2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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 飽きた。自分で書くよろし。


早坂愛に相談したい

 

 夏が開ければ秋が来る。それは自然の摂理で時間の逆行なんてできやしない。秋となれば何か。なんとも思わない人の方が多いだろう。せいぜいが、「クッソ暑い夏が終わった」とか「秋だけ秋休みないからショボいよな」だろう。一応述べると、秋休みがある学校はある。

 ファッションを気にする人なら、秋物の服を買うことだろう。夏の間にチェックする人もいる。秋なら次の冬に向けてチェックする人もいる。

 何はともあれ、秋なのだから秋物の服を買ってもおかしな話じゃない。本日は、夏休み中に予定していた買い物の振替日である。

 参加者は四宮かぐや、藤原姉妹、白銀圭の4人である。

 

「尾行ってワクワクするなー。まるでスパイみたいだぜ、テンション上がるな~」

「余計なことは口にしないで。バレるから」

「ういっす」

 

 それを離れた場所から見ているのは、早坂愛と小野寺陽の2人だ。四宮かぐやの外出で、四宮家の人間が誰もいないなんてことはありえない。かぐやが望まないから、近くにいるなんてことをしないだけ。必ず何人かが目視できる場所にいるし、お付きの早坂がその中にいるのも必然だ。例外があるにはあるが、基本的にこの体制である。

 今日も早坂は仕事で来ているのだが、そこに陽が合流した。陽は陽で早坂に話があるから、それなら一緒に行動しながらでいいだろうとのことである。

 

「ショッピングって、四宮さん自分で買うの?」

「ううん。買うときはいつも私達。かぐや様に合うものを選んで買ってる。今日は気に入ったのがあったら連絡が入るってやり方」

「なるほど。で、愛さんの私服は自分で選んでると」

「休みの日にね。ネットで買うことの方が多いけど」

 

 休みがほとんどない早坂の生活を考えれば、ネットでの購入が現実的なものに思えた。ネットで買うと、「イメージと違った」とか「サイズが合わない」とか起こりそうなものだが。

 

「自分に合うサイズは把握してるし、あんま困ったことはないかな」

「四宮家相手に詐欺まがいなこともしないだろうし。有名どころは名前の圧があって便利だなー」

「うざいぐらいにペコペコされることもあるけどね」

「一長一短ってやつですな」

 

 かぐやたちが移動を開始し、それに伴って早坂と陽も移動する。今日の目的は秋物の服を買うということらしいが、それだけで終わらないのが女子の買い物というもの。どうやら主目的の買い物以外も満喫するようだ。

 一向は大型ショッピングモールへと入っていき、その後を追ってみると最初に来たのがゲームコーナー。主にクレーンゲームが集中的に置かれている。家族連れを客層に想定した場所だ。音ゲーマーと格ゲーマーの動物園ではないらしい。今年は申年ではない。

 

「愛さんって、こういうの得意そうに見えて散財しながら意地で景品を取りそうなギャルっぽいよな」

「陽の中の私のイメージを一回修正させないといけない気がする」

「今一歩どうしても及ばなくてポンコツに見えてしまう人」

「鮮やかに景品を取ってその印象が間違いだと証明したいところだけど、今はかぐや様を見とかないといけないし」

「んー。どうやら他の人が見とくみたいですし、時間は軽く作れそうだけど」

「配置見て分析しないでくれる? 一応四宮家は陽も監視対象にしてるから」

 

 なんでそんな事になってるのだろうか。別に何もしていない気がする。そう思った陽だが、夏休みのことを思い出して納得した。あの日、本家の人間からすれば、「警備にバレずに侵入してかぐや(早坂)を連れて外に出た人間」ということになっているのだ。かぐやにお咎めは無かったようで、早坂はかぐやを連れ帰った人として勝手に株が上がったらしい。

 とはいえ、陽は監視の目を感じていない。かぐやと早坂で手を打ってるのだろう。

 

「うわ、四宮さん一発で取ってる。あの人が全部やったら店側泣くだろうなー」

「かぐや様は偶に才能の無駄遣いするから」

「そう言う愛さんは? 取れる?」

「取れるし。取り方だって聞いてるし。むしろ陽はそれだけ煽っておいて取れないとか言わないよね?」

「バカにしないでもらいたい。俺は取れないぞ!!」

「威張るなし!」

 

 こうして始まったクレーンゲーム対決。先行は早坂。後攻が陽。条件を整えるため、一個の商品を交代しながら狙うのが今回の勝負だ。かぐやたちがこのゲームコーナーにいる間が勝負の制限時間。明確な時間などわからず、タイムアップによる引き分けも想定される。

 もちろん両者共に勝ちを狙いに行くが。会長という立場が消えた陽は、負けてはいけないという縛りがない。純粋に勝負を楽しんでいい。しかし、早坂に勝ちたいという気持ちが沸々と込み上げてきている。

 

「狙いは完璧……。えっ!? アーム弱過ぎ! こんなのおかしい!」

「クレーンゲームやったことないの? 基本的にアームは激弱設定だから」

「こんなのクレーンゲームじゃないじゃん!」

「取り方聞いてるんじゃなかったの……?」

「アームに引っ掛けて取るって聞いた」

「優しいクレーンゲームの方ならそれだなー」

 

 小学生とか幼稚園児向けのゲームなら、アームで掴んでそのまま取れるだろう。早坂の聞いてる情報も間違いではない。多くの場合はそれでいい。アームに引っ掛けて、徐々に動かして取るのが主流だ。

 

「見といてよ。このタイプのなら、アームをタグに引っ掛けるように狙う」

「狙うの地味に難しいやつじゃん」

「そうだけど、アームの開き具合を把握してると、こんな感じに閉じていく時に引っ掛かるのよ」

「なるほどね~」

「んで、それを繰り返して穴に落とすって寸法」

 

 陽のレクチャーが終わり、再度早坂の番が回ってくる。勝ちに行ってもよかったのだが、早坂が初心者だとわかってやり方を教えることにしたのだ。初心者狩りは器の小さいものがやるものだから。時代が時代なら問答無用だが、現代は太平の世なのだから。

 教わった通りのやり方で狙う。アームの開き具合も2度見たのだから目測を誤らない。位置の調整も狂わない。四宮家の侍従たるもの、僅かな誤差も生じさせないのだ。アームが下りていき、設定されたタイミングで閉じていく。

 

「あ、取れた」

「ふぁっ!?」

 

 なんということでしょう。匠の技で見事に景品を取りました。

 これには陽も驚愕。たしかに先程陽が動かしたものだが、それでもその次で取れるとは思えなかった。運が早坂に味方したとしか考えられない。そんなオカルトありえませんと言いたいが、前世の記憶を持つ自分が一種のオカルトだ。否定材料もない。

 

「ふふん。取りました」

「めっちゃドヤるやん」

「大変気分がいいですね。散々コケにしていた私に惨敗したお気持ちを聞かせてもらいたいぐらいです」

「取れた瞬間にめっちゃ笑顔になってたのが可愛いなと思いました」

「誰が口説けって言ったし!」

「口説いてる気もないし、楽しいから勝敗はどっちでもいいかなって」

 

 景品はぬいぐるみ。二足歩行するネズミだ。取ったとしても自分はいらないし、どのみち早坂に渡そうと思っていた。断られたら妹へのプレゼントになったが、取ったのは早坂だ。彼女が持ち帰って解決だ。

 予想外なまでに手早くクレーンゲームが終わり、かぐやたちの動向の監視に戻る。クレーンゲームを向こうもやめて、プリクラを撮りに行ってるようだ。

 

「四宮家ってプリクラオッケーなの?」

「プライベートの写真は大丈夫。パンフとかHPとか、公のところが駄目なだけ」

「へ~。……撮りますか~」

「え?」

「こうやって遊ぶのは初めてだから、記念に取るのもいいんじゃない? 夏休みは結局遊べなかったしさ」

「……すぐに終わるなら」

 

 夏休みの間に、どこかで休みを取って遊ぶのもいいだろうと話には上がった。けれど結局その日は訪れず、予定変更もあって話が流れてしまった。ある意味、今日はその埋め合わせにもなるわけだ。

 年上の異性の友達と2人で遊ぶのは、陽にとって初めてのこと。早坂にとっても、異性の友達は陽が初めてだ。記念といえば記念になる。

 他の使用人たちに任せても問題ないとはいえ、仕事は仕事。遊びは程々にする必要がある。あくまでも、一般人に溶け込むための偽装工作としてプリクラを撮る。そういう建て前を作り、早坂はプリクラを撮ることを承諾した。

 

 そこからかぐやたちがカフェに移動する。さすがに同じ店に入るわけにもいかず、その店の出入り口を見られる店に移動。窓際の席は見えやすいがその分見つかりやすい。早坂だけならともかく、陽が見つかると面倒だ。そのため外が見える位置というポイントを抑えつつ、見つかりにくい席に座った。

 

「それで、陽は話があるんだっけ?」

「ん。恋愛相談マスターの愛さんに聞きたいんだけど」

「相談の一言いる? いやマスターでもないけど」

「四宮さんから恋愛相談されまくってるならマスターでは?」

「そこを切り取られるとそうなるかな」

 

 たしかに早坂は恋愛相談にほぼ毎日のっている。ある意味プロと言える存在だ。恋愛相談マスターと言われるのも納得の余地がある。陽は決して恋愛マスターとは言わないようだが、そこを追及しても面白いことではないと早坂は見切って触れなかった。

 

「ん? 待って」

「四宮さんたちに何かありました?」

「いやそっちじゃなくて。恋愛相談? 陽が?」

「ツチノコ見つけたぐらいの衝撃の顔しなくても……」

「えー。陽が恋愛ってなんか……えぇ?」

「先を越されての戸惑いですか。むしろ焦ってくださいよ。出会いなんて降ってくるものじゃないですよ」

「いや違うし。そうかもしれないけど焦ってはないし」

 

 人生のほとんどを棒に振ってるような生活をしている。なんてことは思わない。ずっと辛い思いはしているけれど、仕えている主人のことは大好きだ。彼女と過ごす僅かな時間は楽しくて好きだ。学生らしいことはあまりできてないけれど、青春っぽいことしたいとか思うけれど、焦ってはいない。

 

「どこまで教えてくれるわけ? それ次第で言えることがあるかどうかって変わってくると思うんだけど」

「藤原萌葉さんが好きなんだ」

「……まぁ、好みは人それぞれだし。いいんじゃない?」

 

 藤原姉妹はそれぞれ人気が高いとは聞いているし、一般からズレてると言っても、秀知院生はわりかしズレてる人が多い。常識なんて半ば崩壊しているような箱庭だ。陽が萌葉を好きになってもおかしい話じゃない。ズレとズレが一致することもある。

 

「答えなくてもいいけど、どこを好きになったの?」

「人柄。藤原さんの相手の本質を見て接するところとか。飄々としてるようで真っ直ぐなところとか。友達思いなところも好き」

「がっつり好きじゃん」

 

 中学生の恋愛だから、「ちょっと気になる。お付き合いしたい」程度だと思ったのにガチの恋が放り込まれた。そこまで固まってるなら後はぶつかるだけじゃないかと思ってしまう。

 

「断られたらって思うと怖いから」

「ヘタレ」

「友達にも言われた」

 

 絶対の勝算をつけて挑む。そういうやり方が理想とされる場面はあるだろう。しかし、恋愛においてそれは時として足を引っ張る行為だ。人気のある異性相手となると尚更に。

 他の人が先に告白したらどうするのか。萌葉がそれを承諾したらどうするのか。萌葉が他の人を好きになったらどうするのか。

 じっくり行く場合も必要だろう。けれど、それが絶対じゃない。恋愛に絶対などない。人の気持ちは揺れ動くものだから。ゲームみたいにコツコツと好感度を稼げば必ず結ばれるなんて思っちゃいけない。

 現実はそんなに甘くないのだから。

 

「告白はできるの?」

「するよ」

「なら…………ん? いったい私に何を相談するの? 告白するんでしょ?」

「うん。会長戦に勝ったら」

「そこはいっそ、会長戦に勝ったら付き合ってほしいって言えばよかったのに」

「ほんまや」

「バカでしょ……」

 

 告白するということで頭がいっぱいで、その方法を思いつかなかったらしい。その事に早坂は半目になるも、その事に好感を持った。付き合うために、告白するという手段以外を考えられなかったことに。そういうやり方の方が、早坂としても個人的に好みだから。

 くすっと笑いつつ、ますます疑問が膨らむ。告白することを決めて、いったい何を相談するのか。言葉なんて自分の心に従えばいい。緊張してその時に言葉が出ないというのなら、あらかじめ好きな要素を把握しとけばいい。後者だって陽は達成している。どっちになっても、その思いは伝えられるはずなのだ。

 

「何か気になることでも? まさか他に気になる子がいるとか言う?」

「……気になるというか、いや気になるで合ってるんだけど。そういう意味じゃないというか」

「はっきりしないね」

「生徒会の任期が終わった時に大掃除したんだ」

「うん」

「終わった後、俺はゴミ捨てとか後片付けして、他の3人には生徒会室に残ってもらったんだ」

 

 注文したリンゴジュースが届く。早坂はストローで二口ほど飲みながら話を聞いた。

 

「藤原さんがお姉さんから貰った差し入れを持ってきてて、それを3人が先に食べたんだけど、中身がウィスキーボンボンで」

「なんでそんなの差し入れに持ってきてるんだか……」

「戻ったら白銀さんしかいなかったんだけど、白銀さんも酔ってて」

「アルコールに弱いんだね。中学生の体ならむしろ当り前か」

「うん。で、その時に好きって言われました」

「……はい?」

「白銀さんがそれを覚えてるかもわかんないし、それをどういう意味で言ったのかもわかんないし。っていうか、覚えてないっぽくてどうしたらいいんだろうかと」

 

 早坂は無言になり、ストローで氷をかき回す。回っている氷を見ながら話を整理していき、自分の脳も回転させる。

 

(そんなパターン知らないし)

 

 早坂が受け持つ恋愛相談はかぐやオンリーである。マス部のあれは宗教だから違う。そして、かぐやと御行の関係に他の人の介入の余地などない。つまり、1対1の恋愛話しか早坂のデータベースに蓄積されていないのだ。

 しかし、元部下である陽がわざわざ頼ってきたのだ。キャパオーバーと突っぱねるのも忍びない。

 

「……()()()()()()()?」

 

 だから、まずはそこを確認しないといけない。陽が早坂の演技すら見破れるように、早坂だって自分の経験から他人の演技を見破れる。夏休みの時、陽がボロを出してくれたのも大きい。

 

「前に言ってたよね。いい人そうに見えるでしょって」

「……言ったね」

「演技って言うよりは、目標設定かな? ()()()()()()()っていう」

「あはは……。うん、そうだよ。好きな人のお眼鏡に叶う人になりたいって、おかしな事かな?」

「私はおかしいとは思わない」

 

 陽のその考えは、早坂の考えと合致するものだから。

 

「藤原さんにとっては何気ないことだったんだろうけど、俺にとっては大きな言葉だったから。だから惹かれた」

 

 萌葉のことが好きだから、萌葉の好みに合うようになりたい。だから萌葉の言葉も優先的に聞いてしまう。

 圭と仲良くなってほしいと言われた。同じ生徒会役員になって、自然とそうなれた。けれど、萌葉に告白したら。もし付き合えたら。ひょっとしたら、圭を傷つけてしまうかもしれない。

 自分を優先するなら告白。陽はその方向で動いている。

 けれど、後ろ髪を引かれてしまう。萌葉と圭の関係にも亀裂を入れてしまうかもしれないから。

 

「……決めたなら貫くしかない」

「……」

「会長の妹さんの気持ちが定かではないにしても……。恋愛は甘くて優しいだけじゃないから」

 

 恋愛も現実と同じ。優しさだけじゃない。

 

 どこまでも甘美的なもので、どこまでも残酷なものなのだ。

 

「恋愛は戦争だよ」

 

 

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