2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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生徒会は跡を濁したくない

 

 先人の知恵というものは後世になろうと馬鹿にできない。ハイテクなものばかりに囲まれて生活していると、その便利アイテムが使えなくなった時に手詰まりとなることもある。

 そんな時に役立つのが過去からの学びというもの。例えば掃除の面でも、濡れた新聞紙を細かく切ってばら撒くことで、効率よく埃を集められるとか。掃除は高い場所からやれとか。細かな教えだって、必ずその理由があるのだ。

 

「会長! 今いい感じに窓から日が射してます!」

「やるしかねぇな!」

「「たいよぉぉぉぉ!!」」

「掃除して」

「「はい」」

 

 生徒会では、そういった知識を持っている圭の指示の下、大掃除が行われていた。全員がマスクと三角巾を着用し、棚の上の掃除からスタート。用務員から脚立を借り、安全を確保して棚の上を雑巾がけ。高い位置は埃が溜まるもので、陽はそこを掃除しながら綺麗になっていく様にテンションを上げていた。

 コップ類等は陽の持ち込みだったため、それは前日までの間に持ち帰られている。棚の上の掃除が終われば、寂しくなった棚の中の掃除。それが終わったところで、陽と阿天坊は日差しを浴びて圭に注意された。

 

「大掃除って言っても、普段から綺麗にしてると楽だよね」

「それはたしかに」

 

 萌葉の言うとおりで、生徒会室も毎日掃除している。生徒会の活動は掃除から始まるように決めていた。これは圭の提案で、異論を挟む余地もないため萌葉と陽も承諾。脚立を持ってこないと届かない場所以外は掃除していた。床や机だけでなく、窓やソファも。

 

「今日は机の下とかもやるから、机を移動させてね」

「男の仕事の注文が来たな」

「僕貧弱ボディなのに」

「そんなに重くはないだろ。机の中空にしてるし」

「会長が重い方持ってくださいね」

「そのつもりだから安心しろ」

 

 軽い方を持てることに阿天坊がほっと息を吐く。生徒会室にある机は教職員のと同タイプ。引き出しが机と一体化しているため、片側が明らかに重たいのだ。中身を空にしている分軽くはなっているが、比較すれば重たいことに変わりない。

 陽と阿天坊が棚の掃除をしている間に、圭と萌葉が机の掃除を終わらせている。男子2人は早速机を移動させることに。

 

「せーのっ!」

「頑張れ~」

 

 タイミングを合わせて持ち上げる。カニ歩きで机を前方に移動させる中、萌葉の声援により陽にブーストがかかる。

 

「会長その辺でストップ。戻す時大変でしょ」

「何も考えてなかったわ」

「まったく……」

 

 必要以上に移動させてしまったが、圭が早めに止めてくれたおかげで被害は最小限に。阿天坊も余計な疲労をせずに済んだ。しかし机はあと3つある。陽は達成感満載で満足している阿天坊の首根っこを掴み、次の机へと連れて行く。

 

「阿天坊くん猫みたい」

「にゃーん」

「うわぁ。猫に謝って」

「藤原先輩が振ってきたのに……」

 

 辛辣な発言にしょぼんとする阿天坊。陽がそれを火種として活用し、阿天坊のやる気を引き出させる。机を次々と移動させ、圭と萌葉が掃除を済ませたらそれを元の位置に戻していく。これを4ヶ所済ませたら、机の掃除も完了と言えよう。

 

「ふぃ~。疲れたぁ~」

「阿天坊くん。()()()()()()()()()()()()

「…………つまり?」

「ソファも動かして」

「……」

 

 圭の追加要求で阿天坊の魂が抜けた。彼のライフはもう0なのだ。少年の戦いは終わったのだ。

 

「しゃーね。1人でやるか」

 

 片側ずつずらせば1人でソファを動かすことも可能だ。その際、床に足をつけている部分が、床を傷つけないように注意しないといけない。圭と萌葉が手伝うと申し出たが、陽はそれを断って1人で行う。今回の掃除の主導者である圭の仕事量を減らすためと、それを1番手伝っている萌葉の仕事量を減らすためだ。あとは見栄を張るという目的もある。

 ちょっとしたトラブルもどきもあったものの、生徒会室の大掃除はつつがなく終わった。最後は雑巾がけといきたいところだが、楽さを求めてクイックルワイパーさんの出番。それをやる頃には窓も開けて換気。全部の作業が終われば三角巾とマスクもお勤め終了だ。

 

「みんなお疲れ様」

「白銀さんもお疲れ。ゴミ捨てと脚立の返却は俺がやるから、みんなはソファで休んでて」

「ありがとうございます会長! お疲れ様です!」

「お前は寛ぐの早すぎだろ!」

「会長私も手伝うから」

「大丈夫だって。白銀さんはコーヒーでも淹れて待ってて」

「……でも」

「しばらく飲み納めになるし、今日はまだ飲んでないからさ」

 

 今日で生徒会の任期は終わる。そうなれば放課後にここに来ることもなくなり、圭が淹れるコーヒーだってしばらくは飲めない。陽は未だにコーヒーが好きだとは思えないし、美味しいとも思えないのだが、圭が淹れてくれるコーヒーは好きなのだ。

 これまでなら、圭が淹れて飲ませるという形。けれど今日は逆で陽からのリクエスト。そうされては圭も断れず、折れて生徒会室で待つという選択を取るしかない。

 

「会長早く戻ってこないとこのお菓子みんなで食べ終わっちゃうからね~」

「先に食べるのは確定かよ」

「その方が早く帰ってくるでしょ?」

「そうだけども! そのお菓子って何?」

「チョコだよ。姉様がみんなで食べてってくれたやつ」

「それは早く戻らないとな」

 

 みんなで食べてと言われている差し入れ。それを食べれませんでしたなんて言えるわけもない。陽は競歩で生徒会室を飛び出し、せっせとゴミ捨てと脚立の返却を済ませるのだった。

 

 脚立の返却の際に、用務員と軽く談笑をするもそれをそこそこに切り上げる。生徒会室へと足早に戻ってくると予想外の光景に軽く驚いた。

 

「阿天坊と藤原さんは?」

「どっか行っちゃった」

「変なことしてなかったらいいけど」

「会長じゃないんだから」

「どういうことだってばよ」

 

 陽も陽だが、萌葉だって十分に予想外の行動を起こす危険性がある。今だってまさにその状況だ。

 どこに行ったのかはわからないが、そのうち帰ってくるだろうと割り切る。思考を放棄したとも言う。今は萌葉の姉からの差し入れの方に関心があった。萌葉は三女だ。長女と次女のどちらからの差し入れかは知る由もないが、どちらにせよありがたいものだ。

 陽はチョコの1つを摘んで口の中に放り込む。一口サイズの大きさ。口の中に広がるチョコの風味。そしてそこに混ざる()()()()()

 

「けほっ。これ……!」

 

 箱に書かれている文字を見て遅まきながら気づいた。

 

「中学生にウィスキーボンボンの差し入れをするなよ!」

 

 ここにはいない戦犯に叫ばずにはいられなかった。萌葉もどちらかと言えば被害者か。彼女の性格なら、知っていて持ってきた可能性すらある。それを確かめようにも、萌葉はどこかに消えてしまった。

 阿天坊と萌葉がいないのも、おそらくはこれのせいなのだろう。萌葉なら、アルコールが入ればはしゃぎそうだ。阿天坊は巻き添えを食って連行されていそうだ。そんな光景が簡単に想像できた。口直しにコーヒーを飲もうかとテーブルの上を確認。ちゃんと陽の分もあった。

 それを取ろうと手を伸ばすと、白く柔らかい手にそれを阻まれる。

 

「白銀さん?」

 

 対面のソファに座っていたはずの圭が、すぐ近くに立っていた。正確には、片膝をソファの上に乗せており、顔が近くにある。アルコールのせいでその顔は朱くなっており、目も時折焦点がズレている。

 

「かいちょ」

「どうした?」

 

 今の圭は会話ができるのだろうか。成立する気がしないでもないが、だからといって無視をするわけにもいかない。赤子を相手している気分に近い。

 

「んっしょ。えへっ、かいちょー」

「幼児退行するタイプなのね」

 

 酔っていても行儀は良いようで、上履きを脱いでから上がってくる。向かい合う形で陽の足の上に座っているのが、行儀が良いと言えるかは別として。圭が酔うとどうなるかを判断しつつ、機嫌を損ねないように気をつける。されるがままに対応する魂胆だ。

 

「かいちょ。ありがとう」

「こちらこそ。白銀さんにはいっぱい助けられた」

「かいちょがいるから、わたしがっこーがたのしい」

「呂律も回らなくなってない?」

「かいちょが、いばしょくれたから。……なくなるの、やだ」 

「そこは安心していいぞ。次も勝つから」

 

 次の会長戦に勝てば、同じメンバーでもう1年活動できる。勝つ気満々で、そのための布石もこれまで打ってきた。これからの選挙活動期間も有効活用する予定で、そのための協力者も確保してある。盤石な体制を取っていると言えよう。

 首に腕を回し、べったりとくっついてくる圭を安心させるように背中を優しく叩く。それをどう感じ取っているのか、圭は少しもぞりと動いた。

 

「……かいちょ。きょねんのこと、わたしおぼえてるよ」

「……そっか。俺も覚えてる」

 

 密着されていることにより、自ずと互いの耳元で声を発することになる。相手の声が耳元から聞こえてくるのはこそばゆいもので、陽は堪えているが圭はまたもぞりと動いた。けれど陽の上からは降りようとしない。

 去年の会長戦。その選挙期間での出来事。生徒会長になる事を前提とした勧誘活動。圭がその時のことを言っているのだと見抜き、陽もそれを覚えていると返した。忘れるわけもない。強烈な出来事だったのだから。

 

「かーいちょ」

「ん?」

「すき」

「……ぇ?」

 

 頬に柔らかいものを感じる。理解が追いつかず、首を回すと瞼を閉じてすやすやと眠る圭が見えた。

 今のはどういう意味の発言だろうか。なまじ圭が酔っている状態のために判断がつかない。

 頬に触れたのはなんだろうか。圭の柔らかな頬だろうか。湿()()()()()()()()()

 

「……この状況……どうしたものか」

 

 寝ているのに離れてくれない圭をどうしたらいいのか。陽は頭を悩ませるのだった。

 

 


 

 

 

 1年前のこと。

 会長戦に陽が立候補。当時の1年生の立候補者は陽だけ。2年生の立候補は前生徒会長だけ。わかりやすい構図が出来上がっていた。

 とはいえ、一般生徒にそれがどれだけ関係あるかと言うと、そこまでは関係ない話。というよりも、関心のない話だ。誰が生徒会長になろうと、激的な変化は起きない。生徒間ではそういう認識が定着していた。後に陽が、高等部では白銀御行が新たな風を吹き込むのだが、それは先の出来事。

 この時には会長戦への関心は少ない。見る箇所としても、面倒だと感じる公約を掲げていないか。どっちの方が自分たちにとっての自由度が高くなる会長か。その程度しか考えていない。

 

「あー。白銀さんゴメーン。ホースが暴れちゃった~」

「……気をつけて」

 

 だから、多くの生徒たちの日常は変わらない。トイレ掃除という秀知院生にとってのハズレくじを引いた人たちは、真面目には掃除しない。真面目な生徒が割りを食うくらいだ。

 その中でも特異なのは、ホースの水で全身が濡れた圭ぐらいだろう。

 

 もう一度言う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「面倒だし、後はお願いするねー」

()()なんだし、やってくれるよね~」

「アハハ! じゃあねぇ」

 

 押し付けられるのもいつもの事。

 呆れるような嫌がらせだっていつもの事。

 それに怒ることも嘆くことも辞めて、淡々と1人で済ませるのだっていつもの事。

 

「あれ? 白銀さんなんでそんな濡れてんの?」

 

 高嶺の氷花が変わるのは、これからの事。

 

 




 
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