聖騎士、魔術師、盗賊、僧侶――全員が見目麗しい女性であり、尚且つ見た目以上の実力を持つ。
そんなパーティにはある秘密があった。
「俺が本当は男だという事を知られてはいけない、絶対にだ」
「まだ吾が男だという事は露呈していない筈だ、大丈夫、大丈夫」
「僕以外は皆女性だし、もし男だって知られたら殺される……うぅ」
「私が男だという事は絶対に知られてはいけないのです……!」
このパーティメンバーは皆、実は男である。
自分以外は皆女性で、絶対に自分の性別を知られてはいけないと信じ込んでいる男の娘の冒険が今始まる。
尚、始まるとは言っていない。
怪物――それは古来より存在する、人を脅かす魔物・獣の総称である。
そしてそれを狩る者――狩人。
怪物の蔓延るこの世界に於いて、狩人とはなくてはならない存在だった。戦えない者の代わりに武器を取り、数多の怪物を屠り街を、人を、国を守る存在。人の身でありながら己より遥かな強大に挑む者達を人々は嘗て『英雄』と呼んだ。
そして、この街にもまた英雄と呼ばれる狩人が居る。
街の中を颯爽と歩く四人の人影。その人物を目にした途端、道行く人々は素早く脇に退け道を譲る。それらを目で追いながら、彼女たちは路のただ中を歩く。
先頭を歩く女性、ユキ・イチジョウ。
銀の甲冑を着込み、短く切りそろえた黒髪を靡かせる彼女は巨大なタワーシールドとランスを持ち、聖騎士の名に違わぬ活躍を約束する元聖堂教会席次持ちの人物。その守りは鉄壁・堅牢、そしてランスの一撃は岩をも砕く鋭さを持つ。仲間を守り、鼓舞し、敵には恐怖と死を齎す。実質的なパーティリーダーであり、メンバーからの信頼も篤い。
その後に続くノイマン・アーデルハイト。
嘗て瞳を探す者に所属していた魔術師、若き俊英。尊大な口調と自身に満ち溢れた態度を常に取り、そしてその態度に見合うだけの実力を持つ。基盤魔法技術のみならず発展魔術にまで手を伸ばした本物の天才であり、戦闘では己が開発・製造した特殊なリングを使用する。常に黒い衣服で統一し、腰まで届く銀に靡く髪は神々しいの一言。その美しい外見からファンも多く、きつい口調ながらも根強い人気を誇る。
脇で周囲を眺めながら歩くフー・シンイェン。
軽装に身を包み、いつもへらへらと笑っている茶髪の少女。髪は肩口まで伸ばされており、体の至る所に暗器を仕込んでいる。パーティの中では一番小柄な体格で、その童顔から最も年齢が低く見られがち。しかし、その実彼女は暗器のスペシャリストであり毒物にも精通している生粋のデバッファー。獲物を確実に弱らせ、パーティに貢献するその姿は毒物使いとして恐れられている。
最後尾をのんびりと行くコルガノフ・エルヴィラ。
以前は医療教会に勤めていた僧侶であり、緩い金髪と白い肌を持ち体の先は細い。神に仕える者らしくその物腰は丁寧で隙が無い。しかし情に篤く、使命感に駆られる彼女は怪物に挑む事に何ら疑問を持たない。イスラを信仰し医療の術を身に着けている為、パーティに於ける衛生面を担当する。非公式ランキングでは嫁にしたい狩人ランキングのランカーである。
周囲から突き刺さる視線に肩を竦め、先頭を歩くユキは口を窄め呟いた。
「……なんだか、視線が刺さっている様な気がする、居心地が悪い」
「いつもの事だろうに、諦めろ、というよりもまだ慣れていなかったのか、貴様」
「いや、慣れないよこんなの、元々注目されるのが苦手なんだ」
「僕も同じかなぁ、何度歩いても新鮮だけれどねぇ、ふふふっ、承認欲求が満たされるぅ~」
「まぁまぁ、それだけ私達の活動が認められているという事ですよ、喜ぶべき事だと思いますよ?」
「それは、そうなんだろうけれど……どうにも、俺が小心者なだけなのかな」
「貴様はフー位図太くなっても良い、或いは吾の様に動じないよう備えろ、貴様が右往左往すると吾まで舐められる」
「ぐっ、わ、分かったよ……」
和気藹々とした雰囲気である、彼女たちには誰も声を掛けられない。結成されてから僅か一年、その一年の間にこの四人の活躍は国を超えて知られる様になった。その実力は熟練の狩人に負けず劣らず、それでいて見目麗しい少女で固められたパーティがあると知られればそれは当然注目される運命にある。
リーダーであるユキはどこか居心地が悪そうに、アーデルハイトはそも気にしていないというスタンスで鼻を鳴らす。フーは時折視線を寄越す市民に手を振って笑い、エルヴィラはそんな三人の様子をニコニコと見守っていた。
「あれが例の四人組か……凄い狩人なんだって?」
「あぁ、前は西側の竜を討伐したンだとか、それに皆偉い顔立ちが整っていやがる」
「腕も良いし外見も良い、そりゃあどこも重宝する訳だ」
「報償金もべらぼうに高いって噂だが――」
四人の通った後には噂話が蔓延する、それをアーデルハイトは有名税と言っていたが――やはり未だに慣れない。ユキはそわそわと肩を揺らし、視線を左右に泳がせた。そんな彼女の背中をアーデルハイトは強く叩く。甲冑越しだが衝撃は伝わり、慌ててユキは姿勢を正し前を見据えた。それを見てフーとエルヴィラは小さく笑う。
少し小心者だが戦闘では頼りになるリーダー。唯我独尊ながらもユキを補佐し、方針を打ち立てる頭脳を持つアーデルハイト。ムードメーカーかつ痒い所に手が届くフー。他人を思いやり調和を重んじるエルヴィラ。このパーティのメンバーは互いが互いを好ましく思っていた。この出会いを運命と信じ、パーティの為に骨を折る事を厭わない。確かな繋がりを彼女たちは持っている。
だが、このパーティには一つ――大きな秘密がある。
「さて……それで、此処が次の滞在先か」
両手を腰に当て、目前の建物を見上げるアーデルハイト。その建物は宿泊施設であり、狩人向けの長期滞在サービスを行っている場所であった。今回、この街で活動するに辺り予め長期滞在可能な宿を探していたのだ。そして先んじて重い荷物の類を宿に運んで貰い、漸く滞在先に到着した――というのが現状の彼女達である。
建物はそこそこ大きく、三階建てで清潔感もある。「おー、結構良い場所だね」とフーが呟けば、エルヴィラは同意する様に頷いた。
「既に部屋の方は用意されていると思いますので、受付で鍵を受け取りましょう」
「そうだな――ところで、その、エルヴィラ」
「うん? 何でしょうか、ユキ」
ユキがどこか歯切れ悪く問いかけると、さらりと金髪を耳に掛けながら首を傾げるエルヴィラ。その女性らしい仕草に胸を弾ませながらも、ユキは努めて何でもない様に問いかけた。
「部屋は、えっと、四人全員同じ大部屋なのか?」
「――えぇ、特に分ける必要性を感じなかったので……何か問題でも?」
「い、いや、何でもない、そうだよな、うん」
エルヴィラの答えにユキは慌てて顔を逸らし、何でもないと繰り返した。そんな彼女の顔を覗き込みながら、アーデルハイトは告げる。
「何だユキ、吾等は『女同士』だろう、別に気にする必要もあるまい」
「僕もそう思うな~、それともあれかな、偶には一人部屋が良いとか?」
「別にそういう訳じゃない、気にしないでくれ……ほら、鍵を取りに行くんだろう、行こう」
そそくさと一人、扉を押して建物の中に入るユキ。そんな彼女の背中を見送り、メンバー三人は疑問符を頭の上に浮かべていた。
――少なくとも、表面上は。
■
部屋に案内された四名は目前に広がる一室に目を輝かせた。大部屋となると大抵四人から八人、多い時に十六人で使う様な部屋となるが地方の宿場であると余り広い間取りは取れず、窮屈な思いをする事が多い。しかし今回の宿はアタリであった様で、貴族街の宿を思わせるような調度品に広々とした空間、天井も高く部屋は解放感に満ち溢れていた。一番に乗り込んだフーは腕を振りながら周囲を回り、満面の笑みで告げる。
「おぉ~、大きい部屋だね!」
「えぇ、今回は少し奮発しました、四人で過ごすにも十分なスペースがありますよ」
「……ほう、驚いたな、若しかしてこの宿で一番良い部屋なんじゃないか?」
「その通りです、トイレとお風呂も部屋に付いていますし、便利ですよ」
「風呂付き? それは嬉しいな、助かるよエルヴィラ」
「僕もお風呂好きだから助かる~!」
まさか風呂まで付いてくるとは、
――何てことをするんだエルヴィラ! 風呂なんぞ部屋に付けたら俺が男だという事が他のパーティーメンバーにバレやすくなっちゃうでしょうがッ! 俺を殺す気かッ!?
穏やかな顔で笑いながらそう胸内で叫ぶユキ。微かにその口の端が引き攣っていた。風呂付きなどとんでもない、今の今までは湯浴みの際は外に出かけていたので、皆が思い思いのタイミングで向かっていたが――今はそれが出来ない。ユキは青白くなった顔を隠す様にしてそっぽを向いた。
その隣でアーデルハイトは腕を組み、「最近は忙しかったからな、吾々も少し贅沢を憶えても良いだろう」と口元を緩める。
そしてユキと同じように内心で絶叫した。
――イヤァァァアアアアッ! 吾ピンチ! マジピンチッ! 何やってんのエルヴィラ!? 貴様、吾を殺す気か!? 吾以外皆、
腕を組んでいる肩が良く見ると小刻みに震えていた。別に寒い訳ではない、恐怖に震えているのだ。アーデルハイトはそれを悟られない様に必死に唇を噛んで耐えていた。
そして無邪気に両手を挙げて喜んでいるフー。「お風呂楽しみだなぁ、あ、僕ちょっと先に見てきて良い?」などと云いながらごく自然に輪を抜け出す。
そして額に滲んでいた冷や汗を拭いながら震える指先を握り締めた。
――馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないのッ!? これバレる奴じゃん! どうやったってバレる奴じゃん!? この後どうせ皆、部屋のお風呂となったら薄着になるんでしょう!? どうやって誤魔化せって言うんだよ!? はい! 僕終了のお知らせッ! 以上、解散!
今までは各々が勝手に風呂を済ませていたから何とかなっていた、しかし部屋に風呂があるなら態々外で湯浴みをしてくるのは不自然だし、明らかに疑われる。しかし、だからと言ってこの部屋の風呂を使って男性である事を隠し通せるだろうか? というより、見目麗しい少女が同じ部屋の風呂を使っているとう事実に自分が耐えられるかどうか。フーは荒くなる吐息を必死に抑え込み、目をぎゅっと瞑った。
エルヴィラはニコニコと微笑み、「えぇ、えぇ、皆さんに喜んで頂けて何よりです」と頷く。そして内心で思考していた。
――私以外は皆女性、えぇ、えぇ、そうでしょう、皆そういうリアクションを取るでしょうね。故に此処は自然に、何もやましい事はない振る舞いをするのです。女性同士でお風呂は自然、ならばそれを先に提案しておけば私は疑われない……後は肌を晒すのはちょっと、などと言って不自然にならない程度に風呂を済ませれば完璧です。
自分以外は皆女性、であれば彼女達と同じ女性であったらどうするか――という行動を行う事により、まさか自分が男性であるとなんて思考もさせない。故に一見、自分の首を絞めているような行為でも全てが全て無駄ではない。それに、彼女たちにこういった広く伸び伸び出来る部屋で、ストレスフリーに過ごして欲しいという思いは本物だった。
うふふ、あはは。
互いに笑い合いながらしかし、その顔の下では大量の冷や汗と脂汗を流す。
そう、このパーティの秘密。
それは美少女四人組ではなく、男の娘四人組である事。
――そして皆が皆、自分以外の三名は美少女であり、男は自分だけだと誤解しているという点である。
「っそ、そうだユキ、偶には一緒に風呂にでも入るか? 吾が背中を流してやっても良いぞ、ん?」
「ッ!? い、いや遠慮しておくよ、大浴場ならばまだしも部屋の風呂では手狭だろうしな……代わりにフーとでも入ると良いんじゃないか? ほら、小柄だし、な?」
「いッ!? あ、あはは、いやぁ、ぼ、僕も人と入るのは、えっと、エルヴィラとかの方が良いんじゃないかなぁ」
「! 私は医療教会の教えで無暗矢鱈と肌を見せる訳にはいかないのです、申し訳ありませんが一緒に入浴は難しいですね……」
「そ、そうか、ならば仕方あるまい、うむ………ヨカッタ」
「えっ、アーデルハイト何か言った?」
「!? いや、何も言ってないぞ、気のせいだろう」
「そ、そっか、うん」
四人は背中で拳を握り締めながら内心で叫ぶ。
――他の三人に知られてはいけない、(俺・吾・僕・私)が男だという事は……!
(続きは)ないです。