2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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 白銀圭エンドは気長に書こうかと思います。(書き溜めて一気に放出しようか検討中。年内に終わればいいっすね)
 夏休みなんてない生活にですし。他にもまぁいろいろと。
 以上の告知も兼ねて、導入だけ放出します。
 


blanc bénédiction
1歩目 白銀圭は側にいたい


 

 秀知院学園中等部の生徒会選挙。今回から新たに行われた質疑応答。その想定外の展開にこそなったものの、小野寺陽の勝利は揺るがなかった。むしろ前評判すら超えるほどの圧勝ですらあった。

 司会進行を務め、中立的立場になっていた圭もその結果にほっと胸を撫で下ろす。今年は去年と違い、事前の勧誘が行われていない。陽の中では同じメンバーでやろうという考えで固まっており、それを他の3人も知っているからだ。とはいえ、形だけでも指名しないといけない。後日の提出にはなるが、正式な書類に名前を書く必要もある。

 

「よっちゃんが会長に戻って良かったですね」

「うん。……ん? よっちゃんって誰?」

「会長のあだ名ですよ。藤原先輩は他の呼び方をしてましたけど」

「えぇ……」

「そういえば、白銀先輩って会長が一般よっちの間なんて呼んでたんですか?」

「えっと……。あれ?」

 

 なんて呼んでいたか。それを思い出そうとして引っかかる。

 陽が会長じゃない間、そもそも会話すら碌にしていないような。呼び方以前の問題ではなかろうか。

 

「もしかして白銀先輩……」

「たまたまだから。たまたま会長と話す機会が全然なかっただけ。そもそも任期中も生徒会の時ぐらいしか話してないし」

「へ~。まぁ会長は人気者ですし、普段は三馬鹿で行動してるらしいですしね」

「うん。だから何もおかしくない」

 

 三馬鹿という呼称に何も反応しないあたり、2年生の間ではすっかり馴染みのある呼称らしい。その内の1人が会長でいいのかと思いはするが、圭が見逃しているのならいいのだろう。

 単純に止められなかっただけだが。体裁を気にし過ぎて動きにくくなった方がパフォーマンスが下がると言われ、渋々見逃す羽目になっただけなのだが。

 

「ちなみに、会長って呼び方ができない時はなんて呼ぶつもりだったんですか?」

「別に。私あんまりあだ名とかで呼ばないし」

 

 萌葉の姉のことを千花姉ぇと呼んで慕っているが、元の名前の原型を保ったままである。

 だから、陽のことを阿天坊や萌葉のようにあだ名で呼ぶこともない。

 

「じゃあ下の名前?」

「なんで!?」

「じゃあ名字ですか。白銀先輩らしいといえばらしいですが」

 

 名字で呼べるのかと言えば、そういうわけでもない。白銀圭という少女は、リボンをプレゼントされたあの日から、()()()()()()()()()()()()()()()()。呼びたくないのではなく、なんとなく気恥ずかしいからだ。

 そのため、陽が会長職につくまでの間、圭から陽に話しかけたことはない。会話のきっかけはすべて陽だ。彼の言葉から会話が始まる。

 

「それより、会長はどこにいるかな?」

「姿を見てないですね。結果発表は見てたはずなんですけど」

「……生徒会室に行けばいるかな」 

「そうですか? 生徒会が始まるのは明日からですけど」

「会長はそこにいる気がするから」

「女の勘ってやつですか」

 

 圭がそう言うのなら、陽はそこにいるのだろう。1学期の間だけだが、共に活動してきた阿天坊にはそう思えた。

 

「そういえば藤原先輩も見ないですけど。藤原先輩はどこに?」

「先に帰ってていいとだけ聞いてる。校内にいるのは確かだろうね」

「会長と密会してたりして」

「え?」

「あ、いえ冗談です。会長と副会長の役職だけ何かあるんですかね」

「どうだろ。去年は特になかった気がするけど」

 

 今年と去年の相違点とすれば、演説時に加えられた質疑応答だろう。圭はそれを思い出し、例の写真のことも思い出した。あの時に走った胸の痛み。裏切りと感じたことによる絶望感。呆然とするしかなかったが、逆にそれで誰にも異変を気づかれずに済んだ。

 

「……あの写真はどう思う?」

「会長が言ったとおり合成だと思いますよ。8月19日ってたしか白銀先輩も一緒にいたんですよね?」

「うん。でも……解散した後に会長と萌葉が会ってたら、可能性が捨てきれないし」

「時間帯的に無理だと思いますよ。だって夕方頃に解散されたんでしょ?」

「ううん。昼間」

「……わーお」

 

 あの日、あの後は帰る時間を切り上げていた。圭が言うような可能性がどうしても残ってしまう。しかしそれは時間帯での話。阿天坊を頭を働かせて圭の予測を間違いだと指摘していく。

 

「仮に、仮にですよ? 万が一に会長と藤原先輩がキスをしたとして、わざわざそれを写真に撮りますか? しかもあの写り方、第三者に取ってもらわないと無理ですよ」

「離れたところにスマホでも置いてタイマーにしたらできるじゃん」

「できたとして、それをやるメリットが無いです」

「思い出作り。萌葉はズレてるし、会長もバカだから」

「いやいや、だとしたらあの写真を他の人が持ってることがおかしいと思いません?」

「見せびらかし……たりするような人じゃないか」

「そうですよ」

 

 圭の疑いラッシュをすべて解消してみせた。阿天坊は陽と萌葉から褒められていい。何かしら褒美を貰ってもいい。

 陽と萌葉がどういう人間か。それは阿天坊よりも圭の方が知っている。理解しているつもりだ。だからこそ反動も大きくなるのだが、修正力だって強いのである。一応念押しも兼ねて、陽に確認を取るとしよう。

 

「会長が生徒会室にいるとすれば、藤原先輩もそこですかね」

「そんな気もする」

 

 2人が会うだけなのに、どうにも心がざわつく。その役職柄からして、2人が何かするのも珍しくなかったのに。2人だけの仕事だって何度もあったのに。それなのに圭は落ち着けなかった。

 何かが起きる気がした。これまでとは明らかに変わってしまう何かが。

 

「ん? 変な音しませんでした?」

「そう? ちょっと考え事してて気が付かなかったけど」

「幻聴ですかね」

「危ない薬飲んでる!? 違法だよ!?」

「飲んでませんが!?」

 

 スピードやら大麻やらを吸ってなんかいない。それの入手ルートなんて知らないし、関わることのない世界だ。昨今では大麻に耐える者を対麻忍と呼ぶようで、オタクとしては興味が惹かれるものだが、近づいたくないものでもある。

 生徒会室に行くために、階段で上階に行こうとしたら、階段の前で人だかりができていた。これでは上がれそうにない。

 

「なんだろ? 誰かが12段ジャンプに挑もうとしてるんすかね?」

「そんなのやるの娯楽部くら……いやいや、ねぇ?」

「あっはっは! そうですよ先輩。まさかバカを自称してるあの人でもそれはしませんよ~」

「だよね~」

 

 顔を見合わせて笑い合うも、やりかねない人物でもあるために半笑いになる。いくらなんでもしないだろう。それだけでこの人だかりができるわけがないし、そもそも圭の予想ではバカは生徒会室にいるはずで。 

 

「ぇ……?」

「白銀先輩?」

「まさか……」

 

 こんな人だかりができるのはなぜだ。こんな場所でこれだけの人が集まるのは、それだけの引力のある人物がいるからではないのか。

 なぜ悪寒が止まらない。思い浮かぶ人物はここにいないはずなのに。

 人がこれだけ集まって、これだけざわついていて。青ざめた顔をしている人もいて、皆が一様にその場に固まっているのはなぜだ。

 

「ちょっと通して。道を開けて!」

「白銀先輩!」

 

 生徒たちを怒鳴り、強行的にこじ開けて進んでいく。あまりに()()()()()()()()。プライドの高い彼女が、なりふり構わずに進んでいくことに阿天坊も嫌な予感がした。

 圭によって道が開けられ、その後ろを通っていく。人の壁が消えた先に待ち構えていた光景は、広がる赤いインク。その中に沈む少年の姿。

 

「……かいちょう?」

 

 阿天坊の口から掠れた声が出る。自分でも認識していない。勝手に声が出ているようだった。

 前にいる圭の表情は誰にも見えない。

 無言のままにその赤に踏み込み、膝を折って肩を優しく揺する。

 

「こんなところで何寝てるの会長。寝たフリはしなくていいよ。こんな不謹慎な悪ふざけもしちゃって。……ねぇ起きて?」

「白銀先輩……」

「起きて……会長。生徒会続けるんでしょ? 去年より盛り上げるって言ってたじゃん。私たちまだ指名してもらってないよ? 指名してくれなきゃ側にいられないよ?」

 

 純白な制服が赤く染まる。それを構うことなく、圭は呼びかけ続けた。

 

「会長……起きてよ……。悪ふざけが過ぎるよ……、こんなのされたら……おこるしかないじゃん……」

 

 一周回って冷静になれた阿天坊は、スマホを取り出して救急車を呼び出し、次点で萌葉に連絡する。それをする傍らで、溜まっている生徒たちに呼び掛けて教師への伝達、保健医の呼び出しを任せた。

 

「ねぇ…………かいちょ……。かいちょがいないと…………わたし……またもどっちゃうよ」

 

 陽の体がぴくりと動く。

 それに気づいた圭が、陽の手を包み込み、その手を確かな力で握り返された。

 

「それは……困るな。……約束を、破るのは……趣味じゃない」

「かいちょう……!」

「……白銀さん、制服が汚れてるじゃん。しかも……これじゃ手まで」

「そんなのいいから! かいちょう、おねがいだから……これからも側にいて」

「……うん。こんなのでは死にきれん」

 

 呼び出されて駆けつけた保健医の的確な応急処置。ものの数分で駆けつけた救急隊員。それらにドナドナと運ばれることを無理に笑いながら、陽は病院へと運ばれて行った。

 

 

 

「っとまぁ、ちょっと大袈裟なことになってますが、この通りピンピンしてます」

「へー?」

「そこ痛い!!」

「気持ちが前向いてるだけマシか」

 

 ()()()()()()を押され、陽は涙目になりながら鬼のような姉を睨む。その隣りに座る早坂も苦笑していた。

 

「カッターで刺されて階段から突き落とされた、か。学園ホラーじゃないんだから」

「ナイフじゃなかっただけマシかな」

「犯人は少なくとも退学処分。学校側はそう決めてるみたいだし、体裁を守るために情報規制してるみたい」

「だろうなー。そういう学校だし」

 

 姉の悪態に軽口で返し、早坂の集めた情報に妥当だろうなと頷く。超名門学校でのこれはスキャンダルもいいところだから。情報規制のために、いろいろと影響力のある家が手を貸すことだろう。

 

「藤原さんとか白銀さんたちは? 救急車まで一緒だったのは記憶してるけど」

「そこまで覚えてるのもおかしいような?」

「矢が刺さるより軽傷だし」

「そんな経験する日本人いねぇわ。さすがに早めに帰した。それまではずっとここにいたし、帰すのにも一苦労したけど」

 

 その苦労は、陽との関係が良好であるからこそ起きること。その点は姉として喜ばしいことでもある。

 

「舞は?」

「パジャマ取りに帰った」

「ここで寝る気か~」

 

 ブラコン気質だなとは思っていたが、今回のことで拍車をかけたらしい。言い逃れ出来ないまでにブラコンだ。かわいい妹だから無下に追い返すような真似もできない。せめてシスコンの烙印を押されないようにしたい。

 

「陽の友人の方は面白いな」

「バカだし」

「なんだ生きてたかって言って帰っていったし」

「あいつら次会ったら病院に送ってやる! ぐおっ!」

「腹刺されてるのに叫ばない」

 

 出血箇所はカッターナイフで刺された腹。階段から突き落とされた時の頭部からの出血。その際に意識も飛んだせいで、身動きが取れなかったわけだ。

 

「んじゃ、私はそろそろ帰るわ。母さんと舞が入れ替わりで来るだろうけど」

「んー。ありがとう姉さん」

「……陽。今回の件、父さんの耳に届くのも時間の問題だから」

「……わかってる」

 

 秀知院の中で起きた事件。その当事者ともなれば、元から印象の悪い父親からの当たりはさらに強まるだろう。立場がさらに危うくなる。

 

「私がなんとかできるのも限界があるから、こういうのはもう勘弁」

「俺も勘弁だわ」

「わかってるなら良し! 早く退院しなさいよ。周りの子のためにも」

「うん」

 

 手を振りながら颯爽と帰っていく姉に、陽はほろりと笑みを溢した。いつも通りを演じてくれた姉には、ますます頭が上がらない。

 

「愛さんは残るんだ? はっ! まさか俺の寝込みを!?」

「襲わないし!」

「俺は童貞を付き合った人で捨てるって決めてるんだ!」

「うーわ童貞くさっ。まじ引くわー」

「夢がある人への妬みですかな? まさかヤリマン?」

「ヤリマ……っ!? ち、違うし! 処女だし! って何言わせるの!」

「自滅しただけじゃん……」

 

 いつもの調子で軽く頭を叩きたくなるものの、入院患者にそんな事をするわけにもいかない。早坂は赤く染まった顔でグッと堪えた。

 何度か深呼吸し、気持ちを落ち着かせて本題に入る。と言っても、早坂が話を持ってるわけじゃない。陽が話したいことを持っているのだ。それを感じ取り、早坂は残っている。今思えば、姉の麗もそれを感じ取って帰ったのかもしれない。

 

「話したいことか相談かだよね?」

「半々のニュアンスかな。自分でも漠然としかわからない」

「感覚的なことね。恋愛話?」

「ちょっと楽しげに食いついてきたな。……それも含まれるかもしれない」

「……正直に言ってみて」

「ん。なんとなくなんだけど、何かを無くした気がするんだ。物とかじゃなくて、内側の何かを」

 

 

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