それでは今回も、対よろです。
ステータスプレートが渡されてから二週間、つまり悠馬がメルド団長に直談判しに行った日から一週間が経った。
あの夜話されたことは次の日の訓練から実行され、あれから1週間ハジメは図書館で本の虫と化しているのだった。
そして悠馬はというと……
「……悠馬は図書館で何してんのさ、まだ訓練中のはずでしょ?」
図書館にてハジメの隣に座り、本を読んでいた。
「あ、あははは…ちょっと来週の遠征のために予習をな……いやでも!メルドさんからは許可を貰っているし!ちゃんと今日習う予定の内容はこなしてきたんだぞ!?」
夜に大迷宮に向かうための予習、とは正直に言えないのでぼかして反論する悠馬。「まぁメルド団長に許可を得てるなら大丈夫か…」と呟くハジメを横目に読んでいる本に目を落とす。現在悠馬が一人で行っている大迷宮は十八階まで行っていた。本当はそのための予習なのだが上手い感じに来週を予定されている生徒+騎士団の大迷宮攻略の予習のためのようにハジメには見えるであろう。悠馬は魔物の造形と使用してくる固有魔法を調べていく。
そんなこんなで一時間後、急にハジメが声をかけてくる。
「…ねぇ悠馬、このアザンチウム鉱石ってどこで手に入るのかな…」
「アザンチウム鉱石?」
と、悠馬はハジメの読んでいた本を覗き見る。
アザンチウム鉱石──世界最高硬度を誇る鉱物であり…………
と始まり長々と説明されている。
「うーん、書いてある情報だけではなんとも言えんなあ……」
「だよねぇ、これがあれば悠馬の刀に丁度いいと思ったんだけど…」
「まぁ今のやつでも全然使えるけどな、……確かにちょっと脆いけど」
「うん、数日打ち込んだだけで刃こぼれするのはね……」
──ちなみに現在悠馬が使用しているハジメが試作した刀、普通の人がただの打ち込みをしたら刃こぼれなんて全く起こさないレベルの物だ。悠馬が大迷宮の魔物相手に使っているから消費が早いだけなのである。
「ふーむ、鉱石ねぇ………いい鉱石を加工できるようになれば幅が広がりそうだからな、メルドさんに話してみるか」
「いいのかなぁ、僕みたいなのにそんなことしてもらっちゃって…」
「はは、あの人なら快諾してくれるさ。俺からも口添えするし」
「ありがとう悠馬、いつか僕の作った武器でお返しできるように頑張るからね!」
「おうよ!……あとハジメ、武器の前に作って欲しい物があるんだけど……」
そう言いハジメに耳打ちで話す悠馬。
ハジメは少し驚きながらもその注文を了承するのであった。
十数時間後、夕食が終わりみんなが描く部屋でそれぞれくつろいでいる中、悠馬は外に出かけようとしていた。大迷宮に行くためである。
メルドに「行くことは許可するが他のやつにバレると厄介だ。人が余りいない夜に行け」と言われているのだ。
ハジメの作ってくれた刀と一応王国から貰ったアーティファクトを腰と背中それぞれに背負い、王城から抜け出す。
いつも使っている訓練場を通り、町へ行こうとすると音が聞こえてくる。
トッ…………トッ…………
板のような物に何かを当てている音だ。
(このテンポでこの音は……投げナイフとかか。となるとあの人かな?)
そう思いながら影からこっそりと顔を出す悠馬。そこには彼の予想通り、天職 投術師の園部 優花がいた。やはり的に向かってナイフを投げているようだが…投げる姿は少々ぎこちない。
(うーん、話しかけて投げ方を教えたいけど大迷宮がなぁ……いや、クラスメイト一人一人が強くなることで安全性も上がるか)
話しかけるか少々悩んだがそう結論づけて話しかけることにする悠馬。
「園部さん、こんばんは」
「!……悠馬くんか、びっくりした〜」
「はは、驚かせちゃったかな?…練習してるの?」
「うん、まだナイフを投げるっていうのに慣れなくってさ。みんなに置いていかれたくないから」
「偉いね。その、良ければ教えようか?投術も少しかじってたから」
「え!悠馬くん投術もできるの?…剣術は習ってるって聞いてたし、剣道も強いっては聞いた事あるけど…」
「うん、習ってる剣術道場の八重樫流……あ、雫の家ね。あそこは剣術だけでなくて体術とか投術も教えてるからそれで少しね。それで、どうかな?」
「是非教えてよ!…投術師の人がここの国にはいないらしくて困ってたところなのよ」
「まぁ少し珍しい天職かもね……一旦お手本を見せるから、ナイフ1個貸してくれる?」
「はい、どうぞ」
園部からナイフを1個借り、手に収める悠馬。リラックスをして構える。そして──
「ふっ!」
肩、肘、手首、指を鞭のようにしならせ、投げ出されるナイフ。
瞬間、的に当たってタァン!!と園部の投げたナイフとは別次元の音を出した。ナイフの刃の半分ぐらいが的に刺さっている。
ポカンとした顔で的を見つめる園部。
「っとまぁ1本だけ投げる時はこんな感じかな。コツとしては余り肩に力を入れずn「ちょ、ちょっと待って」お、おぉ?どうした園部さん?」
「音が別次元だったんですが!?あんなに威力が出るものなの!?」
悠馬の肩を掴み、そう訴えてくる園部。
「ま、まぁ久しぶりでちょっと本気で投げすぎたってのもあるだろうけど……要は慣れだよ、園部さんもそのうちこうなれるさ」
「な、慣れって……雫もこれぐらいで投げられるの?」
「うーん、しばらくアイツの投擲を見てないけど…まぁできるんじゃない?わからないけど……………ま、まぁまぁ!とりあえず投げ方教えるね!」
「あんたら人じゃないでしょ…」などと言う園部を流して、教え始める悠馬。技能があるからか園部の吸収は早く、三十分程で終わったのであった。
「いや〜!お陰様で少し分かった気がするよ!ありがとう悠馬くん!」
「このぐらいならなんてことないよ、またいつでも聞いてくれ」
「このお礼はいつか返すからね!何でも言ってくれていいんだよ!……と言っても、悠馬くんは優秀だから頼みごとなんてないと思うけど…」
自嘲気味に笑う園部。しかし悠馬は笑って
「うーん、そうでもないよ。俺は周りに恵まれてて、ダメなところが見えていないだけだと思う。それにそれを言うなら、俺は園部さんの方が凄いと思うな」
「わ、私!?そんなことないよ!勉強とか運動とか悠馬くんほどできないし…」
「……園部さんは家の手伝いとかもやってるでしょ?俺より忙しいんだから勉強とかはしょうがないって。料理も上手じゃないか、ほらこの前お店に行った時のオムライス、あれ作ってくれたの園部さんなんでしょ?」
園部優花の家は飲食店、カフェを営んでいる。自営業でやっていて、落ち着いた雰囲気、出される料理やコーヒーなどはレベルが高く、何回か悠馬や玲奈、雫たちも行ったことがある。
何を食べても美味しいのだが、悠馬はこのカフェのオムライスがとても気に入っており行ったら必ず食べているのだが、先日行った際にいつも通りオムライスを食べていると園部のお母さんが教えてくれたのだ。
「俺、園部さんとこのカフェのオムライス大好きだからさ、地球に帰ったらまた作ってよ」
「う、うん!じゃあ、投げ方教えて貰ったお礼は私特製のオムライスを奢るよ!」
「ははっ!だったら尚のこと、生きて地球に帰らないとな!」
「…うん!じゃ、じゃあ私はもう少し練習するから!お、おやすみ!」
「うん、遅くなりすぎないようにね!おやすみなさい!」
そう言って、大迷宮へ向かう悠馬。彼の足はオムライスの楽しみにより、少々浮き足立つのだった。
《園部side》
不知火 悠馬くん。彼は私の学年──ううん、学校で一二を誇る有名人だ。カッコよくて、文武両道、性格も大人っぽくて、それなのにどこか少年の様なかわいらしさを残している少年だ。妹の玲奈さんにゾッコン──所謂シスコンなので告白などはされていないらしいが、少なからず彼を想っている人は多いだろう。
私は彼を──まぁ、かっこいいとは思う。みんなの評価通り文武両道だし、性格も良い。彼は料理が出来るし、食べるのも好きだそうでカフェを営んでいる私の家に来て、食事をしているのもよく見られる。オムライスが好物なのだろう。よくコーヒーとオムライスを頼み、それにプラスでデザートを頼んでいる。妹の玲奈さんや雫、香織たちと並んで食事をしている姿はどこか神秘的な、絵のような光景ですらある。
先日来た時は私は手伝いをしていて─そしてまぁなんとなく、本当になんとなーくで彼の頼んだオムライスを作った。そのオムライスを彼はなんとも美味しそうに食べ──心がポカポカしたのを覚えている。
そんな悠馬くんに投術を教えて貰った。彼の投げたナイフは凄い威力たつたが、私はそっちよりも一瞬、彼の投げる姿に見とれてしまった。いつものオムライスを食べている時のようなふわふわしている表情とは裏腹に、とても──かっこよかった。
そんな彼が、私の作ったオムライスが美味しいと。また食べたいと言ってくれた。そのためにも帰らなきゃなって。
──ズルいであろう、そんな言葉は。
気になっている男の子に、そんなことを言われて好きにならない女子はいない。それは私も例外ではなく────
「…はぁーー。顔あっつ………」
雲ひとつない、月の光る夜の下。
私はそう零すのだった………
対ありでした。