2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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 執筆に割ける時間がこの先減っていきそうですが、ちょこちょこ書いていきます。


阿天坊書記は平和でいたい

 

 人生を彩るものは何か。恋人、家族、友人、夢。漠然としたものもあれば、他人事のように思う人もいるだろう。

 けれど、これはそんな難しい話じゃない。人生を彩るもの。それは趣味だ。

 趣味とは、その時にハマっているもの、ずっと好きなもの。2パターンあるだろう。そのどちらでもいい。趣味があり、それに時間を費やしている時、まさしく人は人生バラ色パラダイスだろう。楽園(エデン)はそこにある。

 

「3日とも最高でしたよ会長!」

 

 その楽園(エデン)からの帰還者である阿天坊は、ツヤッツヤな顔で陽に話しかけていた。夏休み中はアニメをリアタイで見るために昼夜逆転生活。3日間に渡って行われる大規模ライブでは物販も無事に欲しいものを購入し、良席を引き当てて脳汁ドバドバ。未だにその時の昂ぶりが残り続けているのだ。

 

「アーティストの順番とかもヤバかったっす!」

「語彙力崩壊してるぞ」

「いやヤバイんですよ。まじヤバヤバなんすよ!」

「エモエモみたいに言うなよ……。楽しめたなら何よりだが」

「来年は会長も行きましょうよ!」

「成績維持できてたらな」

 

 オタクあるあるの語彙力崩壊。好きやら凄いやら、その場に脳みそを置いて感情だけ持ち帰ってきてしまう現象。その感動を伝えたいのに、ちゃんとした言葉には変換できない。阿天坊は見事にオタクだった。

 そうなるほどに楽しめた場所であるなら、行ってみるのもいいかもしれない。陽は前向きに検討した。ライブに行った経験もない。絶大の人気があるものなら、行ってみて悪い経験になるなんてこともないだろう。

 陽の前向きな反応に、阿天坊はガッツポーズしてから気になっていたことを聞いた。

 

「会長さっきから何やってるんですか?」

「フェネクス作ってる」

「いやそれアカツキのシラヌイの方。合ってるの色だけじゃないですか」

「……オオワシでもないのか」

「間違え方が酷え」

 

 学校にあるとある部屋の中でせっせと組み立てているガンプラ。陽はフェネクスを作っていると思っていたようだが、全く違うものを作っていた。作品すら違う。阿天坊が過激派じゃなかったのが救いだ。

 作っている手際はいい。工具を使って1つ1つ丁寧に組み合わせて行っている。それ自体はいいのだが、陽の意識は散漫だ。その状態でもしっかりと作っていくあたり、陽の才覚が無駄に発揮されていた。阿天坊はため息をついて本題に入る。

 

「先輩ら何があったんですか?」

「うーん、なんだろうな」

「3人で遊んでた日に何かあったんですよね? 僕が寝てる間に出かけちゃって!」

「そこは阿天坊の自業自得だろ……」

 

 やっぱり1人だけ遊べなかったことに噛みつかれた。予想通りの反応に少しだけ和み、どう話したものか考える。原因は1つしかないとわかっているのだが、さすがにあれは言うのも躊躇う内容だ。ぼかし方も思いつかない。

 

「花火の日も、ギスギスとかはしてなかったですけど、なんか距離を感じるというか。お互いに気まずそうにして手探り状態だったですし」

「諸事情があってだな」

「今回ばかりは聞き出しますんで、ガンプラ作る手を止めてください」

「俺はこれでガンプラバトルを勝ちたいんだ!」

「ビームサーベル鼻に突っ込むぞこの野郎!」

「怖いなぁ」

 

 キリのいいところで作業を止め、そのままの状態で放置する。下手に動かしてパーツが消えては大惨事だ。

 陽は観念して腹を括り、あの日に起きた出来事を阿天坊に打ち明けた。あまり他人に話すことでもないが、阿天坊ならば信頼できる。同じ生徒会役員でもある阿天坊には、知る権利があると判断したのだ。

 

「藤原さんとキスしかけた」

「こいつは生かしておけぬ!」

「今日は沸点低いな!」

「エクス──!」

カリバーン(股間ビーム)!」

「おぅふ!」

 

 アカツキの腕を射出。見事に右ストレートが当たった。特に威力もないはずだが、そこはリアクション芸。ちゃんと反応をしたところでエアーちゃぶ台返し。

 

「遊んでる場合じゃないんすよ!」

「今のはお前のせいだからな?」

「おっほん。それで、どういう状況でそんな事に? 白銀先輩だっていたんでしょ?」

「事故があってだな」

 

 陽は海に行ったことを話し、萌葉が転けかけたところを助けたことで、原因たるキス未遂事件が起きたことを説明。それを聞いた阿天坊はわかりやすく顔を顰めて歯ぎしりしていた。

 

「ラッキースケベ死すべし!」

「この話題とことん向いてないな……」

「何を女子と密着してるんですか! しかも意中の子と! 運命でも味方につけましたか!? ふざけんな馬鹿野郎! 僕もいい思いしたい!」

「そのせいで今の空気なんだが!?」

「は? ぶっちゃけ幸せな悩みの方向ですよそれ。遠回しの自慢に思えてきた。会長を夜道で刺したい」

「犯罪に手を染めるなよ」

 

 ゴム製のクナイでジャグリングを始める阿天坊に引きつつ、後輩が前科持ちにならないように言っておく。わかってますよと言いながらクナイを投擲。陽がそれを1つずつ回収してそのまま没収する。

 

「まったく……その状態密じゃないですか。何を密になってるんですか。ソーシャルディスタンス!」

「テンション高いな」

「こうしてないとやってけないからですけど?」

「それはごめん」

 

 状況を把握しきれていない阿天坊が、あの空気の中で一番神経を使うのである。それを先輩である2年生組がさらに気を使い、微妙な空気の永久機関が完成する。可能ならばすぐにでも解決してほしい。

 もちろん、根本的解決は難しい。というか無理だと阿天坊は思っている。陽の話を聞き、だいたいを察したから。

 

「会長は問題ないでしょうけど、僕らは生徒会が1番の居場所なんですよ。ここが壊れるとだいぶキツイんですよね」

「……」

「そんなわけで、会長は白銀先輩とちゃんと話をしてください」

「白銀さんと?」

「そうです。会長が話さないといけないのは白銀先輩です。僕的には小白派ですし」

「カップリング論を混ぜるな」

 

 ハーレム論こそ陽たちの耳に届いているが、それに並んで議論されているのがカップリング論である。小白が正しいのか、小藤が正しいのか。秀知院学園中等部は密かにこれらで論争が起きている。真実はどれも不正解なのだが、生徒たちからすれば不明のまま。だからこそ議論を楽しめているらしい。

 そういう論争があるのかと頭の隅に入れておきながら、阿天坊に言われたことを考える。振り返ってみても、たしかに圭とはまともにあの事を話せていない。萌葉とはすぐに話して落とし所を見つけたが、圭はそうじゃない。

 圭に会って何を話すか。それは考えるまでもない。むしろ、夏休みが明けるまで先延ばしにしていた方がおかしなものだ。

 

「白銀さんに会ってくる」

「それがいいと思います。ところで会長」

「どした?」

「この部屋って何なんですか?」

「娯楽部の部室だが?」

「そんな部があったとは……」

「知らないのもしゃーねぇよ。入ってるのは俺と玉袋とジャーキーだから」

「知らん2人出てきた!」

 

 どちらも陽の友人である。これと言った部に入る気もなく、廃部寸前だった娯楽部に入部したのだ。この部屋にある物の大半が、当時3年生だった先輩の置き土産だ。 

 

「この部屋残るか?」

「いえ今日は帰ります」

「ん。付き合わせて悪かったな」

「いえいえ。僕も我儘を言ってますから」

「あれぐらいは我儘には入らん。俺の責任だからな」

「いやほんとにね」

「ははっ。また明日な」

「はい。お疲れ様です」

 

 部室の鍵を閉めて阿天坊と別れる。鍵は教室に残っていたジャーキーに渡し、圭を見なかったかを聞く。見かけたわけではないようで、陽は適当に当たりをつけて教室を後にした。

 まずは下駄箱の確認。圭が帰っていないかのチェックだ。靴が残っており、校舎内にいることが判明。スマホを使わないのは、あの日以降圭とのやり取りが途切れているからである。校舎内にいると分かれば、一応生徒会室を確認。中には誰もおらず、萌葉もどこに行ったのか気になったがそれは保留にした。今優先すべきは圭だから。

 生徒会室にいないのなら、次の候補地に移動だ。

 

(居場所……か)

 

 阿天坊の言葉を思い返しながら階段を上っていく。言われた通り、陽の性格と人望上、生徒会が無くても居場所は消えない。娯楽部も居場所の1つであり、クラスでも存在感のある人間として過ごせているのだから。

 けれど、他の3人がそうとは限らない。萌葉もどちらかと言えば陽側だろう。その人当たりのいい性格から、世渡りに困ることはない。発言が時々怖いだけで、それも萌葉の特徴として受け入れられる程度。けれど、阿天坊は生徒会以外の居場所が危うい。オタク仲間を見つけられれば、と言ったところか。

 

 そして圭もまた、居場所が危うい側だ。学校にいる時の圭は()()()()()。自分に厳しく、人に優しくできる人間。けれどプライドの高さが壁を作る。萌葉のようにズカズカ入り込む人じゃないと、いつも一緒にいようとは思わない。そんな振る舞い方もしてしまっている。

 生徒会を失えば、入る前の時期に戻りかねない。それは陽としても好ましくないことだ。

 

「白銀さん。やっぱりここにいた」

「……会長」

 

 屋上のドアを開け、日陰になる箇所を覗くと圭が壁に寄りかかって立っていた。空を見上げていた圭の目が、話しかけた陽に向けられる。その瞳を見て、陽は距離を感じた。

 

「白銀さんと話したいことがあって」

「私は別にないから」

「あの時から避けられてるし」

「……調整してるだけ。2人の邪魔にならないように」

「いやあれは──」

「いいの! これで、いいんだから……。事故だとしても、私は気にしてないから」

「気にしてないってそんなわけないだろ。それならなんで避けるんだよ」

「わかんないよ!!」

 

 近寄るなと言わんばかりに腕を振るわれる。陽はその場に立ち尽くし、言葉を失いながら圭をただ見つめた。空よりも澄んだ瞳から、静かに雨が落ちたから。

 

「気にしないようにしようって……! 事故だからって考えてるのに……。それなのに頭から離れないの! 忘れたいのに! 胸がギュって苦しくなって忘れさせてくれないの! わかんないよ……なんで……なんでわたし……。かいちょう、おしえてよ。これなんなの……? どうしたらわたし、らくになれるの?」

 

 胸を抑えながら見上げてくる圭を見て、自然と動きそうになった手をすぐに止める。

 陽はこの時に理解した。これまでのやり方を間違えたことを。圭の見方、接し方を変えないといけないことを。

 頭ごなしに突き放すなんて選択肢は取れない。自身の責任だ。これまでとの見方を変え、それを前提として圭と向き合い、圭のことを今よりも知らないといけない。陽はそう判断した。時代が時代なら、違う選択も取れたのに。

 

「……白銀さん。まず、俺と藤原さんはキスしてないから。未遂だから」

「嘘! だって私すぐ側で見た!」

「ドラマのキスシーンと同じで、そう見えただけだから。信じてほしい」

「……なんで……」

 

 ほぼ1年間近くにいたから。陽が嘘を言ってないことは圭にも伝わる。自分の勘違いだった。それはまだ半信半疑だ。

 嘘であってほしいと無意識に願ったこと。それが叶ったことへの安堵と。都合が良すぎることへの困惑。

 圭の頭が混濁するのも当然のことだった。

 

「なんで……すぐに、言ってくれなかったの?」

「ごめん。なんだか言い出しづらくて……。本当にごめん」

 

 圭が避けていたからなんて言い訳は通用しない。勘違いされているとすぐに分かったはずだ。それを言わなかったのは陽のエゴだ。いっそ虚偽での既成事実ができたら、萌葉を落とすのに有効な効果が出るのではと、心のどこかで思っていた。

 そんな手は取るべきじゃない。陽は阿天坊と話してる中でそれを自覚し、心を律してそう決断したのだ。

 何よりも、阿天坊や圭の居場所を無くしたくない。

 

「かいちょうの……ばか。……かいちょ、ばかぁ……」

「ごめんね、白銀さん」

 

 覚束ない足取りで、圭は陽へと歩み寄ってその胸に顔を押し付ける。胸元をぎゅっと掴み、肩を震わせて嗚咽を漏らす。

 そんな圭に、陽はそっと肩に手を置くことしかできなかった。圭を泣かせていること。その事への自責の念に奥歯を噛み締めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「圭ちゃんはやっぱそうなんだね……」

 

 哀しそうに笑いながら、萌葉は屋上のドアを静かに閉めた。

 

 

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