2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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藤原萌葉は焦れったい

 

 秀知院学園は言わずとも知れたエリート学校である。高等部に至っては偏差値70を超えており、そこにいるだけでまず有能な生徒であることに変わりない。そこで成績が振るわなくても、他校ではトップになれるぐらいだ。

 それはともかく、この学園は幼稚舎から大学までが用意されている学校でもあり、成績さえちゃんと取れていればエスカレーター方式で大学まで進める。この学校に通っている人たちは、お坊ちゃんだったりお嬢様だったり。道が決まっている人もいれば、経済的理由を気にすることなく進路を自由に選べる人が圧倒的に多い。

 それは中等部でも同じこと。一般層の人は少数派であり、富裕層だらけ。挨拶で「ごきげんよう」と言う人だってしばしば。

 

「会長お疲れ様~!」

「あー藤原さん。お疲れ~」

 

 労いの言葉と共に生徒会室に入ってきたのは、生徒会副会長である藤原萌葉。父は政治家であり、母は元外交官というお嬢様。三姉妹で姉が2人いて、彼女は末っ子。長女は自由奔放な大学生、次女は少しズレた高校生。萌葉いわく、家族みんなちょっとおかしいらしい。お前もおかしいと言っても首を傾げられたものだ。

 

「それどうしたの?」

「どれ?」

「そこの()()()

「あーあれね。買った」

「また出費~?」

 

 見慣れた生徒会室に見慣れぬ冷蔵庫。どうしたのかと聞いたら冷蔵庫を買ったのだと言う。やれやれと萌葉は首を横に振った。この会長、結構浪費癖があるのだ。

 秀知院学園は基本的に新しい設備が多い。寄付金も多く、その分設備が充実しているのだ。それは授業面でも部活面でも反映され、生徒の満足度も高い。その運営の一手を担っているのが生徒会だ。高等部ほどの権限はないが、仕事量はおよそ6割から7割。他校の中学よりは生徒会の権限と仕事が多いのは間違いない。

 そして高等部とは違って、中等部の生徒会室は中等部の敷地内にある。冷暖房完備の過ごしやすい空間だ。それにも関わらず、この会長はちょこちょこ備品を買ってくる。しかも生徒会のお金で。

 

「変なの買うと圭ちゃんに怒られるよ」

「いやいや、冷蔵庫があればいつでも冷えた飲み物飲めるじゃん。近年は気温が異常なほど高くなるし、必要かなって」

「他の部に文句言われそう」

「生徒会の金で買ってるし、文句言われる筋合いないよ。部費で買えって話じゃん」

 

 そして部費を増やしてほしければ、人数を増やすのと大会で結果を出してこいという話である。その辺り、この会長は実力主義なのだ。萌葉もその方針を気に入ってはいた。だからケラケラと笑いながら冷蔵庫を確認していく。

 

「たしかにね~。あ、冷凍室もある。今度アイス入れようっと」

「活用する気満々じゃん」

「あるもんは使わないと勿体無いじゃん? あ、会長この中入って」

「凍死させる気か!?」

「カチンコチンになったらヒエヒエの実って遊べるじゃん!」

「それ俺死んでるから!」

 

 まず冷凍室に体を押し込めようと思ったら、体をバラけさせないといけない。凍死以前に確実に死んでしまう。ノリが悪いなーと言ってくる萌葉に恐怖を抱きつつ、早く他に誰か来ないかなと願う。萌葉のこの手の発言回数を数えるのはやめた。サイコパスだと思うことにしているのだ。

 

「会長スーパーボール貸して」

「スーパーボールじゃない。ハイパーボールだ」

「どっちでもいいよ。跳ねることに変わりないじゃん」

「跳ね方が違うの! ハイパーボールのほうがめっちゃ跳ねるの! なんでわかんないかなぁ!」

「はいはい。ボインボイン」

「それは藤原さんの胸だはっ!」

「セクハラっ!」

 

 投げ渡したハイパーボールが眉間に投げ返された。勢い良く跳ね返ったハイパーボールが萌葉の胸に激突し、生徒会室で2人悶える。ツイッターランドによると、女性が胸で受ける痛みは男が金玉で受ける痛みに等しいのだとか。お大事に案件である。

 

「ったぁぁ……! 会長のせいだよ!」

「投げたのは藤原さんじゃん!」

「今すぐ会長席から立って!」

「なんで!?」

「金玉狙えないじゃん!」

「狙うなよ! というか女子が金玉言うな!」

 

 軽くショックだった。中等部の中でも指折りの美少女の口から金玉とか飛び出してくるとかショックである。萌葉は「黙ってさえいればなぁ」と一定の男子から言われるような少女ではあるが、彼女はまだ神秘のベールで包まれているのだ。

 

「恥じらう女子とか期待しないでよね! それで恥じらうのは圭ちゃんみたいな子くらいだから!」

「頼むから白銀さんにそんな事吹き込むなよ! 害悪でしかないからな!」

「圭ちゃんをお姫様扱いするのもキモいけどね」

「ガチトーンで言うなよ心臓に悪いなぁ」

「隙あり!」

「うおあぶね! おぅふっ!!」

 

 萌葉が投げたハイパーボールを避けた会長だったが、判断が甘かった。なにせブツはハイパーボールである。その跳躍力はスーパーボールの比ではない。しかも会話の最中に萌葉は計算していた。入射角と反射角を計算し、会長の股間の高さを想定。椅子に当たることも計算に入れ、そこから机の下での跳躍も想定。的確に金玉に当たるように投げたのだ。

 そして見事にゴール。萌葉はその秀才力を全力で会長のゴールデンボールに当てるために発揮した。会長は涙目になりながら悶えている。想定外の痛みに机の上は涙で濡れていく。

 

「女子にこんな事されたの初めてだよ……」

「初めてを貰っちゃってごめんなさーい。あ、精通したらもっとごめんねぇ」

「しねぇよ! 誰が好き好んでハイパーボールで精通するかバカ!」

「童貞の負け惜しみにしか聞こえないですね~」

「さっきから下全開なのなんなの!? そんな下品な藤原さんにはハイパーボール!」

「甘い!」

「なに!?」

 

 仕返しに、中学生にしては発達しまくりな胸めがけてハイパーボールを投げる。しかしそれをカバンで打ち返され、ハイパーボールは生徒会室の中を飛び跳ねる。内装は頑丈というか、ハイパーボール程度で穴ができるような脆さではない。電灯に当たるのだけは怖いが、この跳ね方なら大丈夫だろうと2人は計算し、ボールに当たらない位置に移動する。

 ハイパーボールって勢いつけたらこんなに跳ねるんだなぁと2人で話していると、生徒会室のドアが開いた。生徒会役員の1人が入室したのだ。

 

「ぶっ!」

「「あっ……」」

「いった……」

 

 飛び跳ねていたハイパーボールがその人のお腹にぶつかる。それでハイパーボールの勢いは死んだ。

 

【ここまでか……】

 

 そう言わんばかりに、弱々しく転がるハイパーボール。彼の勇姿に敬礼していると、入室早々襲撃された少女こと白銀圭の視線がギロリと会長に向けられる。

 

「何してるんですか? 会長」

「いや……これには理由がありまして」

「圭ちゃん大丈夫? 会長も酷いよね~」

「おい待て被害者ぶるな!」

「萌葉も関わってるでしょ」

「あれ~?」

 

 逃げ道を塞がれた。圭に寄り添ったことが裏目に出て、萌葉はがっしりと腕を掴まれる。笑って誤魔化すも、目が笑っていない笑顔を返されただけだ。圭がこういう事に鋭くなったのは、明らかに会長のせいである。萌葉は会長を恨めしく思いながら、圭と一緒に睨んだ。被害者と加害者に睨まれる経験は早々ないだろう。

 萌葉と会長は床に正座させられ、圭の説教を受ける。会長が怒られるのは珍しくもないのだが、2人揃って怒られるのは珍しい。圭の成長に感動しているとさらに怒られた。反省してないと思われたようだ。

 

「まったく。会長がそんなんじゃ他の生徒に示しがつかないっていつも言ってるのに」

「学校生活を楽しんでるだけだよママ」

「誰がママよ! それに、会長のそれは楽しんでるんじゃなくてふざけてるの!」

「男の遊びはこんなもんだよ?」

「スーパーボールを持ってきてる時点で駄目でしょ!」

「ハイパーボールだよ。そこは二度と間違えないでほしいね!」

「何のこだわりそれ!?」

 

 大事な一線である。男には決して譲れないものがあるのだ。

 

「それより圭ちゃん。冷蔵庫が来たよ」

「……会長?」

「暑くなるじゃん? 冷えた飲み物の確保は必要だと思って」

「またそうやって出費して! お金に余裕があると思わないでって言ってるじゃん! 会計の私に先に話してって言ってるじゃん! 後からやり繰りするこっちの身になってよ!」

「もちろん手伝うよそこは。当たり前じゃん」

「そう思うなら勝手な出費すんな!」

 

 圭ママの怒りが爆発。白銀家で家計簿もつけている彼女は、生徒会でも会計の仕事に就いている。歴代で最も優秀な会計で、その手腕には大人たちも感嘆するほど。その原因は出費が多い生徒会長にあり、「よくあれだけ出費してるのに赤字にならないな」という意味合いで評価されているのだ。

 別に生徒会で使える金が増えたわけでもない。圭の倹約術が十二分に発揮されているだけである。その信頼があるせいで、会長もこれくらいならいけるだろうと出費してくるのだが。

 

「この前買ったやつ覚えてるの?」

「大型テレビっすね」

「生徒会発足した後の冬で買ったやつは?」

「こたつです」

「節分の時期に買ったのは?」

「ナマハゲの仮装1式。けどこれは藤原さんのせいだよ!」

「許可出したの会長でしょ! なんで学習しないの!」

「白銀さんがいてくれたら、生徒会がなんとかなりそうだと思って。つい」

「~~っ! そういう言い訳はいらないの!」

「圭ちゃん照れてる~」

「萌葉!!」

 

 うっかり揶揄うと飛び火してしまった。萌葉はケロッとした顔で立ち上がって部屋を出ていく。お花を摘みに行ったようだ。ズバズバと下の発言をするくせに、こういうところは淑女なのである。姉たちの影響だ。

 

「逃げられた」

「会長は逃しませんよ」

「はいこれ領収書」

「あ、安売りしてたんだ」

「思ってたほどの出費にはなってないだろ?」

「うん。じゃなくて!」

 

 買ってしまったものは仕方がない。処分するわけにもいかず、圭は頭を手で抑えながら帳簿を取り出す。日付と備品名、値段を書き記して残りの予算を見やる。重くため息をつき、正座している会長の前へと戻った。

 

「もう何も買わないでね。行事にお金を回そうと思ったら何1つ買えないから。予備費に手を出したくはないでしょ?」

「それは嫌だな」

 

 体育祭と文化祭という2大行事は、生徒会が発足してすぐにあった山場だ。生徒会の任期は2学期に終える。1学期である今は、残りの任期の消化に等しい。行事らしい行事もない。そして予算もない。何か問題があったとき用の費用が少し残っているぐらいで、あとは予備費だけ。

 そこに手を出してしまうと、周りからの評価は一気に落ちてしまう。来期も生徒会やりたいと思っている身としては、致命的な一手になってしまうのだ。

 もう勝手な出費をしないという誓約書を圭が自作し、それを会長に書かせる。はんこ代わりに指紋をつけさせた。それでひとまずは良しとして、圭は正座をやめていいと許可を出す。

 

「いやぁ、白銀さんに怒られるの癖になりそう」

「勘弁してほしいよ」

「なんか白銀さんと話すの楽しくてさ」

「はいはい」

「本当なのになー。ちゃっと出てくるね~」

 

 会長が出ていき、入れ替わるように萌葉が入ってきた。何やら軽く言葉をかわし、楽しげに笑っている萌葉が圭に歩み寄る。

 

「2人きりなのどうだった?」

「どうもないよ。相変わらず遠回し」

「進歩なしか~」

「うん。ストレートに言ってくれたら、私も前向きに考えるのに」

「OKじゃないんだね」

「会長だし」

「そっか~」

 

 そんな会話がされているとは露知らず、会長は食堂めがけてのんびり歩く。飲み物を買いに行っているのだ。

 

「女子って難しいなー。あの二人が特にって気もするけど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。我ながら悪くない考えだと思うんだけどなぁ」

 

 圭に対しては、パパ活を利用しての日頃のお詫びとお礼がしたいだけ。それをしながら、仲良くなって萌葉の好みを聞き出せるようになりたいだけである。会長こと小野寺陽の本命は萌葉なのだから。

 

 

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