼が一言だけ、短く言葉を放つ。

 

「……すいません、もうちょっとだけこうしててもいいですか?」

 

「良いですよ」

 

俯き、表情が見えない彼に黒服は返事を返す。今はこれでいい、無理矢理顔を見ようとするほど、自分も野暮ではない。

 

「あと、ちょっとだけスーツ……汚してもいいですか?」

 

「ええ……スーツくらい、直ぐに晴れますよ」

 

「……すんません」

 

次の瞬間、彼の頭がそっとスーツの肩に押し当てられる。震える身体が、黒服に預けられる。

 

 

「うっ……ううっ………!!」

 

 

そこから暫くの間、1人の戦士は少年になった。

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

「落ち着かれましたか?」

 

「はい……」

 

ほんの数分だったが、彼のありのままを見れたことに優越感を感じつつ、同時に自分から離れる彼に少しばかりの寂しさを感じる黒服。母性というものはこういうものを言うのかと内心思いつつ、目の前に立つ彼の目を見る。

 

そこに先程のような葛藤は無く、いつもの……八意想が立っていた。

 

「俺、戦います」

 

「はい」

 

かつて、初めて未確認生命体が出てきた時にも言われた言葉。あの時は危ないと、子供が出しゃばる問題ではないと一蹴した言葉が、今はこんなにも頼もしく聞こえる。

 

「でも、その前に……少しばかり時間をくれませんか」

 

「時間、ですか?」

 

「あ、いや……こんな時にやってる場合じゃないと思うんですけど、でもやっぱり怖い物は怖いんです。だから彼女達からちょっとだけ勇気を貰おうかなって」

 

気恥しそうに頬をかく彼、目線が再び泳いでいた。恐らく凄まじき戦士になる覚悟を決めているであろう彼がそんなことを言うのが少しだけ可愛く感じてしまう。

 

微笑みそうになる顔を引き締め、彼女は言葉を出す。

 

「……かしこまりました。只今現在警視庁と連携をとり、対0号用レーダーを作成中です。全国各地に不意に現れる0号を補足できるように。それが完成するまで最短で数時間……その間なら時間はあります」

 

「……ありがとうございます」

 

「完成した際はすぐさま連絡を入れます、携帯端末もしくはビートチェイサーでよろしいですか?」

 

「もう使えるんですか?」

 

「ええ、ビートチェイサーの修理は完了しています。今の貴方にはあれは必要でしょう?」

 

「流石黒服さんだ、じゃあ有難く使わせて頂きます」

 

「ええ……それでは私はこれで」

 

黒服は、サングラスをカチャリと整え部屋を出る。俺もそれに続いて部屋を出た。ポケットからスマホを取りだし、連絡を入れる。

 

戦いまで数時間、やっておきたいことは色々とあるのだ。

 

 

 

――――――――――――――――

 

〜弦巻邸・AM8:20〜

 

「……それで、なんでお前らは全員ここに居るんだ?」

 

「こんな時、だからじゃないですか?」

 

部屋を出て、暫く歩いているとやけに騒がしい部屋がひとつあった。防音がきいているはずの屋敷に響き渡る音。否――演奏

 

この破天荒なリズムと聞き覚えのある歌声、俺はまさかと思い扉を開ける。

 

そこにはこころ、はぐみ、薫、花音、美咲、ハロハピ全員が勢揃いして何やら作戦会議をしていた。

 

各自、俺に気が付いたのか挨拶やら言葉を交わす。この時ばかりは肩の重荷が消えていくのを感じる。

そして、再び作戦会議に戻る彼女達を、俺は遠目から眺めていた。片手にははぐみの家の特製コロッケを2個持たされている。その先でははぐみがまだまだあるよ!!と言いながら紙袋からコロッケを取り出していた。

 

どんだけあるんだ、今も出てきたぞ。あの紙袋のどこにそれだけの収容力があるんだ。

 

また出てきた、あの紙袋は四次元ポケットか何かなのか。はぐみの家の押し入れには青狸が住んでいるのか。

(アイツ猫だったか……?)

 

そんなことを思いつつ手にあるコロッケを見る。というか直持ちさせられたので恐らく手はベタベタだ。指舐めたい

 

そして横には会議を少し離脱した美咲が立っている

 

「土砂降りの豪雨の中よくもまぁ集まろうと思ったもんだ」

 

「それもこころの無茶振りだと思えばなんとも思いませんよ、ほんと出会ってからどれだけ振り回されたことか……」

 

「でも嫌な顔1つしてねぇもんな」

 

「……それがハロハピですから」

 

ホワイトボードには、大きく笑顔にする世界について書いてあった。その中には未確認生命体の文字も書いてある。

 

「……ほんと、驚かされるよ。お前らのボーカルには」

 

「今の状況も、0号の仕業なんですよね」

 

「……ああ」

 

「どんな人でした?」

 

「ずっと、笑ってた。まるで貼り付けたみたいな笑顔をしてた。無邪気に……子供がアリを踏み潰すみたいな感じで命を奪ってた」

 

思い出すだけでゾッとするような事だが、隠す必要も無い。

 

「あたし達が笑顔にするってこころは頑張ってますけど、絶対無理だなんて言えないしなぁ」

 

「アイツにはああやって居てもらうのが1番だと思うぞ、はぐみも、こころも……ああやって純粋に育っていけばいいんだ」

 

「…想さんはどうするんですか?」

 

ふと、美咲が聞いてくる。

 

「未確認生命体事件が終われば、旅に出ようかなって思ってたりすんだけどどう思う?俺この世界まだまだ知らねえ事だらけだし」

 

「……怒りますよ」

 

「……」

 

会う寸前まで考えてた急拵えの嘘。ダグバと戦って無事で済むなんて考えてなかった。俺だけ死ぬつもりは当然無い。必ず相打ち迄には持っていく。だが死んだらそれはそれで彼女達を傷付けそうなので、旅に出るということにすれば少なくとも傷つかずに済むかなと感じていた。

 

「それ、ほかの人にも言ったんですか?」

 

「いや、お前が初めて……すまん」

 

「私一応姉してるんですよ。他人の嘘くらい、すぐ見抜けます。それに想さんくらい長くいるなら余計です」

 

「俺そんな分かりやすいのか……?」

 

これでもポーカフェイスは得意(自称)の俺だが、流石に今のは堪える。

 

「死ぬつもりですか?」

「俺だけ死ぬ、なんて事は絶対させない。でも生きて帰れるっていう保証もない……かな」

 

「戦いって、そういうものですもんね。どっちが死んでもおかしくない、勝ちが確定した戦いなんて今迄無かったですもん」

 

「……まぁな」

 

「でも、あたし信じてますよ?想さんが勝って、それで帰ってきて、いつものようにあたしと一緒にこころに振り回される未来を」

 

「そりゃ死ねないな」

 

「はい、だから……生きて帰ってきて下さい。絶対に。ハロハピの演奏、また聞いてもらいますよ」

 

「ああ」

 

「約束、ですからね」

 

「分かってる」

 

「美咲!こっちに来て!今とーってもいい考えが出たの!!」

 

心配してくれているのだろう、何度も確認する美咲。だがその時、こころが美咲を呼ぶ。

 

「行ってやれよ、ハロハピにはお前が居ないとダメだろ?」

 

「想さん……」

 

「俺は、ちょっと外に出てくるよ。俺が居ると出来ない話もあるだろ?」

 

「……はい」

 

「そんな心配そうな顔すんなよ、帰ってくるから」

 

絶対、という言葉が付けられなかった。美咲もそれに気づいてるのか、揺れる瞳がこちらの瞳を捉える。

「じゃあな」

 

俺は美咲の頭に手を置いて、コロッケを口に放り込む。冷めても美味しいとはよく言ったもので、味はしっかり美味い。

 

こころ達が話す声を背中に、俺は弦巻邸を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……美咲ちゃん」

 

彼が去り、ハロハピのメンバーだけとなった部屋。こころやはぐみ達がホワイトボードに書いていく最中、美咲が俯いているのに気が付いた花音が声を漏らす。

 

「これで良かったんですかね」

 

「美咲ちゃんはどう思う?」

 

「良かったって言えないのがなんとも……」

 

「じゃあ、後は信じるだけだね」

 

「花音さん……」

 

「私が美咲ちゃんを信じてるように、美咲ちゃんもあの人を信じてあげないと」

 

「そう、ですよね……うん」

 

彼は帰ってくると言った。彼を信じる……それが自分に出来ることだと改めて実感する。

 

「美咲!ミッシェルにこう伝えてくれるかしら!」

 

「どうしたの?こころ――」

 

美咲は前を向いて、ハロハピの活動に参加する。

 

いつか伝えるべき想いを、胸に秘めて。




最初は1話に纏めようと思ってたのですが、なんかボリュームがとんでもない事(当作品比)になりそうだったので前編と後編に分けさせて頂きました!!

アギト編も今絶賛書いてるので、そちらもよろしくお願いします!G7めっちゃかっけぇ……

後編の後書きには、この作品のアレコレかけたらいいなぁって思ってます。ヒロインの経緯だったり主人公がどうやって産まれたのか。そういうの書けたらなぁ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。